第3項 「怪獣好き、 知る」
あれから一週間が経った。
俺はまだ納得していなかった。
しかしそれでもモードの修行は続いている。
「何度も言うが! 集中しろ!! 」
少しでも気を逸らそうものなら、
遠慮のない大剣での攻撃が飛んでくる。
まぁ気を逸らしてなくても飛んで来るのだが。
「嫌だよ! だって! なんでこうしてるのか! 分からないんだもん! 」
そう言いつつも、
一週間も彼の攻撃を見続けていたせいだろうか。
連続の斬りかかりも避けられるようになってきたいる。
まだ3歳児なのに、 と自分でも信じられない。
モードも手加減はしてくれているんだろうが、 この世界の人間の身体能力がそもそも高いという事だろうか。
それても俺が『転生者』だからなのか。
命を掛けた回避だから何とかなっているのか。
モードは何も教えてくれないので分からない。
結局、 一週間前と同じで分からない事だらけだった。
「考える前に動け! 魔物の攻撃はこんなものじゃないぞ! 本気で! 死ぬ気で! 死なないように避け続けろ!! 」
何故魔物相手に戦う前提なのだろう。
俺は『魔物博士』になりたいだけで魔物と戦いたい訳でも倒したい訳でもない。
だがいくらそう主張してもモードは止めてくれない。
この厳しい世界で生き残る為、 そればかり押し付けてくる。
確かにそれは分かるのだが。
そもそもこの世界がどのくらい危険なのか俺は知らない。
魔物と対峙するつもりもない。
なのにどう本気で挑めというのだろうか。
そして死ぬ気でなのか死なないようになのかどっちなんだ。
俺の事を思って色々してくれてるのは分かるがやはり納得いかない。
せめてもう少し詳しく理由を話してくれれば別なのだが。
この男、 いつも言葉が足りない。
今日も今日とて理不尽な修行が続けられるのだった。
◇◆◇
「よし! 休憩だ! 水を飲んでこい! 」
モードはそう勝手に告げると、 庭の真ん中辺りにある切り株に腰掛けた。
そしてズボンのポケットからタバコを取り出すと指先から火を出して吸い始める。
正確にはタバコじゃない。
太くて人差し指程の長さの木の枝だ。
この世界でのタバコはああいうものなのか。
いやもしかするとやばい麻薬的なやつかもしれない。
しかしトリップしている様子はなさそうだ。
まぁ現時点子供で、 前世ではタバコも薬も手を出さなかった俺には関係ないが......。
休憩と言われても、 水を飲めと言われても俺は一歩も動けなかった。
芝生のような庭の草にうつ伏せに突っ伏して辛うじて息をしている程に。
この世界の3歳児はここまでして大丈夫なんだろうか。
やっぱり知らない事が多すぎる。
他にも......あ、 まずい。
クラクラしてきた。
流石に水を飲まないと死にそうだ。
俺は動かない身体を何とか動かしながら這いつくばって水がある場所へと向かう。
当然モードは手伝ってくれない。
子供思いなのかそうじゃないのか。
それともこの世界ではこれが普通なのか......やはり分からない事ばかりだ。
しかし流石に一週間も経てば分かった事もある。
家の事、 俺の事、 モードの事。
先ず何とか辿り着いた水飲み場は家の裏手にある。
近くに水源があるらしく、 そこから引っ張ってきてるようだ。
俺は蛇口を捻って水を出し喉を潤した。
口から胃から、 全身に水分が行き渡り喜んでいくのが分かる。
ここで分かった事の一つがある。
そう、 蛇口があるのだ。 しかも金属製。
水源から水を渡しているのも金属。
正直知識がないので、
鉄なのか、
それとも知らない金属のかは分からない。
しかしこれがある事により、 この世界に金属加工技術がある事が判明した。
他にも家の中を見渡せば色々分かる事も多かった。
先ずこの家には電気がない。
風呂も料理も薪を燃やしてどうにかしている。
当然夜は暗くなる為蝋燭を使う。
この家にないだけなのかこの世界に電気が普及していないのか迄は分からない。
そしてこの家には本がない。
本どころか文字が存在しない。
この家だけなのかこの世界にないのかは分からない。
時計はある。 つまり時間の概念はある。
電気がないので振り子で動いている。
しかし数字は書かれていなくて点が12個円状に並んでいるだけだ。 前世にもそういう時計があるから文字が存在しているかの判断材料にはならない。
しかし『12個』という所からこの世界も一日が24時間だという事は分かった。
カレンダーはない。 だから暦や年月日があるのか分からない。
この家にないだけなのかこの世界に......以下略。
けどこのライブルの身体が今は春だと訴えてくる。 どうやら四季はあるらしい。
ひとまず、 だ。
目に入るヒントからこれだけの事は予想出来た。
これだけ分かれば上々なのか、
それとも分からない事が増えたのか、
何とも判断し辛い。
生前にゲームやアニメを嗜んでいたらそれくらいは予想出来たのだろうか。
ファンタジー物のそれらもあったし参考になったかも。
いや、 流石に生まれ変わりなんてものを題材にした作品など有り得ないか。
何にせよ今考えても無駄な事だ。
「......はぁ」
ため息をつきながら水が溜まった木の桶を覗き込む。
そこには3歳の幼児が写っていた。
これが俺の事で分かった事の一つ、 容姿だ。
茶色のボサボサの髪。
どうやら相当くせっ毛らしい。
生前は日本人だったのでどうにもこうハッキリとした茶髪は見慣れない。 染めた事もなかったしな。
顔はあどけない少年そのもの。
しかし俺という『転生者』が中身だからか、
ほぼ常に眉間にシワが寄っていた。
ライブルには申し訳ないと思っている。
身長体重は3歳児の平均ぐらいだろうか。
手足が短くて細い。
しかし見た目以上に身体能力が高い。
これもこの世界基準か?
まぁそんな事は今考えても分からないが、 少なくとも外見的には子供らしい子供に見える。
顔も酷くはない。 むしろ前世の感覚から言えば可愛いとかイケメンな方だろう。 自分で言うのもなんだが。
「しかし、 将来はああなるのか......? 」
俺は視線を庭の方に向けた。
そこには傷だらけの髭面で銀髪の毛深いマッチョな男が、 タバコ枝 (仮)を吸っている。
勿論モードの事だ。
正直背はあまり高くない。
俺が100cmに満たない程だと過程すると、 彼は140cm程度。
この世界ではあれぐらいが普通なのだろうか。
いやライブルの記憶では街にもっと背の高い人がいたような......何とも記憶が曖昧だ。
まぁ何にせよあんな毛むくじゃらなちっちゃいおじさんにはなりたくない。
あくまで前世の俺個人としての基準と好みの話だが。
しかし俺とモードはあまり似ていない。
母親似かもしれない。 それならいいのだが......。
というか母親はどこだ?
なんでここに住んでいる?
収入源は?
勿論それらはこの一週間で何度も聞いた。
子供らしくない質問も多かったが、 俺を『転生者』としる彼は対して驚かなった。
まぁ驚かないのはいいのだが、 質問に答えてもくれなかった。
何か聞くと「俺には学がない」と逃げられる。
何とも便利な言葉だ。
しかし母親の事も、
ここに住む理由も、
仕事の話も、
学がない事とは全く関係ないのだが。
あまりしつこく聞くとその場で修行が始まるので深追いはしないようになった。
そんな事も含めて、
彼のことは何となく理解出来るようになっていている。
けどその程度だ。
俺は、 その程度しか父を知らない。
知っている事と言えば、
「俺には学がない」と「生き残る為に鍛える」が口癖なのと、
剣を振り回してくるか、
ああしてタバコ枝を吸ってる姿ぐらいだ。
そして案外家事は得意なようで、 料理洗濯掃除は毎日欠かさずこなしている。
飯は美味くはないが。
そして合間にああしてタバコ枝を吸っている。
本当にタバコが好きなのか。
ほら、 そうしている間にも新しいタバコ枝に指から火をつけて......指から火をつけて?
「そそそそそそそれどうなってるの!? 」
俺は疲れていた事も忘れてモードの元に駆け寄った。
彼はめちゃくちゃびっくりしていたが、 自分の指先から出る火に俺が驚いているのだと気づくとニヤリと笑う。
「なんだ。 前の世界には『魔術』はなかったのか」
そして火を五本の指から出して自慢気に見せつけてきた。
なんというか行動が子供っぽいが、 俺はそう以上にその火の出処が気になって仕方がなかった。
魔術、 と言ったか。
その言葉を聞くとどうにも怪しい儀式に結びつく。
俺からすれば『魔法』と言われた方がしっくり来るだろう。
「その『魔法』は僕には出来るの!? 」
「『魔法』じゃない『魔術』だ。 魔法は御伽噺の中だけのものだからな」
御伽噺は存在するのか? それなら本も?
いやそれよりも今は魔術だ。
「どうやったやったら出来るの!? 」
俺は子供のように目を輝かせてモードに問い詰める。
いやまぁ実際子供なんだが。
ちなみに、
彼の前ではこの子供ライブルのままで過ごす事にした。
というかそれしか出来なかった。
どうにも思考と言動にズレがある。
頭の中で大人の俺が考えたり思ったりしていても、
口に出すと無意識に子供ライブルの言葉に変換される。
不思議な気分だ。
話が逸れた、 自分の頭の中で。
それよりもやっぱり魔術だ。
「ねぇねぇ! 教えてよぉ!! 」
子供らしいオネダリにも慣れたもの。
いやまぁ無意識なんだが。
俺はこのオネダリにより、 魔法......じゃなくて魔術の使い方を教えて貰える事を期待した。
そこまでいかなくても仕組みくらいは教えて貰えると考えていた。
しかしこの親父、 相変わらずだった。
「知らん。 気づいたら使えた。 俺には学がないからどうやって教えるかも分からん」
その途端、 俺の中の何かが噴火した。
「やだやだやだぁ!!!! 教えて教えてよぉ!!
魔術ってなんなの! どうやったら使えるの! もっとこの世界の事教えてよぉ! お金は!? 国は!? ここはどこ!! どんな人がいるの! そしてどんな魔物がいるの!!
というか僕は戦いたくない!!」
頭の中では冷静に言葉を選んでいる。
しかし口から出てきたのは子供の我儘。
俺は芝生の上でジタバタと暴れ回り暴虐の限りを尽くす。
中身が立派な大人なクセして恥ずかしくて仕方ないが、 きっとモードには効果的だろう。
なんせ彼は子供には甘い......。
「えーーい!! うるさい!! 」
ビンタされた。
理不尽だ。
こんな仕打ちがあっていいのだろうか。
幼児虐待で訴えてやる。
どこに訴えればいいのかも分からないが。
「そこら辺はちゃんと考えてある! もう少し待て!! 」
モードがそのままの勢いで叫ぶ。
本当か? 信じていいのか?
いや、 信用出来ない。
コイツは俺の事を考えてるフリをして幼児虐待して喜ぶような悪人だ。
今度は流されない。 絶対にだ。
しかしその日は、 それ以上怒られるのも叩かれるのも嫌なので追求するのも止めた。
こんな家、 さっさと出て行ってやる。
◇◆◇
「この世界の事や色んな事を教えてやる。 行くぞ」
次の日の朝。
モードは唐突にそんな事を言い出した。
今日は街に行ってこの世界の事を始め色々と教えてくれるらしい。
彼はそう言いつつ、 何故だか照れくさそうにしている。
口調も何だかおかしい。
少し落ち着け。
まぁそんな事を言いつつも俺も人の事を言えない。
俺は突然の事であんぐりと口を開けて固まってしまったからだ。
しかしその驚きは、 直ぐに嬉しさに変わる。
この男、 本当に教える気があったのか。
それとも昨日の今日で考えを改めたのか。
何にせよ、 モードは俺に『知識』を与えてくれるつもりらしい。
なんだ、 やはり子供思いの良い親じゃないか。
そう納得しかけたがやはり信用出来ない。
コイツは自分の都合が悪くなると、
学がないだなんだと言い訳し、
なんだがんだ修行をさせられ、
挙句の果て我儘を言えばビンタしてくるような男だ。
そんな奴を信用出来る訳が......。
「行かないならやめるぞ」
「行く! 行くよぉ! 」
俺は手のひらを返したように笑顔を見せ、 あっさりと彼の誘いに乗った。
この際もう何でもいい。
修行ばかりの日々から一瞬でも抜け出せるならそれでいいのだ。
それにもしかすると、 少しでも『魔物博士』に近づける可能性が上がるかもしれないからな。
モードは俺の言葉を聞くと無言で家から出て行った。
慌てて俺もそれに続く。
家の外に出ると、 彼は既に庭の端っこに立っていた。
庭の端、 つまり断崖絶壁だ。
ふと。 ここで疑問が生まれた。
街に行くと言うがどうやって行くのだろうか。
この一週間気にした事はなかったが、 この家の庭から何処かへと繋がってる道など何処にもない。
しかしあの日、 俺が前世の記憶を思い出したあの日。
モードは俺をおぶって確かに街に向かっていた。
それに微かな記憶の中では何度か彼に連れられて街に行っている。
あの辺境伯の屋敷にも何度か訪れている。
街は俺の家がある山の麓にある。
一体どうやって向かったのか。
......いや。 考えるまでもない。
道がない。
でも街には行った事がある。
それなら答えは一つだ。
だがどうにもこの予想は外れて欲しい。
「ほら。 行くぞ」
モードはいつの間にかしゃがんで背中をこちらに見せていた。
つまりはおんぶを促している。
嫌な予感を胸に俺は彼の背中に飛びつき首に腕を回す。
「暫く喋らずしっかり捕まっておけ」
そして、 その予感は見事に的中した。
そう彼が発した次の瞬間、 この男は飛び降りたのだ。
この断崖絶壁を。
「っ!? 」
驚いてる間もなくやってくる浮遊感。
生前体験した絶叫マシーンの比ではない。
その気持ち悪い感覚に気を失いそうになる。
しかしそんな暇すらこの状況は許してくれない。
近づく山の斜面。
このままでは激突する......!
俺は恐怖で思わず目を瞑った。
そしてそのままモードは岩肌にぶつかりぺちゃんこに......ならなかった。
滑走している。
山の斜面を滑り降りている。
俺は恐怖と驚きで悲鳴を上げた。
そして目の前には隆起した岩。
モードはそれを飛び越え再び斜面に着地する。
今度は走っている。
山の斜面を物凄い勢いで駆け下りて行った。
暫く走ると麓の森に突入した。
獣道すらないその中を彼は駆ける。
木の幹や枝がスレスレを通り過ぎて行く。
俺はもうどうしようもなく悲鳴を上げ続けた。
「声を出すな! 舌を噛むぞ! 」
お前はどうなんだと思うがそれを口に出す勇気はない。
そうこうしているうちに、 森は開けて街道が目の前には現れた。
そこでモードはやっと減速
こうして絶叫マシーンよりも絶叫マシーンだった彼は、 ようやく立ち止まったのだった。
「さぁ。 ここからは自分で歩け」
モードは俺を道の真ん中に降ろす。
そんな俺はというと腰を抜かして立つ事すら出来なかった。
「......はぁ」
ため息をつきたいのはこっちだ。
毎回コイツはこうやって街まで向かっているのか? 馬鹿なのか?
おかげで街まで降りた記憶がない事の理由が分かった。
かくして。
俺の足腰がまともになった数十分後。
山の麓の街、 モォトフに辿り着いたのだった。
◇◆◇
モォトフは沢山の人に溢れていた。
という程ではないが賑わっていた。
森から抜けて街道を進むと直ぐに街に入れる。
街は大人の背丈位に石が積み上げられた壁で囲まれていた。
この壁の中の街が、 モォトフである。
壁の中に入ると何軒か家が立ち並んでおり、 少し先に噴水のある広場が見える。
あれがこの街の中心だろうか。
モードはそこまで進んで行くようなので俺も後に続く。
民家が立ち並ぶ間を進るだ。
家は海外の田舎の風景を思わせる平屋で、 木で出来たものが多い。
中には石で作られた家も存在するし、 藁の屋根のテントのようなもので作られたものもあった。
なんだか『三匹の子豚』という童話を思い出す。
しかし住んでいるのは当然子豚ではない。
けど人間、 だけという訳ではなかった。
木の家には人間が住んでいる。
テントには獣が二足歩行している生き物が住んでいた。
かと思えば藁の家には爬虫類が二足歩行している生き物がいる。
「......お父さん、 あれは魔物? 」
そう聞いたら頭を殴られた。
どうやら違うらしい。 そして失礼に当たるらしい。
彼らも人間という事か......。
暫く進むと噴水広場に到着する。
そこは円状の広場で囲うように店が立ち並んでいた。
見る限り、
食べ物の出店や雑貨屋......そして鍛冶屋? のようなものも見受けられた。
店の中に竈のようなものがある。
もしかするとピザ屋かもしれないし陶器を作ってる場所かもしれない。
炭屋かもしれない。
ファンタジーなどの知識があればもう少し予想がつくんだろうか......。
ちなみに、 どうやらモードは金勘定が出来ないらしい。
だから買い物も出来ない。
一体どうやってここまで生活し、 俺を育てて来たんだろうか。
というかそんな知識でどうやって俺に何を教えるつもりなのか......。
不安に思っていると、 父は広場の先を指差して言う。
「あそこでこの世界の常識を教われ」
お前が教えるんじゃないのかよ。
そう言いたくなるが我慢する。
寧ろお前が学んだ方がいいんじゃないか?
そう思ってまた我慢する。
色んな気持ちを抑え指差された方向を見た。
指は街から少し離れた森の中、
その高台にある屋敷に向いていた。
この屋敷は分かる。
辺境伯の屋敷。
ここら辺一帯の管理者だ。
何故かライブルはそれだけは知っていた。
物心つく前から交流があったんだろう。
そんな記憶が薄ぼんやりある。
モードがそこに向かって行ったので、 俺もそれに続いた。
あそこに世界の常識を教えてくれる人がいると言うが......もしかして辺境伯の事だろうか。
相変わらずコイツは大事な事は説明しない。
◇◆◇
森を抜け屋敷に辿り着く。
急に開けた場所には、
街より大きいんじゃないかと思える程の敷地と、
街の家全部合わせても足りないんじゃないかという程の建物があった。
規格外の大きさだ。
これで辺境伯?
この国の......国があるのかは知らないが、 王だか大統領だかはどんな大きさの屋敷に住んでいるんだろうか......。
辺りをキョロキョロ見回す。
確かに見覚えがある。
やはり何度か来た事があるらしい。
しかしそこでまた疑問が浮かんだ。
この屋敷の事は覚えているのに、 辺境伯の事は覚えていない。
これはどういう事だろうか。
......いや待て。 なんだか嫌な予感がする。
正にデジャブ。
この場合は恐らく......!
「いらっしゃああい! 貴方の方から訪ねてくれるなんてぇ! 私、 嬉しいわん♡ 」
そんな事を考えていると、 屋敷のドアが勢いよく開いた。
中から、
やたらテンションが高く、
やたら厚化粧の、
やたらねちっこい喋り方をする、
男が現れた。
嫌な予感が的中した。
どうやらライブルは、 トラウマを記憶の奥に封印する癖があるらしい。
「ライブルちゃんもぉ、 いらっしゃああい♡ 私の事ぉ、 覚えるぅ? ん? んん?♡ 」
ああ、 覚えてる。
ライブルが忘れようとしたが結局思い出してしまった。
出来れば忘れたままの方が良かったかもしれない。
この男 (?)は、
ランラーク・ビヨルフ・モォトフ・イグラシゥス。
モォトフの街を含む、 この辺り一体を管理する......辺境伯、 その人だ。
本日もご覧頂きありがとうございます。
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