26話 勝と天音の過去④
勝がお見舞いに行った翌日。カナさんは無事に体調が回復して学校に戻ってきた。しばらくの間はいつも通りの生活が続いたが、日に日にカナさんの早退が目立ってきた。
事情を知っている勝と天音はまた闇と戦いに行ったのだと理解していたが、何も知らないクラスの奴らは不審に思っている様だった。
そんなある日、ついに凶源の闇が嵐と共に現れた。
──今日の朝、突如として発生した台風は勢力を上げて日本列島を横断するもよう……専門家の話によりますと、こんな事象は数百年に一度しか起きない異例との事です。
「ねぇ、勝〜 何みてるの?」
スマホのニュースを確認して外の様子を眺めていると、天音が後ろから覗いて来た。
「天気速報だよ。どうやら台風が来てるみたいだな」
勝がさらに詳しく調べようとしていると、教室にいたクラスメイトのスマホから警告アラートが鳴り響いた。
不気味なアラートの音と慌てふためく女子の声が混ざって耳が痛い。そんなカオスな状況の中で教室に放送が流れた。
──お知らせします。ただいま強烈な台風が接近しています。全生徒は安全が確認出来るまで体育館に移動して下さい。
所々聞き取りづらかったが、なんとか体育館に来てほしい事は伝わった。皆んなは荷物をまとめると、すぐに教室を出ていく。あと残っているのは勝と天音とカナの3人だった。
「カナちゃん、私たちも行こ」
天音が側によって声をかけるが、カナは首を振って窓から外を覗く。
「私……行かないといけないの。だから2人だけで行って」
「えっ、行くって……外は危険だよ!」
必死に止めよと訴えるが、カナは優しく微笑んで天音を抱きしめる。
「天音ちゃん、今までありがとうね。本当に楽しかったよ。これからも明るくて元気なままでいてね!」
突然のハグに一瞬動揺する天音だったが、カナの覚悟を感じたのか、強く抱き返した。
2人の少女は互いの存在を確かめる様に手を繋ぎ腕に力を入れる。
「今までなんて言わないでよ! これからも一緒でしょ!?」
「……………」
カナは何も言わずに微笑む。その沈黙が全てを語っていた。
「カナさん……本当に行くの?」
一歩後ろで2人を見守る様に立っていた勝が静かな声で確認する。
「うん……とてつもない闇を感じるの。だから手遅れになる前に行かないとダメなの……」
カナは名残惜しそうに勝たちを見つめると、気持ちを切り替えるように自分の頬を軽く叩いて外に向かった。
教室に残っているのは勝と天音の2人だけ。雷鳴が鳴り響いて突風が窓を叩きつける。
「ねぇ、勝……どうする?」
「そんなの決まってるだろ……俺たちも行く!」
「ふふっ、やっぱりそうだよね!」
勝は静かに頷くと、武器になりそうな黒い傘を手にした。
(俺には戦う力がない。でもそれは言い訳に過ぎない。カナさんを1人にはしたくない!)
勝と天音は顔を見合わせて頷くと、吹き荒れる外に飛び出した。
* * *
「はぁ……はぁ……はぁ……ごめんミト、ダメかも……」
カナは剣を杖代わりにしてフラフラな体を支えると、空を見上げた。凶源の闇はまるでブラックホールの様に建物や木々を飲み込んで勢力を上げていく
このままだと世界がリセットされる……そんなの絶対に嫌だ! カナは自分を奮い立たせると、無我夢中で剣を振り続けた。
倒しても倒しても闇は溢れてくる。そしてついに体力が底を尽きてしまった。
もう立ち上がる力も残っていない。途切れかけた意識の中、最後に思い出したのはミトと初めて会った時のことだった……
* * *
「ねぇ、どうしたの? 元気ないの?」
ミトと出会ったのはカナがまだ小学4年生の頃だった。
両親が離婚して、母親はストレスが原因で病気になって死んでしまい、カナはいつも1人ぼっちだった。
そんなある日、学校帰りに不思議な白うさぎを見つけた。何処か悪いのか、眠ったまま動かない。
カナは白うさぎを抱き抱えると、すぐに施設に連れて行った。当然大人たちに「戻して来なさい!」っと言われたがカナは聞かなかった。
自分の部屋に連れ込んで時間の許す限り白うさぎのお世話をし続けた。その甲斐あってか、白うさぎは固く閉ざしていた目を開いてカナの元に寄り添ってきた。
「よかった〜 元気になったんだね!」
カナは白うさぎを持ち上げると、ギュッと抱きしめてフワフワの体に顔を埋めた。すると……
「やめてよ、くすぐったいよ!」
突然白うさぎはクスクスと笑い声を上げた。
「えっ、貴方喋れるの!?」
「これくらい当然だよ。ボクの名前はミト。助けてくれてありがとう」
白うさぎのミトは丁寧にカナにお辞儀をする。
「実は君にお願いがあるんだ……助けてもらっておきながら申し訳ないのだけど……」
「うん、いいよ! そのお願い聞いてあげる!」
「えっ、まだ何も言ってないのに?」
「だって私たちはもうお友達でしょ? だから困っている時は助け合わないと!」
1人ぼっちだったカナにとってミトは唯一心を許せる存在だった。助けるのは当然の事である。
「でも、とても大変な事なんだ。よく考えてからの方が……」
「大丈夫! 心配しないで」
カナはニコッと微笑んでミトの頭を撫でる。この日を境に魔法少女としての戦いが始まった。
魔法少女の戦いは危険極まりない。それでも闇と立ち向かう勇気はカードとなって現れた。
最初にカナが手にしたカードはスペードだった。毎日毎日闇と戦う。その度に勇気は形を変えてハート、クラブ、ダイヤのカードに変化していった。
「ねぇ、ミト、たくさんカードが集まったよ!」
この時のカナは中学3年生になっていた。背が伸びて、あどけなさも抜けてすっかりと大人びていた。
「流石だね。この調子でいけば残りの2枚も手に入るかもね」
「えっ、後2枚もあるの?」
「うん。でも残りの2つ……ジョーカーは特殊だからね……」
ミトは曖昧に言葉を濁して目を伏せる。
「ジョーカーって凄いの?」
「トランプだと逆転を意味するからね。多分この世界を救えるのはそのカードに選ばれた子だろうね」
「そうなの? じゃあこれまで以上に頑張るね!」
カナはミトの小さな前足を優しく握りめて約束をした。でも、いつまで経ってもジョーカーが現れる事はなかった……
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次回も18時頃に投稿します。




