表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/37

32話 逆転のジョーカー

(私このまま死ぬのかな?)


 体の芯が冷えて心臓の音が弱くなっていくのを感じる。まだやりたい事がいっぱいあったのに……皆んな……ごめんね。


 いよいよ命が尽きようとした時だった。途切れそうになった鼓動が大きくドクンっと飛び跳ねて、誰かが私を引き止めた。


──お姉ちゃん、死なないで!


 その声の主は可愛らしい少女のものだった。


(この声は……優奈(ゆうな)ちゃん?)


──お姉ちゃん、私の力を貸してあげる!


 以前私が入院していた時に出会った、千夏さんの妹の優奈ちゃんが私に力を貸してくれた。ポケットにいれたカードが赤く輝く。


──愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!


 優奈ちゃんが合言葉を唱えると、全身がポカポカと暖かくなってきた。足先の感覚が戻り、意識が回復していく。


「許さない、アンタだけは絶対に許さない! 炎海(えんかい)!」


 千夏さんの声がハッキリと聞こえる。私はパッと目を開けると、扇の様に剣を仰いだ。


「舞い上がれ……ハリケーン!」


 吹き荒れる風と千夏さんが放った炎の波が重なって、巨大な火の渦が勝に襲いかかる。


「嘘だろ……熱い!!! 焦げる!!」


 勝の悲鳴が空に響く。燃え上がる炎は火柱となって空に伸びていった。


「はぁ……はぁ……はぁ……どういう事だ? どうして生きている!?」


 勝は信じられないという目で私を見つめる。


「ありがとう千夏さん、優奈ちゃん……」


 私は傷口にハートのカードを当てながら、乱れた呼吸を整えた。空いていた右目に()()()()()()が宿り傷口が塞がっていく。


「それは……ハートのエース……いつの間に?」


「最初の攻撃を避けた時よ」




──1人増えた所で何も変わらない。まとめて相手してあげるよ。


 勝は背後に控えている死神から鎌を受け取ると、私たちにめがけて投げてきた。鎌はブーメランの様にクルクルと回って襲いかかってくる。


──恵、こっち!


 千夏さんが私に手を差し伸べる。その手を掴むと、グイッと体を引っ張られた。


──あれ……これは……?


 千夏さんは私の手を繋ぐと、ハートのカードを()()()()()()()()()()()


 千夏さんは軽く頷くと、すぐに棍棒を担いで勝に攻撃を仕掛ける。




「千夏さん、ありがとうございました」


「いいのよ。戦いはマジックと同じでいかに相手を騙すかだよね?」


 千夏さんは得意気な表情で私にグッとサインを送る。


「でも、どうやら少し遅かった様だね」


 勝はフラフラと立ち上がると、両手を空に掲げた。雲が晴れて巨大な闇が全貌を見せる。


 凶源の闇はまるでブラックホールの様に木々を吸い込んでいく。地面は揺れてヒビが入り、ビルの窓ガラスが砕け散る。


「あれ、恵ちゃん、右目のハートが……」


「えっ……?」


 割れた窓ガラスで自分の目を確認すると、ハートのマークが薄くなっていた。そして完全に消えると、全身を貫く様な痛みが訪れた。


「きゃあぁぁ──ッ!!!」


 あまりの激痛に私は悲鳴をあげて傷口を握り締めた。さっきまでは何ともなかったのに、急に麻酔が切れた様に耐え難い激痛が走る。


「恵、しっかりして!」


 千夏さんが私を抱きしめて傷口をさする。それでも痛みは収まらず。私は泣き叫び続けた。握り締めていたハートのカードは濁りきった色をしていた。


「そんな……今日はもう使えない……」


 千夏さんは悔しそうに地面に拳を叩きつける。


「千夏ちゃん、恵ちゃんをお願い、後は任せて」


 紗央里(さおり)さんはダイヤのカードを胸に当てると、私たちを守る様に闇に立ち向かった。


「流石に傷は癒えてもダメージはしっかりあるようだな」


 勝はおもむろに右手を挙げると、それを合図に凶源の闇が私たちに襲いかかって来た。


「させない! ライトニングフラッシュ!」


 すかさず紗央里さんが闇を照らす。だけど1人では厳しすぎる。ダイヤのカードの輝きが黒く濁る……


「ごめん2人とも……もう限界みたい……」

 

「これで止めだ!」


 漆黒の闇に取り囲まれて、私たちを覆いつくす様に巨大なドームが出来上がった。目の前が、世界が暗闇に包まれる。


 このまま一体どうなるの? 闇に溶けるのかな? だとしたら最後はせめて3人で一緒がいい。私たちは暗闇の中で手を繋いで体を寄せ合った。




* * *


──SNSを見れば簡単に誰かの悪口が見つかる。他人の足を引っ張って邪魔をする奴もいる。それで自分が強くなった気になるバカもいる。


 突然、暗闇のドームの中に勝の声が反響する。


 社会の発展と共に人類は読解能力を失った。もういっそのこと全てをリセットした方がいいのではないか?


 勝の話が終わり沈黙が辺りを包み込む。その静けさを打ち破ったのは千夏さんだった。


「何よそれ……」


 顔は見えないけど繋いでいる手に力が籠るのが分かる。


「全員が悪者みたいに言わないで! 恵は決してアタシを見捨てなかった。本気で殺そうとしたのに恵はアタシに手を差し伸べてくれたのよ!」


「千夏さん……」


 千夏さんは私の肩に腕を回して強く抱きしめた。少し早い呼吸と心臓の音が伝わってくる。


「貴方の気持ちも分かるわ。でもね、私は恵ちゃんの力になりたいの。だから貴方の考えには賛同できません!」


 今度は紗央里さんが私の手をギュッと握りしめて体を寄せた。優しい温もりを感じる。


──何故だ、どうしてこの世界に執着する。この世界は失敗したんだ!


「失敗なんかしてません!」


 私は声のする方を見上げてキッパリと宣言した。


「読解能力が欠落したのなら、もっと相手の事を考えて優しい言葉を使えばいいだけです。世界をリセットする必要はありません!」


 相変わらず視界は暗くて何も見えない。でも、一筋の光が微かに見えた気がした。


 微かな光はドームに穴を開けると、新たな闇が侵入して私たちを捕まえて外に連れ出した。


 いきなり外の光が飛び込んで来て目がチカチカする。状況はわからないけど誰かが助けてくれた。でも一体誰が? もしかして天音さん?


 パッと顔を上げたが、そこにいたのは天音さん……ではなく、()でもなかった。


「なぜだ! どうしてお前が?」


 勝は怒りと困惑の混ざった表情で問いかける。それもそのはず、なぜなら私たちを助けてくれたのは、いつも勝の背後にいた「死神」だったのだから……

ご覧いただきありがとうございました!

次回も18時頃に投稿します。後2話で完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ