第36項 「怪獣好き、 喧嘩する」
「やぁ、 いらっしゃい」
その日の夜。
ラッキーは宿屋の一室にいた。
そこにはレナも居て、 楽しそうに話してる所だった。
「僕の為に悪いねぇ」
彼には『幸運』を取り戻す方法を探してるとはまだ言っていない。
これは恐らく怪我を早く治す為に動いてる事に対して言ってるんだろう。
しかしこの現状を見ると皮肉に聞こえる。
レナは最近はラッキーに付きっきりだ。
それは勿論、 彼の看病というのもあるが、
それとは別に槍尻尾が壊れてしまったのも理由にある。
あの黒ローブとの戦い。
レナは槍尻尾で直接奴を攻撃した。
その時に腐ってしまったのだ。
草も石も腐らせてしまう奴の能力、 それを例外なく受けてしまったのだ。
幸い腐ったのは槍だけ、 彼女の身体に影響はない。
あるとすれば、 槍の先が腐ってしまった為戦闘が困難な事だ。
立ったり歩いたりと生活には支障がないのだが、 レナにはそれがどうも不安なようなのだ。
だからあまり宿から出なくなり、 ラッキーと一緒にいる事が多くなった。
まぁ実際本人から聞いたわけじゃないけどな。
でも恐らくそうだろう。
でも俺に心配をかけまいとしているのか、 それとも本音を悟られるのが恥ずかしいのか、
二日に一回くらいは外出して、 図書館に来て一緒に調べ物をしてくれたり、 街に情報を集めに行ってくれたりしている。
まぁそれでも今の彼女のメインの役割はラッキーの看病だ。
まだ肋骨が痛むようだし無理はさせられないしな。
身の回りの世話なんかを積極的にしてくれている。
「一応私も頑張ってるんだけど? 」
「えぇ? レナちゃんは宿屋でサボってるだけじゃないか」
「それならもう私の世話はいらないよね? 」
「......そういう所、 彼に対してはもっと素直なんじゃないのかぁ? 」
「っ?! やめてよバカぁ!! 」
......しかしそれもこれも全てここに居たい為の口実のように思えてくる。
このイチャイチャっぷりを見ていると。
いや別に、 レナが誰とイチャイチャしようがいいんだ。
彼女は俺の友達、 祝福やるべきだろう。
ラッキーに大事な友達を取られるとしても俺が関わっていい部分じゃないのだ。
というか「彼」って誰だ「彼」って!
他にも男がいるのか?!
俺はレナをそんな風に育てたつもりは......いや育ててない。
育てたのはポーシィさん達だ。
イチャイチャを見せつけられたので動揺してしまったようだ。
ここは出直すとしよう。
「いやどこに行くのさ」
逃げられなかった。
当たり前だ、 俺から訪ねてきたんだからな。
やっぱり動揺しているみたいだな。
しかしここで話さないという選択肢はない。
一応勝手に動いてることや呪いについても話すつもりで来たんだから。
かと言ってこのままレナがいたらどうにもまたおかしくなりそうだ。
ここは一度彼女に退出願おうか。
◇◆◇
「それで? 話ってなんだい? ......まさか!? 」
二人きりなった途端、
ラッキーはそう言いながら自分の身体を抱いた。
まるで俺から守るように。
何がまさかだ、 お馬鹿。
俺は呆れつつも現状を伝えた。
実は『幸運』を取り戻す方法を探している事。
失った原因が黒ローブの呪いである事。
呪いの原因を取り除く方法については、 少し迷ってその時点では話さなかった。
「ふぅん、 なるほどね。 最近こそこそ動いてると思ったらそれか。 お節介」
話すとラッキーは予想通り不機嫌になった。
やっぱりこっそりやっていた事がまずかったか。
先に話しておくべきだった。
「そんな事する暇があったら肋骨を早く治す方法を探してくれるかい? レナちゃんばっかりに押し付けてひどいじゃないか」
そのせいかいつもより口が悪い。
皮肉もたっぷりだ。
レナの話を出されるとまたバツが悪い。
ちょっと胃が痛い。
しかしこうなるのも仕方ないだろう。
こうして過敏に反応するのも、 『幸運』がない事への不安から来ているのかもしれない。
ならやはりどうにかしてやらなければ。
「あーあ! レナちゃんがいなくなっちゃったから世話をしてくれる人がいないなぁ! 水飲みたいんだけどなぁ! 少しでも動くと『幸運』がないせいで酷い目に合うからなぁ! 怪我が悪化しちゃうなぁ! 」
......。
もしかしたら不安というのは俺の思い違いかもしれない。
ムカつくなコイツ。
しかし本当にそうなっても困るので、
ベッド上のテーブルに置いてあった、 小さな酒樽に入っている水をコップに注いでやり手渡した。
「あ! ありがとうライブル! そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ! 」
コイツ本当にぶん殴ってやろうか。
......。
しかしもしかすると、 これも不安の裏返しなのかもしれない。
コイツ本当に素直じゃないし。
でもまぁいい。
その不機嫌や不安を取り除く為に色々調べてきたんだ。
まずはそうだ、 これを伝えてやろう。
「ラッキー。 まずは、 だけど。 調べてわかった事がある。 お前の『幸運』はなくなった訳じゃない」
「......詳しく聞かせてよ」
食いついてきた。
やはり無関心という訳じゃなさそうだ。
それだけ分かっただけでも俺のモチベーションが戻ってくる。
ハグレと話した後、 俺は図書館に行った。
術者を殺す以外の方法はないかと調べにだ。
結果それは見つからず、 殺す覚悟をするしかないと分かった訳だが。
それ以外に、 判明した事もあった。
今回の呪いは分かってる限りで判断するなら、 『相殺の呪い』だ。
『魔名』の祝福を、 相反する『魔言語』で相殺する呪いなのだが、
これは決して『魔名』の効果を無効化している訳じゃない。
あくまで『相殺』。
プラスに対して同じ値のマイナスを足して、 ゼロにしているだけらしいのだ。
つまりマイナスのはならない。
『幸運』はゼロになっただけで存在する。
その証拠に、 時々相殺が弱まる時があり、 その瞬間『幸運』が戻ったりするというのだ。
まぁ結局は根本から解決しないと意味がないのだが。
「それ本当に? ならなんで今の僕は運が悪いのさ」
確かにもっともな疑問だ。
今のラッキーを見ていると、 明らかに「不幸」という言葉が当てはまる。
これではゼロの状態だとは言えないだろう。
しかしそこもちゃんと調べはついている。
そもそも『魔名』のよる祝福とは、
その人物のその能力を増幅させる事で効果が出ているらしい。
しかしそれが急にゼロになってしまったら?
それの反動がくるのだ。
つまり、 今までズルしてた分のしっぺ返しという事だ。
だから今のラッキーは一時的に運が悪いのである。
けどこれが永遠に続く訳じゃない。
今までのズルの分が消化されれば、 完全なゼロの状態になるというのだ。
まぁ結局今『不運』な事には変わりないのだが、 いつか終わる。
それが分かるだけでも違う筈だ。
ラッキーの不安も少しは解消されて......。
「ふぅん」
そんな事はなかった。
終わりがあるとは言え、 やはりいつ終わるか分からない状態ではあまり喜べもしないか。
そもそもそれで『幸運』が戻ってくる訳でもないしな。
ならばやはり、 根本から解決するしかないようだな。
......。
情けない。
この話を最後に回したのも、
さっきの話でラッキーが納得してくれる事を期待していたんだろう。
それで諦めてくれる事をどこかで望んでいたんだ。
情けないし、 卑怯だ。
その方法を知らないならまだしも、 俺は知っている。
ならば知らなかったフリなど出来るものか。
それでラッキーが元に戻るなら、
俺は、
やる......!
こうして俺は彼に呪いを解く方法を話した。
それを聞いて目を丸くする。
そして話が終わると、 彼はじーっと俺を見ていた。
何だか既視感だ。
ああそうか、 さっきハグレにもこうして見られたな。
同じ事を考えているのだろうか?
アイツも何も考えていたのか結局よく分からなかったが。
「それ、 誰が殺るの? 」
「俺だ」
ラッキーはそんな表情のまま聞いてくる。
だから俺は間髪入れずに答えた。
覚悟が鈍らないように。
それを聞いたラッキーが明らかに不機嫌そうな顔になった。
ハグレの時とは反応が違う。
「出来るの? 」
「やるさ」
「なんでそこまでして僕を助けようとするのさ」
「そんなの、 仲間だからに決まってるだろ」
「......」
そこまでやり取りして、 ラッキーは黙ってしまった。
視線はまだ俺の目を見たままだ。
何だか覚悟し切れていないのを見透かされそうな気がする。
だから俺も、 バレないように真っ直ぐ見返した。
暫くすると。
「はぁ」
ラッキーが短くため息をついた。
そしてこう言ったのだ。
「僕はこの旅、 下りるよ。 後は勝手に自分たちで王都に行ってくれ」
「......え? 」
何を言われたのか分からなかった。
下りる? 下りると言ったのか、 今。
待て待て! なんでそんな事になる!
「待ってくれ! どうしてそんな......」
「君のお世話になるのが真っ平ごめんだからさ」
ラッキーは俺の言葉を予想していたように遮ってくる。
なんだそれ。
俺はここまで何も出来てないんだぞ?
ラッキーに、 レナに、 頼ってばかりだ。
それを返させてもくれないってのか?
そうだ、 そうなんだ。
俺はラッキーに恩を返したい。
だからこうやって動いてる。
きっとそうだ。
だからやり遂げねば。
もしかすると彼は俺では力不足だと思ってるのかもしれない。
だから気を使ってこんな事を。
ならばちゃんと覚悟がある所を見せなければ。
「大丈夫だ! 心配するな! 俺がちゃんと術者を殺す! だからお前は安心して......」
「安心? 何がさ? 」
また遮られた。
そして、 言われてしまう。
「君に殺しなんか出来る訳ないだろ!! 」
やはり、 見透かされていた。
俺の覚悟が足りなかったんだ。
だからラッキーにこんな事を言わせてしまった。
適正しなければ。
しかしその前が叫ぶ。
「そもそもだ! 君には旅の目的があるんだろ?! その為に僕が利用出来るから誘いを受けたんだろ!?
それが今やどうだよ! 僕の『幸運』はなくなった! 利用価値なんてない! だったら君は、 そんな役立たず置いて先に進むべきだろう!! 」
なんで、 なんでそんな事を言うのか。
そんな訳がないのに。
......しかし、 俺は言い返せなかった。
確かに、 俺はコイツに利用価値があるからと旅の同行を許可した。
それが始まりだった。
『幸運』に目をつけた。
でもそれだけじゃないんだ。
少なくとも今はそうじゃないんだ。
分かってる、 分かってるのに、
なんて言えばいいんだ。
言葉が出てこない。
なんだこれ。
俺は、 何が言いたいんだ。
そうして考えてる間にもラッキーの言葉は続く。
「見てわかるだろ? 僕は今、 誰かの手を借りなきゃ何も出来ない役立たずだ! 今の僕には何もない! 君と違って才能も努力も何もないんだ!! 」
考えている頭に彼の言葉が流れ込み思考を阻む。
才能? 努力?
そんなもの俺が持っている筈がない。
団のお荷物は俺の方だ。
いつも二人に頼ってばかりで......。
「なんで君がそんな顔をする! 」
「っ!? 」
「君は全てを持ってるじゃないか! 仲間を! 努力を! 才能を! 夢を! それでなんでそんな顔をするだよ!
僕はね! 『幸運』以外に何もないのさ!
でも君は違うだろ!? 僕にないものを持ってるじゃないか!!
それを僕の為に捨てるつもりかい?
僕が羨ましいと思っているものを捨てるつもりかい!?
僕が出来ない事を! 僕が、 僕が......ごほっ! ごはっ!
それでもまだ、 君は自分が足を引っ張ってるなんて......ううっ!! 」
叫んだ末に咳き込み、 痛みに胸を押さえるラッキー。
慌てて駆け寄り介抱しようとするが、 手を払われてしまう。
「い、 いいかい? 僕はね......僕、 だけじゃないさ。
レナちゃんだって、 あのハグレだかハズレだかの魔物だって......君だから付き合ってやってるのさ。
君が、 危なかっしくて放っておけないから。
......でもそれは、 君が何も出来ないからじゃない。
君が、 何かを追い求め、 その為にもがいてるからさ。
それこそが君の力なんだ。
それを!
何の覚悟もないくせに!
出来もしないくせに!
また一人で背負い込んで!
勝手に、 決めて......ごほっ!!ごほごほっ!! 」
また咳き込むラッキー。
俺は反射的に背中をさすっていた。
今度は拒否されない。
それだけ苦しいのかもしれない。
そして理解した。
ラッキーが俺をどう思っているのかを。
彼は『幸運』を持つ故に努力が出来なかった。
努力しようとすれば、 その結果だけが運に導かれやってくる。
その過程をすっ飛ばして。
それは前に聞いた話だった。
でも今の言葉を聞く限り、 彼も努力がしたかったのだ。
だからそれを常識に求め、 西大陸を旅した。
俺は自分に才能があるとは思わない。
そして努力もまだまだだと思う。
けど、 ラッキーの目にはそれが羨ましく思えた......のかもしれない。
俺なんてただのヘボヘボだ。
何をしても上手くいかない。
努力の成果だって効率よく発揮出来てないだろう。
アウウェスタ流の体術も中途半端。
魔術も中途半端。
魔物の事だって、 レナの事だって、
ラッキーの呪いの事だって全て完璧に出来ていない。
でもそんなのは普通の事なのだ。
俺は自分を卑下しがちだが、 人間そんなものなんだろう。
でもラッキーはそうじゃなかった。
だから、 そんな事すらも輝かしく見えたのかもしれない。
何故それが俺なのか、 それはやっぱり分からないが。
結局そこは、 俺が魔物が好きという、
変人っぽいところが刺激になっているのかもしれない。
つまり、 つまりだ。
隣の芝生は青い、 そういう事だ。
自分には素晴らしいものがあるのにそれが見えず、
他人のいい所が羨ましくなってしまう。
特に『幸運』だけが自分の価値だとおもっているラッキーにとって、
それすら失った今、 顕著に出てしまってるんだろう。
『幸運』だけだなんて、 それだけじゃないのにな。
そしてそこまで考えて、 気づいた。
自分も同じだと。
俺も見えていないのだ。
自分のいい所が。
これか。
これが前にラッキーが言っていた事か。
適材適所。
俺だからこそ出来る事。
俺だから、 二人と一匹が着いてきてくれる事実。
正直俺にはその自覚がない。
俺は俺の役割を、
団長としてや、 我儘を突き通している責任を、
果たせているようには思えない。
ラッキーの話を聞いても納得出来ない。
でも今の俺が彼と同じだとしたら、
きっとそれ以外の所で二人を助けてるんだろう。
そう思うと、 なんだかホッとした。
肩の荷が下りたような気がしたし、
俺と同じなら、 目の前で苦しんでいるラッキーを助けられる気がしたからだ。
......かと言ってだ。
なんて声を掛ければいいんだろか。
ああ、 どうして俺はこうも不器用なのか。
結局色々考えた末、
俺の口から出た言葉はこうだった。
「これかも一緒に旅を続けよう。 一緒に呪いを解くために、 アイツに勝てる方法を探すんだ。
アイツはもう魔物かもしれない。 だったら、 魔物図鑑を完成させる為に色んな魔物に会えば勝てる方法を見つけられるかもしれない。
殺さなくてもなんとかなる方法を探せるかもしれない。
だから一緒に行こう」
全くもって気の利いた言葉では無かった。
ただ思いついた事を、 付け焼き刃のように言っただけだ。
でも気持ちだけは篭ってる、 筈だ。
「......」
それが届いたのかラッキーは静かになった。
単に傷が痛いだけかもしれない。
背中を摩ってる俺からは彼の顔が見えない。
そして暫くの沈黙の後、
「真っ平ごめんだね」
俺はラッキーに拒否された。
◇◆◇
夜が明けた。
彼に拒絶されどうしていいか分からなくなった俺は、 自室に逃げ込んだ。
お得意の逃げ癖だ。
それではいけないと一晩考えた。
しかし何も思いつかなかった。
さっき顔を洗った時、 水面に映る顔はクマが酷かった。
一晩でこれとかどれだけ情けないんだ。
やっぱり考えるのは苦手だ。
ウジウジして自分の世界に入る癖に、 考えるのは苦手だ。
もう俺一人ではどうしていいか分からない。
でも、 もう分かってる。
こういう時どうしたらいいのかを。
「それで、 私に相談しに来たのね」
頼ったのはレナだった。
朝食と食べている彼女の元に向かったのだ。
「でもなんで私なの? 」
いや他に誰がいるんだよ。
まぁその、 他にも理由はあるんだが。
最近、 ラッキーと仲良いし......。
けどそんな嫉妬がバレてしまいそうな事は口が裂けても言えない。
だから咄嗟に、
「レナが俺のこと一番分かってくれるから」
そう答えた。
「っ......!! 」
すると何故か彼女は悶絶しながら頭を抱えた。
何か変な事言っただろうか。
だとしたら、 ごめん。
少しするとレナが落ち着いたので話を聞いてもらった。
ラッキーの呪いの事、
昨夜の出来事、
それを話して俺に何が足りないのか助言を貰おうとしたのだ。
「うーん、 男の子って大変だね」
しかし最初の反応はこんな感じだった。
おいおい、 こっちは真剣に相談してるんだが。
「つまりは喧嘩したから仲直りしたいんでしょ? 男の子ってもっとスッキリしてそうな印象なんだけど。 ほら、 女ってドロドロしてるから」
そんなのはどちらもレナの個人的イメージだろ。
カラッとしてる女性もいれば、 ドロドロしてる男もいる。
俺なんかウジウジしてる男だしな。
というか喧嘩とはなんだ喧嘩とは。
そんな簡単な話じゃ......。
......そうなのか?
そう言われればそんな気もする。
思えば俺は前世で友達なんかいなかったから、 喧嘩なんてした事なかったし。
え? つまりこれは、 単純に仲直りすればいいのか?
なんだ! そうなのか!
簡単な話じゃないか!
やっぱりレナに相談してよかった!
俺は彼女に礼を言うと早速ラッキーの所に向かおうとして......やめた。
「仲直りの仕方教えてください」
俺はその方法も知らなかった。
「えー? それぐらい自分で考えてよ」
「そうは言ってもレナしか居ないんだ俺には」
「......え? えぇ!? 」
「友達が」
「......」
「男友達なんていないし。 どうしたらいい? 」
「......ああ、 そう」
レナはなんだか複雑そうな表情になった。
顔は赤いし、 なんだか怒ってるようにも見える。
またなんかやらかしたかしら。
「......リーブはどうしたいの? ラックと仲直りしたいの? 」
しかしそれでもレナは、 ちゃんと相談に乗ってくれた。
本当にいい子である。
最高の友達だ。
しかしこの問いに対する答えはどうにも難しい。
正直な気持ちを言えば、
「わ、 分からない。 でもこのままじゃいけないと思う」
こうだった。
そんな俺を見てため息をしつつ、
レナは親身になって話を聞いてくれた。
「どうしてそう思うの? 」
「ラッキーは仲間だからな。 呪いの事もそうだし、 このままにはしておけない」
「でも拒否されたんでしょ? それなのになんでそこまでするの? 」
それを言われると痛い。
ラッキーと話してる間もこんなやりとりがあったが、 結局答えを見つけられていない。
でももし、 それを言葉にするとしたら、
「好き、 だからだと思う」
そうとしか言いようがない。
「っ?! 」
「友達になりたいんだと思う」
「......ああ、 そう」
レナは真剣に聞いてくれた。
突然テーブルを叩いて立ち上がったり、
冷静になって座ったり、
そんな風に俺の言葉に一挙一動して耳を傾けてくれている。
本当にいい友達だ。
「じゃあなんで友達になりたいの? 」
でも彼女からは質問ばかりだ。
真剣に聞いてくれるの嬉しいが、 答えを知ってるなら早く教えて欲しいものである。
しかし、 何故友達になりたい、 か。
まぁそれならまだ分かる気がする。
「ラッキーがすごいからだ」
「すごい? 『幸運』の事? 」
「それもそうだけど、 それだけじゃない」
「え、 他にすごいところなんてあるかな? 」
おいおい、 ちょっと待てレナ。
お前はこの二ヶ月半以上、
そして最近はあんなに近くに居ながら、
そんな事も分からないと言うのか?
ならば教えてやらねばなるまい。
「いい、 レナ。 ラッキーの知識は凄いよ。 俺は先生の元で色々学んだけど、 それ以上のものを持ってる。 それ自分のものにする為にどれだけ頑張ったんだろう。 俺には想像もつかない。 それに冒険者としての経験を凄い。 魔物の事も、 生きていく術も、 全部が全部彼が自分で経験して身につけたものだ。 『幸運』の影に隠れがちだけど、 それらを身を以て体験し身につけたからこそ今のラッキーは......」
「ちょ、 ちょっと待ってリーブ!! 」
む、 何故止める。
ここからまだまだラッキーの凄い所が出てくるのに。
「それ、 本人に伝えた? 」
「......」
何を言ってるんだ。
ちゃんと伝えてるに決まって......決まってない。
伝えてない。
そういえば言ってない。
「はぁ」
それが顔に出てたんだろうか。
レナが深くため息をつく。
「それを伝えれば簡単に仲直り出来るよ」
そして呆れ顔で言うのだった。
え? ちょっと待て。
そんな事でいいの?
まさか。
アレだけ怒らせてしまったんだ。
これぐらいで許してもらえるとは思えない。
「あのね、 リーブ」
そしてまた顔に出ていたんだろう。
俺が納得していないと分かるや否や、
レナはこう続けた。
「ラックは、 リーブの事を好きだと思うよ? 」
「え?! 」
思わず身を守ろうと自分を抱きしめてしまう。
「そう言う意味じゃない! 」
そして顔を殴られた。
理不尽だ。
暴力反対。
「分かるよね? ラックはリーブにどこか憧れてるんだよ。 だから自分に持ってないリーブに興味津々なんだよ。 だからアナタの事になるとこう、 素直じゃなくなっちゃうんだ。 分かるよね? 」
二回も聞かれた。
いや正直分からないんだが。
......でもまぁ、 分かる部分もある。
昨日気づいた事、 隣の芝は青いである。
だから俺は、
俺に持っていないものを持ってるラッキーを凄いと思い、
友達になりたいと思うんだ。
つまり彼も同じという事か?
確かに、 それなら......。
「だからねリーブ。 アナタがラックを好きな事と、 凄いと思ってる事を伝えれば、 簡単に仲直り出来るよ」
うん、 そんな気がしてきた。
流石はレナである。
さて、 そうと分かれば。
即、 行動だ......!
俺はレナに礼を言うと、 ラッキーの部屋に向かった。
でもその前に言い残したことがあったので、
戻ってレナにこう言った。
「俺はやっぱりレナがいないとダメだな。 これからも、 ずっとこうして相談に乗ってください。 お願いします」
頭を下げて誠意を示すと、 俺は再びラッキーの部屋に向かった。
レナには助けてもらいっぱなしだ。
でもきっとこれからも助けてもらう事になるだろう。
だから礼儀はちゃんとしなければ。
「結婚申し込まれたかと、 思っちゃうでしょ......」
後ろでレナが何か言った気もするが、 何一つ聞き取れなかった。
こうして。
俺はラッキーと仲直りするべく、
彼の部屋へ向かったのだった。
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