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第34項 「怪獣好き、 空を飛ぶ」

 


「「「......」」」



 空を、 飛んでいる。



 俺たちは空を飛んでいた。


 勿論背中に羽が生えた訳でも、

 超能力に目覚めた訳でもない。

 ()()()()()()の協力の元、 その飛行能力によって空の旅を楽しめてる訳だ。


 その者とは、 翼竜。

 正体はハグレの変身。


 身体の何倍もの大きな羽を羽ばたかせ、

 優雅に堂々と空を飛んでいる。

 俺たちはその背中にお邪魔させて貰ってる訳だ。


 そんなものまで変身出来るんだぁ。


 頭の中に気の抜けた言葉が飛び交いつつ、

 俺たちは思考停止しただただ景色を見ていた......。


 ◇◆◇


 少し状況を整理しよう。


 レナの活躍のおかげで、

 俺はあの黒ローブをカマクラの中に閉じ込める事が出来た。


 しかし奴はそれを今にも破ろうとしていた。

 まさに絶対絶命。

 そんな時だった。


「ギャオオオオ!! 」


 背後から聞こえる異様な声。

 振り向くと、 ソイツはいた。


 翼竜。


 かつて前の世界を支配していた恐竜、

 プテラノドンにも似ているような、

 似ていないような、

 そんな翼竜がそこにはいたのだ。


 そしてこんな状況でも、

 俺の『怪獣図鑑』の記憶がスパークする。



『空の大怪獣 ラノドン』。

 かの『カジラ』シリーズにおいてかなりの知名度を誇る、 空飛ぶ怪獣だ。

 俺は最初、 その怪獣を思い浮かべた。


 ラノドンは、 カジラの映画がヒットした事により生まれた怪獣の一体。

 古代の翼竜が火山活動の影響で復活し怪獣化したものだ。


 身長:50m

 翼長:120m

 体重:1万5千t


 マッハ1.5で空を飛び、

 その羽が起こすソニックブームは街を破壊する。


 カジラの相棒としても描かれる事の多いラノドンこそが、 今の前にいる翼竜に相応しい......いや待て。


 待て待て。

 違う、 違うぞ。

 よく見ろ。


 俺の記憶の中でのラノドンは、 よりプテラノドンに近かった。

 しかしこの目の前の翼竜はどうだ。


 確かに似ていなくはないが、 かなり違う。

 ラノドンはプテラノドンのように頭の後ろに二本から三本ツノ、 のような生えているが、

 この翼竜にはそれがなく、 代わりに後頭部が二股に分かれている。


 さらに言えば、

 ラノドンはどちらかと言えば身体はシャープなイメージだが、

 この翼竜はがっしりとしていて、 ずんぐりむっくりと言えてしまう程の印象だ。


 そして何よりも。

 この翼竜は、

「ギャオオオオ!! 」と鳴いた。

 これが一番の決め手だ。


 この翼竜に似ているのは『ラノドン』じゃない。


 そう思った瞬間、 また俺の『怪獣図鑑』の記憶がスパークする。

 しかしそれは、 少し違った『怪獣図鑑』だ。



 前世では、

『カジラ』に対抗すべく、 他の映画会社でも怪獣映画が作られた。

 その中に『カジラ』と対をなす怪獣シリーズがある。


 それが、 『ガメロン』。

 子供の味方の心優しき亀怪獣だ。


 シリーズの中に、 代表する敵怪獣がいる。

 それがこの翼竜に似ているのだ。



『超音波怪獣 ギャオキルス』。

 残虐非道の鳥型怪獣だ。


 全長:65m

 翼長:172m

 体重:25t


 飛ぶスピードはマッハ3.5。


 ヤツは人を平気で食べる。

 口から超音波を出し、 レーザーメスのようにして攻撃をする。


 何より特徴的なのはその鳴き声だ。

「ギャオオオオ!! 」というその声が名前の由来になった程だからな。


 目の前の翼竜は、 その『ギャオキルス』に似ている。

 特にその鳴き声がだ。

 これは『ラノドン』ではなく『ギャオキルス』よりの魔物と言えよう。


 そんな魔物が何故目の前にいるのか。

 いつからそこに居たのか。

 いつの間に飛んで来たのか。


 色んな疑問が残るがまずはコイツの観察を......。


「ハグレ! そんなものにも変身出来たの!? 」


 ......ですよね。

 レナの声で我に返った。


 これはハグレが変身した姿。

 この逃げなければいけない状況で翼竜に変わるという事はどういう事か。

 そういう事だ。


 こうして、

 俺たちはハグレの背中に乗って空へ逃避行したのであった。


 ◇◆◇


 上空は風が冷たい。

 流石に冬の夜空と言った所か。

 頭が冷え、 現実逃避しかかっていた思考が戻ってくる。


 後ろを見る。

 そこには未だ状況を飲み込み切れない二人がボーッしている。

 仕方がない。

 色々あり過ぎた。


 新年を迎えた途端の襲撃。

 謎の強敵。

 そしてソイツの目的も分からぬままの逃走。

 更にそこに翼竜に変身したハグレの背中に乗って空の旅だ。

 混乱しない方がおかしいだろう。


 前を見る。

 そこには二股に分かれた翼竜の後頭部がある。

 馬車は置いてく訳にはいかないので、 ハグレが口に咥えて飛んでいる。


 下を見る。

 地面が遥か下にあった。

 というか雲よりも高い。


 もうどのくらい飛んでいるのか。

 あの黒ローブの姿は見えない。

 もうカマクラから脱出した頃だろうが、

 流石に上空までは追って来れないようだ。


 それにしてもあの黒ローブ、 何者だ?

 人間とも思えない能力、 あれは魔物なのか?

 何にせよ未知数過ぎる。

 目的はラッキーだったのだろうか?

 それなら追ってくるか?

 例えそうだとしてもこうして飛んでる間は大丈夫か。


「......ふぅ」


 俺は今やもう癖になっているため息をついた。

 しかしこれはまだいい方のため息だ。

 安堵のものだからな。


 この先どうなるかは分からない。

 どこかに降りた途端また襲われる可能性もある。

 けど、 今この瞬間は、 安心だ。


『落ち着いたか? 』


 不意にそんな声が聞こえた。

 二人のどちらかに声をかけらえれたのかと思って振り返る。

 すると二人も同じ声が聞こえたのか、

 ブンブンと頭を横に振っていた。



『こちらだ。 前を見よ』



 また聞こえた。

 そして気付く。

 これは頭の中で聞こえてきている。

 二人の顔を見ると、 「聞こえた」と言わんばかりに頷いていた。


 言葉に従って前を見る。

 誰もいない。

 まさかあの黒ローブが?

 不安に思ったその時。


『私だ、 ハグレだ』


 その正体が分かった。



 どうやらハグレは、

 変身するとその対象の能力が使えるらしい。


 まずそれで驚いたのだが、

 この変身元となった翼竜がそんな事を出来るのにも驚きだ。

 ハグレの話によれば、 本来超音波を使って獲物を探す為の能力らしい。

 それを利用してコイツの意識を脳に届けてきているそうだ。


 原理は分からないし意味が分からない。

 何でもありか。

 でも、 俺が『ギャオキルス』に似ていると思ったのはあながち間違いではなかったか。

 あの怪獣は超音波を使うからな。


 この魔物の名前は『ドラゴン』......の数ある種族の一種だそうだ。

『ドラゴン』は爬虫類のようなトカゲのような魔物の総称であり、 多くの品種が存在する。

 とにかくそれっぽいものを全て『ドラゴン』と呼ぶそうだ。

 相変わらず名付けた者の大雑把さに呆れる。


 しかしそれにしてもドラゴン、 か。

 また新しい魔物......いや性格のは違うのだが。

 それでもこう、 血が滾る。

 コイツの事を調べたくて堪らない。


 だが、 だが。

 今は非常事態だ。

 ここはグッと抑えなければ。

 それに、 今の姿はあくまで仮。

 中身はただのハグレだ。

 今更調べても仕方ないだろう。


 それよりももっと建設的な事を考え話し合うべきだ。

 この後どうするか、 などな。


「アナタ、 喋れたの? 」


 しかしそれよりも先にレナがそう聞いていた。

 そこ気になるか。

 まぁ二人はあの女性バージョンのハグレを知らないからな。

 仕方ないのは仕方ないのだが......。


『ああ。 私もランラークたちと付き合いが長い。 いつの間にか人間の言葉も覚えていた次第よ』

「へぇ、 そうなんだ」


 そして律儀に答えるハグレ。

 レナは納得したように頷いていた。


 ......というかコイツ姿によって口調も性格も違うな。

 姿に引っ張られているのか?

 というか変身出来る基準はなんなんだ?

 めちゃくちゃ興味が湧いてきた。


 ......いかんいかん。

 今はそれどころじゃないだろう。

 もっと建設的な話をだな。


「......こんな風に変身出来るなら、 なんであの時黒ローブに攻撃してくれなかったんだ? 」


 しまった。

 色々考えた末にトゲのある質問になってしまった。

 どうしてこう俺は不器用なのか。


『そ、 それは......。 掟があっただろう。 人間を傷つけた魔物は殺すという。 あの男を攻撃すればそれを破る事になる。 だから出来なかった』


 しかも律儀で真面目......俺は何て意地悪なんだろうか。

 ん? ちょっと待て。

 今なんて言った?


「アイツ人間だったの?! 魔物じゃないの?! 」


 叫んだのはレナだった。

 しかし今回ばかりは俺も同じ気持ちだ。

 それを聞いたハグレは淡々と答える。


『そうだ。 何か普通とは違う気配はしたが人間だ。 人間の男だ。 だから攻撃を躊躇った。 すまない』


 素直に謝るハグレに対し、

 そういう事ならと頭を下げる俺。

 会話にはなっているが、 翼竜の後頭部に勝手に謝っているようで滑稽だなこれは。


 しかし、 俺が人間の男とは。

 明らかに人間離れしていたので考えもしなかったな。


 それにしてもハグレなら俺たちの分からなかった事も分かるかもしれない。

 これはもう少し話を聞いておいた方がいいな。

 そうなると被害を受けたラッキーも一緒に聞いて欲しいのだが。


「へぇ。 ハグレって魔物だったんだぁ。 あの時のは冗談だったんだけどなぁ」


 と呆けてしまっているので今はそっとしておいた方がいいだろう。

 彼にはこの僅かな時間で色々起きすぎている。

 少し休ませておこう。

 ......それにしても当てずっぽうがピンポイントで正解となは。

 とんだ『幸運』だ。


 ◇◆◇


 その後レナと二人でハグレの話を聞いたが、

 正直有益な情報は得られなかった。

 まぁそれは仕方ない。

 いくら言葉を話せるとはいえコイツはスライムだ。

 分かる事には限界があるだろう。


 しかしそうなってくると益々分からない。


 その能力や正体についてはまだ仕方ないが、

 何故俺たちが狙われたのだろうか。

 と言うよりも、 狙ったのは......。


「あれは僕を殺そうとしてたね」


 後ろから声がしたので振り向く。

 そこには渋い顔をしたラッキーがいた。

 まだ混乱しているようだが、 とりあえず落ち着いてきたようだ。

 しかし彼を狙っているとは。


「何度かあるんだ。 前にも話しただろ? 御家騒動さ。 僕がいなくなれば都合のいい人間は多いからね」


 さらっとすごい事を言いやがる。

 流石に苦笑しているが。


 そう言えば前に聞いた事があった。

 彼の家、 イズベルタ家は貴族で、 色々と面倒臭いようだ。

 確かラッキー生まれは分家で、 本家はもう存在しない筈だ。


 彼の話によれば、

 本家がなくなっても分家同士の争いは続いてるらしい。

 今はラッキーの家が一番権力を持っており、

 実権は弟が握ってるらしいが家長はラッキーのまま、

 その彼が消えればいい思いをする人間も多いそうだ。

 それで何度も暗殺されかけてるらしい。

 まぁ毎回『幸運』のおかげで大事はないようだが。


「今回は少し危なかったけど、 君たちのおかげで何とかなったよ。 ありがとう。 僕ってやっぱりツイてるぅ!

 」


 そうラッキーは実に楽しそうに笑っていた。

 慣れてるのもあるだろうし、

 何より暗殺が失敗した事が嬉しくて堪らないんだろう。

 依頼した人物の悔しそうな顔を想像してるに違いない。

 付き合いは短いが、 コイツはそういう人間だって分かってる。


 しかし、 暗殺か。

 コイツは案外、 俺たちの知らない世界で生きてるんだな。

 冒険者の事もそうだが、

 俺なら一生慣れる事なんてなさそうだが。


「それで、 傷は大丈夫なの? なんか凄い攻撃受けてたよね? 」


 そんな事を考えてると、 レナが心配そうな顔をしていた。

 それに対しラッキーは、 「大丈夫大丈夫」と軽く答えていた。


 ......。

 なんだろうな。

 そのやり取りを見てるとどうにもむず痒い。


 この二人はなんだかんだ言って仲がいい。

 俺の無茶ぶりをよく受けているからか、 その点で気が合うようだ。

 二人でいる所をよく見掛ける。


 なんだろうな。

 それは別にいいんだけどさ。

 傷だって俺の魔術で治した訳だし。

 それぐらい分かりそうなものだが。


 今も楽しそうに喋ってるし。

 なんだか妬けてくるな。



 ......妬ける?

 嫉妬? ヤキモチ?

 なんで?



 仲間なんだから心配するのも楽しく話すのも当たり前だろう。

 なんで嫉妬なんかしてるんだ俺は。


 ああ、 そうか。

 初めての、 唯一の友達を取らせそうだからか。

 本当に中身も子供だな、 俺は。


「......ブル! ライブル! 聞いてるかい? 」

「あ、 ごめん。 なんだっけ」


 変な事に意識を持っていかれてた。

 話を聞いてなかったな。

 こっちに集中しなければ。


「あの黒ローブ、 何か言ってたよね? 魔術師の君なら分かるかい? 」


 ふむ、 あの言葉か。


「『アンラッキー・ラック』そう言ってたよ」

「......それは魔言語? 意味は分かる? 」


 ラッキーの表情が真剣な物に変わる。

 これは俺を試しているのか?

 いくら魔術師と言えど、 簡単に魔言語の意味が分かってしまってはまずいだろうか。

『転生者』と疑われたくはない。

 まぁ分かったところでどんな被害を被るのか、 まだ体験した訳じゃないがな。

 しかし先生の言葉を守った方がいいだろう。

 レナにバレて変に距離を置かれても嫌だしな。


 ......なんでレナの事を今考えた?


 いや待て落ち着け。

 何を過敏になってるんだ。

 レナは友達で失いたくない。

 だからどう思われるか分からない『転生者』だと思われたくない、 それだけだろう。


 それにラッキーがそれを疑ってるとは限らない。

 これは単に興味があるんだろう。

 きっとそうだ。

 だから俺が答えを迷う必要がない。

 仲間ならちゃんと答えてやるべきだ。


 また何だか分からない思考に囚われたが、 何とか気持ちが纏まる。

 正直に答えよう。


『アンラッキー・ラック』。

 直訳するなら、 「不運な幸運」って感じだろう。

 何か文法的な何かがあるのかもしれないが、 俺は英語に疎い。

 高等魔術を生み出すときに簡単な単語を出せるぐらいの知識しかないのだ。


 でもま、 今回はそういう事は関係なさそうだな。

 何故なら答えは目の前にある。


「『不運のラック』。 そういう意味だよ」


 そう、 ラッキーの事だ。

 彼の冒険者の通り名。

 その『幸運』に嫉妬した他の冒険者がつけた忌み名だ。

 つまりは。


「ハッ! 皮肉か」


 そういう事だ。


 流石のラッキーも苦笑では済まず、 不機嫌な表情になった。

 俺が言い出した訳じゃないが何だか申し訳ない。

 けど、 そんな事も簡単に吹き飛ばしてしまうのがこの男だ。


「でも残念だったね! 僕はこの通り相変わらずの『幸運』さ! 仲間のおかげで命拾いしたし! 少し気持ち悪いけど、 馬だと思ってたのがスライムで、 そいつが変身して空まで飛んでる! これまた『ドラゴン』の背中だと思うとさらに気持ち悪いけど、 空を飛ぶのはいい気分だ! こんな僕が不運な訳ないよね? 本当に人に嫉妬する奴らは情けなくていけない!」


 ほら見ろ。

 たっぷりの嫌味と共に満面の笑みを浮かべてるじゃないか。


 おまけにこんな不安定な翼竜の背中で、

 立ち上がり、 踊るようにクルクル回っている。

 落ちる事なんて気にせず、 端っこギリギリで。

 こんなの『幸運』の祝福持ちのラッキーじゃないと......。



「あ」


「「え? 」」



 目を疑った。

 そこにいたラッキーの姿が、

 情けない声を残して消えたのだ。


 つまり、


 落ちた。



 ◇◆◇


 あの後ラッキーは直ぐに救出された。

 ハグレが拾ってくれたのだ。


 しかしこう、 色々とタイミングが悪かった。


 以外と落下スピードが速く、 ギリギリだった。

 翼竜の背中から落ちたショックでラッキーが気絶したからかもしれない。

 動かなかった為に空気抵抗が最小限になってしまったんだろう。


 だから背中で受け止めるとかの余裕はなく、

 ハグレが口で捕まえた。

 まるで獲物を狩るように。


 馬車?

 人命優先なので口から離したよ。

 そしたら地面に落ちてバラバラ。

 仕方のない事だが。


 まぁそこまではよかった。

 馬車は壊れたがラッキーは助けられたのだから。

 しかし口で受けたのが悪かった。


 ハグレが加減を間違えたのか、

 それとも咥えられた衝撃で覚醒したラッキーが驚き抵抗したからか、

 もしくはそのどちらもか。

 彼の肋骨が折れてしまったのだ。


 当然俺は『キュア』を掛けようとした。

 しかし出来なかった。

 魔術を使おうとすると目が反応して頭痛が起きてしまったのだ。

 黒ローブの大きな目を見た時のように。

 理由は、 分からない。


 黒ローブから逃げるのに魔力を使い切ったのだろうか。

 いやそれなら目や頭にだけ影響が出る訳がない。

 それにあの時は『アブソープション』を使い奴から魔力を戴いた。

 魔力切れなんか起きる筈がない。


 なら考えられるのは一つだ。

 あの目、 あの目が俺に影響を与えた。


 今じゃ魔術を使おうとすると反応し、 頭痛がする。

 困ったものだ。


 ......いや、 俺の話はいい。


 とにかくラッキーの治療が出来なかった。

 だから近くの村に向かった。


 王都に向かってもよかったが、

 慣れない場所に向かうよりも、

 一度滞在した街の方が勝手が分かるからだ。

 そこでラッキーを医者に見せた。


 この世界では、 回復魔術を使えるものは多くないようだ。

 原初魔術でも基本魔術でも傷を癒すものがないからだ。

 高等魔術を扱えなくては回復が出来ない。

「不運」な事に、 その街にはそれだけの魔術師は常駐していなかった。

 だから医者に見せた。


 診断は全治三ヶ月。

 別に時間をかけて治してもよかったが、 俺たちは他の方法を模索した。

 仲間の傷が早く治るならそれに越した事なはい。


 方法は限られている。

 回復の高等魔術を使える魔術師を探すしかなかった。

「幸運」にもそれ自体には困らなかった。

 常駐の魔術師はいなかったが、 冒険者がいた。

 魔物相手に戦う彼らの中には、 回復を扱える魔術師もいたのだ。

 何人も候補がいた。


 しかし、 誰も協力してくれる者はいなかった。

「不運」な事に、 その全員がラッキーと以前関わりがあり、

 同様に『幸運』による被害を受けた者たちばかりだったのだ。


 その辺りから違和感があった。

 ラッキーを助けようとすると、

 ラッキーに都合の悪い事ばかりが起きた。

 正直自業自得なところも大きい。

 それにしても重なり過ぎだ。

 しかし俺たちが諦めなかった。


 俺たちが彼の回復方法を探してる間、 ラッキーは宿で療養してもらっていた。

 毎日必ず顔を見せに行くが、 彼はあまり話さなくなっていた。

 肋骨が痛いのもあるだろうが、 それだけではなさそうだ。

 何かを考え込み、 悩んでるように見えた。

 話を聞こうとしたが、 何も教えてはくれなかった。


 そして滞在から一ヶ月が過ぎようとした時、

 俺たちが何も成果を上げられずにいたその時、

 ラッキーは、 意を決したように俺たちに告げた。



「『幸運』の祝福が、 なくなっているかもしれない」



 それを聞いた時、 ある言葉が頭を過った。


不運のラック(アンラッキー・ラック)


 あれは、 呪いの言葉だったのだ。




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