17話 2人の覚悟
「凄いね千夏ちゃん! 才能あるよ!」
気がつくと千夏と天音は元のカフェテリアに戻っていた。
(えっと……勝ったんだよね? あんな恐ろしい魔物にアタシが?)
「あまり実感がないですけど……」
「ふふっ、すぐに慣れるわよ。さてと、じゃあ後片付けをしようか」
「えっ、まだ何かあるのですか?」
正直少し、いやかなり疲れたのだが、一体何をさせる気なの?
「千夏ちゃん、さっきの闇の球体があるでしょ? もう一度触れてみて」
「えっ、はい、分かりました」
女性の近くに浮いていた黒い球体に触れると、千夏の中に溶けて消えていった。その瞬間激しい憎悪と憎みしが体の奥底から湧いてくる。
「あぐっ……ぐっ……なっなですかこれ!?」
ドス黒い感情が千夏の体を支配していく。何これ、憎い! 苦しい! 全身から冷や汗が吹き出して足がガクガクと震える。
「今のはね、さっきの女性が抱えていた闇だよ。私たち魔法少女の役目は闇を倒してそれを取り込んで浄化すること。どうだった? ダメそうなら無理にやらなくてもいいけど……」
天音は心配そうに手を差し伸べるが、千夏は自力で立ち上がって首を振った。
「大丈夫です。優奈の病気が治るのならこれくらい問題ありません。すぐに慣れてみせます!」
千夏は疲弊した心と体に鞭を打つと、天音の目を真っ直ぐ見つめて力強く宣言した。
「天音さん、アタシ絶対に願いを叶えるために1番優秀な魔法少女になってみせます!」
「ふふっ、いい意気込むね。期待しているわよ。そうだ、妹さんにこれを渡してあげて」
天音はトランプからハートのカードを取り出して千夏に手私す。
「なんですかこれ?」
「見ての通りハートのカードよ。これを妹さんに渡してあげて。ほんの気休めかもしれないけど病気の進行は抑えられるはずよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
千夏はハートのカードを受け取ると、大切に鞄にしまった。
妹が助かるのならこの程度の戦いは問題ない。むしろ、優奈が助かる兆しが見えて希望すら湧いてきた。
そして、この日を境に千夏は闇と戦う過酷な日常が始まった。
* * *
魔法少女になってもう1年近くが経過した。闇を見つけては倒す。倒したら次の闇を探して倒す。その繰り返し……
千夏の願いはただ1つ。それは優奈の病気が治って元気になる事。そのためだったらどんな手段も使う。
最近、闇を取り込んでも何も感じなくなってきた。それは闇の耐性がついたのか? それとも人としての心が麻痺してきたのか? 実際の所はよく分からない。
一体……どれだけの闇を倒したのだろう? 初めは数えていたけど、もうよく分からない。でもまだ足りない。
1番優秀な魔法少女になるにはもっとたくさん闇を倒さないといけない。時間はあまり残されていない。優奈の余命は1年から2年。もういつ何があってもおかしくない。その焦りが千夏の判断を狂わせた。
「実は最近、厄介な魔法少女がいてね〜 困ってるんだよ」
いつも通り街を探索して闇を探していると、いきなり知らない男が話しかけてきた。
「誰よアンタ? なんで魔法少女の事を知ってるの?」
「初めまして俺の名前は勝。君に伝えたい事があってね……実は君よりも優秀な魔法少女がいるんだ」
「アタシよりも優秀? そんなはずないでしょ! 誰なのそいつ!」
千夏は不気味な男を睨みつけると、喧嘩腰な口調で問いただした。
「君にお願いがある。是非とも恵をその手で消し欲しい。そしたら暫定2位の君が1番優秀な魔法少女に成り上がるからね」
「暫定2位……本当にそいつを消したらアタシが1位になれるのよね?」
「そうだよ。そしたら君の願いを俺が叶えてあげるよ」
「…………」
千夏は拳を握り締めると、震える体を無理やり抑え付けた。どんな手段も使ってでも助けると決めたはず。今更何を怖がる必要があるの?
「分かった。そいつの場所を教えて!」
千夏は男から標的の情報を聞き出すと、恵を探しに街を駆け出した。
恵視点
玲奈ちゃんがいない学校は退屈で仕方なかった。クラスの皆んなは最初こそ悲しんでいたが、次第にいつも通りの日常に戻っていった。
でも、私は決して忘れない。2人で過ごした時間は今でも大切な思い出として残っている。
「ねぇ、ミト、今日の闇はどこに潜んでいるの?」
学校が終わり、私は周りに人がいない所でミトに話しかけた。
「えっと……以前、玲奈と訪れた自動車工場だよ。恵……これ以上戦いを続けたら体がもたない。今日くらいは休んでも……」
「心配してくれてありがとね。でも大丈夫だよ」
玲奈ちゃんがあの男に殺されてから、私は悲しみを紛らわせる様に戦いに明け暮れた。
家族はそんな私に異変を感じて心配してくれたけど、休んでいる暇はない。玲奈ちゃんだって1人で戦っていたんだ。私だけが弱音を吐くわけにはいかない!
「本当に行くのかい?」
「うん、大丈夫、私強いから!」
──私強いから……それは玲奈ちゃんがよく言っていた口癖。でもそれは負けそうになる自分を奮い立たせるために使っていた言葉なんだと、最近になって気がついた。
闇との戦いはいつも命懸け。それに勝ったとしても闇を取り込まないといけない。その時に受ける心の傷は摩り傷とは違って一晩寝て治るようなものではない。
それでも私は戦い続ける。必ず1番優秀な魔法少女になって玲奈ちゃんとの願いを果たす。
『皆んながありのままの自分を認められる世界』を実現するまでは誰にも負けられない!
「ねぇ、ミト、ここだよね?」
自動車工場はあの火事のせいでほとんど焼き尽くされて今は廃坑と成り果てていた。
ここで起きた悲劇は決して忘れない。もし、私にもっと力があれば救えたのに……私が弱いせいで玲奈ちゃんがあんな事に……もう何度目になるかも分からない後悔が湧き起こる。
(ねぇ、玲奈ちゃん、また会いたいよ……)
気がつくと私はその場で膝をついて泣き崩れていた。胸が裂けそうなくらい苦しくて吐き気がする。
「恵……今日はやっぱり帰ろう。今の状態ではとても戦いにならない」
「………うん、そうだね……」
私は重い足に力を入れると、工場を出ようとした。でも、その行手を赤髪の少女が塞いだ。
「ねぇ、あんたが恵かしら?」
赤髪の少女の声は喧嘩腰で、鋭い目で私を睨みつける。
「はい、そうですけど……あなたは誰ですか?」
嘘をついても仕方がないため正直に答えると、少女の瞳に殺気が宿った。
「そう、恵なのね……アタシの名前は千夏。悪いけど、あんたにはここで死んでもらうわ!」
千夏は突然そう言い出すと、ポケットからクラブとハートのカードを取り出した。
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