11話 懐かしいお客
「おい、村川! 何もたもたしてるんだ! 仕事終わらねーぞ! 早くしろ!」
ここは地元の自動車工場。派遣社員として雇われている俺は今日も上司に怒られながら仕事をしていた。
「すみません、すぐにやります」
まだ休憩の時間だったがこの会社では上司の言うことが絶対。俺は作業用の手袋をはめて現場に向かった。
「村川、今日残業できるよな?」
「えっ、でも、今日は前から言っていた予定が……」
「このクソ忙しい時期に帰れると思ったのか? 残れるよな?」
「………はい、大丈夫です」
結局この日も夜遅くまで働かされた。明日も朝早くから仕事がある。
この会社に来て分かった事がある。それはこの会社がクソだと言う事だ。そして何より気に入らないのが給料の額だ!
文句ばっかり言ってる先輩の方が自分よりも稼いでいる。もっといえば同級生はホワイト企業で定時上がりなのに、俺よりも給料を沢山もらっている。
特別生活に困っている訳ではないが、俺よりも苦労していないくせに、俺よりも給料をもらっているのが許せない。
「こんな会社、火事にでもなって無くなればいのに……」
ボソっと呟いたその言葉が静かな工場に響く。
「まぁ、そんな事起きねぇーよな……」
明日も仕事で忙しい。どうせまた残業する。だからさっさと帰ろうとすると……
「それ、いい考えだね」
ひょろっとした男が不気味な笑みを浮かべながら立ちはだかった。
「見ない顔だな、誰だよあんた?」
「初めまして俺の名前は勝。君に用があって来ました」
「俺に?」
不気味な男は俺の手に灯油とライターを手渡す。
「おい、どういう事だよ!?」
「そのままの意味だよ。さぁ、こんな会社、燃やしてしまいましょう」
「そんな事出来るわけねーだろ!」
「そうですか……では、これまで通り上司に怒られながら残業をして、仕事に明け暮れる日々を死ぬまでずっと続けたいですか?」
「それは……」
「貴方はこの会社と上司に恨みがあったはず。さぁ、その思いを解き放つといい」
「……………」
不気味な男の言葉に、村上は催眠術がかかった様に頷く。そして翌日。この日からもう働かなくてよくなった。何故なら工場が火事で無くなったのだから……
* * *
「2人とも、朝食が出来たよ〜」
「「は〜い、今行きま〜す」」
私と玲奈ちゃんは身支度を整えて一階に向かった。カウンター席には焼き立てのトーストとサラダとホットコーヒーが準備してある。どれも美味しそう〜
「さぁ、冷めないうちにどうぞ」
「ありがとうございます」
「頂きます!」
焼き立てのパンの香りが食欲をそそる。一口食べると、サクッといい音を立てて、バターの香りが広がった。コーヒーとの相性も抜群で、新鮮なサラダもとても美味しい。
贅沢な朝食を頂いていると、テレビから物騒なニュースが聞こえてきた。
──昨日深夜0時過ぎに自動車工場内で火事が発生。警察は放火の疑いで捜索中……犯人はいまだ逃走中のため……
「さてと、恵ちゃんは今日から魔法少女として活躍してもらうよ。準備はいいかしら?」
天音さんはテレビを消すと、身を乗り出して優しく微笑みを浮かべる。
「はい、大丈夫です!」
私は力強く頷いて返事をすると、トーストとサラダを平らげた。
「とりあえず今日は周辺の探索をしてもらおうかしら。まだ最初だから玲奈に色々と教えてもらって」
天音さんは空いた食器を片付けると、カフェテリアのオープン作業を始める。
「それじゃあ、行こっか!」
「うん!」
私は玲奈の後ろについてお店を後にした。
* * *
「さてと、早速、闇を探しに行くんだけど……お〜い、ミト〜 出てきて!」
玲奈ちゃんが大声で呼ぶと、ミトがフワッと現れて華麗に地面に着地した。
「やぁ、恵、魔法少女デビューおめでとう! これからよろしくね」
「うん、こちらこそよろしくね」
私はしゃがみこんでミトを持ち上げると、フワフワな毛をモフモフしてみた。昨日一緒にお風呂に入って綺麗にしてあげたから、予想通りふかふかだった。
「恵……くすぐったいからやめてよ」
「ごめん、つい、気持ちよさそうだったから」
私はミトの垂れ耳を撫でながら謝ると、地面に降ろしてあげた。
「そういえば、今更だけどミトって何者なの? どうして私たちに協力してくれるの?」
「ボクはね……この世界が闇に覆われるのを防ぎたいんだ」
「闇に覆われるのを防ぐ? どういう事?」
「そのままの意味だよ。恵も見てきた通りこの世界には至る所に闇が存在する。それを倒すのがボクの使命さ。その為なら全力で君たちをサポートするよ」
ミトはつぶらな瞳で私を見上げると、自信に満ちた表情で宣言した。
「ねぇ、もし 世界が闇に覆い尽くされたらどうなるの?」
「家族や友達、それから人類が築いてきた技術や進化が全てが無くなるんだ。そして1からやり直しになるんだよ……」
そう語るミトはとても寂しいそうな表情をしていた。全てがなくなってやり直し……もしそんな事になったら家族や玲奈ちゃんともお別れになるってことだよね? そんなの絶対に嫌だ!
「だから今日も世界の平和を守るために頑張るよ!」
玲奈ちゃんは暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように明るく言うと、私の手を引っ張って街の方に駆け出した。
* * *
(玲奈と恵ちゃんは上手くやってるかしら?)
天音はコーヒーカップを丁寧に洗いながらぼんやりと外を眺めていた。あの2人は相当強い絆で結ばれている。
(またあの頃に戻れたらいいのに……)
あの子たちを見ていると、まだ自分が少女だった頃を思い出す。過ぎてしまった過去の思い出に浸っていると、カラン、コロンっとベルが鳴って1人の男性が入って来た。
「あら、珍しいお客様ね」
噂をしていればなんとやら。昔の友人……勝が訪れた。
相変わらず不気味な笑みを浮かべた勝はあの日を境に変わってしまった。
「久しぶりだね天音。随分とあの2人の事を気にしてるみたいだな」
「あら? それは勝だってそうなんじゃない? 恵ちゃんと玲奈の学校に侵入したみたいね」
ミトから聞いた話によると、勝は2人が通う学校に侵入してバトミントン部の子を唆したらしい……
玲奈の活躍でその子達は助かったが、一歩間違えたら大変な事になっていた。
2人の間でバチバチと鋭い視線がぶつかりあう。極限まで高まった緊張感の中、先に動いたのは天音だった。
「勝利を掴め逆転のジョーカー。その力で主人の望みを聞け!」
天音が取り出したトランプのジョーカーが鋭利な鎌に変わる。手加減は全く考えずに全力で振り下ろしたのだが……
「そんな力で俺に勝てると思うの? 勝利を掴め逆転のジョーカー。その力で主人の望みを聞け!」
勝もジョーカーを取り出すと、鎌に変化させて正面から受け止めた。金属が擦れる嫌な音と共に火花が飛び散る。
「君は大人しくここで見ているといい」
勝の体から禍々しい闇のオーラが溢れ出す。その闇はまるで鎖の様に天音に巻き付いて拘束する。
「ちょっと! これを解きなさいよ!」
「断る。俺はこの力で全ての魔法少女を殺す。そして全てをやり直す。邪魔をするなよ」
勝はそう言い残すとドアを蹴ってカフェテリアを後にした。
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次回も18時頃に投稿します。




