32話 逆転のジョーカー
(私このまま死ぬのかな?)
体の芯が冷えて心臓の音が弱くなっていくのを感じる。まだやりたい事がいっぱいあったのに……皆んな……ごめんね。
いよいよ命が尽きようとした時だった。途切れそうになった鼓動が大きくドクンっと飛び跳ねて、誰かが私を引き止めた。
──お姉ちゃん、死なないで!
その声の主は可愛らしい少女のものだった。
(この声は……優奈ちゃん?)
──お姉ちゃん、私の力を貸してあげる!
以前私が入院していた時に出会った、千夏さんの妹の優奈ちゃんが私に力を貸してくれた。ポケットにいれたカードが赤く輝く。
──愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!
優奈ちゃんが合言葉を唱えると、全身がポカポカと暖かくなってきた。足先の感覚が戻り、意識が回復していく。
「許さない、アンタだけは絶対に許さない! 炎海!」
千夏さんの声がハッキリと聞こえる。私はパッと目を開けると、扇の様に剣を仰いだ。
「舞い上がれ……ハリケーン!」
吹き荒れる風と千夏さんが放った炎の波が重なって、巨大な火の渦が勝に襲いかかる。
「嘘だろ……熱い!!! 焦げる!!」
勝の悲鳴が空に響く。燃え上がる炎は火柱となって空に伸びていった。
「はぁ……はぁ……はぁ……どういう事だ? どうして生きている!?」
勝は信じられないという目で私を見つめる。
「ありがとう千夏さん、優奈ちゃん……」
私は傷口にハートのカードを当てながら、乱れた呼吸を整えた。空いていた右目にハートマークが宿り傷口が塞がっていく。
「それは……ハートのエース……いつの間に?」
「最初の攻撃を避けた時よ」
──1人増えた所で何も変わらない。まとめて相手してあげるよ。
勝は背後に控えている死神から鎌を受け取ると、私たちにめがけて投げてきた。鎌はブーメランの様にクルクルと回って襲いかかってくる。
──恵、こっち!
千夏さんが私に手を差し伸べる。その手を掴むと、グイッと体を引っ張られた。
──あれ……これは……?
千夏さんは私の手を繋ぐと、ハートのカードをバレない様に渡してきた。
千夏さんは軽く頷くと、すぐに棍棒を担いで勝に攻撃を仕掛ける。
「千夏さん、ありがとうございました」
「いいのよ。戦いはマジックと同じでいかに相手を騙すかだよね?」
千夏さんは得意気な表情で私にグッとサインを送る。
「でも、どうやら少し遅かった様だね」
勝はフラフラと立ち上がると、両手を空に掲げた。雲が晴れて巨大な闇が全貌を見せる。
凶源の闇はまるでブラックホールの様に木々を吸い込んでいく。地面は揺れてヒビが入り、ビルの窓ガラスが砕け散る。
「あれ、恵ちゃん、右目のハートが……」
「えっ……?」
割れた窓ガラスで自分の目を確認すると、ハートのマークが薄くなっていた。そして完全に消えると、全身を貫く様な痛みが訪れた。
「きゃあぁぁ──ッ!!!」
あまりの激痛に私は悲鳴をあげて傷口を握り締めた。さっきまでは何ともなかったのに、急に麻酔が切れた様に耐え難い激痛が走る。
「恵、しっかりして!」
千夏さんが私を抱きしめて傷口をさする。それでも痛みは収まらず。私は泣き叫び続けた。握り締めていたハートのカードは濁りきった色をしていた。
「そんな……今日はもう使えない……」
千夏さんは悔しそうに地面に拳を叩きつける。
「千夏ちゃん、恵ちゃんをお願い、後は任せて」
紗央里さんはダイヤのカードを胸に当てると、私たちを守る様に闇に立ち向かった。
「流石に傷は癒えてもダメージはしっかりあるようだな」
勝はおもむろに右手を挙げると、それを合図に凶源の闇が私たちに襲いかかって来た。
「させない! ライトニングフラッシュ!」
すかさず紗央里さんが闇を照らす。だけど1人では厳しすぎる。ダイヤのカードの輝きが黒く濁る……
「ごめん2人とも……もう限界みたい……」
「これで止めだ!」
漆黒の闇に取り囲まれて、私たちを覆いつくす様に巨大なドームが出来上がった。目の前が、世界が暗闇に包まれる。
このまま一体どうなるの? 闇に溶けるのかな? だとしたら最後はせめて3人で一緒がいい。私たちは暗闇の中で手を繋いで体を寄せ合った。
* * *
──SNSを見れば簡単に誰かの悪口が見つかる。他人の足を引っ張って邪魔をする奴もいる。それで自分が強くなった気になるバカもいる。
突然、暗闇のドームの中に勝の声が反響する。
社会の発展と共に人類は読解能力を失った。もういっそのこと全てをリセットした方がいいのではないか?
勝の話が終わり沈黙が辺りを包み込む。その静けさを打ち破ったのは千夏さんだった。
「何よそれ……」
顔は見えないけど繋いでいる手に力が籠るのが分かる。
「全員が悪者みたいに言わないで! 恵は決してアタシを見捨てなかった。本気で殺そうとしたのに恵はアタシに手を差し伸べてくれたのよ!」
「千夏さん……」
千夏さんは私の肩に腕を回して強く抱きしめた。少し早い呼吸と心臓の音が伝わってくる。
「貴方の気持ちも分かるわ。でもね、私は恵ちゃんの力になりたいの。だから貴方の考えには賛同できません!」
今度は紗央里さんが私の手をギュッと握りしめて体を寄せた。優しい温もりを感じる。
──何故だ、どうしてこの世界に執着する。この世界は失敗したんだ!
「失敗なんかしてません!」
私は声のする方を見上げてキッパリと宣言した。
「読解能力が欠落したのなら、もっと相手の事を考えて優しい言葉を使えばいいだけです。世界をリセットする必要はありません!」
相変わらず視界は暗くて何も見えない。でも、一筋の光が微かに見えた気がした。
微かな光はドームに穴を開けると、新たな闇が侵入して私たちを捕まえて外に連れ出した。
いきなり外の光が飛び込んで来て目がチカチカする。状況はわからないけど誰かが助けてくれた。でも一体誰が? もしかして天音さん?
パッと顔を上げたが、そこにいたのは天音さん……ではなく、人でもなかった。
「なぜだ! どうしてお前が?」
勝は怒りと困惑の混ざった表情で問いかける。それもそのはず、なぜなら私たちを助けてくれたのは、いつも勝の背後にいた「死神」だったのだから……
ご覧いただきありがとうございました!
次回も18時頃に投稿します。後2話で完結です。




