8話 天才マジシャンの弟子入り
「お疲れ様、大丈夫だったかい玲奈?」
無事に闇を倒して元の場所に戻ってくると、ミトがぴょんっと飛び付いて来た。
「うん、平気だよ」
玲奈は静かに眠っている女の子にそっと手を伸ばした。女の子の中から禍々し闇の塊が浮き上がってくる。
「これがこの子の抱えていた闇なんだよね……」
「そうみたいだね」
「ねぇ、どうしてこんなに酷い事になったのかな?」
「う〜ん、他者との比較で生まれた劣等感や嫉妬、さらに妬みなどは闇を生み出すんだよ」
「もっと自分に自信を持てば良いのに……どうしたら自分の事を認めてあげられるのかな?」
玲奈は闇を浄化するために、そっと触れ自分の中に取り込んだ。その瞬間、激しい憎悪が体の中を走り回る。
「なっ……何これ、胸が苦しい……」
嫉妬や劣等感など、負の感情が玲奈の体を蝕んでいく。
「玲奈! しっかりするんだ!」
あまりの苦しさに玲奈はその場に倒れてうずくまった。ミトが小さな前足で玲奈の肩を優しくさする。
「大丈夫……心配しないで……」
見えない蟲に全身を舐め回されるような嫌悪感がする。これがあの子の抱えていた闇……なんて恐ろしいの……
「玲奈……今日はもう帰ろう。この女の子も直に目を覚ますはずさ」
「うん……分かった……」
玲奈は傷ついた体と心を引きずりながら施設に戻った。時刻はとっくに門限を過ぎている。これは帰ったら怒られるだろうなぁ……
* * *
魔法使いになって1年近くが経過した。闇との戦いはますます激しくなっていく。それに学校生活との両立は大変で、授業中も抜け出す事が増えてきた。
「すみません、ちょっと保健室に行ってきます」
「なんだ、またか、一度病院で検査してきたらどうだ?」
玲奈はそっと手を上げると席を立った。先生は呆れた顔で見送る。クラスメイトも玲奈の行動に不信感を抱くようになっていた。
「ねぇ、また玲奈さん授業を抜け出したよ。サボっているのかな?」
「さぁ〜 あの子が何を考えてるのか分かんないよ」
ヒソヒソと私の話をする生徒の声が聞こえてくる。まぁ、仕方ないよね……授業中に突然抜け出すし、部活に入っていないのは私くらいだもんね……
だんだんと孤立した玲奈には、もう友達と呼べる子が1人も残っていなかった。
それでも戦い続けなければいけない。私は強いから闇に苦しむ人たちを助けないといけない。お婆ちゃんとの約束を守ためにも私は負けられない!
「玲奈、流石にに授業を抜け出すのは良くないよ……それにこれ以上不審に思われたら君の立場が……」
ミトが心配そうな表情で忠告するが、玲奈はいつも通りの笑顔を見せる。
「大丈夫、平気だよ。ほら、早く行くよ!」
玲奈は学校を飛びだすと、今日も闇を倒しに街中を駆け回った。
* * *
「ふぅ〜 これで今日もこの街の平和は保たれたね」
いつも通り闇を倒すと、玲奈は古びた公園のベンチに座ってひと休憩をした。
全てはこの公園から始まった。あれからもう1年近くが経過したと思うと、時間の流れが早く感じる。
「あら、玲奈ちゃんかしら? 久しぶりね」
ぼんやりとこれまでの事を思い返していると、のんびりとした口調で誰かに呼ばれた。顔を上げると天音と目が合った。
「あっ、お久しぶりです! 天音さん」
「この街も少し見ない間に平和になったわね〜 これも玲奈ちゃんの活躍だね」
「ありがとうございます……でも、私なんてまだまだです。最近は人の心から生まれる闇が強くて苦戦していて……」
玲奈は両手を握り締めると、疑問に思っていたことを思い切って尋ねてみた。
「天音さん……どうしたら人の心から闇は無くなるのですか?」
「そうね……なかなか難しい質問ね……」
天音は腕を組むと、う〜んっと唸り込んだ。
「あの、これは私の個人的な考えなんですが……」
玲奈はそう前置きすると、これまで戦ってきた事を思い出しながら話し始めた。
「人の心の闇は、誰かと比較する事で生まれるんだと思います。だからありのままの自分を認めてあげたら闇は減ると思います!」
以前戦ったあの女の子は他人と自分を比べて苦しんでいた。でもあの子にだって必ず良いところがあるはず。それに気づいてさえいればあんな事にはならずに済んだのに……
「なるほど、なかなか面白いね。じゃあその願いを叶えられる様にもっと頑張ってみたら?」
「願いを叶える?」
天音は鞄からジョーカーのトランプを取り出して空に掲げた。
「そう、玲奈ちゃんの他にもね魔法を使える少女がいるの。その中でも一番優秀な少女には特別に私が願いを叶えてあげようと思うの」
「そんな事が出来るのですか!?」
「えぇ、可能よ。このジョーカーを使ってね」
死神をモチーフにしたジョーカーと一瞬目が合ったような気がして鳥肌が立つ。なんだか嫌な感じがする。でも本当に願いが叶うならそれは凄い!
「まぁ、それ相応の代償もあるからそう簡単には行かないけどね……でも、玲奈ちゃんの願いは素敵だと思うよ」
天音はジョーカーをしまうと「話は変わるけど……」っと言って話題を玲奈の事に変えた。
「最近学校はどう? 色々と大変でしょ?」
「そうですね……正直かなり大変です。施設の門限もあるので苦労しています」
「施設?」
「実は私、孤児なんです。だから施設に引き取られてそこで生活をしていて……」
「そうだったの……」
天音は腕を組んでしばらく唸ると、突然ポンっと手を叩いた。
「ねぇ、玲奈ちゃん、よかったら私と一緒に来ない? そしたら、闇との戦いを近くでフォロー出来るし生活は私が保証するわ。どうかしら?」
「えっ、それってつまり……天音さんが私を引き取るって事ですか?」
「そうよ」
「えっと……今よりも闇を倒したら私の願いは叶いますか?」
「こればっかりは貴方の頑張り次第ね。でも確実に願いに一歩近づくわよ」
天音はいつも通りのんびりとした口調でそう答えた。願いを叶えるには一番優秀な魔法使いにならないといけない。それは確かに大変な事だと思う。でも、頑張る価値はある!
「分かりました。ついて行きます!」
玲奈はその日のうちに自分の荷物をまとめると、施設の人にこれまでお世話になった感謝を伝えた。
後日、天音と共に新しい街に向かった。そして恵に出会って玲奈の新しい学校生活が始まった。
* * *
「そんな大変な事があったんだね……」
私は話を聞きながら自分の手を玲奈ちゃんの手に重ねていた。先に距離を詰めたのはどちらだろう? 絡める様に手を繋ぎ、2人の距離は肩が触れ合うくらいピタッとくっ付いていた。
「ずっと1人で怖かったよね? 大丈夫だよ。これから私も隣で一緒に戦うからね」
私は玲奈ちゃんの背中に腕を回すと、優しく包み込むように抱きしめた。玲奈ちゃんも私にしがみつく。
「ありがとう恵ちゃん……ごめん、もう少しだけこのままでいさせて……」
これまで誰にもいえなかった想いが一気に爆発したのかな? 玲奈ちゃんは私の胸に顔を埋めると、子供のように泣き崩れた。
戦っている時は大きく見えた背中も、こうして抱きしめると小さく感じる。
すっかり忘れかけていたけど、玲奈ちゃんだってまだ私と同じ中学2年生なんだ。それなのに凄いなぁ……
「ありがとね……こんな風に相談が出来たのは恵ちゃんが初めてだよ」
「ふふっ、友達は助け合うものでしょ?」
玲奈ちゃんは涙を拭いて頷くと、ニコッと笑みを浮かべる。もう、その表情には悲しみが混じっていなかった。
「マジックの時もそうだったけど……恵ちゃんは誰かを笑顔にするプロだね!」
「まぁ、天才マジシャンだからね」
「それ、自分で言う?」
私は冗談ぽく答えると、何だかおかしくて2人でクスクスと笑い合った。
「ねぇ、玲奈ちゃん、お願いがあるの。私を弟子にして! それで戦い方を教えて」
「もちろん! 一緒に頑張ろうね!」
「うん!」
マジックにおける偶然は必然であり、そうなる様に仕向けてある。もしかしたら私がこうなる事も最初から決まっていたのかもしれない……
この日、天才マジシャンは魔法少女に弟子入りした。
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次回も18時頃に投稿します。




