10.旅の終わりとこぼれ話三種盛り
東京行きやまびこ144号の発車時刻が迫ってきて、一行はホームに移動した。やまびこは既にホームでスタンバイしていた。乗り込んでしまえば、あとは東京まであっという間だ。
来た時と同じように本田は大宮で降りた。同じように大宮から乗ってきた純子は上野まで行くという。東京から出発した博子も帰りは上野で降りた。車内には梶浦と柳瀬だけが取り残された。そして、二人で終点の東京までやって来た。
「じゃあ、僕は一服していくので」
そう告げて梶浦は柳瀬と別れ、喫煙所へ向かった。
新幹線から降りるときに博子はまたみんなで再会できるようにと声を掛けた。
「真崎亭、いつでもいいから来てください」
「はい。今度は必ず伺います」
旅行前の打ち合わせに行けなかった純子も再会を楽しみに別れを告げた。また近々再開する日が訪れるだろう。それを楽しみに博子の年女を祝う温泉旅行は無事に終えることが出来た。
*******************
さて、最後に本編では綴られなかったこぼれ話をいくつか紹介しよう。
《その1》 朝のさいちにて。
博子はおはぎを買って、もう一つのお目当てである“おつまみ牛タン”があるレジ前へ移動した。すると、列には並んでいなかったはず梶浦の姿を見かけた。梶浦はホテルで家族への土産に牛タンをたんまり買ったはずだ。それなのにまだ牛タンを買うつもりなのか…。
「まだ牛タン見てるの?」
そう声を掛けた。
「ん? まあ…」
そう答えた声の主を見て博子は冷や汗をかきそうになった。そこに居たのは梶浦ではなくて、まったく別の人物だった。博子は引き攣った笑顔でその場をやり過ごし、レジに向かった。
《その2》 行きの新幹線にて
電車旅では車内で一杯やるのも楽しみの一つだ。待ち合わせ時間より早めに東京駅へ行った。梶浦はつまみの定番“国技館焼き鳥”と地階グランスタで6個入りのシュウマイを購入していた。博子も柳瀬もそれぞれつまみを用意してきていた。
「これ、食べませんか?」
柳瀬が差し出したのは“あたりめ”だった。酒のつまみには最高の品だ。
「ありがとう。頂きます」
1つ手に取って口に入れる。
「硬っ!」
そもそも、あたりめとはそういうものなのだけれど、これはちょっと硬すぎだ。多分買った本人もこんなに硬いとは思わなかったのではないだろうか。そして、残ったものをホテルでの部屋飲みで再び取り出した。つまんだ全員が口を揃えた。
「硬っ!」
後日、柳瀬からのライン。
『あのスルメのせいで歯が欠けてしまって、現在治療中です』
《その3》
秋田に戻った小野寺は車での長旅の疲れも見せず、愛犬たちと戯れていた。そこにグループラインへの着信が入った。これまでにも旅行に行ったメンバーから帰宅の報告などが度々入っていた。今回もそのたぐいだろうとラインを開いてみた。発進したのは梶浦だった。梶浦から発信されたラインの内容はちょっと違うものだった。帰宅の報告は同じだったのだけれど、問題はその後だ。
『せっかく買ってもらったおはぎを小野っちゃんの車に忘れてきてしまいました。』
小野寺は驚いてすぐに返信した。
『えっ? 梶浦さん「おはぎ」を忘れたんですか? 車の中をまだ点検してなかった! 他にも無いか見てみますね』
小野寺はすぐに車を見に行った。すると、後部座席三列目のドアポケットの上にレジ袋で包まれたおはぎが取り残されていた。
「あちゃー」
他に忘れ物が無いか改めて点検する。幸い他の忘れ物は無かった。
「しかし、こりゃあヤベエな!俺が貰ったのもあるから、おはぎがやたらといっぱいになったぞ。けど、まあ、もったいないからいただきますか」
*******************
最後にとんだオチが待っていたけれど、楽しい旅行でした。
最後までありがとうございました。




