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2話 高嶺の花と元気な少女

「おはよ〜 (めぐみ)ちゃ〜ん!」


「あっ、おはよう玲奈(れな)ちゃん」


 いつも通り登校していると、玲奈ちゃんが手を振りながら走って来た。それにつられてゴムで結んだポニーテールがピョンピョンと元気よく飛び跳ねる。


「ねぇ、恵ちゃん、一緒に行こ!」


 玲奈ちゃんは私の横に着くと、ニコッと太陽の様に温かい笑みを浮かべた。それにしても昨日の戦いの疲れを全く感じさせない。もしかして無理をしているのかな?


「ねぇ、玲奈ちゃん、その……昨日は大丈夫だった? 疲れていない?」


「ふふっ、大丈夫。魔法使いは1日寝れば大抵の傷は治るの。それよりも恵ちゃんの方が心配だよ……親に何か言われた?」


「うん……凄く心配されたよ」


 昨日の戦いは本当に大変だったけど、その後も色々とあって忙しかった。まず最初に家に着くとボロボロの私を見て母親が悲鳴をあげた。


 その声につられて妹の実里(みのり)も来ると、同じように悲鳴をあげた。すぐさま私は地元の病院に連れて行かれて手当を受けた。


 母親からは学校でいじめられたのかと問い詰められ、実里は涙を浮かべて私に抱き着いてきた。


「なるほど、大変だったね……でも、いいお母さんと妹さんだね」


「うん……気持ちは嬉しいけどね……」


 それからも昨日の事や戦いの事を話していると、いつの間にか学校に到着していた。


「おはよう〜 玲奈さん、恵さん!」


「おはよう〜 玲奈ちゃん、恵ちゃん!」


 学校に足を踏み入れた途端、全く面識のない生徒から挨拶の集中砲火が浴びせられる。


「みんなおはよう〜 今日もよろしくね!」


「えっと……おはようございます」


 玲奈ちゃんはその全てを笑顔で答えたが、私は戸惑いながら何とか返事をした。今までこんな事は一度もなかった。玲奈ちゃんの隣にいるからかな?


 とはいえ、教室につけば落ち着くはず。そう思っていたのけど私の考えは甘かった。


「ねぇ、玲奈さんはどんなスポーツが得意なの?」


「ねぇ、ねぇ、前の学校はどんな感じだった?」


 教室についてからも玲奈ちゃんに対する質問は終わらない。授業が終わり休み時間になると、他のクラスの子がわざわざ会いに来る程だった。


 いくら何でもこれは迷惑じゃないかと心配したけど、玲奈ちゃんは嫌な顔をしないで全ての質問に答えていく。


「あの、今日の家庭科の実習の時によかったら同じ班にならない?」


「うん、もちろん!」


 玲奈ちゃんは女子生徒の提案を2つ返事で答えると、私の肩にポンッと手を置く。


「恵ちゃんも一緒だよ!」


「えっ、いいの?」


「もちろん!」


 玲奈ちゃんはニコッと微笑んで私の手を繋ぐ。誘ってくれるのは嬉しいし、料理も得意だから凄く楽しみ! とはいえ少食の人にとって給食を食べてからの調理実習は少しきついけどね……




* * *


「では、今日の調理実習のテーマはハンバーグ作りです。皆さん、始めて下さい」


 私は手際よくボールにひき肉を入れると、卵を割って塩胡椒を軽く振った。さらに玉ねぎを洗って細かくみじん切りにしていく。


「恵ちゃん慣れてるね〜 料理が得意なの?」


「よくお母さんのお手伝いをするから自然と覚えちゃったの」


「凄いな〜 恵ちゃんならいいお嫁さんになれそうだね」


 玲奈ちゃんは関心した様子で拍手をする。他の班員も私の意外な特技に目を丸くしていた。


「とりあえず玲奈ちゃんには混ぜてもらってもいいかな?」


「もちろん、任せて!」


 ひき肉と卵を混ぜてもらっている間に私はパン粉を取り出した。


「ちょっとこれを入れてもらってもいいかな?」


「任せて恵さん!」


 同じ班の女の子がパン粉を慎重に振りかけていく。後は形を整えて焼けば完成だ。


 私はひき肉を手に取ると、もう片方の手に投げて中の空気を抜いた。後は蒸し焼きでじっくり焼けば完成だ。でもその前に……


「ねぇ、恵ちゃん何をしているの?」


「ハンバーグは焼くと膨らむの。だから破裂しないようにあらかじめ中央を凹ませているんだよ」


「へぇ〜 知らなかった!」


 玲奈ちゃんは私のやり方を見ながらぎこちなく真似をする。何だか料理を始めたばかりの自分を見ているような気がして微笑ましい。最初は私もお母さんの真似をしていたなぁ……


「さてと、焼き上がるまでにソースを作るよ!」


「えっと恵さん、ケチャップとソースを混ぜればいいんだよね?」


 同じ班員の男の子が両手に調味料を持って尋ねてくる。私は小皿を取り出すと2対1くらいの割合で入れるようにお願いした。


「えっと……じゃあ、レンジで30秒くらい温めてもらえるかな?」


 ケチャップはそのままだと酸味が少し強い。そこで温める事でマイルドな味になる。


「恵ちゃん、そろそろ焼けそうだよ!」


 フライパンの前でジィーっと焼き具合を観察していた玲奈ちゃんが私を手招きする。


「どれどれ、中まで焼けているかな?」


 箸で軽くハンバーグを押すと透明な肉汁が出てきた。うん、これなら大丈夫そう。焦げ目もあって美味しそうだ。


「うん、完成だね!」


 私は取り皿に分けると、上からソースをかけて皆んなに配った。


「「「「頂きます!」」」」


 一口食べると肉汁が勢い良く飛び出した。その次に玉ねぎの甘さが広がる。ソースもご飯が進むいい味だった。


「恵ちゃん、これ凄く美味しいよ!」


 玲奈ちゃんは勢い良くハンバーグを頬張る。そのせいで口元にケチャップが付いていた。そっとハンカチでとってあげると、何故か生徒の間にざわめきが起きる。


(えっ、私何か変な事したかな?)


 恵の自己評価は内向的でクラスで目立たない分類だと思っていた。でも、実際は真逆だった。


 整った顔立ちとスタイルの良さから全員が認める美少女でありながら、謙虚で真面目な性格が合わさって、決して手の届かない高嶺の花として一眼置かれていた。


 そんな恵が転校してきた元気一杯な玲奈と楽しそうに食事をしている。それだけでも絵になるのに、口に付いたケチャップを拭き取る仕草は、まるで青春映画のワンシーンの様な魅力を秘めていた。


「ねぇ、玲奈ちゃん何だか見られている気がするんだけど……」


「そうかな? 気のせいじゃない?」


 さっきからチラチラと皆んなの視線を感じる。これも玲奈ちゃんによるものかな? 何だか食べづらい……

 

「あれ? 恵ちゃん食べないの?」


「もぉ〜 誰のせいだと思ってるの!」


 私はリスの様に膨らんだ玲奈ちゃんの頬っぺたを突いてやった。


「んーんん!! 恵ちゃん意地悪!」


 玲奈ちゃんは口元に手を抑えてモゴモゴと訴える。まだ出会って数日しかたっていないけど、明らかに私の学校生活は激変した。


 初めはクラスの注目を浴びて戸惑ったけど、玲奈ちゃんと過ごす日々は時間を忘れるくらい楽しい。


 それにこんな風に誰かとふざけあったのは初めてだ。でも、中には私たちの事をよく思っていない生徒もいた……


「ねぇ、あの転校生ムカつくよね。すぐに人気者になってさ〜」


「本当だよね。恵も調子に乗ってさ。あのさアタシにいい考えがあるんだけど聞いてくれない?」


 コソコソと話しをする2人……山田と篠田は、密談を終えると顔を見合わせて頷いた。

ご覧いただきありがとうございました!

次回も18時頃に投稿します。

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