9話 町外れのカフェテリア
「恵ちゃ〜ん、遊びに来たよ〜」
「は〜い、今行くね〜」
今日は土曜日で学校はお休み。そこで2人でお出かけるをする事になっていた。
「ごめん、お待たせ」
玄関に向かうと、私服姿の玲奈ちゃんが待っていた。ショートパンツにパーカーを羽織ったコーデはとても似合っている。
「玲奈ちゃんの私服、可愛いね!」
「えっ、本当? ありがとう! 恵ちゃんのカーディガンも可愛いよ」
寒がりの私はシャツの上にフワフワのカーディガンを羽織り、ロングスカートの下にタイツを履いている。カイロも持っていくか悩んだが、流石にまだやめておいた。
「あれ? お姉ちゃん何処に行くの?」
玄関で靴を履き替えていると、妹の実里がひょっこりと顔を出した。
「あっ、実里ちゃんだ! こんにちわ」
「えっと……こんにちわ」
玲奈ちゃんは実里を見つけると、目線を合わせて頭を優しく撫でる。
「実里ちゃんは可愛いな〜 私もこんな妹が欲しかったなぁ〜」
玲奈ちゃんは小動物を可愛がる様に実里を抱きしめる。当の本人は少し引いていたが、諦めたのかされるがままになっていた。
「お姉ちゃんはお友達と少し出かけるの。多分夜ごはんまでには帰ってくると思うけど……」
昔から何をする時も私と実里は一緒だった。でも今日はそういう訳にはいかない……
「分かった。気をつけてね」
「うん、行ってきます」
私は実里に手を振って家を出た。でも決して遊びに行くわけではない。今日は魔法少女になるために天音さんの所に行く日だった。
* * *
「あれ? ここであってるの?」
玲奈ちゃんに連れてこられたのは町はずれの小さな喫茶店だった。
「さぁ、入って」
玲奈ちゃんの後に続いて中に入ると、コーヒーの香ばしい香りがしてきた。中はおしゃれなイラストや小物がセンスよく並べられており、静かなジャズが流れている。
しばらく中を見渡していると、エプロンを着た20代くらいの女性と目が合った。ブロンドヘアーがよく似合う品のある人。それが第一印象だった。
「あら、いらっしゃい。貴方が恵ちゃんね」
「えっと、はい、今日はよろしくお願いします」
「ふふっ、もしかして緊張してる? ほら、肩の力を抜いて。私の名前は天音。よろしくね」
エプロンを着た女性がのんびりとした口調で優しく微笑む。なんかもっと怖い感じの人を想像していたからホッとした。
「2人ともせっかくだからコーヒーを淹れてあげるね」
「「ありがとうございます!」」
お言葉に甘えて私たちはカウンターに座った。天音さんは慣れた手つきでコーヒー豆を測ると、細かく挽いてゆっくりと丁寧にお湯を注いでいく。
その姿はとても大人びていてかっこいい。ジィーっと見つめていると、いい匂いがしてきた。
「さぁ、どうぞ」
ピンクの可愛らしいカップに出来立てのコーヒーが注がれていく。
「「頂きます」」
私はそっとコップを口に近づけて一口飲んでみた。普段はミルクやお砂糖を入れるけど、天音さんが淹れてくれたのはとてもまろやかで一切渋みがなかった。
「おっ、美味しいです!」
「天音さん、今日も美味しいです!」
「よかった〜 お口に合ったみたいで」
天音さんはほっとした表情で胸を撫で下ろす。
「よかったら恵ちゃんも自分で淹れてみる? やり方は教えるよ」
「えっ、でも、私に出来ますか?」
うまく出来る自信がなくてためらっていると、玲奈ちゃんが2着のエプロンを持ってきた。
「恵ちゃん、私も手伝うから一緒にやろ!」
そう言ってくれるととても安心する。私はエプロンを借りると、天音さんに教わりながら淹れてみた。
豆の挽き方、温度、蒸らし時間、それらによって味が大きく変わってしまうため難しい。でも奥深くて面白い。
夢中になって練習をしていると、カラン、コロン、っと扉が開く音がして、60代くらいのおじいさんが席に座った。
「おや、今日は新しいマスターが淹れてくれるのかな?」
「あっ、いえ、私はただ体験でやってみただけで……」
「せっかくだから一杯貰えるかな?」
「えっ、でも……」
まだ素人の私が淹れても大丈夫なのだろうか? 助け船を求めて天音さんと玲奈ちゃんの方を振り返ると、「大丈夫。頑張って!」「恵ちゃんなら出来るよ!」っと励まされた。
とりあえず教わった通りに淹れてみたけど、これで大丈夫なのかな?
「どっ、どうぞお待たせしました……」
私はこぼさない様に慎重にコーヒーカップをカウンターに置いた。
「ありがとう、どれどれ頂くとしよう」
おじいさんは一口飲むと丁寧に味わって深く息を吐く。どうしようこれで不味かったら申し訳ない……
ドキドキしならが感想を待っていると、おじいさんがにっこりと微笑んで頷いた。
「うん、とても美味しいよ。マスターの優しさが伝わってくる。もう一杯いただけるかな?」
「はい! すぐに準備しますね!」
私はほっと息を吐くと新しいコーヒーを入れ始めた。その後も入れ替わりお客さんが入って来た。
皆んな楽しそうに会話をしながら私が淹れたコーヒーを飲んでいる。そんな光景を見ていると何だかこっちまで嬉しい気持ちになってきた。
「玲奈、そろそろお店を閉めたいから、外の電気を消してきて。あと鍵もお願い」
玲奈ちゃんはエプロンを外すと、表にで出て行く。昼ぐらいに来たのに気がつくと夕方になっていた。お店には私と天音さんの2人だけ。
「ねぇ、恵ちゃん、ちょっといいかな?」
天音さんは、まるでこのタイミングを狙っていたかのように私に話しかけてきた。
「ねぇ、恵ちゃんは本当に魔法少女になりたいの? これは遊びじゃないし最悪死ぬかもしれないよ?」
天音さんの口調はさっきまでとは違って本気だった。周りに緊張が走って自然と背筋がピンっと伸びる。
私は深く息を吐いて気持ちを落ち着かせると、手を握りしめて答えた。
「はい、ちゃんと理解しているつもりです。たとえ危険でも私は魔法少女になりたいです」
「ちなみに闇と戦った事はあるかしら?」
「えっと、直接戦った事はないです。玲奈ちゃんに守られてばかりだったので……」
私は唇を噛み締めると、天音さんの目を真っ直ぐ見つめた。
「だから、これからは玲奈ちゃんと一緒に戦いたいです! 玲奈ちゃんがもう1人で戦わないために……そして玲奈ちゃんの願いを叶えるために……私も戦います!」
きっと魔法少女は私が思っている以上に大変なはず。だからこそ友達として玲奈ちゃんを1人にしたくない!
「うん、いい覚悟ね。じゃあ明日から早速この辺の探索をしてもらおうかしら」
天音さんは私の話を聞いて深く頷くと、また穏やかな表情に戻っていた。
「ねぇ、何を話していたの?」
ちょうど外から帰ってきた玲奈ちゃんが私の隣に腰下ろす。
「ふふっ、玲奈は本当にいいお友達を見つけたわね」
「恵ちゃんのこと? いいでしょ〜! 私の大切な親友だよ!」
玲奈ちゃんは無邪気な顔で満面の笑みを見せる。そんな風に改めて言われると少しだけ恥ずかしい。でも凄く嬉しい!
「さてと、恵ちゃんは明日から早速魔法少女としてデビューしてもらうから……今日は家に泊まっていかない?」
天音さんがぽんっと手を叩いてそう提案する。
「えっと……ご迷惑じゃないですか?」
「大丈夫。今日は頑張って働いてくれたからご馳走を振る舞うわよ」
「じゃぁ……ちょっと親に確認してみますね」
私はスマホを取り出して母親に連絡を入れてみた。急だった事もあって少し驚いていたけど、問題なく許可が降りた。
「えっと……大丈夫そうです」
「本当? やった〜! じゃあ今日は一緒の部屋で寝よ!」
玲奈ちゃんは私の手を繋ぐと、子どもの様にぴょんぴょんと飛び跳ねた。
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次回も18時頃に投稿します。




