23話 勝と天音の過去①
5年前 勝視点
地元の高校に通う勝はどこにでもいる普通の男子生徒だった。
「マサルンルン〜 おはよ〜」
いつも通り学校に向かっていると、誰かが勝の背中に飛びかかって来た。こんな事をするのはあいつしかいない……
「天音……もう俺たちは高3なんだからやめてくれないか? あとその呼び方はやめてくれ」
「えぇ〜 別にいいじゃん〜」
天音はいつも通りのんびりとした口調で言い返す。昔からこいつのマイペースには調子を狂わされる。
「ねぇ、勝! 数学のプリント見せて! 実はやってなくて……」
「なんでだよ、自分でなんとかしろ」
「そんなぁ……幼馴染を見捨てるの? このままだと補修だよ〜」
天音は子供のように駄々をこねて上目使いをする。
「しょうがないな……補修になったら付き合ってやるから出来る限り自分でやってみろ。まだ少し時間があるだろ? どうしてもダメだったら見せてやる」
「分かった。ありがとう! やっぱり持つべきものは親友だね!」
「腐れ縁の間違いじゃないか?」
天音の発言に勝がすかさずツッコミを入れる。
「ほら、早く行くぞ、遅刻になると生徒指導が煩いからな」
勝は天音との会話を切り上げると、早足で学校に向かった。
校門では指導部の先生が早く教室に向かうよに呼びかけている。朝からご苦労な事だ。勝たちは人混みに紛れて靴を履き替えると、教室に向かった。
* * *
「出席をとります。名前を呼ばれたら返事をしてください」
朝礼が始まり担任の先生が出席をとる。もう何度も見た光景だ。どうせこの後1日の予定をざっと話して朝礼が終わる。
でも今日は、いつもとは違った。
「実は皆さんにお知らせがあります。なんと転校生の子が来てくれました!」
担任のその一言でクラスの連中が声援を上げる。
「まじかよ〜 どんな子なんだ!?」
「可愛い子だったらいいな〜」
男子たちは子供の様にはしゃぎ出す。ガキじゃないんだからもう少し落ち着いたらどうだ? っと思うが、勝も内心ワクワクしていた。
「どうぞ〜 中においで〜」
ゆっくり扉が開いて廊下から女子生徒が入ってきた。その瞬間ガヤガヤしていた教室がシーンと静まりかえる。
転校生はゆっくりと教壇に向かう。その動きを勝を含めクラス全員が釘付けとなって眺めていた。
「えっと……はっ初めまして、宮下カナです。よっよろしくお願いします」
カナと名乗った転校生は深く頭を下げて自己紹介をする。背中まで届きそうな長い髪が真面目な雰囲気がよく似合っている。まさに清楚系な女子生徒だった。
「ではカナさん、勝さんの隣が空いているので席はそこでお願いします」
「はい、分かりました」
カナは勝の隣に移動すると、軽く自己紹介をして席につく。
「えっと、よろしくお願いします」
「あぁ……よろしく」
本当はもっと気の利いた事を言いたかったのだが、心臓が跳ね上がり、口が乾いて上手く声を出せなかった。
朝礼が終わると早速天音が勝とカナの元に小走りで近づいて来た。
「ねぇ、勝、もう少し愛想よくしたら? こんな可愛い子が隣の席に来てくれたんだよ! もう少し喜べばいいのに〜」
「そんな事言われても仕方ないだろ」
はぁ……っと、ため息をつく勝とは対照的に、天音はすぐにカナと打ち解けて楽しそうに会話を始めた。女子同士の会ってすぐに話しが出来るこのスキルは一体なんなんだ?
「ねぇ、カナちゃん、ちょっと見ていて!」
天音はポケットからトランプを取り出して器用にシャッフルをする。
「ほらっ、しっかり混ざっているでしょ?」
天音はテーブルにカードを広げてタネがない事を示す。
「ねぇ、今から私が言う通りにしてもらってもいいかな?」
「うっうん、分かった。何をすればいいの?」
「簡単だよ。まず最初に半分くらいトランプを持ち上げて。そしたらひっくり返して元に戻して欲しいの」
カナは天野の言われた通りトランプを持ち上げてひっくり返す。
「次はさっきよりも多めにカードを持ち上げてひっくり返して」
またカナがトランプを持ち上げてひっくり返すと、天音がトランプを机に広げた。右の方はトランプが裏向きで、左の方は表向きに綺麗に分かれている。
「では、ちょうど表と裏の間のカードを確認してもらっていいかな?」
天音はクルリと後ろを振り返る。その間にカナはカードを抜き取って確認した。
「ねぇ、勝も一緒に覚えておいて」
「あぁ、分かった」」
勝はカナが握り締めているカードを覗いた。選ばれたカードはスペードのエースだった。
「カナちゃん、覚えた?」
「はい、大丈夫ですよ」
「じゃあ当てるね、ズバリ……スペードのエースでしょ?」
「えっ、すごい合ってます! どうして分かったのですか?」
カナはまるで狐に摘まれた様に不思議そうにカードを見つめる。
「実はね……カナちゃんが選んだカードは……」
「トランプの1番上のカードだろ?」
天音が自慢げに種を明かそうとしたが、勝が遮った。
「ちょっと勝! 今いいところなのに!」
天音はムッとした表情で抗議するが、勝は気にを止めずに先を語る。
「さっきカナさんがやった工程をすると、必ず1番上のカードが表と裏の間に移動する。だから天音がカードを机に広げた時に、1番上のカードを見て覚えていたんだよ」
勝の説明を聞いてもカナは未だに信じられない目でカードを見つめる。
「もう! 私がせっかく種明かしをしようと思ったのに! 罰として喫茶店でコーヒーを奢って! もちろんカナちゃんの分もね!」
「はぁ〜!? なんでだよ?」
「可愛い女子を2人も連れてカフェテリアに行けるんだよ? むしろ安いくらいでしょ?」
「お前なぁ……カナさんはともかくお前は普通だろ」
「ひっど〜い!」
天音はプクッと頬を膨らませて勝の背中をポコポコと叩く。そんな2人のやり取りをカナは楽しそうにクスクス笑いながら見守っていた。
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