5話 玲奈の願い
「ただいま〜」
「お邪魔しま〜す」
学校が終わり、私は玲奈ちゃんを自宅に招待した。
「おかえり、お姉ちゃん」
玄関で靴を脱いでいると、4つ年下の妹……実里が出向いてくれた。
「うわ〜 可愛い〜 小ちゃい恵ちゃんだ!」
玲奈ちゃんは目を輝かせて私と妹を見比べる。
「えっと……お名前は?」
「実里です……」
実里は私の後ろに隠れると、少し警戒した様子で自己紹介をした。
「実里ちゃんは今は小学生かな?」
「4年生です」
「そっか〜 学校は楽しい?」
「えっと……まぁ、普通です」
実里は目を逸らすと、曖昧に答える。
「ねぇ、恵ちゃん、私何かまずい事聞いちゃったかな?」
異変に気付いたのか玲奈ちゃんが小声で私に尋ねてきた。
「う〜ん……実は学校に行けなくて家にずっといるの……」
「えっ、そうなの!? ごめん事情も知らずに……」
玲奈ちゃんはしょんぼりと肩を落として実里に謝った。こころなしかチャームポイントのポニーテールも萎れて見える。
「いえ、大丈夫ですよ」
実里はそう答えると、そそくさと自分の部屋に戻って行ってしまった。
「私の部屋は2階の奥なの。先にくつろいでいて」
とりあえず自分の部屋に玲奈ちゃんを案内すると、私はキッチンに行ってお菓子やジュースの準備をした。
「ねぇ、ミト、近くにいる?」
小声で呼びかけてみると、ミトがフワッと現れて私の前に着地した。
「ねぇ、どうして玲奈ちゃんはあんなに辛そうなの? 一体何があったの?」
山田さんと篠田さんと戦い、闇を取り入れてから玲奈ちゃんの様子がおかしい。普段は明るて元気なのにとても寂しそうな目をしているから、側で見ている私まで辛くなる。
「う〜ん、多分闇を取り込んで浄化した時の副反応だね」
「副反応? どういう事?」
「闇を浄化するとね、その人が抱えていた憎悪や憎しみが自分の心に入って来るんだ。今回の場合は玲奈に対する妬みだったから相当心にダメージを負ったみたいだね……」
「そんな……玲奈ちゃんは2人のために戦ったのに!」
「これは孤独な戦いなんだよ。玲奈はもう1年間もずっと1人で戦ってるんだ。誰にも相談出来ずにただ黙々と……」
「嘘でしょ? 信じられない……」
あんな怖い化け物と1年間も孤独に戦うなんて過酷すぎる……一体どうしてそこまでして戦うのだろう?
「お姉ちゃん、他に誰か友達がいるの?」
つい声が大きくなってしまい、実里にまで聞こえていたようだ。
「ごめん、何でもない!」
私はお菓子とジュースをお盆に乗せると、自分の部屋に向かった。
* * *
「玲奈ちゃんが引いたカードは……クラブの4でしょ?」
「凄い、あってる!」
せっかく遊びに来てくれたから、私はカード当てマジックを披露してあげた。
玲奈ちゃんは目をまん丸にしてカードを見つめる。どうやら少しだけ元気が戻ったみたいでホッとした。
「あのさ、玲奈ちゃん、さっきミトから話を聞いたんだけどさぁ……」
私はトランプを念入りに切りながら、話を切り出した。
「どうして魔法使いになったの? 命懸けで戦って怖くないの?」
玲奈ちゃんは腕を組んでしばらく唸ると、言葉を選びならが熱意の籠った声で説明してくれた。
「えっと……お婆ちゃんが死ぬ間際に『玲奈は強いから皆んなを助けなさい』って言ったの。だから戦っているんだよ。あと叶えたい願いがあるんだ」
「叶えたい願い?」
玲奈ちゃんはコックリと頷くと願いについて詳しく教えてくれた。
「実は私以外にも魔法使いはいるの。それでね、1番優秀な魔法使いは好きな願いを叶えられるの。だから戦ってるんだよ」
「好きな願い……一体どんな願いを叶えたいの?」
あんな危険な事をしてでも叶えたい願い……玲奈ちゃんは一体何を望んでいるのだろう?
「私の願いはね、皆んながありのままの自分を認められるようになる事だよ」
そう語る玲奈ちゃんの瞳はとても真剣だった。
「ほら、今の時代SNSで簡単に他人と比較が出来るでしょ? 上には上がいるのは当たり前。それなのに他人と比べて自分は劣っていると嘆く人が多いでしょ?」
「うん、確かにそうだね」
昔はクラスで1番足が速かったり、テストの点が高かったら皆んなのヒーローだった。だけど、世界中にはもっと足が速い人や頭がいい人が沢山いる。
「でも、誰にだって凄い所はあるんだよ! それは誰かと比べる様な事じゃない。だから、もっと今の自分を認めて好きになって欲しいの!」
玲奈ちゃんの願いは私利私欲なものではなくて、皆んなを思いやる優しい願いだった。それなのに孤独に戦うのは辛すぎる……
「ねぇ、私もその願いを叶えるお手伝いが出来ないかな?」
「ふふっ、ありがとね。でもその気持ちだけで十分だよ」
「そうじゃなくて、私も魔法使いになって玲奈ちゃんの隣で戦いたいの!」
私はギュッと手に力を入れると、前のめりになって宣言した。誰かのために命懸けで戦っているのに、玲奈ちゃんだけが苦しむのは嫌だ。そんなの見過ごせない!
「えっ、恵ちゃんが魔法使いに!?」
「ミトから聞いたの。ずっと1人で戦っていたんでしょ? それに闇を取り込む辛さも聞いたの。だから私にも手伝わせて!」
「でっでも、凄く危険だよ。恵ちゃんがそんな事する必要はないよ!」
「いや、あるよ。だって友達でしょ! だから放って置けないよ……」
「友達……」
玲奈ちゃんは目元を潤ませると、スーッと一筋の涙がこぼれ落ちた。
「ごめん……ずっと1人で戦っていたから嬉しくて……」
玲奈ちゃんは涙を拭くと、ポツリ、ポツリとこれまでの事を話してくれた。




