表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/37

19話 地獄の拷問

「あぐっ……ぐっ……」


 後頭部にジンジンと激しい痛みが走る。


「水を火で熱して100度に到達すると水蒸気になる。常識よね? 今度こそ終わりにしてあげる!」


 重たい瞼を持ち上げると、千夏(ちなつ)が私の事をゴミを見る様な目で見下ろしていた。


(あれ? 力が入らない?)


 体の周りを覆っていた風がいつの間にか止んでいた。もしかして時間切れ?


──恵ちゃん、力が戻るまで時間を稼いで!


 微かにだかそう聞こえた気がした。時間を稼げばいいんだね……

 

「あの、千夏さんの願いは一体何ですか?」


「そんなのアンタには関係ないでしょ。さっさと死になさい!」


 千夏は棍棒を振り上げると、私の頭に狙いを定める。ダメだ、このままだと殺される。もっと時間を稼がないと!


「ふふっ、確かにそうね。でもどうせくだらない願いなんでしょ?」


 私は鼻で笑い、バカにした口調で話しかてみた。


「くだらない⁉︎ アンタに何が分かるのよ!」


 作戦は見事成功した。千夏は目くじらを立てて怒りを爆発させる。


「せめて楽に殺してあげようと思ったけど、どうやら苦しみたいらしいね!」


 よし、このままいけばしばらく時間を稼げる。でもこれから起きる事は地獄のような拷問だった。千夏は棍棒に火を纏わせると、私の腕を乱暴に掴んだ。


「えっ? ちょっ……きゃあぁぁ──ッ!」


 火をまとった棍棒が私の腕を焼き付ける。そのあまりの痛さに私は悲鳴を上げた。肌がただれて酷い水脹れになる。


「まだよ、まだ痛め足りないわ!」


 千夏は私のスカートを捲ると、顕になった白い太ももに棍棒を押して受けた。


「あぁぁ、ああああああ!!!」


 喉の奥から苦痛の混じった声が溢れでる。拷問とはまさにこの事。全身の痛みに涙が勝手に出てきた。


「ふふっ、だいぶ良い顔になってきたわね」


 私の苦しむ姿を見て千夏は悪魔の様な笑い声を上げる。


「でも、まだ終わりじゃないわよ!」


 いつまで続くか分からない拷問に私の心は折れかけていた。千夏は私が死なない程度に炙ってはやめるを繰り返す。


 初めは止める事の出来なかった悲鳴が細く弱々しくなってきた。玲奈ちゃんまだ? もう限界だよ……

 

「そろそろ終わりね……業火粉砕!」


 千夏が棍棒を大きく振りかざす。いよいよ終わる。それはつまり死を意味していたが、この拷問が終わると思えば気持ちが楽になる。


──今だよ恵ちゃん!


 2度目の死を覚悟したその時、また玲奈ちゃんの声が聞こえてきた。


(そうだ、まだ、まだ終わりじゃない。私はこんな所で負けるわけにはいかない!)


「舞い上がれ……ハリケーン!」


 今持っている力をこの一撃に。その事だけを考えて放った技は今までとは比べ物にならない威力だった。


 吹き荒れる風が上昇して千夏の体が上空に舞う。さらに棍棒にまとっていた火が風に煽られて、巨大な火の渦となった。


「ぎゃあぁぁあああ!!!! 熱い、死ぬ! 渦潮!!」


 千夏の悲鳴が空に響く。すぐに水を出現させて消火しようとしたが無駄だった。燃え上がる炎は火柱となって空に向かって伸びていく。


「はぁ……はぁ……はぁ……よくもやってくれたわね!」


 やっと火の渦が収まって千夏が殺意のこもった目で私を睨む。


「愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!」


 千夏の怪我が見るみると回復していく。本当はこんな事したくない。同じ闇と戦う者同士、もっと協力して助け合いたい。


 どうして天音さんは1()()()()()()()()()()()叶えないのだろう? そんな事をしたら競争が生まれて全員がライバルになってしまう。本当は一緒に闇と戦うべきなのに……


「ごめんなさい千夏さん……太刀風!」


 何かが違えば私たち共に闇と戦う戦友だったかもしれない。でももう遅い。私は覚悟を決めると剣を振り下ろした。




* * *


「やぁ〜 やぁ〜 だいぶ派手にやってるね〜」


 聞き慣れた男性の声が工場に響く。私が繰り出した技はその男が持っている鋭利な鎌によって受け止められてしまった。


「どっ、どうして貴方が……?」


 鎌を持った男……(まさる)が余裕の笑みを浮かべて私を見る。


「悪いけど、今日はここまでだ。千夏、帰るよ」


「どうしてよ! 邪魔しないでよ!」


「助けに来てあげたんだよ。そう文句は言うなよ」


「余計なお世話よ!」


 千夏はイライラしながら叫ぶが、勝の手刀を首にくらい意識をなくす。


「じゃあ、また今度、次会う時は最高の舞台を用意してあげるよ」


 勝は千夏を背負うと闇に溶けて消えていった。




* * *


「恵、すぐに帰ろう。これ以上の無理は危険だ!」


 今度はミトがフワッと現れると、つぶらな瞳を潤ませて懸命に訴えてきた。


「うん、そうだね……」


 口ではそう言ってみたものの、もう体が一歩も動かない……私はそのまま地面にペタンっと座り込んでしまった。


「恵……」


「ごめん、ミト、少しだけ休ませてもらってもいいかな?」


 私は後ろのフェンスに体を預けると、軽く目を閉じた。このまま寝てしまおうかと思ったけど、流石にそれは不味い。


 私は鞄からスマホを取り出すと、妹の実里(みのり)に電話をかけてみた。両親はまだ働いているはず。妹なら大丈夫だと思うけど……


「もしもし、お姉ちゃん? どうしたの?」


 いつも通りの妹の声が聞けて少しだけ元気が戻ってきた。でも、今一歩でも動いたら間違いなく傷が痛み出す。


「ねぇ、実里……お願いがあるの、今から教える場所に迎えに来てくれるかな?」


 私は現在地の説明をすると、スマホを閉じて死んだ様に眠りについた。




* * *


「あれ……ここはどこ?」


 白のベットと白いカーテン。それから何とも言えない薬品の匂い……ここは……病院かな?


「やぁ、恵、目が覚めたかい?」


 名前を呼ばれて辺りを確認すると、私の隣でミトが丸くなって収まっていた。


「ねぇ、あの後どうなったの? 確か実里に電話をかけたはずだよね?」


「うん、そうだよ。あの後すぐに妹さんが救急車を呼んだんだよ」


「そうだったんだ……」


「体の調子はどうだい?」


「う〜ん……まだ少しダメかも……」


 戦いが終わった直後に比べたらだいぶ楽になったけど、まだ傷口が痛む。それに体がだるい……


「お姉ちゃん? 起きてるの?」


 ミトと話をしていると、カーテンの向こうで誰かが動く気配を感じた。この声は……


「お姉ちゃん! よかった〜 目が覚めたんだね!」


 カーテンが捲られて窓から月明かりが部屋に入ってくる。そこには今にも泣き出しそうな実里が立っていた。


「もう目が覚めないかと心配したんだよ!」


 実里は涙を浮かべると私に抱きついて来た。


「どうしてお姉ちゃんがこんな目に遭わないといけないの!」


 実里の流した涙が私の頬を濡らす。


「ごめんね、実里、心配かけて……」


 私は実里の背中に腕を回すと、ギュッと力を入れて抱きしめた。


「ねぇ、お姉ちゃん、最近おかしいよ。帰りが遅いし、いつも疲れた表情をしているよね? 一体何をしているの?」


「それは……ごめん、言えない」


 実里の疑問はごもっともだ。でもまだ話す訳にはいかない。こんな危険な事に実里を巻き込む訳にはいかない!


「ねぇ、怪我をした所はまだ痛い?」


「うん……まだ動くと痛いかな……」


 実里は心配そうな表情で顔を歪めると、私が怪我をした所に手を当てた。ジンワリと暖かくて傷口の痛みが和らいでいく。


「ありがとう実里、少し楽になったよ」


「早く元気になってね」


「うん、そうだね」


 優しくて思いやりがある自慢の妹。今は少し学校に行けないけど、いずれ乗り越えられると信じている。もちろんその時は全力で支えるつもりだ。


「お姉ちゃん……今日はこのまま一緒に寝てもいい?」


「うん、いいよ」


 実里は私の肩に腕を回すと、ピトッと体を寄せてくっ付いて来た。人肌の温もりを感じて何だか凄く安心する。


「おやすみ、実里」


「おやすみなさい、お姉ちゃん」


 私たちは互いに体を寄せたまま眠りについた。そんな2人の様子をミトが見守るように見つめていた。

ご覧いただきありがとうございました!

次回も18時頃に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ