岩井 咲3
私は疲れきった状態でナースステーションに戻った。
「遅かったのね?」
看護主任の浜田さんにさっそくの嫌味を言われる。
「申し訳ございません。
患者さんのご家族の方といろいろありまして‥」
嘘はつきたくないので正直に伝える。
「はぁ?
ご家族さんと揉めたの?
ちょっと大丈夫なの?」
看護師が問題を起こすと自分の責任問題になるので、急に慌てだす浜田さん。
「それが‥」
野良ナースの事を伝えて良いのか躊躇してしまう。
その様子を見て浜田さんが動く。
「ちょっと私が行きます。」
浜田さんがあの603号室に向かうと言い出した。
私はあの光景を見せては駄目だと慌てた。
浜田さんを阻止しようと追いかけるが、無駄に足の速い浜田さんには追いつかなかった。
私が603号室に着いた頃には浜田さんは部屋の中にいた。
私は何か言われると思いながら603号室の中に入る。
するとそこには患者さんの横にちょこんと、しおらしく座る制服姿の女子高校生がいるのであった。
「あれ?
野良ナースは?
ミニスカナースは?」
思わず考えたことが口から漏れる。
「はぁ?
野良?ミニスカ?
ちょっと、岩井さん大丈夫?」
部下に優しくない浜田さんに心配されてしまう。
「あっ、弟がお世話になっています。」
先程の自信に満ち溢れる顔ではなく、少し恥ずかしそうにする美少女がいた。
誰だよ!!
思わず心の中で突っ込んでしまう。
「あらあら、しっかりしたお姉ちゃんね。」
単細胞の浜田が騙されていた。
まさかあの短時間で着替えたのか??
いや、さすがに無理じゃねえ?
狐につままれたような気分になった。
本当に夢でも見ていたのかと思ってしまう。
ニヤ
私と目が合った瞬間、猫をかぶる野良ナースが一瞬だけ笑いやがった。
あれは絶対にわざとだ。
私は野良ナースに怒りを覚える。
* * * *
「しっかりしたお姉さんね。」
ナースステーションに戻ってからも浜田はベタ褒めだ。
私だってあんなに褒められたことないのに‥。野良ナースに嫉妬するのであった。
ムカついたので話題を変えることにする。
「そういえば、そろそろ面会時間終わりますね。
先程のお姉さんには帰ってもらいましょうか?」
この病院は面会時間をそこまで守っていないが、少しだけ意地悪したくなって早めに追い出そうとする。
「あっ
さきっき連絡があって、お姉さんは付き添いで泊まるって。」
浜田が驚くような事を口にする。
「え?
彼女がですか?
確か未成年の付き添いは禁止でしたよね?
何で許可がおりてるのですか?
おかしいですよ。」
私は浜田に詰め寄る。
「ちょっと怖いって。
理由は知らないけど、看護部長が良いと言っているから良いのよ。」
長い物には巻かれるタイプの浜田は従順だった。
私は実の弟にキスする光景を思い出して、泊まりで何をしでかすのかと不安になるのであった。




