6話 玲奈の過去編①
1年前 玲奈視点
幼い頃から両親がいない玲奈にとってお婆ちゃんは母親のような存在だった。
だから大きくなったら沢山恩返しをしよう! そう思っていたのに結局出来ずに終わってしまった。
「玲奈は強い子だから皆んなを助けてあげて……そしたらきっと周りの子も玲奈の事を助けてくれるよ……」
薬品の匂いが漂う小さな病室にお婆ちゃんの声が響く。
「うん、分かった。皆んなを助けるよ。だから死なないで!」
玲奈は涙を浮かべて頷くと、ベットに眠るお婆ちゃんの手を握り締めた。
「玲奈ならきっと大丈夫だよ……応援しているからね……」
その言葉を最後にお婆ちゃんは息を引き取った。
「19時45分、ご臨終です」
主治医の先生の静かな声が響く。玲奈はまだ温もりが残っている手を握り締めると、喉と涙が枯れるまで泣き続けた。
* * *
「おはよう、玲奈、大丈夫だった?」
「玲奈ちゃん、よかったら今日うちに遊びに来ない?」
あれから1週間ほどが経過した。お葬式は無事に終わり、玲奈は身寄りのいない子が集まる施設で生活することになった。
「おはよう、皆んな心配してくれてありがとね。もう大丈夫だよ」
本当はまだ辛いけど、お婆ちゃんが死んだ日を境に玲奈は泣くのをやめた。
(だって私は強い子だから。強い子は泣いたりしない!)
最初は皆んな腫れ物を触るように接していたけど、しばらくするとまたいつも通りの日常が戻ってきた。
そんなある日、鞄を背負って施設に帰宅していると、目の前を白いうさぎが通り過ぎて行った。
「えっ、どうしてこんな所に?」
白うさぎは帰宅途中の学生や会社員の足元を通り抜けて行く。それなのに誰も気づいていない。どういう事? 見えてないの?
別にこのまま帰ってもよかったのだが、何故か気になって仕方がない。玲奈は人の間を抜けながら白うさぎを追いかけた。
「ねぇ、待ってよ〜」
白うさぎは古びた公園に入ると、ベンチに座っていた女性の膝に飛び乗った。あの人が飼い主なのかな?
「あら? 貴方には見えるの?」
20代くらいのブロンドヘアーがよく似合う女性が、不思議そうな目で玲奈を見る。
「えっ、はい、普通に見えますけど……」
「へ〜 そうなんだ。これも不思議な縁ね」
女性は膝の上にちょこんっと収まっている白うさぎを優しく撫でる。
「私の名前は天音。貴方は?」
「えっと、玲奈です」
「玲奈ちゃんね。覚えたわ。ねぇ、ミト、どうする? 貴方の事が見えているそうよ」
ミト……それがこの子の名前なのかな? 白うさぎは長いお髭をヒクヒクと動かすと、ピョンと玲奈に飛びついた。
「やぁ、初めまして。ぼくの名前はミト。よろしくね」
白うさぎのミトは流暢な言葉使いで玲奈に自己紹介を始めた。
「うわ! ウサギが喋った!」
信じられない現象に玲奈は腰が抜けて、危うくミトを落としそうになる。
「なっ、何で⁉︎ どういう事ですか?」
「う〜ん、ごめん、ちょっと説明している時間はないかな?」
天音はゆっくりと立ち上がると遊具の方に目を向ける。つられて同じ方を見ると、小さな黒い点? がポツンと浮いていた。
「よかったら玲奈ちゃんもおいで」
「えっ? 何処にですか?」
天音は玲奈に手招きをすると、黒い点にそっと触れた。そして2人と1匹は闇の中に吸い込まれていった。
* * *
「あれ? ここは……公園?」
辺りを見渡すと、そこは綺麗な公園だった。まだ遊具はピカピカでペンキも落ちていない。さっきまでいたボロボロの公園とは大違いだ。
「あの、天音さん、ここは何処ですか?」
「さっき黒い点が浮いていたでしょ? あれの中よ。玲奈ちゃん、私から離れないでね」
天音は1枚のトランプを取り出して空に掲げた。そこには死神をモチーフにしたジョーカーが描かれている。
「勝利を掴め逆転のジョーカー。その力で主人の望みを聞け」
トランプから飛び出した黒い光が天音を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。
天音の服装はいつの間にか黒と白を基調としたドレス姿に変わっていた。その立ち姿は思わず見入ってしまうほど美しかったが、両手で握りしめている鎌が物騒だった。
「それじゃあ、行ってみようか」
天音は鼻歌混じりに鎌を揺らしながらゆっくりと歩き始めた。すると、ジャングルジムやブランコも動き出して天音に襲いかかる。
「えっ、危ないですよ!」
玲奈が危険を知らせたが、天音は余裕の笑みを浮かべて鎌を振り下ろした。
「まずは1体」
鋭利な鎌がジャングルジムをバラバラに切り捨てる。
「次が2体目」
ブランコは勢いよく振って襲いかかるが、天音はひらりと交わして鎌を振り下ろす。
「もういいや、まとめておいで」
公園の遊具たちは一斉に天音に襲いかかる。でも全て返り討ちにされた。そして気づいたらあの古びた公園に戻って来ていた。
* * *
「なるほどね、子どもたちが来てくれなくて寂しかったのね」
天音は黒い点に触れると、小声で誰かと話し始めた。黒い点は天音の中にスッと入って消えてしまった。
「あの、一体何をしているのですか?」
「これはね、倒した闇を自分の中に取り込んで浄化しているんだよ」
「闇を取り込んで浄化? 天音さんは一体何者なんですか?」
喋るウサギに襲いかかってくる遊具。情報量が多すぎで頭が痛くなりそうだ。
「ふふっ、実は私……魔法使いなの。今は育成の方が主な仕事だけどね」
天音はのんびりとした口調で答えると、真剣な表情で玲奈を見つめた。
「ねぇ、玲奈ちゃん、魔法を使ってみない?」
「えっ、私に使えるのですか⁉︎」
「えぇ、きっとね。魔法の適性がないとミトの事が見えないの。玲奈ちゃんならきっと出来るよ」
天音が玲奈の両手をギュッと握り締める。足元ではミトがビー玉のようなつぶらな瞳で見上げていた。
「えっと……魔法使いになったら多くの人を助ける事が出来ますか?」
「えぇ、もちろん! きっとこの世界中を救えるわ」
『──玲奈は強い子だから皆んなを助けてあげて……』
あの日、お婆ちゃんに言われた言葉が脳裏をよぎる。
(そうだ、私はお婆ちゃんと約束をしたんだ!)
「分かりました。私、魔法使いになります!」
玲奈の返事を聞いて、天音とミトはパッと明るい笑顔を見せる。
(ねぇ、お婆ちゃん見ている? 私、皆んなを助けるために頑張るね!)
玲奈は自分の胸に手を当てると、心の中でお婆ちゃんに話しかけた。
──玲奈、無理はしちゃダメだからね……
一瞬だけお婆ちゃんの声が聞こえた気がした。
(大丈夫、心配しないで。私強いから。絶対に負けないから!)
この日を境に玲奈は、魔法使いとして闇と戦う過酷な日々が始まった。
ご覧いただきありがとうございました
次回も18時頃に投稿します。




