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22話 潜入調査

 紗央里(さおり)さんのお家は綺麗なアパートだった。けして広くはないけれど整理整頓がされているため、窮屈な感じはしなかった。


「お待たせ、とりあえず上の服を脱いでベットに横になってもらえるかな?」


 紗央里さんは救急箱を置いてカーテンを閉める。


「あっ、はい、分かりました」


 私は右肩を庇いながら制服を脱いで横になった。何となく恥ずかしくて胸元を手で隠していると、さりげなくハンドタオルを掛けてくれた。


「ちょっとしみるけど頑張ってね」


「はい……我慢します。つっ………‼︎」


 傷口に消毒が塗られてズキズキとしみる。でもそれは一瞬の事で、手際よく包帯を巻かれて手当ては終了した。


「もういいよ。お疲れ様」


「ありがとうございました!」


 私は軽く肩を動かして痛みがない事を確認すると、ペコリと頭を下げてお礼を伝えた。


「どういたしまして。よかったらもう少し休んでいかない?」


「でっ、でもこれ以上は流石に迷惑なんじゃ……」


「大丈夫。ちょっと話したい事があるしココアでも淹れるね」


 紗央里さんはキッチンに向かって行く。数分後、甘い香りと共にココアが出来上がった。


「どうぞ、熱いから気をつけてね」


「はい、頂きます」


 私はそっと一口飲むと深く息を吐いた。疲れた体に糖分が染み渡る。


「ねぇ、恵ちゃんはどうして魔法少女になろうとしたの?」


「えっと……それは……」


 私はコップを置くと、玲奈(れな)ちゃんの事を思い浮かべながら経緯を説明した。


「最初は親友の玲奈ちゃんのお手伝いをしたいと思って魔法少女になりました。でも今は、玲奈ちゃんの願いを叶えるために戦っています!」


「そっか……じゃあ1番優秀な魔法少女を目指しているのかしら?」


「はい。そうです。でもそのせいで魔法少女同士で争うのはおかしな話ですよね?」


 以前千夏(ちなつ)さんと戦った日の事が脳裏をよぎる。願いを叶えるために同じ闇と戦う者同士が争うのは絶対におかしい。


 どうやら紗央里さんも同じ事を考えていたらしく、とても共感してくれた。


「実は私も恵ちゃんと同じ事を思っていたの。私たち魔法少女は闇と戦うのが目的でしょ? でもいつの間にか他の魔法少女よりも優秀になる事が目的になっている」


 紗央里さんは目線を落とすと深くため息をつく。


「どうしてわざわざ競争が生まれる様にしたのかしら? 皆んなで協力して戦えばもっと楽に闇を倒せるのに……」


 紗央里さんは顔を上げると、今度は私の両手を包み込む様に掴む。


「ねぇ、恵ちゃん、これからは一緒に闇と戦いましょ!」


 それはとてもいいアイデアだった。断る理由は何もない。


「はい、お願いします!」


 この日を境に私は学校が終わると、紗央里さんの自宅に向かうのが日課になった。


 紗央里さんが足止めをして私が止めをさす。以前なら苦戦していた強敵も2人なら負ける気がしなかった。


 そんなある日、紗央里さんがある提案をしてきた。


「ねぇ、恵ちゃん、私……天音さんの家に潜入してみようと思うの」


「えっ、潜入ですか!?」


「やっぱり2人で戦った方が効率的でしょ? わざわざ競い合うのは絶対におかしいわ。だから天音さんが一体何を考えているのか調べてみようと思うの」


「でも、バレたら怒られますよ」


「大丈夫すぐに終わるから安心して。明日は恵ちゃんだけで戦ってくれるかしら?」


「はい、それは問題ないですが……」


「じゃあ、頑張ってね!」


 紗央里さんはいつもの優しい口調で微笑む。でも、私の嫌な予感は的中した……




* * *


(油断した……早くここから脱出しないと!)


 ここは天音が経営するカフェテリア。紗央里は地面に這いつくばったまま、奥歯を噛み締めた。


 ぼんやりと意識が途切れていく、最後に見たのは天音が懐かしそうに日記を眺める姿だった。


 遡る事、数時間前……




※紗央里視点


「紗央里さん、ミトを一緒に連れて行って下さい」


「分かったわ、ありがとね。恵ちゃんはあまり無理をしないで頑張ってね」


 紗央里は恵と別れると、早足で天音の経営するカフェテリアに向かった。


 今日は定休日のためお客がいない。それは好都合だけど扉が閉まっていて中に入れなかった。


「ねぇ、ミト、おいで!」


 でも、作戦はある。何処からともなくふわっとミトが現れて紗央里の隣に着地した。


「ミト、お願いがあるの。部屋に潜入してここの鍵を開けてもらえないかしら?」


「う〜ん……出来なくはないけど……天音に怒られないかい? 知りたい事は直接聞いたらどうだい?」


「それで素直に教えてくれると思う? 大丈夫。すぐに終わるから安心して」


 紗央里の熱弁にミトは渋々頷くと、部屋の中にふわっと出現して鍵を開けてくれた。


「ありがとう。助かったわ」


「どういたしまして。でもバレない様にするんだよ」


 ミトはそう言い残すと消えてしまった。お店は怖いくらい静かで不気味だった。普段は明るくて賑やかなのに……


「失礼します……」


 紗央里は目星をつけていた天音の部屋に向かった。8畳程の広さがあって、木製の机やタンスが置いてある。壁際には簡易ベットも設置してあった。


「これは……」


 机の引き出しを開けると、分厚いノートが一冊入っていた。表紙には『日記』とだけ書かれている。


(すみません、読ませてもらいますね)


 紗央里は心の中で謝罪をすると、ページをめくった。そこに書かれている内容はとても信じられない事だった。

 

(嘘でしょ? じゃあ私たちは利用されてるだけなの!?)


 ページを捲る手が震える。紗央里は食い入る様に日記を読み進めた。そのせいで後ろから近づいてくる人影に気づけなかった……


「ここで何をしているのかしら?」


 ハッと我に返って振り返ると、天音がドアの近くに立っていた。一体いつの間に?


「えっと……これはその……」


「ダメでしょこんな事したら」


 天音は紗央里の後ろに回り込むと、首に手刀を振り下ろした。ガクッと紗央里の体から力が抜けてそのまま倒れ込む。


 天音は日記を手に取ると、懐かしそうにページを捲る。その光景を最後に紗央里の意識は完全に無くなった。

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