その二、見るたびに角度が変わる肖像画
音楽室を出ると
「せっかく芸術棟に来たのだからこのまま美術室に行こう」
と言う話になり、階段へと向かう。
「上の階だし、美術部の人がいるから扉も開いてるよね…まあ音楽室は鍵開いてたけど」
無用心だなぁ、と呟くと
「この学院に物を盗むような輩はいないという事さ」
そう言われるとそうかもね、と頷く。
美術室の前に着くとちょうど中から人が出てきたところだった。
「すまないが中を見せてもらっても良いだろうか」
「え?ええ…構いませんけど何も無いですよ?」
「大丈夫、肖像画を見たいだけだから」
と言うと
「ああ、七不思議ですか」
と苦笑された。
たまに見に来る人がいるのだそうだ。
「ずっとここで絵を描いてるんですよね?何か変わった事があったりします?」
私がそう聞くと
「特には…視線を感じたり、なんて事も無いですね」
私は内心なーんだ、と思いながら飾られている肖像画を見て回る。
どれが例の肖像画だろう…その疑問はすぐに解消された。
端に飾られている肖像画、確か数十年前の戯曲の作曲家だったか…動いてもなぜか目線が合っている気がする。
角度が変わるというのは目線の事だったか、と納得していると後ろの方で何かが潰れるような音がした。
振り返ると床に小さな染みがある。
「あれ?さっきの人は?」
「ああ、かえったよ」
「そっか、もう遅いもんね。あれが例の肖像画みたいだよ」
私が指差す方を見て
「あー、目のところに画鋲が刺さっているね」
と笑いだした。
どうやら画鋲が光を反射して目線が合っているような気がしたらしい。
私はもう何度目かのなーんだ、と呟いて美術室を後にした。
後から知ったのだが美術室の七不思議には続きがあったらしい。
肖像画に魅入られたものは血を抜き取られるという。
あの作曲家の戯曲のモデルとなった吸血鬼に吸われるのだそうだ。
私の話を聞いた友達は
「蚊だよ。あの日も蚊がいた」
そう言って笑っていた。