12話 初めての仕事
「あれ? 玲奈ちゃん、ここって……」
「朝、ニュースでやっていた自動車工場だね」
現場には警察や消防車が止まって話をしている。ニュースでチラッと聞いた内容によると、従業員の誰かが放火をしたらしい。
「ミト、中を調査したいから、隠密の魔法をかけて」
「分かった。任せて」
ミトは私たちの周りを一周する。すると、体が周りの背景に溶け込んで見えにくくなった。
「凄い、ミトも魔法を使えるの?」
「これくらい大した事ないよ。さぁ、行こうか」
ミトはピョンピョンっと軽やかに飛びながら工場の奥に向かっていく。おくれない様に後を追いかけると、いつもの闇の球体が浮かんでいた。
「恵ちゃん、準備はいい?」
「うん、出来てるよ!」
私は玲奈ちゃんの手を繋ぐと、一緒に闇の中に侵入した。その先は夜の工場だった。作業着を着た男性が、ヒョロリとした不気味な男性と会話をしている。
そして、不気味な男が作業着を着た人に何かを手渡した。
「ねぇ、玲奈ちゃん、あれは何をしているのかな?」
「分からない……もう少し様子を見てみようか」
作業着を着た男性は容器に入った液体をまくと、ライターに火をつけて投げ捨てた。瞬く間に火は工場に燃え移る。
そして作業着を着た男性も包み込むと、巨大な火の怪物になった。あれが今日の敵……これまでの敵とは比べ物にならない力を感じる。
「恵ちゃんは危ないからミトの側で見ていて」
普段は明るい玲奈ちゃんも今日は緊張した様子だ。それほど今日のターゲットは強敵という証拠なのだろう……
「玲奈ちゃん、無理だけはしないでね」
「ふふっ、安心して。恵ちゃんが一緒だと全然怖くないの。ありがとね、魔法少女になるって言ってくれて!」
玲奈ちゃんはパッと明るい笑みを浮かべると、私の手をギュッと握りしめる。
「さてと、今回も先輩として良いとこ見せなくちゃね!」
玲奈ちゃんはスペードのトランプを取り出すと、天高く掲げた。
「スペードのカードは騎士の証。その剣で全てを切り裂け!」
カードから飛び出したスペードマークが玲奈ちゃんの体を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。玲奈ちゃんがカードを撫でると鋭利な剣に変わる。
「ミト、恵ちゃんの事よろしくね!」
「うん、任せて」
玲奈ちゃんは剣を構えると、巨大な火の怪物に向かって一気に駆け出した。
* * *
火の怪物は玲奈に狙いを定めると、巨大な火の玉を飛ばした。
「おっと、危ない!」
玲奈はとっさに回避をしたが、服の切れ端が暑さで溶けてしまった。さらに2発、3発と巨大な火の球が飛んでくる。
何とか直撃は間逃れたが、巨大な火の玉に隠れた4発目の攻撃が飛んできた。
「えっ、うそ、きゃあぁぁ──ッ!」
左足が火に包まれる。急いで靴を脱いで火を消したが、皮膚がただれて酷い水脹れになっていた。
「玲奈ちゃん危ない!」
恵の声を聞いて咄嗟に顔を上げると、火の玉が目の前まで迫っていた。
(これはまずい……)
すぐさま玲奈は立ち上がると、鉄のパイプに手を伸ばして上に逃げようとした。
でもこの判断が間違っていた……
「熱っ! 何これ!?」
鉄のパイプは信じられないくらい熱くなっていた。そんな事は知らずに力強く掴んだせいで右手も火傷をしてしまった。
「はぁ……はぁ……はぁ……熱いし痛いしボロボロだよ……」
サウナに入っているような暑さのせいで頭がクラクラする。それに服も汗でベタベタして気持ち悪い。
左足と右手はこの戦いではもう使えない……こうなったらあれをするしかない!
「風に属する星座たちよ、私に風の加護を与えよ!」
トランプには武器や階級の他に星座を示す意味もある。スペードの場合は双子座・天秤座・水瓶座でこれらは風の星座と言われている。
「久しぶりに本気で行くよ! 追風!」
玲奈の周りに風が発生して体が少しだけ浮く。火の怪物は巨大な火の玉を放ったが、玲奈は華麗な滑りで全てかわした。その姿はプロスケート選手の様な美しさとキレを兼ね備えていた。
「これでお終い! 太刀風!」
玲奈の剣に風が集まる。そこから繰り出した斬撃は風に乗って火の怪物を真っ二つにした。
火の化け物は一瞬だけ苦しそうにうめき声をあげたが、すぐに元の姿に戻ってしまった。でも、問題ない。何故なら狙いは後ろにある貯水庫なのだから。
ジュワワワァァーーーー
貯水庫から溢れ出た大量の水が巨大な火の怪物に直撃する。標的が完全に消滅すると、玲奈と恵は元の工場に戻された。
* * *
「玲奈ちゃん! これですぐに冷やして!」
私は近くの蛇口から水を汲んで玲奈ちゃんの元に向かった。
「ありがとね……でも、その前にまだやるべき事があるの」
玲奈ちゃんは痛そうにヨロヨロと歩きながら倒した闇の元に向う。
「そっか……大変だったね。上司に怒られて残業までさせられて……それなのに給料は皆んなより低いなんて許せないよね」
闇の残骸が玲奈ちゃんの胸の中にスッと入っていく。すぐに手当をしようとすると……
「えっ、何これ……」
玲奈ちゃんは胸を押さえてその場にうずくまった。
「えっ、どうしたの!?」
「しっかりすんだ!」
異変に気づいて私とミトがすぐに駆けつけたが……
「だめ、近づかないで!」
玲奈ちゃんの周りに禍々しい闇のオーラが発生した。その闇はまるで鎖の様に玲奈ちゃんの体に巻き付いて拘束した……
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次回も18時頃に投稿します。




