7話 玲奈の過去編②
魔法使いになって1ヶ月が経過した。施設と学校を行き来しつつ、闇と戦うのはハードな生活だけど、誰かの役にたてるのは嬉しかった。
「スペードのカードは騎士の証。その剣で全てを切り裂け!」
カードから飛び出したスペードのマークが玲奈の体を包み込む。そして1人の戦士が立っていた。
オレンジ色のスカートに白シャツを合わせ、タケシード風の黒いジャケットを羽織っている。そして左目にスペードのマークを宿していた。
「これで終わり!」
玲奈は剣を強く握りしめると、高くジャンプをして標的の頭に振り下ろした。
ガツンっと確かな衝撃が伝わる。それは敵を倒す確かな一撃だったが、反動も大きかった。
肩に電気が走ったような鋭い痛みを感じる。もしかして筋を痛めちゃったかな?
「玲奈、お疲れ様。だいぶ慣れてきたみたいだね」
闇を倒して元の場所に戻ってくると、ミトがぴょんっと飛び付いて来た。
「ありがとう。この調子でどんどん行くよ!」
「凄いやる気だね。でも少しは休憩をしたらどうだい?」
「大丈夫だよ。だって私、強いから!」
玲奈は肩の痛みを悟られないようにミトに笑顔を見せると、次の闇を探しに向かった。
* * *
魔法を使い始めて3ヶ月ほど経過した。戦いはいつも危険で怪我をする事もよくある。今日だって太ももと右頬に強打をくらい、酷いあざが出来ていた。
でも不思議な事に一晩寝れば回復する。これも魔法の力の1つかな?
「ねぇ、ミト、今日の闇は何処にいるの?」
学校が終わり今日も闇を探しに行こうとしたが、ミトはあまり乗り気ではなさそうだ。
「玲奈、流石に今日は休んだ方がいい。昨日の傷がまだ回復しきってないはずだ」
「大丈夫だってこれくらい! また寝れば治るでしょ?」
「………」
「ほら、早く教えて。じゃないとまた門限を超えて怒られちゃうでしょ?」
「分かったよ……でも無理だと思ったらすぐに逃げるんだよ」
「うん、分かった約束する」
正直、逃げるつもりはないけど形だけの約束を交わした。そうしないと案内してくれない気がして……
「今日の敵は強敵だよ。今までは動物や建造物に宿る闇だったけど、今回は人の心に宿った闇なんだ。だから無理だけはしないでほしい」
ミトは念入りに忠告をすると、少し離れた中学校に案内してくれた。
* * *
「もう嫌だ、死んでしまいたい……」
とある学校の屋上で、少女が手すりをまたいで地面を見下ろしていた。
思い返せば私の人生は最悪だった。勉強はできないし運動も苦手。おまけに可愛くないから誰にも必要とされていない。
どうしてもっと早く死のうとしなかったのか? 何故今日まで生きていたのか不思議なくらいだ……
「これでやっと終わりにできる……」
少女は空に向かって一歩を踏み出した。自由に空を飛べる鳥とは違い、翼のない少女は地面に吸い込まれるように落ちていった。
* * *
「玲奈、屋上から誰かが飛び降りたよ!」
「分かってる。任せて!」
玲奈は素早く合言葉を唱えて変身をすると、空中で少女を捕まえて地面に寝かせた。女の子はうなされながら眠っている。
「ねぇ、ミト、今回のターゲットて……」
「うん、この子の中に眠る闇だよ」
少し目を離してミトと話をしていると、女の子の周りに不気味な闇が漂い始めた。
「準備はいいかい?」
「もちろん!」
玲奈は覚悟を決めると、女の子が抱える闇の中にダイブした。
* * *
(あれ? ここは……教室だよね?)
机に黒板。それから同い年くらいの生徒が授業を受けていた。その中にさっき屋上から飛び降りた女の子もいる。
「はい、じゃぁ……この問題を解いてくれ」
先生に当てられてさっきの少女がゆっくりと黒板の方に向かう。でもチョークを握ったまま動かない。
「どうしたんだ? 早く答えるんだ」
「すみません、分かりません……」
女の子は声は、今にも消え入りそうなくらい小さくて怯えていた。
「なんだ、こんな問題も分からないのか。しょうがない、誰か他に分かるやつはいるか?」
教室中にクスクスと笑い声が響く。女の子は唇を噛み締めると、俯いたまま自分の机に戻って行った。
* * *
(あれ? 私、いつの間に外に出たのかな?)
さっきまで教室にいたはずなのに次はグランドに来ていた。
「位置について、よ〜いドン!」
ピストルの音と共に一斉に生徒が走り出す。その中にさっきの女の子もいた。
「行け〜!」
「負けるな〜!」
周りで見ている生徒たちが一斉にエールを送る。皆んな接戦でいい勝負だった。でも、さっきの女の子が壮大に転んでしまった。
「ちょっと、何してるのあの子?」
「なんであそこで転けるんだよ!」
周りで見ていた生徒が一斉にブーイングをする。転んだ拍子に女の子の膝から血が溢れていた。それでも懸命に走ってバトンを繋ぐと、涙を堪えて俯いていた。
* * *
(あれ? 暗くなってる……)
気がつくと日は暮れていた。薄暗いグランドから屋上を見上げると、さっきの少女が手すりを跨いで飛び降りようとしていた。
「ねぇ、危ないよ! 何してるの!」
必死に呼びかけてみたが女の子には届かない……
「もう嫌だ、死んでしまいたい……」
女の子は屋上から飛び降りると地面に吸い込まれるように落ちていった。
「だめ! 死んじゃだめだよ!」
何とかキャッチしようと落下地点に向かったが、それよりも先に闇が女の子を包み込んでしまった。
「どうして、どうして! いつも私は落ちこぼれなの!」
女の子の悲痛な叫び声と共に闇が侵食していく。そして巨大な醜いヘドロの塊となって玲奈に襲いかかってきた。
* * *
「はぁ……はぁ……はぁ……強い……」
突然現れたヘドロはこれまでの闇とは桁違いの強敵だった。地面にこべりつくヘドロが足に絡まって上手く走れない。その隙をつかれて何度も攻撃をくらってしまった……
「私なんてどうせ何をやってもダメなんだ!」
巨大なヘドロの拳が怪我をしていた所に直撃する。
「あぐっ……ぐっ……こっこんなの痛くないっ!」
自分にいい聞かせるように呟いて立ち上がったが、ヘドロの猛攻は止まらない。必死に攻撃を避けながら近づいて行ったが……
「あっ、しまった!」
足元のヘドロに滑って体勢を崩してしまった。その隙をつくように巨大なヘドロが玲奈を捕まえる。
「ちょっ、やめて……きゃあぁぁ──ッ!!!」
巨大なヘドロに締め付けられて全身の骨が折れそうな激痛が走る。
「私なんて、どうせ誰からも必要とされない!」
ヘドロがさらに力を込めて玲奈を締め付けた。ミシミシと体から嫌な音がする。痛い……苦しい……
「お願い……聞いて……この世界に必要のない人なんて1人もいないんだよ!」
ヘドロは玲奈の顔をギロリと睨むと、フェンスに向かって乱暴に投げ捨てた。
「っ……‼︎ 痛った……」
フラフラと剣を杖にして立ちあがろうとしたが、体から力が抜けてペタンっと座り込んでしまった。ヘドロの塊がゆっくりと玲奈の方に近づいてくる。
「私なんてどうせ……私なんて!」
「そんな風に自分を悪く言わないで! あなたにだってきっと良いところはあるはずよ!」
玲奈は歯を食いしばると、全身の痛みに耐えながら懸命に訴えた。
「確かに上には上がいるし、すごい人は沢山いるよ。でも、それを比べて何になるの? もっと自分の事を認めてあげてよ!」
一瞬だけヘドロが動きを止めて玲奈のことを見下ろす。
「自分があの人よりも劣っているとか、負けているとか、そんな事を知って何になるの? 誰にだって良い所は絶対にあるんだよ! ちゃんと気づいてあげてよ!」
ヘドロは完全に動きを止めると、溶けるように崩れていった。そして1人の女の子が現れた。
「こんな私にも本当に良いところはあるの?」
女の子は今にも泣き出しそうなくらい苦しそうな表情で顔を歪ませる。
「大丈夫。きっと見つかるよ」
玲奈は剣をしまうと、両手を広げて抱きしめた。女の子も玲奈の背中に腕を回すと、子どものように泣き崩れて消滅した。
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次回も18頃に投稿します。




