第32項 「怪獣好き、 濁される」
俺たちはリトナを旅立った。
出る時はそれはもう盛大な見送りをされた。
俺たちはゴブリンから村を救い、 住民を取り返した。
そして近くに温泉を掘り当て村に寄贈した。
今では英雄扱いだ。
そうなっても仕方がないだろう。
◇◆◇
旅立つ時、
村人が俺たちの周りには集まって来た。
レナの周りには沢山の女性や子供たち。
見覚えがある。
ゴブリンから助け出した人たちだ。
きっと同じ環境で苦楽を共にし仲良くなったんだろう。
村に滞在している間、 レナがよく会いに言っていたのを覚えている。
レナの話によれば、
平人へのトラウマを乗り越えられたは彼女らのおかげらしい。
話してる感じや見ている限りそれ以上に何か影響を受けたようにも見えるが、 レナ本人がそう言うのだからそういう事にしておこう。
それにしても大人気だ。
少し恰幅のいい女性を中心に何やら楽しげに話している。
子供の中では別れを惜しんで泣いてる者もいた。
良かったなレナ。
この村に来た事や、
ゴブリンに捕まった恐怖には、
きっと意味があったんだろう。
ラッキーの近くには村の重役たちが集まっていた。
ゴブリン討伐、 温泉の掘り当て、
どちらも彼の功績だ。
そりゃ村の偉い人たちも頭が上がらないだろう。
あ、 金を渡されてる。
そしてなんの躊躇もなく受けとってる。
いいのかあれは。
まぁ最終的にこうなるのは彼の『幸運』の効果なんだろう。
それにきっとこれからこの村は温泉宿として、 収入が増えるだろう。
パッと見相当貰ってるように見えるが、
きっと彼らにとっては先行投資みたいなものなんだろう。
ソイツにいくら金を積んでも意味がない気がするけどな。
でもま、 あのラッキーが他人の役に立っているなら微笑ましい事である。
そんな二人を見ながらニコニコしていると、 ある事に気づいた。
俺の周り、 誰もいなくない?
近くにあるのは馬車と、
そしてそれを引く為に馬になっているハグレだけ。
当然話しかけてはくれない。
村の人に正体がバレたらまずいからな。
だから、 彼? 彼女? には話しかけられない。
しかし心做しか哀れな者を見るような視線を感じる。
止めてくれ、 悲しくなるから。
確かに俺は何もしてない。
ゴブリンをどうにかして住民を助けたのはラッキーだ。
そして温泉を掘り当てたのもラッキーだ。
俺はほぼ見てただけだ。
アンデッドの時はそこそこ活躍したと思うが、
そんな事は村人にとってはどうでもいい話だ。
アンデッドに寄る村への被害はなかったからな。
ヤツらをどうにかした所で何も変わらないのだ。
それにアレは俺のワガママの産物だ。
その時だって観察しただけでほぼ何もしていない。
そして何かしてた所で、
被害を受けてない村にとっては関係のない話なのである。
虚しい。
俺は何の為に何をしていたのか。
いやいい、 いいんだ。
そもそも魔物図鑑などこの世界では異端の所業。
最初から孤高の戦いなんだ。
別に誰に評価なんてされなくてもいいのである。
......まぁ魔物図鑑どうこうの前に俺の周りには人がいない訳だが。
ここが他人とコミュニケーションを普通に取れる二人と俺の違いだろう。
別に、 別にいいんだからね!
そんな風に少し拗ねていると、 一人と人物が近寄って来た。
宿屋の主人だ。
何だか険しい顔をしている。
もしかしてて今までの宿代を請求されるのか?
そう勘繰っていると、
「達者でな! 」
そう一言。
そしてその目からは涙が溢れ、
それでも強がるように二カリと笑い、
親指を立てていた。
ああ、 この人は俺の旅立ちを寂しがってくれるのか。
そう言えばこの村で、
俺がまともにコミュニケーションを取り続けてたのはこの人だけだったな。
何やらいつの間にか、 奇妙な関係性を築けていたようだ。
そう思うと何だか目頭が熱くなった。
そしてそのまま無言で抱き合う。
俺たちの友情は永遠に不滅だと言わんばかりに。
ありがとう、 ありがとう。
そんな俺たちをハグレが哀れんだ目で見てたような気がするが、 きっと気のせいだろう。
◇◆◇
こうして俺たちはリトナを旅立った。
◇◆◇
それからの旅は順調だった。
基本王都迄は街道を進むだけだ。
ビヨルフの英雄譚にある通り、 そこまでほぼ平原しかない。
馬車さえあればなんの苦労もなく旅が出来る訳である。
勿論、 途中で何もなかった訳じゃない。
立ち寄った町や村では様々な出来事があった。
例えば、
レナが鱗人だから絡まれたりもした。
平人が必要以上に俺たちに突っかかって来たのだ。
ラッキーは、 「当然の事だから」と止めようともしない。
しかし俺はレナに対してそんな扱いをしてくる奴らを許せなかった。
でも行く先々でトラブルを起こす訳にはいかない。
だからどうするべきか何度も悩んだ。
でもそんな悩みを跳ね飛ばすように、
レナは絡んできた奴らを返り討ちにした。
おいおい。
慣れてるから気にしないんじゃなかったのか?
そんな事も何度も思った。
そしてトラブルが起きないかハラハラした。
けど大体は、
そんな事を吹っ掛けて来る奴は厄介者で、 それに対処してくれたからと感謝された。
勿論、 厄介者じゃなくてもレナを差別する人間もいたが、 最早本当に彼女はそれを気にしてないようだった。
この短期間で本当に成長したな。
戦闘面に関してもそうだ。
彼女はどんどん槍尻尾を使いこなせるようになっている。
まぁこれはいいんだが。
それは普段の生活にも影響が出てきた。
今じゃ街中でも槍を腰から引きずって歩いているのだ。
当然布などで隠してはいるが。
こんな感じで最近は大胆になっているレナだが、
果たしてこれでいいんだろうか。
彼女の尻尾を失わせてしまったのは俺だ。
だから俺には何も言う資格はない。
でも「団」の団長としてはきちんと何か言っておくべきなのだろうか。
しかし何を言う?
注意? 何もトラブルを起こしていないのに?
いや正確にはトラブルはあるんだがレナ発信のものはない。
なら何を言えばいいんだ。
調子に乗らない方がいいとか?
何様な言い方なんだ。
トラブルは避けるべきだ。
でもレナに対する理不尽な批判はムカつくし、 それに対して彼女が抵抗するのは当たり前だ。
しかしやり過ぎな所はあるし、 少し謙虚さに欠ける。
これではレナ自身や鱗人への印象がさらに悪くなってしまうのではないだろうか。
これの落とし所をどうするか。
それが今後の課題なのかもしれない。
ラッキーに関しても相変わらずだ。
持ち前の『幸運』でいい物を招き入れてくれる。
主に金だ。
おかげで旅の資金には困らなかった。
しかし彼のおかげでもたらされるいい物は結果だ。
結果に行き着く為には必ず過程が存在する。
それがいい流れのものなら構わないのだが、 大抵がトラブルだった。
これには頭を悩ませる。
例を上げるならこうだ。
酒場でラッキーが失礼な発言をして、 他の冒険者に絡まれた。
しかし実はそいつらは盗っ人で、 レナが叩きのめすと報奨金が貰えた。
こんな出来事だ。
これだけ聞けばただ運が良かったという話で終わるだろう。
だがそれだけでは済まないのが世の中だ。
まずラッキーは他の冒険者に圧倒的に嫌われている。
恐らくその『幸運』で手柄を独り占めされたりするのだろう。
だから絡まれるのはラッキーのせいだし、 更に失礼な事まで言うのだから目も当てられない。
そのお陰で一緒にいる俺たちまで変な目で見られる。
まぁほぼ逆恨みなんだが、 それを煽るようなラッキーの態度は宜しくない。
百歩譲ってそれは良しとしよう。
問題はその後だ。
絡まれるまではいい。
謝るなり流すなりして穏便に済ませればいい。
しかしこっちはやり返してる訳だ。
レナと言う好戦的なカゲト族が。
ほぼ一方的に。
まぁ相手も情けないと思う。
レナのようなほぼ素人に毛が生えた程度の人間にやられてしまうのは、 世界を旅し魔物相手に戦う冒険者としてはどうなのだろう。
しかしそういう問題ではない。
トラブルを起こし、 それを大きくしている。
そこが重要なのだ。
勿論、 絡んできた奴らをよく思ってなかった人間には感謝されるだろう。
結果的にプラスに傾いた事の方が多い。
しかし過程を見れば、 俺たちは荒くれ者と変わらない。
実際冒険者の集まる場所では殺気に似た視線を向けられる事が多くなった。
これでは旅にも影響が出るだろう。
ラッキーの言動や行動。
これをどうするか。
やはり今後の課題になるだろう。
とまぁこんな感じで、 行く先々では何かしらあった。
正直頭を抱える事が多かったが、 悪い事ばかりではない。
今後の課題が見えてきたのだ。
まずこの団においてのルールを明確にしておくべきだろう。
今は「人間に手を出していない魔物は殺さない」くらいしかない。
別に俺たちは本当の冒険者じゃないし、 正式な団という訳でもない。
だから各自自由にすればいいのだが、 自由過ぎるのも困りものだ。
こうして俺は団の掟を作った。
1、 人間に手を出していない魔物は殺さない。
2、 不要な厄介事はさける。
3、 こちらから喧嘩や売り言葉をふっかけない。
こんな感じだ。
二人は面倒くさそうにしていたが、 何とか納得して貰えた。
何だかんだ言って話せば分かってくれるのだ。
きっと今後も何かしら問題は出てくる。
その時だってまた話せばいい。
それだけの事だ。
まぁ正直な話、 この問題はさほど重たいものと考えていない。
そりゃその度に胃が痛くなるし頭を抱える。
けど、 こう言っていいのが正しいか分からないが、
楽しいのだ。
俺は今まで他人とあまり関わらなかった。
前世でも、 今世でも。
勿論この世界に生まれ変わってからはマシになった。
しかしそれでも、 他人と関わりを持ったのは最低限だ。
父、 先生、 レナ。
その他の街の住人との交流なんて微々たるものだ。
それを今やどうだろう。
ラッキー、 旅先々で出会う人。
そして魔物ではあるがハグレ。
そんな多くの人々と関われてる。
確かに問題も起きる。
上手くいかない事も多い。
それもでも、 俺は今の状態が楽しかった。
旅に出てよかった、 そう思えるくらいだ。
起きる問題も一つ一つ解決すればいい。
自分で考えつかなきゃ二人やハグレに相談すればいい。
そういった流れすら楽しいのだ。
前世では味わえなかったもの。
一人では決して起こり得なかったもの。
それらを経験出来ている俺は本当に幸せ者だ。
毎日が充実していると言える。
胸を張って言える。
だからこの旅は、 きっとこの先も楽しいものになるだろう。
楽しくない時もあるだろうがな。
例えそれが短い期間だとしても、 俺はそれが嬉しくて堪らなかった。
ただ一つ納得出来ない事があるとすれば、
俺自身が、 何一つ成長できていない事だ。
◇◆◇
そんな事を考えながら旅をしているうちに、
気づけば二週間が経った。
モォトフを出てから一ヶ月。
本当なら王都に着いてる頃である。
まぁ最初の二週間でタイムロスがあった訳だが、
それを除いたとしても今は旅路の3分の一程度。
かなり日程が遅れている。
まぁその理由は分かっている。
俺は、 その原因となる作業を中断して背伸びをした。
今は宿の自室の中。
机に向かい、 ペンを持っている。
「......はぁ」
思わずため息が出た。
なんか宿ではため息ばかりついてるな俺は。
まぁそんな事はどうでもいい。
「だいぶ増えたな」
ポツリと呟く。
そして同時に顔がニヤける。
机に向かっていたのはとある作業の為。
それは当然『魔物図鑑』の作成作業だ。
前に書いたものに加え新たに二体。
その情報を纏めていた所だった。
正直嬉しい事だ。
魔物図鑑のページが増えて行く事は幸せでしかない。
しかし、 しかしだ。
その俺の幸せが旅を遅らせているのだ。
原因はまぁそのままだ。
俺が新たな魔物を見つける為に、
研究と称して観察の為にその近くに滞在してしまうからだ。
まぁ片方はリトナの時のように人助けのついでではあるのだが、
俺の中では魔物観察が優先になってしまっていたので同じだろう。
正直胸を張って正しい事をしてるとは言えない。
まぁそれはいい。
俺は自分の夢の為に、 好きなものの為に、
ワガママを突き通すと決めた。
自分を抑えないと決めたのだ。
そのおかげで新しい魔物を見つけ、 怪獣に似てると分かった途端奇声を上げるようになったし、
その度に二人に渋い顔をされたり引かれたりするようになったが、
それもいい。
魔物図鑑のページが増える事も嬉しい。
達成感がある。
それも当然いい。
いいのだが。
果たしてこのままでいいのだろうか。
それが俺の今の一番の悩みだった。
正直な話、 俺は何もしていない。
全ては二人に任せっきりなのだ。
俺は魔物を観察をしている時、 本当に観察しているだけだ。
戦闘の必要があれば戦うのは二人である。
勿論俺だってサポートはするが、 相変わらず魔物を傷つける事に躊躇がある。
殺すどころか傷つける事にもだ。
傷つける度にこう、 心が抉られるような感覚がある。
それが戦闘で俺を役立たずにしているのだ。
しかもその感覚が日に日に増しているような気がする。
今の俺は、 避けるだけのラッキーよりも何もしていないのである。
それだけじゃない。
二人は戦闘以外でも何かと頑張ってくれている。
それが意識的であれそうでないであれだ。
確かに二人はよくトラブルを持ち込んでくる。
けどそれを必ず解決し、 プラスの方向に持っていく。
けど俺はどうだろうか。
トラブルを持ち込まないが何も生み出さない。
それを避ける事ばかり考えてるし、
何か起こった時も解決するのは二人だ。
俺は何もしていないのである。
つまり、 つまりだ。
二人はこの旅の中で、
成長したり自分の役割を全うしてくれている。
でも俺は何もしていない。
そして何も出来る事が増えてない。
成長していないのだ。
負担を二人ばかりに押し付けて、
俺は好きな事をしているだけ。
これは良くない事だと思う。
しかしどうしたらいいのか。
俺は俺なりにリーダーとしての役割を全うしようとしている。
しかし実際には何をすればいいか分からないし、
俺がいなくとも二人は自分で考えて行動出来る。
俺という存在は必要なんだろうか。
俺がいなければもっと上手くやるんじゃないだろうか。
そんな事ばかり考えてしまう。
この旅が二人中心のものならそれでいいだろう。
役立たずでオマケの俺が消えるだけでいい。
しかしこれは俺の旅だ。
二人はそれに付き合ってくれてるに過ぎないんだから。
勿論二人もそれぞれに目的がある旅なのは間違いない。
けど今やってる事は俺の尻拭いだ。
迷惑しかかけてない。
ならどうべきか。
俺がもっと一人でなんでも出来なくてはいけないんだ。
団長として恥ずかしくないくらいに。
しかし、 その為にはどうすればいいのか......。
「なぁにやってんのぉ? 」
そんな事を考えていると、 後ろから声を掛けられた。
というか、 後ろから抱き着かれた。
抱き着かれたというか纏まりつかれた。
レナはこんな事はしない。
当然ハグレもしない。
なら誰か。
「お、 結構すすんでるじゃないか」
ラッキーだ。
彼は最近ことある事に俺の部屋に来る。
そしてこんな感じ絡んでくるのだ。
だからいつもの事。
今更驚いたりはしない。
しかし距離が近いな。
こう、 友人付き合いみたいなものがなかった俺にとってはこの距離が正しいのか分からない。
陽気なクラスメイトやどうりょうたちはこんな風に話してたりもしていたような気もするが。
それでもこんなに近かっただろうか。
驚かなくなったが慣れはしない。
「近いよ。 離れて」
この返しは慣れたものだ。
それを聞いたラッキーは、 「はいはい」といった感じで距離を置く。
それにしても相変わらずノリが軽い。
「それで? 何か用? 」
若干言葉に棘が出てしまう。
当たるつもりはないが、 こうも悩みがなさそうな態度を見せられると苛立ちもしてしまうというものだ。
その問いに対し、 ラッキーは当然のように「特に。 暇だから」と返してくる。
それがまた苛立ちを助長させる。
まぁこういったコミユニケーション自体は嬉しいものなんだけど、 タイミングというものがある。
「そういう君はどうなんだい? 誰かに話を聞いてもらいたいって顔してるけど? 」
どんな顔だそれ。
......しかし本当に腹立たしい。
確かにこのまま一人で考えていても何も解決しない。
いつもならさっさと誰かに相談していたところだろう。
けど今さっき「一人でなんでも出来なければ」と考えていたところだ。
誰かに気軽に相談なんか相談なんか出来る訳がない。
だが、 確かにこのままじゃ平行線だ。
一人で何でも出来るようになりたくてもその方法が分からない。
ならそうなるのは相談してからでも遅くない気がしてきた。
結局、 俺はラッキーに悩みを話した。
茶化されるかと思ったが、 意外にも彼は真剣に話を聞いてくれた。
無言で俺の愚痴まじりの弱音に相槌を打ってくれたのだ。
いや、 意外だなんて失礼だな。
コイツは旅もこの世界で生きた年月も先輩なんだ。
しかも常識を学んで回っている。
いつもが破天荒すぎるだけでこういった面も持ち合わせていても不思議じゃないんだから。
「相変わらず君は面白いなぁ。 何を悩んでるかと思えば馬鹿みたいだ」
......。
やっぱりコイツはムカつくな。
「聞いてくれてありがとう。 悪いけど作業に戻るから」
俺はラッキーに話をした事を後悔しつつ、 机に向き直った。
時間の無駄だったな。
そう思ったのだが。
「さっきの話、 何がいけないんだい? 」
彼は無理矢理話を続けてきた。
気になる言葉とともに。
「......どういう意味? 」
「そのままの意味さ」
どんな意味だ。
焦らさないで欲しい。
「ねぇ、 適材適所って言葉知ってる? 」
馬鹿にしているのか。
「君のさっきの話からして知らないよね? 」
何でそうなる。
「君は何でも自分で出来るようになりたい。 それって適材適所と反対の事をしようとしているからね。 つまり団長は、 この団が必要ないって訳だ。 自分で何でも出来ると」
「違う! そうじゃない! 」
思わず叫んでしまった。
どうしてこうも煽るのが上手いんだコイツは。
「何が違う? 」
聞かれるともう止まらなかった。
「今の俺たちの状態は適材適所とは違うだろ! 俺が二人の足を引っ張ってる! 俺は自分のワガママを二人に押し付けているだけだ! 自分で何でも出来る訳なんてない! 出来ないから二人に頼って......」
「はい、 そういう事」
しかし途中で言葉を遮られた。
訳も分からず声が出ない。
続けて出そうとした声の息だけ洩れて変な呼吸になる。
だから咳き込みそうになった。
「もう分かってるじゃないか」
ラッキーはそんな事なんて構わない。
また訳の分からない事を言ってきた。
「出来ない事を他の人に頼る。 これが適材適者。 それの何がいけないの? 」
「だから! 俺は頼る事はしても何も二人に返せてないから......」
「......はぁーー」
これでは堂々巡りだ。
そう頭を過ったところで、
ラッキーの口からため息が洩れた。
「ホント、 君って面白いね。 頭がいいんだか悪いんだか分からないや」
そしてそう言いながら俺に背を向け、 部屋から出ようとしている。
......おいおい! ここまでしてそれか?
「待てよ! 答えを知ってるなら教えくれ......」
「嫌だね」
止めようと肩を掴むと、 ハッキリ言われた。
そして振り向いたその表情は、
見た事ないくらいに、
冷たかった。
「その答えを見つけるのを、 この旅の目的の一つにでもしなよ」
だがすぐにいつもの胡散臭い笑顔に戻って、
ヒラヒラと手を振って出て行ったのだった。
「......本当に、 まっぴらごめんだね。 君みたいになるなんて」
「え? 」
最後に何か言ったが聞き取れなかった。
聞き返した時には、 そこには誰もいなかった。
◇◆◇
こうして、 モヤモヤしながら旅が続いた。
そして答えを見つけられないままあっという間に日々は過ぎ、
更に二週間が経ち、
俺たちは、 王都にたどり着こうとしていた。
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