ただ許しただけ
みんな性格悪いです。ご注意を
婚約者の元に最近女性の影があると言う報告が影によってもたらされた。そして、そう間もない間にこの国に憂いを感じたのか報告してくれる方々やその当人からも。
「どうやら、男爵家の庶子で、珍しく僕のところにハニトラに来るんだよね。僕の事知っているのかなと確認したらもちろんだっていうからじゃあいいかなと思って」
面白い子だねとほえほえと話をする。婚約者はその女性に関して特に特別な思い入れもないような口調なので逆に頭が痛くなる。
「それは本当に知っているのですか?」
念のための確認。
「さあ?」
どっちでもいい。いや、知らないのならその方が面白そうだと笑う様は性質が悪いと思いつつも、大義のためにはその方が都合がいいと思ってしまうのでそれ以上口にしない。
本当に可哀そうにいっそ知りませんと常識知らずに振舞っていた方が解放されたかもしれないのに。
「その女性――メリカ・ルゼッタ嬢ですか。貴方の寵愛があると騒いでいるので何とかしてほしいと話があるのですが」
わざわざ忙しいわたくしに告げに来る方々の心労を思うと正直に告げた方がいいのかもしれないと思うが、一部の王族にしか知らされていない事を教えてあげる事も出来ないので申し訳なく思う。
申し訳なく思える時点でまだまだ自分には覚悟とか重荷とかすべき事をするためならば悪を悪と知りながらも進む強さが足りないのだなと猛省する。
「すごいね。ジョアンヌの元にわざわざ来るなんて……男性? 女性?」
逆にどこまでもその覚悟を持ちながら育ち、割り切っている彼はそんなこちらの心中を察しながらもどこかピントのずれた事を発する。
「どちらもですね」
いや、もしかしたら純粋に感心しているのかもしれない、そんな些細な事が国の危機だと思えて進言しないといけないと思うのだからと妙な事を考えているような態度である。現王陛下の第一子のアーチボルトにジョアンヌが溜息を吐く。
「じゃあ、その為人を調べて、使える人材だったら側近にしたら」
のほほんとした口調だが、王族の………現王の息子として教育されて来たからゆえに判断が早く的確だ。
「だって、わざわざ君のところに来るんだし」
すごいよね。と言われれば確かにと同意する。
「まあ、言っている内容はともかく。わざわざわたくしのところに来られますからね」
勘違いもいいところだが。そのわざわざ来ると言う事を褒めてもいいだろう。
「男性で相性も良さそうなら侍らせてもいいし」
あっさりと。あっさりと告げられて。
「いいのですか………?」
と確認してしまう。
「うん? いいよ。だって、僕は王族で現王の息子だからね。王族の重要さも君の夫になると言う立場の意味も理解しているからね」
逆に君に負担ばかりかけている事が申し訳なく思えるからね。
「まあ、したくないのなら強制はしないだろうよ。そういうのはどっちかと言えば男性の方が負担が少ないしね」
「…………そうですね。義務だと理解はしていますが、受け入れられませんね」
必要だと思っているのだが、躊躇ってしまう。
「だから、僕がすればいいよ。適材適所。適材適所」
気にしなくていいよと告げて、すぐに表情を改める。
「僕が耐えれたらよかったけどね………」
そうすれば苦しまなくて済むのにと謝罪されるが。
「それこそ相性ですから」
仕方ないと言う言葉を言う事は許されないがそれこそ仕方ないのだ。
アーチボルトは無理だった。
ジョアンヌは大丈夫だった。
「アーチボルト」
「んっ?」
名を呼ぶ。
「貴方にとって不本意かもしれないが、王族の務めです。かのご令嬢がいいのならそばにおいてもいいが」
どうしますかと確認すると。
「さっきも言ったよ適材適所。だって」
「アーチボルト」
ただ名前を呼ぶ。笑っていた顔が一瞬真顔になり。
「………そろそろ血を薄めないとね。それが僕の役目だから」
王族の義務だしとすぐに真顔だったのを消し去る。
「と言う事で、都合がいいので」
かの令嬢が勘違いしているうちに逃がさないようにしないと。
そう微笑むアーチボルトを見て、本当に残念だと思う。
――彼が即位すればより国がよくなると思えたのに。
「どういう事なのよ!!」
しばらくして怒鳴り込んでくるのは、メリカ・ルゼッタ嬢。
「なんで、あたしが、王配の愛人になるのよっ!! アーチボルト様が即位するんでしょう!!」
とぼろぼろになったドレスを着て、山奥まで文句を言いに来るメリカ・ルゼッタ嬢にますますいい人材だなと評価を上げる。
「そのままの意味ですよ。わたくしが次期王なので」
持っていた木刀を部下に預けて汗を拭く。
「なんでよっ!! あんたみたいにずっと剣を振っている女よりもアーチボルト様の方が……」
「一部の王族しか知らない決まりがあるから説明できないが、我が国では王族がある試練を達成しないと次期王に選ばれない」
王家の血が流れていれば誰でも資格はある。歴史を紐解けば我が国は世襲制じゃないと言うのに気付けるのだが、それを知らない輩は多い。
まあ、そういう輩がいるからこそ利用しがいがあるとアーチボルトは告げるのだが。
「アーチボルトが確認したでしょう。自分の立場を知っているかと」
「そ…それは……王様の息子で跡取りじゃないと言うのは……」
やはり知らなかったのか。まあ、それに気づいていて利用するつもりだったから訂正しなかったのだが。
「アーチボルトはわたくしの夫になるのですが、王族は近親婚をし続けてきたので王族の数が減っています。だからこそ、血が濃いアーチボルトは愛人を持って王族の血を薄めて数を増やす義務があり、わたくしとの子供も儲ける必要もあります」
わたくしとアーチボルトの間に子供を作るのは前提だが、わたくしとアーチボルトの子供が次期王になる可能性は低い。いまだ血統にこだわる輩がいるから、わたくしというか王族はたくさん子供を作る義務が生じるのだがわたくしが不特定多数の男性を囲む事が精神的に負担だと伝えたのでアーチボルトは自身が王配になると立候補してくれた。
王族の血統で言えばアーチボルトの方が濃いので、アーチボルトが子供を作る方が理に適っていると。
王族の血は濃すぎても薄すぎてもいけないからその調整を行うと彼は自らに課したのだ。
「メリカ・ルゼッタ嬢が受け入れてくれて助かりました。王配の愛人など日陰者になる前提の立場を受け入れてくれる貴族はおりませんし、かといって庶民を愛人にするとそれだけで騒ぐ輩もいますから」
困っていたのでと告げるとわなわなと怒りで震えている様が見える。
怒るのは当然だろう。だが、
「僕の立場を理解して何でも受け入れてくれると頷いてくれたよね。――嘘だったの」
実はずっと傍にいたアーチボルトが口を挟む。
「ア…アーチボルト様」
「王配という不遇な立場になる僕を慰めてくれるんだよね」
絶対不遇だと思っていないのだろうが、彼女は気付いていない。
戸惑い、騙されて慰めようとしている隙にアーチボルトの部下が現れて彼女を用意した屋敷に連れて行く。
「良心が痛む?」
アーチボルトが攫われていく彼女をじっと見つめているこちらに気付いて声を掛ける。
「――当然です」
わたくしが出来なかったから彼女は犠牲になるのだ。
「大丈夫だよ。彼女。今はやりの悪役令嬢物の話を読み漁って、ジョアンヌを悪役令嬢に仕立て上げての玉の輿を狙っていたから。ちなみに家族はそんな彼女の行いに困り果てていた」
特に夫の浮気でできた子供を育ててきた夫人は。
「継母に虐められている健気な娘という態で近付いてきたからね。実際はそうじゃないけど」
だから良心を痛める必要が無いと笑う様を見て。
「王族としてはそういう考えが必要なんでしょうね」
「でも、勇者の末裔としては失格でしょう」
ジョアンヌの呟きを拾ってアーチボルトは答える。
「さて、進言してきた子たちは使い物になりそう?」
いつかの時。魔王が復活したら共に戦える仲間として。勇者の修業として、山奥に籠っていた自分の元にわざわざ進言に来るほどの根気と体力があるのだから。
「5割ですかね。甘く見て」
「じゃあ、厳しめに言えば3割かな。使い物になりそうなら後で回して。こっちでも育てるから」
と勇者の資質があるジョアンヌの王配はそう告げて、彼女の足りないものを支えるために悪を躊躇うことなく行うのだった。
ちなみにジョアンヌとアーチボルトは恋愛はあります。浮気前提の恋愛ですけど。