表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

「システマチック?どういうことです?」


 佐羽島(さばしま)君の疑問はもっともだろう。言ってる俺にも確信はない。


「あー、その説明の前にちょっと確認しておきたいんですけど。原多木(はらたき)さん、靖川(やすかわ)さん、佐羽島(さばしま)君、俺。この4人の中であのダンベルを使用した際の怪我が一番重傷だったのは原多木さん、ってことで間違いないですか?靖川さんと佐羽島君の怪我はどの程度?」

「?ええ、そうです。僕の聞いた限りでは原多木さんが一番重傷で、靖川さんと僕は1~2週間湿布を貼った程度です。錫木(すずき)さんもそのくらいでしたよね」


 以前に佐羽島君に話を聞いたときは、あの黄金ダンベルで『原多木さんが全治1ヶ月以上かかる重傷を負った』ということを聞いていたが、靖川さんと佐羽島君の怪我の程度をはっきり聞いていなかった。


「で、そのときの原多木さんのトレーニングはサイドレイズでしたね?」

「はい、そう聞いていますが。それが何か?」

「サンプル数が少なすぎるんで断言はできませんが。あの黄金ダンベルですけど、『加速度の増大に伴って質量も増大する』性質があるんじゃないかと」

「はあ?」


 少なくとも俺の知識の範囲ではそんなことは物理的にあり得ない。が、一応そう考える理由もある。


「まず、『天罰じゃない』と考える理由ですが、これは単純です。佐羽島君、あの黄金(ゴールデン)ダンベルで怪我したときに『これを盗もう』とか(よこし)まなことでも考えてました?」

「いえ、まさか。トレーニング中はそれに集中してますよ」

「今回の靖川さんの件を除けば恐らく皆そうだったでしょう。だから、何か天罰的なものが当たって怪我したというのは理屈に合いません」

「まあ、それは確かに」

「で、原多木さんの怪我が重傷になった理由ですが……彼が怪我をしたときのトレーニングであるサイドレイズはダンベルの動き幅が大きなトレーニングです。また、彼はいつもかなり高速でトレーニングを行っています。それに加えて彼は長身で手足も長い。俺達が怪我したときと比べてダンベルの加速度は非常に大きかったのでは?」


 『質量×加速度=物体に掛かる力』となる。原多木さんは加速がつく動作をした分、怪我の程度が他の3人より重くなってしまったのではないだろうか。


「そして靖川さんがあんな謎事故を起こした原因にも説明がつきます。いくら急いでいても駐車場内やそこを出るときに無茶な加速はできない。で、信号が変わってダッシュをかけた直後の加速で質量が一気に増大した、と。それによって生じた力が車体のフレームを歪めて前輪を浮かせる程に」

「……」

「この説を補強する事実としてはあのダンベルラックの件があります」

「ダンベルラックですか?」

「あの黄金ダンベルが掛かっていたダンベルラックってかなり古いものでしたよね?錆が浮いてるし、フックは荒い溶接でポールに付けられている。もし静止中にあんな力が生じることがあったらとっくにあのフックなんか千切れ落ちちゃってませんか?」

「なるほど、だから『加速度』がこの現象の鍵になっていると」

「まあ、物理っぽく理屈付けてみましたけど、『加速度の増大に伴って質量も増大する』なんて仮定がそもそも物理法則無視のトンデモ理論ですからね。俺の妄想だとでも思ってください」

「いやいや、僕もあのダンベルが普通の物じゃないことは実際に使って体感してますからね」

「しかし、こんな物を誰が何の目的でここに置いたんでしょうね」

「地球人じゃないのは確かですね。宇宙人か異世界人でしょう。目的は……思いつきませんね。単に忘れ物とかだったり」

「もういっそそれで割り切った方が精神衛生上は良さそうですね」


 一通り妄想を語ったところでもう一つ気になっていることを聞いてみる。


「ところであのダンベルってどうなるんです?」

「証拠品としての警察での手続きが終われば返却されますね。それでまたトレーニング室に戻されると思いますが」

「ああ、そういう流れになるんですね」


 次の瞬間、俺はある可能性に気付いてしまった。


「……あの、佐羽島君」

「なんです?」

「万一、さっきの俺の妄想話が当たっているとして、警察からここまであの黄金(ゴールデン)ダンベルを運搬する車が急加速や急停止するような事態が起きたとしたら……」

「あっ!……」

「……ここの職員の方にあのダンベルの返却の際には徒歩で警察署に行ってもらうとかできないかな?」

「どんな理由をつけてそれ納得してもらうんですか……?」


 その三日後、例のダンベルラックに戻されていた2個の黄金(ゴールデン)ダンベルを見て、佐羽島君と俺は心からの安堵のため息をついたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ