3話 まだ平和な学校生活
「よし、とりあえず2人1組になってくれ」
翌日、今日の体育はバドミントンをする事になった。当然の様に私と玲奈ちゃんはペアになると、軽く準備運動をしてラリーを始めた。
「恵ちゃん上手いね〜 やっていたの?」
「小学生の時に少しだけね、玲奈ちゃんも上手だよ!」
数年振りにやったせいで最初は体が鈍っていたけど、すぐに思い出してきた。
「恵ちゃん、行くよ〜 スマッシュ!」
玲奈ちゃんは軽くジャンプをすると、上から叩きつける様にラケットを振った。
「えっ、速い!」
玲奈ちゃんの繰り出したスマッシュはあまりにも速すぎで全く反応できなかった。シャトルは後ろのコートまで飛んでいく。
「はい、どうぞ恵さん」
「あっ、ありがとうございます」
後ろのコートで練習をしていた篠田さんが、ラケットで器用にシャトルをすくい上げて私に渡す。
「ねぇ、よかったらアタシたちと試合をしない?」
「試合!? えっと……」
「もちろん、受けてたつよ!」
どうするか迷っていると、玲奈ちゃんが自信に満ちた表情で即答した。でも山田さんと篠田さんは大会で優勝する実力者。とても勝てるとは思えない……
「やるからには勝とうね恵ちゃん!」
「うっうん、最善は尽くすつもりだよ」
試合をすると聞きつけた生徒たちは練習をやめると、邪魔にならない所で見学を始めた。やばい、そんなに見られると緊張するなぁ……
「それじゃあ早速始めましょう。サーブは恵さんからでいいよ」
ついに試合が始まった。篠田と山田は互いの顔をチラッと見ると、ニヤリと笑みを浮かべた。
* * *
篠田と山田の作戦はいたってシンプルだった。得意のバドミントンで2人をボコボコにする。そして皆んなが見ている前で恥をかかせる。それが当初の予定だったのだが……
「ちょっと篠田、どうして取れないのよ!」
「しょうがないでしょ、山田のレシーブが甘いんだから!」
イライラする山田と篠田とは対照的に恵と玲奈はニコニコとしながらハイタッチを交わす。
「山田、打ち込め!」
「分かってるわよ!」
フワリと高く上がったチャンス球、山田は試合さながらの勢いでスマッシュを打ち込んだ。
バドミントンのスマッシュは初速が300キロ〜400キロは出ると言われている。新幹線の最高速度が320キロだからその速さがいかに凄いかよく分かる。
「玲奈ちゃん来るよ!」
「うん、任せて!」
経験者が本気で放ったスマッシュを素人が取れるはずがない。そう思っていたのに……玲奈は山田の渾身の一撃を難なく打ち返してしまった。
「何してるのよ! 負けてるわよ!」
「うるさいな! それくらい分かってるよ!」
今の篠田と山田には試合前の余裕は全くない。一方向かいのコートでは恵と玲奈が互いに褒め合っていた。
* * *
「玲奈ちゃん凄いね! もしかしたら勝てるかも!」
「恵ちゃんだって上手だよ!」
私たちは1点決まるごとにハイタッチをして互いのプレーを褒め合った。玲奈ちゃんとなら勝てる気がする。
「それじゃあ行くよ〜」
玲奈ちゃんは篠田さんがやっていた様にラケットで器用にシャトルを拾いあげると、一呼吸おいてからサーブを放った。
ネット際に落ちたサーブを篠田さんがコンパクトな動きで素早く撃ち返す。プッシュと言われるこの打ち方はスマッシュ程ではないが鋭くて速い。
でも玲奈ちゃんはその圧倒的な運動神経によって難なく返してしまった。
「もう、何で今のが決まらないよ!」
篠田はイライラしながらラケットを握り締めると、今度は私に狙いを定めてスマッシュを打ち込んだ。
「ひゃあ!」
シャトルが私の頭に直撃しておもわず尻もちをつくと、「大丈夫? 恵ちゃん?」っと言って玲奈ちゃんが手を差し伸べてくれた。
その光景に周りで見学していた生徒から黄色い声援があがる。一体皆んなは何を期待しているのだろう?
「ねぇ、玲奈ちゃん、作戦があるの。ちょっと耳を貸してくれるかな?」
私は小声で今のプレーを参考に作戦を立てて伝えた。上手くいけばいいけど……
「山田。この1点を落としたら分かってるよね?」
「もちろんよ。これで勝負が決まるわ!」
今の得点は10対10。あと1点で勝負が決まる。周りで見学していた生徒も固唾を飲んで見守っている。張り詰めた緊張感の中、最後の勝負が始まった。
「玲奈ちゃん、説明した通りに行くよ!」
「うん、任せて!」
玲奈ちゃんは相手チームのサーブをわざと高く山なりに返した。まるでスマッシュを打って下さいと言わんばかりに。
「篠田、クロスにいる恵を狙って!」
「もちろんよ!」
篠田さんが打ち込んだスマッシュがクロス側に飛んでくる。でもそこで構えていたのは玲奈ちゃんだった。
「よし、計算通り!」
玲奈ちゃんが打ち返したシャトルはネット際にポトっと落ちて勝利した。私たちの作戦はとても単純。相手が打つ瞬間に自分たちの立ち位置を変えただけ。
側ら見ていればバレるけど、玲奈ちゃんが高くシャトルを上げた事で相手の視線は上に向いていた。
視線を誘導するのはマジックでも良くするけど、まさかバドミントンに応用できるとは思わなかった。
「やった〜 私たちの勝ちだよ!」
玲奈ちゃんは私に抱きついて喜ぶ。そんな2人の光景を山田と篠田は敵意に満ちた目で睨みつけていた。
* * *
「ねぇ、あの転校生うざくない?」
「本当、天才はムカつくよ!」
体育の授業を抜け出した山田と篠田は、校庭裏の人気のない所で玲奈の悪口を言い合っていた。
「ちょっと上手に出来るからって調子に乗ってさ!」
「本当だよ。まぁ、良い子のふりをしてるだけで、実際はゴミみたいな性格をしてそうだよね〜」
山田と篠田は顔を見合わせると、ケラケラと笑い声をあげた。すると、聞き慣れない男性の笑い声が紛れ込んできた。
「はっはっはっ、それは最高に面白いね!」
知らない男の登場に山田と篠田は警戒の眼差しで男を睨む。
「誰なのあんた?」
「何処から来たの?」
20代くらいの痩せた男は不気味な笑みを浮かべて2人を見比べる。
「俺の名前は勝。そうだよな、うざいよな〜 せっかく得意のスポーツで恥をかかせようとしたのになぁ……」
独特な男の口調に山田と篠田は催眠術にかかったようにボーっとした目で男を見る。
「さぁ、その心の闇を見せてくれ!」
男が山田と篠田の肩に触れる。その瞬間。2人の中に眠っていた憎悪が溢れ出した。
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次回も18時頃に投稿します。




