10話 お泊まり会
「ねぇ、恵ちゃん! 一緒にお風呂に入ろ!」
食後のコーヒーを飲みながらくつろいでいると、玲奈ちゃんがパジャマを2着持ってやって来た。
「うん、いいよ。あれ? そういえばミトは?」
「呼べば来ると思うよ。お〜い、ミト〜 出ておいで〜」
玲奈ちゃんが呼びかけると、どこからともなくミトがフワッと現れて地面に着地した。
「やぁ、恵どうしたんだい?」
「ねぇ、ミトもせっかくだから一緒にお風呂に入らない?」
私がそう提案すると、ミトは垂れ耳をパタパタと振りながら首を横に振った。
「ボクは遠慮しておくよ」
「えっどうして?」
「その……濡れるのが嫌いなんだよ」
ミトはそう言うと、プイッとそっぽを向く。
「でも、綺麗に洗わないと汚れちゃうよ?」
「そうそう、恵ちゃんの言うとおりだよ。私が洗ってあげるね!」
玲奈ちゃんが浴室に連れて行こうとすると、ミトはピョンピョンっと部屋を飛び回って逃げ出した。
「あっ、待て〜 逃げるな〜!」
「だって、まだ汚れてないでしょ?」
「ほら、一緒に行くよ!」
逃げまどうこと数分、結局ミトは玲奈ちゃんに捕まって一緒に行く事になった。
最初は短い足をバタバタと動かして抵抗していたが、やがて諦めたのか大人しくなった。
「みんな、お湯が冷める前に行ってらっしゃい」
キッチンの方から私たちのやり取りを見ていた天音さんがクスクスと微笑む。私と玲奈ちゃんは着替えとミトを持って浴室に向かった。
* * *
「ミト、体洗ってあげるからおいで!」
「玲奈、それは勘弁してほしい……目に泡が入ったら痛いじゃないか!」
「なら、目を瞑っていてもいいよ!」
玲奈は石鹸で泡立たせると、ミトの体を洗い始めた。元々白い毛だったせいか、泡と混ざって巨大な白い塊が出来上がった。
「ねぇ、玲奈、まだかい?」
「もうすぐ終わるよ」
お湯で流すとミトの体は輝かしい純白の毛になっていた。玲奈と恵は「可愛い〜」「綺麗になったね!」などと褒めたが、当の本人はジトーっした目で2人を見つめ不機嫌そうな表情をしていた。
「ふぅ〜 やっと終わった……」
ミトは子犬のように体を震わせて水を弾くと、ふわっと消えてしまった。
「行っちゃったね……」
「そうだね。そんなに嫌だったのかな?」
恵はキョトンと首を傾げると、石鹸を借りて自分の体を洗い始めた。その光景を玲奈がチラチラと盗み見ていた。
「どうしたの玲奈ちゃん? ジロジロと見て?」
「えっ、いや、その……何でもないよ!」
玲奈は誤魔化す様に首を振ると、自分の体と比べて小さなため息をこぼした。
スラリとした白い足に可愛らしいピンク色の髪。そして自分には無い確かな膨らみがそこにあった。
「恵ちゃん、背洗ってあげるよ!」
「えっ、本当? じゃあお願いしようかな?」
玲奈はタオルを泡だたせると、陶器の様なスベスベな恵の背中を優しく洗い始めた。
肩はなだらかな曲線を描き、お腹は両手で包み込めそうなくらい細い。そして女子同士でも思わず見惚れてしまう色気があった。
「ねぇ、恵ちゃんって今何歳?」
「えっ、14歳だけど……どうして?」
「そっか……同い年か……私先に上がってるね」
玲奈はそう言い残すと、少しだけ悔しそうに浴室を出て行った。
* * *
「ここが私の部屋だよ!」
髪を乾かしてパジャマに着替えると、今度は玲奈ちゃんの部屋に案内された。勉強机に大きなベット。さらに可愛らしいラグマットが敷かれていた。
「ねぇ、恵ちゃん、またマジックを見せてよ!」
「うん、いいよ!」
私はトランプを取り出すと、リフルシャッフルをした。
「まず最初に1番上のカードをめくります。今回はスペードの3でした。そしたらこのカードを中の方にしまいます」
私は1番上のカードを引いて真ん中ら辺に差し込んだ。
「それではここで魔法をかけます。このように指を鳴らすと……」
私はパチンと指を鳴らして1番上のカードをめくった。そこに描かれていたのは……
「えっ、凄い! スペードの3だ! どうやったの!」
確かに中央に入れたはずのカードが1番上に上がってきた。よし、成功した!
「えっと……1番上をのカードを引いた様に見せながら、実は2枚同時にカードを引いていたんだよ。これをダブルリフトって言ってね……」
今度は分かりやすい用に私は説明をしながら2枚のカードをめくってみた。
「さっき玲奈ちゃんが見ていたスペードのカードは2枚目のカードなの。そして中央にしまったのは1枚目のカードなんだよ。タネとしては単純でしょ?」
「そうかもしれないけど、やっぱり恵ちゃんは天才マジシャンだね!」
玲奈ちゃんは目を輝かせて拍手を送る。その後も様々な種類のマジックを見せてあげた。目の前で起きる不思議な現象に玲奈ちゃんは食い入る様に見つめる。
「ねぇ、どうして恵ちゃんはマジックを始めたの?」
「それは……」
私はカードをケースにしまうと、妹の顔を思い浮かべながら答えた。
「実里が喜んでくれるからだよ」
私が初めてマジックを覚えたのは、実里が不登校になって間もない頃だった。少しでも喜んで欲しいと思って模索した結果、ようやく辿りついたのがマジックだった。
マジックを見せている間は昔の様に笑ってくれた。それが嬉しくて、もっと喜んで欲しくて練習に励んでいたら、いつのまにか上達していた。
「恵ちゃんはいいお姉ちゃんだね!」
「そんな事ないよ……結局、根本的な解決にはなっていないし……」
一体何が実里を苦しめているのか? その理由は分からない……ただ、学校に行こうとするとお腹が痛くなって冷や汗が出るらしい。
でも決してサボっている訳ではない。ちゃんと学校の宿題をしているし、家のお手伝いもしている。
「早く学校に行ける様になるといいね」
「うん、そうだね。でも本人が直接、行きたいって言うまでは待っていようと思うの」
私にとって実里は何よりも大切な存在だ。助けを求められたらすぐに駆けつけるし、できる事なら実里の苦しみを代わりに背負いたい。
だけど現実的には不可能で、マジックをしてほんの少しだけ喜ばせるのが限界だった。それがとても悔しくてもどかしい……また学校に通える日は来るのかな?
「2人とも〜 まだ起きてる? そろそろ寝たほうがいいわよ〜」
1階から天音さんの声が聞こえてくる。夢中になってマジックをしていたせいで、時計の針はもう11時を過ぎていた。
「ねぇ、恵ちゃん、せっかくだから一緒に寝よ」
「えっ、いいの?」
「もちろん! 私のベットは広いから」
「じゃぁ……お言葉に甘えて……」
私は玲奈ちゃんの誘いを受けてベットの中に潜り込んだ。こんな風に誰かと寝るのは久しぶりな気がする。
「ねぇ、恵ちゃん、もう少し近づいてもいいかな?」
「うん、大丈夫だよ」
玲奈ちゃんは体を寄せると、耳元で小さな声で話し始めた。
「恵ちゃん……私ね……恵ちゃんに会えて本当に良かったと思うの。こんなにも毎日が楽しいのは初めてだよ」
玲奈ちゃんは私の見つめて優しく微笑む。
「私……今までずっと1人だったの。戦う時も1人だし、学校でも1人ぼっちだったの。だから恵ちゃんが友達になってくれて凄く嬉しかったよ」
「玲奈ちゃん……」
私はそっと背中に腕を回すと、ささやくように優しく名前を呼んだ。
「これからは私も魔法少女として戦うよ。もう1人じゃないから無理はしないでね」
「うん、ありがとね」
私たちは互いに体を寄せると、ギュッと力を入れて抱きしめ合った。石鹸のいい香りに包まれて、玲奈ちゃんの吐息が私の頬を優しくなでる。
体が密着した事で鼓動が共鳴して心地よいリズムを刻む。私たちはまるで大切なものを愛でる様な目で互いの顔を見つめ合った。
「明日から頑張ろうね、恵ちゃん」
「うん、一緒に頑張ろうね」
絡める様に手を繋いで微笑むと、明日に備えて眠りについた。そんな2人の様子をミトが見守るように眺めていた。
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次回も18時頃に投稿します。




