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20話 妹思いな姉

「凄い……もう傷が治っている!」


 翌朝、看護師の方に包帯をとってもらうと、怪我がすっかり治っていた。あんなに酷い火傷をしたはずなのに傷の跡すら残っていない。やはり魔法少女の力は本物だった。


 ちなみに私が入院した理由は、火事に巻き込まれたという事になっている。正確にはミトの魔法で都合よく皆んなの記憶を改ざんしてもらった。


 どんな言い訳をすればいいか悩んでいたからとても助かる。でも、退院をしたいと言ったら両親に止められた。


 早く退院したい理由がお金の問題である。今私が使っている1人部屋はとても高い。そこで4人部屋に移してもらう事を条件にもう少しだけ入院する事にした。


 まぁ、4人部屋と言っても私ともう1人しかいないから、ほとんど前の部屋と変わっていないけどね。


「それじゃあ、お母さんたちはもう行くけど、何か欲しいものがあったら何でも言うのよ」


「お姉ちゃん、またお見舞いに来るからね」


 母親と妹はそう言い残して病院を後にする。私は窓際のベットに荷物を置くと外を覗いてみた。


 こうしている間にもきっと街の至る所に闇が発生している。早く解決してあげたいのにここからでは何も出来ない。それがとても歯がゆい……


「ねぇ、お姉さん、何を見ているの?」


 外を眺めてため息をついていると、小さな女の子が私の事を見ていた。年は実里と同じくらいかな? 赤い髪の少女が不思議そうに首を傾げる。


「えっと……やる事がなかったからぼんやりと外を見ていたの」


「そうなんだ〜 じゃあワタシとお話しをしよ!」


 赤髪の女の子は私の隣に座ると、ニカっと白い歯を見せて笑みを浮かべる。


「ワタシの名前は優奈(ゆうな)。お姉さんは?」


「恵だよ。よろしくね。優奈ちゃんはいつからここにいるの?」


「う〜ん、ずっと前からいるからよく覚えてないの」


「そうなんだ……大変だね」


 きっと私が思っている以上にこの子は苦労している。小さなこの子にはこんな部屋は狭すぎる。せめてもう少し気の利いた言葉をかけてあげたかったのに、月並みな事しか言えないのがもどかしい……


「大変? そんな事ないよ。お姉ちゃんが毎日お見舞いに来てくれるの。だからワタシは大丈夫だよ。それにお姉ちゃんがいつか治してくれるって約束してくれたの!」


「そっか、いいお姉さんだね」


 女の子は元気よく答えて笑みを浮かべる。その表情を見ていると何だかこっちまで元気が湧いてくる。小さいのにしっかりしてるなぁ……


「ねぇ、優奈ちゃん、せっかくだから一緒に遊ばない?」


「えっ、うん! 遊びたい! 何をするの?」


「ちょっとまってね……」


 私は鞄からトランプを取り出すと、ジョーカーともう1枚のカードを重ねた。準備はこれでよし。


「このジョーカーに魔法をかけます。行くよ……3、2、1、はい!」


 私はジョーカーを優奈ちゃんの目の前で揺らしながら指を鳴らした。すると一瞬でジョーカーがハートの7に早替わりする。


「えっ、凄い! どうやったの!?」


「ふふっ、ちょっとしたマジックだよ」


 優奈ちゃんは目をまん丸に変えてカードを見つめる。スナップチェンジ。2枚のカードを重ねて素早く入れ替える技。


 タネは単純だけど、目の前で急にやると魔法が起きたように見える。どうやら喜んでくれたようだ。


「7は幸運な数字なんだよ。よかったら記念にどうぞ」


 ハートの7をあげると、優奈ちゃんは嬉しそうに握り締める。


「早く、優奈ちゃんの病気が治るといいね」


「うん、ありがとう。恵お姉ちゃん!」


 その後も選んだカードを当てたり、コインを使ったマジックを見せてあげた。無事に成功するたびに優奈ちゃんはパチパチと拍手をして喜んでくれた。


「凄い、恵お姉ちゃんは魔法使いみたいだね!」


「ふふっ、ありがとね」


 マジックには皆んなを笑顔にする力がある。例え病院生活が続いても、例え学校に行けなくても、この瞬間だけは笑顔になれる。それこそがマジックの素敵な魔法だと思う。


「ありがとう恵お姉ちゃん、楽しかったよ! また今度も見せてね」


 優奈ちゃんは満足そうにお礼を言うと、ハートの7を宝物の様に大切に握って自分のベットに戻って行った。それとほぼ同時に、コンコンっとノックする音が部屋に響く。


「優奈、お見舞いに来たよ」


 廊下の方から聞き覚えのある声がする、その声を聞いた瞬間、心臓がビクッと跳ね上がった。


(えっ、嘘でしょ⁉︎)


 私はすぐにカーテンに手を伸ばすと、慌ててしめてベットに潜り込んだ。


「優奈、どう調子は?」


「うん、大丈夫だよ。千夏お姉ちゃん!」




* * *


(千夏お姉ちゃん? 嘘でしょ?)


 チラッとカーテンの隙間から様子を伺うと、間違いなくそこには千夏がいた。やばい、もしここでバレたら次こそ命はない。どっ、どうしよう⁉︎


「はい優奈、これありがとね。また借りるかもしれないけど助かったわ」


 千夏はポケットからハートのエースを取り出して優奈ちゃんに渡す。えっ、あの凄い回復力のカードは優奈ちゃんの物だったの⁉︎


「ねぇ、お姉ちゃん何だか疲れてる? 元気がないよ」


「うん……ちょっと忙しくてね……しばらくは大人しくしていようと思うから安心して」


 千夏は優しく優奈ちゃんの頭を撫でる。その光景はとても微笑ましいものだった。


「ねぇ、お姉ちゃん。実は紹介したい人がいるの! 隣のベットのめぐm……」


「ごほぉ! ごほぉ!」


 私はわざとらしく大きな声で咳き込んだ。今その名前を呼ばれたらまずい!


「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん起きてる?」


 優奈ちゃんの足音が近づいてくる。やばい、だめ! 来ないで!


「ごほぉ、ごほぉ、うぅ……苦しい……頭も痛い……」


 私は命懸けで体調不良を演じた。どうやら上手くいったようで優奈ちゃんの足音がピタッと止まる。


「優奈、隣の方は体調がよくないみたいだからそっとしておいてあげよ」


「えっ、でも、さっきまでは普通に遊んでいたのに……」


「優奈、ここは病院だから皆んなどこか悪いの。だから無理はさせちゃダメだからね」


「は〜い……ごめんなさい」


 優奈ちゃんは少しだけ寂しそうな声で謝る。それにしても千夏さんの話し方はとても優しくて温かみを感じる。とても私を殺そうとした人とは思えない、妹思いの優しい雰囲気が滲み出ていた。


 病気の妹……妹思いの姉……もしかして千夏さんの願い事は優奈ちゃんの病気を治す事だったのかな? 


「じゃあそろそろ行くね」


「うん、またねお姉ちゃん!」


 扉が開く音がして千夏さんの足音が離れていく。もう行ったかな? 


「ねぇ、恵お姉ちゃん、体調が悪いの?」


 カーテンが捲られて、優奈ちゃんが心配そうな表情で私の顔を覗く。


「うっ、うん……急に頭痛が酷くなって……」」


 嘘に嘘を重ねるのは心苦しいが致し方がない。ごめんね優奈ちゃん。


「そっか……じゃあワタシが魔法をかけてあげるね!」


 優奈ちゃんはハートのエースを取り出すと私の手にカードを握らせて合言葉を呟く。


「愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!」


 ハートのエースから放たれた優しい光が私を包み込む。それはとても暖かくて心地が良いものだった。


 なんとなく重だるかった体がみるみる軽くなる。凄い力だなぁ……


「ありがとう優奈ちゃん。元気が出てきたよ」


「よかった〜 さっきのカードのお礼だよ!」


 優奈ちゃんは優しく微笑むと自分のベットに戻って行った。そして翌日、私は逃げる様に退院した。

ご覧いただきありがとうございました!

次回も18時頃に投稿します。

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