責任
女子社員の言葉に社長は完全にキレてしまっていた。
ただこのご時世。
机を叩いて怒鳴るような真似はしない。
「ふぅ〜。
なるほど‥。」
怒りをコントロールしようと一息ついたようだ。
「3部屋借りて欲しいと頼んだら、マンション自体を買い取ったと‥。
なるほど‥」
あえて考えている事を口に出して、冷静になろうとしている社長。
「とりあえず状況はわかった。
ありがとう、助かったよ。
この後は彼が引き継ぐから、君は自分の仕事に戻ってくれ。」
社長は女子社員を部屋から追い払おうとしている。
ヤバい。
絶対、俺怒られるヤツじゃん。
「わかりました。
では。」
女子社員は軽く頭を下げると部屋から出て行ってしまう。
俺は女子社員を目で追ってしまう。
ポンッ
気がついたら社長は立ち上がって、俺の肩に手を置いていた。
「詳しく聞こうか。」
それはもう、鳥肌が立つほど恐ろしい声色だった。
* * * *
「なるほど‥
大事な案件だったので君にお願いしたのだが‥
まさか他の人間にそれを振るとは‥」
「申し訳ございません。」
もう謝るしかない。
「ハハハハハ
私の指示が悪かったのかな。
100万歩譲って、マンションを買い取るのは良しとしよう。
まさか住民を追い出そうとするとは‥
いやいや、やってくれるね?」
うわぁ〜、完全に怒ってる。
「全て、私の責任です。
申し訳ございません。」
ここは下手な言い訳はしない方が良さそうだ。
「‥‥‥‥
では、君に責任を取ってもらうよ。」
社長の言葉に頷くしか出来なかった。
* * * *
「管理会社から電話があったの‥」
母が家族で朝食中に話を始めた。
確か、私達が退去させられる話だ。
思わず、食べるのをとめる。
「なんか、退去の話は手違いがあったみたい。で、出て行かなくていいって。」
母の言葉にホッとする。
「しかも、迷惑かけたから家賃を安くしてくれるって!
もう、助かるわ。」
朝から母のテンションが高くなっていた。
ヨシ、それなら後は部屋を借りるだけ。
「それと、なんかコンシェルジュが2人来るらしいの。
男性と若い女性だって。」
既に脳内でいろいろ今後について考えていたので、母の言葉を聞き流していたのであった。