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18話 恵vs千夏

「クラブのマークは力の証、今こそ示せ底力!」


 カードから飛び出したクラブのマークが千夏(ちなつ)を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。


 黒のロングパンツとジャケットに身を包み、カードが自分の背丈はある棍棒に変化する。そして左目にクラブのマークを宿していた。


 でも変身はまだ続く……


優奈(ゆうな)、力を貸して!」


 千夏は妹の優奈から借りたハートのエースを空に向かって掲げた。


「愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!」


 カードから飛び出したハートのマークが千夏の周りを包み込む。赤い髪がさらに色味を増して輝く。そして空いていた右目にハートのマークが宿っていた。


 その神秘的な姿は、まるで大自然を前にした様な美しさと恐ろしさを兼ね備えていた。


「覚悟は出来てるかしら?」


 千夏が巨大な棍棒を振り回す。ビュンっと風のなびく音が私のいる所まで聞こえてきた。


 とても逃げられそうな雰囲気はない。少しでも目を逸らしたら一瞬で殺される。そんな緊張感が辺りを包み込む。


「あの、千夏さんも魔法少女なんですよね? どうして戦わないといけないのですか?」


 私は全身に力を入れたまま尋ねてみた。せめて戦う理由が知りたい。同じ闇と戦う者同士、なぜ争うのかを……


「戦う理由なんて単純よ。アタシはどうしても願いを叶えたいの。そのためなら何だってする。暫定1位のアンタを殺してアタシが1番優秀な魔法少女になってみせる!」


「暫定1位? 私が⁉︎」


 千夏が棍棒を肩に担いで低く構える。どうやらお喋りはここまでのようだ。私は覚悟を決めると鞄からスペードのカードを取り出して天高く掲げた。


「スペードのカードは騎士の証。その剣で全てを断ち切れ!」


 カードから飛び出したスペードのマークが私の体を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。


 ピンクのスカートに白シャツを合わせ、タケシード風の黒いジャケットを羽織っている。そして左目にスペードのマークを宿していた。カードを撫でると一瞬で鋭利な剣に変化する。


「もしアンタがアタシの願いを叶えてくれたら見逃してあげてもいいけど……」


「それは出来ません! 私も譲れない願いがあるんです!」


 私は千夏の提案を即答で断った。玲奈ちゃんの願いを叶える。それが私の戦う理由であり、罪滅ぼしでもある。


 彼女が望む世界を作るまでは決して負けられない。例え相手が同じ魔法少女でもそれは変わらない!


「そう、残念ね。だったらアタシに殺されろ!」


 千夏が振り下ろした棍棒が私に向かって飛んでくる。避ける? いや無理だ。そんな余裕はない。


 私は咄嗟に剣を横に構えてガードの大勢に入った。千夏の一撃は巨人の足に潰されている様な重量感だった。地面がへこんでクレーターが出来上がる。なんて威力なの⁉︎


「へぇ〜 やるじゃない。大抵の闇はこれで何とかなるんだけどな〜」


 千夏がさらに連続で棍棒を振り回す。これ以上攻撃を受け止めると剣が折れてしまいそうだ……私は回避する事に専念して隙が生まれるのを粘り強く待ち続けた。


「ちょこまかとすばしっこいな!」


 千夏がイライラしながら力任せに棍棒を振り回す。


(今だ、いける!)


 私は狙いを定めると鋭く速い突きをくり出した。致命傷までとはいかないが、確かなダメージが入った。


「こんなの痛くもないわ。愛の力は世界を救う。ハートの心で傷を癒せ!」


 千夏の右肩から血が溢れる。でもそれは一瞬の事。ハートのエースが輝いて傷口がみるみる塞がっていく……


(嘘、なんて回復力なの⁉︎)


「さっきのお返しよ!」


 千夏の渾身の一撃が横腹に直撃する。まるで自動車に轢かれた様な衝撃だった。地面に3回ほどバウンドしながら私は後方に吹き飛ばされる……


「はぁ、はぁ、はぁ、うぐぅ……!!」


 猛烈な吐き気に襲われて口に手を当てると。指の隙間から大量の血が溢れてきた。


「ああ、あああああ!!!!!」


 赤く染まった右手を見た途端、私はパニックになって叫び声を上げた。血が滴る鋭利な鎌。赤く染まる私の手。掠れていく玲奈ちゃんの声……


 あの日のトラウマが蘇って、心臓がバクバク打ち付ける。背中からは冷や汗が滝のように出てきた。


「さてと、そろそろ終わらせましょうか」


 千夏がゆっくりと歩いて来る。その姿はまさに金棒を持った鬼そのものだった。私はこの化け物に殺される。


 今すぐ逃げようとしたが、足が震えて言うことを聞かない。


(ねぇ、玲奈ちゃん、怖いよ……せめて側で見ていてよ。それだけで頑張れるからさ……)


 学校で過ごした日常や、2人で闇に立ち向かった記憶が走馬灯の様に浮かんでは消えていく。


(ごめんね玲奈ちゃん、私もそっちに行くかも……)


 薄く目を閉じて死を覚悟した時だった。不意に吹いた風が私の頬を優しく撫でる。


 それはとても心地の良いものだった。恐怖や痛みがスッと消えて心が満たされていく。


 何だかとても懐かしい気がする。太陽の様に暖かくて自然と笑みが浮かぶこの感じ……玲奈ちゃと一緒に過ごした日々とよく似ている。


(ねぇ、もしかして側にいるの? もし見ているのなら力を貸して!)


 心の中で喉が枯れそうになるまで叫んだ時だった、


──任せて。力を貸すよ!


 頼もしい声が脳内に響いた。これは……間違いない!


 初めてあった時もそうだったけど、この声を聞くと不思議と元気が湧いてくる。


──恵ちゃん、諦めないで!


(うん!)


 トランプのカードには星座を指し示す意味もある。スペードのカードの場合は……


「「風に属する星座たちよ、私に()()()()を与えよ!」」


 温かい風が私を優しく包み込む。もうとっくの前に体は限界を迎えたはずなのに、全く疲れを感じない。今なら誰にも負ける気がしなかった。


「ここからが本番よ!」


 私は肩の力を抜くと、風に身を委ねて剣を構えた。




* * *


「へぇ〜 星座の力も使えるんだ。やるわね。じゃあこっちも本気で行くわよ!」


 千夏はピタッと足を止めると、高らかに宣言した。


「火に属する星座たちよ、アタシに火の加護を与えよ!」


 燃えるような千夏の赤い髪がメラメラと揺らぎ棍棒が炎に包まれる。


「もう逃げられないわよ……炎海(えんかい)!」


 火の波が私に向かって飛んでくる。でも、もう何も怖くない!


「玲奈ちゃん力を貸して! 追風(おいかぜ)!」


 体がフワッと少しだけ浮く。私は地面を滑るように全ての火の波をかわした。その姿はプロのスケート選手の様な華やかさと美しさを兼ね備えていた。


「ちょこまかと……すばしっこいな!」


 私は飛んだり回ったり、時には空中で体を捻って縦横無尽に動き続けた。そして射程範囲まで距離を積めると……


「これでお終い! 太刀風(たちかぜ)!」


 剣に風が集まる。そこから繰り出した斬撃は風に乗って火の波を真っ二つにした。


「そんな事をしても無駄よ!」


 千夏の言う通り火の波はさらに力を増して押し寄せてくる。でも、問題ない。何故なら狙いは後ろにある貯水庫なのだから。


 ジュワワワァァーーーー!!!!!

 

 貯水庫から溢れ出た大量の水が千夏の操る炎に直撃する。以前玲奈ちゃんが火の怪物を倒した時の戦法が見事に成功した。


「チッ、やってくれたわね!」


 地面に水溜まりが広がる。ビショビショになった千夏は忌々しいそうな目で私を睨みつける。


「これで止め!」


 私は一気に距離を積めると、薙ぎ払う様に剣を振った。


(ありがとう玲奈ちゃん、これは2人の勝利だよ)


 剣があと数センチで届きそうな時だった、不意に千夏が笑みを浮かべる。


「甘いわね……渦潮(うずしお)!」


 突然、足元の水溜まりがうねり出して私を水の牢獄に閉じ込めた。


「知ってる? ハートのカードは蟹座・蠍座・魚座の星座を指し示すの。そしてこれらは水の星座と言われてるの」


 千夏がもう1枚のカード……ハートのカードをチラっと見せる。でも、悠長に説明を聞いている余裕はなかった。


 渦潮は勢いを増していく。脱出しようとしてもすぐに中央に戻されてしまう。やばい、息が出来ない‼︎


「げほぉ、#$##%%!!」


 口から空気の泡が漏れ出す。頭がズキズキと痛み耳鳴りが激しくなる。苦しい、だめ、限界……早く逃げなくちゃ……


 私は渦潮の回転する力を利用して剣を団扇の様に大きく振った。


(舞い上がれ、ハリケーン!)


 何とか突風を発生させて渦巻きを吹き飛ばす事に成功した。脱出する事は出来たけど、そのダメージは想像以上だった。


 力が抜けて全身がだるい。視界もぼやけて何だか霧が見える。何だろうこの白い靄? 妙にジメジメする……


 白い霧はさらに深みを増していく。あれ? 千夏がいない⁉︎ 何処に消えたの?


「水は100度になると気体になる。常識よね?」


 しまった! っと思った時にはすでに遅かった。後頭部に衝撃が走り、私の体は宙を待っていた。

ご覧いただきありがとうございました!

次回も18時頃に投稿します♪

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