表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

その一、勝手に鳴るピアノ

ピアノのある音楽室は通称芸術棟と呼ばれる棟にある。

音楽室や美術室、ダンス室など芸術に関連する教室があるから芸術棟。とてもわかりやすい。

その棟に通じている渡り廊下を歩きながら、七不思議の一つ「勝手に鳴るピアノ」のことを考える。


あれから私も少し七不思議の事を調べてみた。

放課後、誰もいないはずの音楽室の前を通るとなにやらもの悲しい曲が聞こえるのだそうだ。

この世界には妖精や精霊の類はいない。

いや、神のように見えないだけで存在しているのかもしれないが実際に見たと言う話は聞いた事が無い。

当然魔法なども無い。

オルゴールなどは有るが自動で鳴る楽器なども存在しない。

しかし実際に音が鳴っているのを聞いたと言う人間が複数存在するのは事実。

いったいどのようなからくりなのだろうか。

などと考えていたらどうやら音楽室を行き過ぎようとしたらしい。

急に腕を引っ張られて我に返った。

「ぼんやり歩いていたら危ないよ」

まるで小さな子どもを諭すように言われて少し赤面する。

「ごめん、ちょっと考え事してた」

「歩きながら考え事禁止だよ」

笑いながら言われて素直に頷く。

「ところで音楽室って鍵がかかってるんじゃ…」

言いながら扉に手をかけるとガラリと開いた。

どうやら鍵はかかってなかったらしい。


噂と違い静まり返る音楽室。

なんの音もしない。

それがかえって不気味さを引き立てていた。

「鳴らないね」

「しっ…始まるよ」

慌てて口を閉じて耳を澄ます。


ぽーん…ぽーん…


微かに音がする。

そっと近寄ると、天井から水滴が垂れていた。

それが鍵盤に落ちて音を鳴らしている。

「なーんだ、水滴の仕業か」

私がそう言うと

「この上は確か美術室だったね」

と天井を見上げて言う。

「うん、この時間は美術部の誰かがいるはず」

「なるほど…なら原因は排水の水漏れだな」

どうやら道具の後片付けで使った水が漏れて染み出したらしい。


私はもう一度「なーんだ」と言うと出入り口へ向かう。

でも…

「あれ?音を聞いた人はもの悲しげな曲だったって言ってたような」

「こう言うのは尾ひれが付くからね。誰も曲なんて聞いてないさ」


ガン!と乱暴にピアノの蓋を閉める音がした。


「学院の備品なんだから乱暴にしちゃだめだよ」

そう言って振り返ると、一瞬蓋の隙間から赤い物が垂れているように見えた。

が、すぐに消えたから何かの見間違いだろう。


その日から七不思議の一つ、勝手に鳴るピアノは鳴らなくなった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ