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13話 別れはいつも突然に……

「何これ? どういう事?」


 状況が掴めずあたふたしていると、足音が聞こえて来た。振り返ると、ヒョロリとした不気味な男が立っている。


「誰ですか貴方は?」


 ただならぬ不気味な雰囲気に冷や汗が背中を伝う。


「初めましてかな? 俺の名前は(まさる)天音(あまね)の友達さ」


「天音さんの? じゃあ助けてくれるのですか?」


「あぁ、すぐに楽にさせてあげるよ」


 勝さんは私を通り過ぎで玲奈ちゃんの前に立つ。そしてジョーカーの描かれたトランプを取り出した。


 その瞬間、私の頭の中で警告音が鳴り響く。なんだかとても嫌な予感がする。


「ねぇ、本当に天音さんの友達なの?」


 玲奈ちゃんは苦しそうに声を絞り出して勝さんを睨みつける。


「あぁ、それは本当さ。でもねボクは彼女とは違って魔法少女が大っ嫌いなんだよね」


 勝さんが持っているジョーカーが鋭利な鎌に変わる。その瞬間、私の中で鳴り響いていた警告音が確信に変わった。


「何をする気ですか! 玲奈(れな)ちゃんから離れて!」


「うるさいな……君はそこで大人しく見ているといい」


 勝が指を鳴らすと辺りに闇が発生した。その闇は鎖の様に形を変えて私とミトを拘束する。


(めぐみ)ちゃんとミトに何をするの!」


 玲奈ちゃんが必死に体を捻って脱出を試みるが闇の鎖はびくともしない。


「今すぐこの鎖を解きなさい!」


 玲奈ちゃんが目を釣り上げて男を睨みつける。普段の優しく明るい雰囲気は一切なく。本気で怒っているのが伝わってくる。


「おぉ〜 怖い怖い」


 勝が指を鳴らすと、闇の鎖が玲奈ちゃんの体をさらに強く締め付けた。


「っ痛、痛い! 痛い‼︎ やめて!!!」


 玲奈ちゃんの体からミシミシと嫌な音が聞こえてきた。腕が曲がってはいけない方向に向かい、大木が折れたような音が響き渡る。


「きゃぁああああああ!!!」


 玲奈ちゃんは目を見開くと、悲痛な叫び声をあげた。ポタポタと玲奈ちゃんのスカートから透明な液体が漏れ出す。


「お願いやめて、玲奈ちゃんを離して!」


 気がつくと私は、顔をくしゃくしゃにして泣きながら叫んでいた。このままだと玲奈ちゃんが……


「さぁ、お友達とお別れだよ」


 勝が鎌を掲げて狙いを定めた。沈みかけた太陽が反射して不気味に輝く。


「恵ちゃん……お願い……逃げて……」


「嫌だ、こんなの嫌だよ!」


 玲奈ちゃんと過ごした楽しい日々が走馬灯の様に駆け巡る。


「これで終わりだ!」


 勝が振り下ろした鎌は、玲奈ちゃんとの大切な思い出と共にその体を切り裂いた。




* * *


「嘘でしょ……嘘だよね?」


 拘束していた闇が消える。私はすぐに駆け出して玲奈ちゃんの元に向かった。


「ねぇ、玲奈ちゃん、しっかりして!」


 そっと抱き寄せてみると、私の右手は真っ赤に染まっていた。


「ごめんね、恵ちゃん……もう、ダメかも……」


 血の水溜まりが地面に広がる。玲奈ちゃんの声は今にも途切れそうなくらい弱々しい……


「ダメじゃないよ! 私……玲奈ちゃんと離れたくない! もっと一緒にいようよ!」


 溢れ出た涙が頬をつたり、視界がぼやける。まだ、まだ急げはきっと間に合うはず!


「私……恵ちゃんに会えて凄く嬉しかったよ……恵ちゃんは私のたった1人の親友だよ……」


 玲奈ちゃんは私の頬を優しく撫でる。その細い手は小刻みに震えていた。


「だからお願いがあるの……私の代わりに願いを叶えて……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作って」


「うん……叶えるよ。だけど2人で叶えよ! これは私たちの願いでしょ! 私を置いていかないで!」


 まだ、教えて欲しい事がいっぱいある。行きたい場所だってまだある。もっと2人で過ごしたかったのに……


「恵ちゃん、私はいつでも側にいるよ……その事だけは忘れないで……」


 玲奈ちゃんはスペードのカードを私に託すと優しく微笑みを浮かべた。


「ねぇ、待って……」


 もう一度話しかけようとしたが、玲奈ちゃんは既に目を閉じていた。その顔はまるで眠っているような穏やかな表情をしていた。




* * *


「お友達とのお別れは済んだかな? これが魔法少女という厳しい世界だよ」


 黙って見ていた勝が子どもを諭す様な口調で語る。私はゆっくりと立ち上がると、涙を拭いて睨みつけた。


「貴方の事が憎い……」


 こんなにも誰かを憎いと思ったのは初めてだった。自分の中に眠っていた黒い感情が爆発して頭がおかしくなりそうだ……この男だけは絶対に許せない!


「いいね〜 そうだ、その調子で闇に心を捧げるんだ!」


 勝は愉快に笑い声を上げる。その声が耳障りで私の怒りは限界まで登り詰めていた。


「ぁあああああああ!!!!!」


 お腹の底から声を上げると、私は勝に向かって突進した。喧嘩なんてした事がない。どうやって人を殴るかも知らない。でも、感情に任せて立ち向かった。


「どうした? その程度? ほら、ちゃんとよく狙いなよ」


 勝は子どもの相手をするように余裕の笑みを浮かべて私の攻撃を避け続ける。


「いいかい? 人を殴る時はみぞおちを狙うんだ。こんなふうにね!」


 勝が放った右ストレートが私のお腹に直撃する。


「ぐぅぅぅう!!」


 強烈な一撃に喉から変な声が漏れる。体がくの字に曲がり、あまりの痛さにお腹を抑えてうずくまってしまった。


「ほらほら、もっと頑張りなよ」


 勝が何かを言ってるが、痛みに堪えるのが精一杯で耳に入ってこなかった。


「まだ……まだ私は諦めない!」


「威勢だけは確かだね。でもいつまでもつかな?」


 フラフラになりながら立ち上がると、勝が連続でパンチを繰り出した。当然避ける事は出来ず、私はサンドバックの様にボコボコにされた。


 口の中に血の味が広がる。もう何処が痛いのかもよく分からない。朦朧とする意識の中、考えていたのは玲奈ちゃんの事だった。


──恵ちゃん、怒りに惑わされないで!


 ふと、脳裏に玲奈ちゃんの声が聞こえた気がした。


(えっ、玲奈ちゃん?)


──恵ちゃん、私のために怒ってくれてありがとね。でも、それだと勝てないよ。


(でも、どうしたらいいの?)


──大丈夫。力を貸すよ。私も一緒に戦うよ。


 全身の痛みに起こされてハッと私は我に返った。一体どれくらい気を失っていたのだろう? 相変わらず勝は余裕の笑みを浮かべている。


(ありがとう玲奈ちゃん……)


 私は深く息を吐いて気持ちを落ち着かせた。今ならきっと出来るはず!


「スペードのカードは騎士の証……」


 私は玲奈ちゃんからもらったスペードのカードを取り出して空に掲げた。


「まさかそれは……出来るわけない!」


 勝の顔から余裕の笑みが消えて緊張感が走る。


「その剣で全てを断ち切れ!」


 カードから飛び出した無数のスペードマークが私の体を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。


 ピンク色のスカートに白シャツを合わせ、タケシード風の黒いジャケットを羽織っている。そして……









 左目にスペードのマークを宿していた。

ご覧いただきありがとうございます!

次回も18時頃に投稿します。

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