15話 千夏の過去編①
「これでとどめ!」
燃えるような赤い髪が特徴的な少女……千夏は、自分の背丈はある棍棒を軽々と振り回しながら闇の魔物を倒していた。
もうかれこれ魔法少女になって1年は経過した。闇を見つけては倒す。倒したら次の闇を探して倒す。その繰り返し……
別に、世界を平和にしたい! みたいな正義感から戦っているわけではない。ましてや皆んなのために自己犠牲をして死ぬ気は全くない。
千夏の目的はただ1つ。1番優秀な魔法少女になって願いを叶えてもらう事。そのためだったらどんな手段も使う。
そんなある日、千夏の前に不気味な男が現れた。
「実は最近、厄介な魔法少女がいてね〜 困ってるんだよ」
いつも通り街を探索して闇を探していると、いきなり知らない男が話しかけてきた。
「誰よアンタ? なんで魔法少女の事を知ってるの?」
「初めまして俺の名前は勝。君に伝えたい事があってね……実は君よりも優秀な魔法少女がいるんだ」
「アタシよりも優秀? そんなはずないでしょ! 誰なのそいつ!」
千夏は不気味な男を睨みつけると、喧嘩腰な口調で問いただした。
「おっ、興味が湧いてきたかい? その子の名前は恵……ほんと働き者で大した子だよ。きっと願い事を叶えて貰えるのは恵だろうね」
「はぁー!? ふざけないで! 願いを叶えてもらうのはアタシに決まってるでしょ!」
男はその言葉を待っていたかの様に頷くと、わざとらしく手を叩いて提案してきた。
「そうだ、君にお願いがある。是非とも恵をその手で消して欲しい。そしたら暫定2位の君が1番優秀な魔法少女に成り上がるからね」
「暫定2位……本当にそいつを消したらアタシが1位になれるのよね?」
「そうだよ。そしたら君の願いを俺が叶えてあげてもいいよ」
不気味な男は懐からジョーカーを取り出して千夏に見せびらかせた。
「それ、天音さんと同じやつだ……どうしてアンタが?」
「トランプのジョーカーは2枚あるだろ? 普通の事さ。どうする? 叶えたい願いがあるんだろ?」
「…………」
千夏は拳を握り締めると、震える体を無理やり押さえつけた。どんな手段も使うと決めたはず。今更何を怖がる必要があるの?
「分かったわ。そいつの場所を教えて!」
千夏は男から標的の情報を聞き出すと、恵を探しに街を駆け出した。
1年前 教室 千夏視点
「両者とも準備はいいですか?」
千夏は対戦相手の子と手を掴むと、机の端を左手で掴んだ。
「レリーファイト!」
審判の子の合図と共に千夏は全身に力を入れて対戦相手の手を机に叩きつけた。
「くそ〜 また千夏の勝ちかよ〜」
男子生徒が痛そうに手を摩りながらぼやく。これで10連勝だ。
「どうしたの? もう終わりなの?」
「千夏が強すぎるんだよ! このメスゴリラ!」
「誰がゴリラよ! あんたの腕がシャープペンみたいに細いのがダメなのよ!」
教室中にゲラゲラと笑い声が響く。昔から男子たちと混ざって遊ぶ事が多かったから、中学に上がっても男子生徒と絡む事が多かった。
「はい、じゃあ皆さん。終礼を始めます」
担任の先生が教壇に立ってペチャクチャと長い話をする。毎回思うけど、どうしてそんなに話す事があるのだろう?
チャイムがなって終礼が終わると、千夏はカバンを背負って教室を飛び出した。
靴を履き替える時間も惜しい。千夏は下校中の生徒の間を抜いて地元の病院に向かった。
カウンターで軽く手続きをして2階の部屋に入ると、妹の優奈がぼんやりと外を眺めていた。
「優奈、今日も来たよ」
「あっ、お姉ちゃん!」
優奈は千夏の顔を見ると、パッと花が咲いた様な明るい笑みをこぼす。
優しくて気遣いの出来るアタシの自慢の妹。昔から体が弱くて今は入院をしているけど、きっとすぐに良くなるはず。そう信じて千夏は毎日学校が終わるとお見舞いに来ていた。
「ねぇ、お姉ちゃん、今日は学校でどんな事をしたの?」
「えっとね……今日は男子たちと腕相撲をしたよ。10連勝もしちゃったの」
「えっ、そんなに⁉︎ お姉ちゃん凄いね!」
優奈はニコニコとしながら千夏の話を聞いて喜ぶ。
「私も早くお姉ちゃんみたいに学校に行きたいな……」
「大丈夫。優奈ならきっとすぐに良くなるよ!」
そう、この時は優奈の病気はすぐに治ると信じていた。でも現実は違った……
「千夏さん、主治医の先生がお呼びです。1階の診察室に来て下さい」
「えっ、アタシですか? 分かりました」
とりあえず言われた通りに診察室に向かうと、すでにお父さんとお母さんが神妙な顔つきで椅子に座っていた。
「これで全員そろいましたね」
主治医の先生がアタシたちの顔を見渡すと、苦渋に満ちた顔で重たそうに口を開いた。
「優奈さんの余命ですが……半年から1年……頑張っても2年が限界でしょう……」
その言葉を聞いた瞬間、千夏の中で何かが崩れる音がした。
* * *
「それではこれで終礼を終わります。明日は小テストがあるので念入りに勉強をしておくように」
放課後のチャイムが鳴り、千夏は廃人の様な足取りで病院に向かった。
(どうして、どうして、どうして優奈が死なないといけないの!)
優奈の余命宣告を聞いてから、この世界が色褪せて見えた。楽しかった学校も教室に響く笑い声も今の千夏の目には何も映らない。
交差点の信号が赤に変わり歩行者が足を止める。病院までは後少し。せめて優奈の前では明るく接しよう。そう心に決めたのに、気がつくと千夏は顔を歪めて泣いていた。
(こんな顔じゃダメだ、ちゃんとしなくちゃ! アタシは優奈のお姉ちゃんなんだから!)
自分を鼓舞して歩き出そうとした時だった、ふと、隣のスーツ姿の男性の会話が聞こえてきた。
「全く、うちの親は困ったもんだよ。また入院してさ〜 医療費がかかるんだよ。さっさと逝ってくれないかな〜」
「それは確かに参ったな〜 あいつらは快適な病院で過ごして、俺たちは汗水たして医療費を稼ぐ……ほんと困るよな〜」
男たちは品のない声でゲラゲラと笑いだす。その声を聞いた瞬間、千夏の堪忍袋がプチンと切れた。
「ねぇ、ちょっとあんた達……何を話してるの?」
殺気を込めて声をかけると、男たちはギョッとした顔で振り返る。
「えっ? 何って……君には関係ないだろ?」
「えぇ、そうね確かに関係ないわ、所で貴方は今いくつなの?」
「歳? 40だけど……それがどうかしたのかい?」
男は不審な目で千夏を見下ろしながらぶっきらぼうに答える。
「ねぇ、どうして貴方みたいな人間が40まで生きているの? それなのにどうして優奈は後数年しか生きられないの⁉︎」
自分の中に眠っていたドス黒い感情が爆発して外に飛び出す。憎い、忌々しい、どうしてこんな奴がのうのうと生きているの?
「なぁ、行こうぜ、気持ち悪いよこいつ」
「ああ、そうだな」
男たちが耳打ちをすると、早足で千夏から離れていく。
(ねぇ、神様、どうして優奈が死なないといけないの? あんなに優しい子がどうして?)
信号が青に変わり歩行者が目的地に向かって歩き出す。でも千夏は地面に膝をついて拳を叩きつけた。
(憎い、何もかもが憎たらしい。どうしてこの世界はこんなにも理不尽で残酷なの⁉︎)
胸の中で渦巻く憎悪がうねりを上げる。もうこんな世界は無くなればいいのに。いっそのことみんな死んじゃえばいいのに!
収まる事のない負の感情が千夏を包みこむ。今なら本当にこの世界の人を皆殺しにできそうな気がする。
手始めにさっきの男2人を殺してやろう……そう本気で思った時だった、誰かが千夏の肩を優しく叩く。
「ねぇ、そこの貴方、すぐ近くに私のお店があるよ。よかったら少しだけ寄って行って」
突然20代らしき大人の女性が千夏に優しく微笑む。
(邪魔をしないで! 今からあいつらを殺しに行くんだから!)
思わずそう叫びそうになったが、言葉にならず腹の底で止まる。
「私の名前は天音。ちょっと付き合って」
別に無視をしてもよかったのだが、何となく断れない雰囲気に押されて、千夏はその人の後について行った。
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次回も18時頃に投稿します。




