表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/61

番外編 「怪獣好きと白き日」(ホワイトデー番外編)

あらすじ:異世界でのホワイトデーはこうでした。

 


 あれはいつの頃だろうか。

 そうだ、 俺がまだ実家にいた時だ。


 ◇◆◇


 とある年。

 冬の名残もなくなり、 春が山を彩り始めた頃。

 モードがある日急に語り出したんだ。



「東の大陸には、 『白き日』というものがある。

 そしてその日にしか現れない魔物がいる」



 夕食後の唐突な話題に俺は目が点になった。


 モードは普段、 魔物の話しをしない。

 特に俺に対しては絶対と言っていい程しない。

 そんな彼が魔物の話しをしてきたのだ、 驚きもする。


 何故その話しを。

 何故このタイミングで。


 俺の頭はあまりの事で混乱してしまった。

 その様子を見たモードがハッとする。


「......今のは聞かなかった事にしろ」


 そして我に返ったようにそう言った。

 おいおい、 それはないだろ。


 ついさっきまで混乱していた俺だが、

 その意識はすぐにその話に向いていた。


 あのモードが魔物の話しをしてきたのもそうだが、

 それよりもその特定の日にしか現れない魔物について興味津々だったのである。


 だから俺は詳しく話すように懇願した。

 途中、 しつこくし過ぎたせいで殴られもしたし、

「聞いたら後悔する」とも言われたが、

 最後に子供の武器、 タダをこねる事で説き伏せた。

 相変わらず子供に弱いなコイツ。


 モードは渋々語る。

 それは涙無しでは聞けない話だった。


 ◇◆◇


 東大陸のある地域には、 『赤き日』というものがある。

 まだ冬が明けきらない季節、

 ちょうど『白き日』の一ヶ月前に当たる日だ。


『白き日』の話しをする為には、 『赤き日』が切っても切れないらしい。



『赤き日』。

 それはその地域の人間に取っては重要な一日だ。

 別名を『愛の日』と言う。


 その地域では自由な恋愛を許されていない。

 結婚相手は親が決める掟があるらしい。

 それを破った者は殺されるか、 一生異性に触れられない身体にされると言う。

 恐ろしい風習だ。


 しかし年に一度だけ、 己が心に決めた相手に愛を伝えられる日がある。

 それが『赤き日』だ。

 この日に想いを伝え、 結ばれた二人だけは、

 掟を無視し結婚する事が許されていた。


 だがそれには条件があった。

 以下の通りだ。


 ・告白は女性からしか出来ない。

 ・告白する場合、 贈り物をしなければならない。

 ・告白する相手は一人だけ。

 ・男はその返答に関わらず、 贈り物を受け取らなければならない。


 つまりは愛の告白は女性からしか出来ず、

 その際には贈り物をしなければいけないらしい。


 そして重要なのはその贈り物だ。


 男はこの日、 女性からの告白と贈り物を拒否する事は出来ない。

 当然モテる人間は複数人から貰える事だろう。

 しかし男も選べる女性は一人だ。


 男からも好いている女性から告白を受ければ何も問題はないだろうが、 そうは上手くいかない。

 特に好きでもない複数人の相手から告白される場合もあるだらう。

 その時に重要なのが、 贈り物なのだ。

 男は贈り物によって相手を選ぶのである。


 そこで女性たちは、 他人よりもいい贈り物を渡そうと躍起になる。

 自分が選ばれる為に。


 こうして女性は、 自分の渡せる最大限の贈り物とともに告白をし、 返事を待つ。

 返事は即日には貰えない、 そういう決まりだ。

 そしてその男が返事をする日こそ、 『白き日』なのである。


 返事としてその日は男から贈り物をする。

 それが婚約の証となるのだ。


 これが、 『赤き日』と『白き日』である。


 ◇◆◇


 ここまでモードは淡々と語っていた。


 ......まぁ正直そっちの話はあまり興味がない。

 俺が知りたいのは『白き日』に出る魔物の方だ。

 一応魔物の事を知る上で重要らしいから聞いてはいるが、

 早く本題に入って欲しいものだ。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、 モードは続きを語り始めた。

 何故か次第に熱を上げながら。


 ちなみにこの時は涙は一滴も流れてなかった。


 ◇◆◇


 先程の話しの続きになるが、

『白き日』には裏の顔がある。


 一見、 掟を超えた素晴らしい日に見えるが、

 その影では多くの人間が泣いているのだ。


 返事を貰えなかった女性か?

 それは、 否、 である。


 今回失敗したなら次の年がある。

 別の男に告白すればいいのだ。

『赤き日』がある限り女性にはチャンスがある。

 そして仮にそのチャンスをものに出来なくても、 親がいい相手を見つけてくれる。

 だから女性にはあまり損はなかった。


 ならば男か?

 それも一部、 否、 である。


 モテる男に取ってこの日は最高の日だ。

 好いていない相手から告白される事、

 複数人から一人だけ選ばなくてはいけない事、

 苦しいのはそのくらいだろう。


 では本当に涙を流しているのは誰か。

 それは、 モテない男である。


 どの世界でも女性に見向きもされない男は存在するのだ。

 そしてそんな男に限っていい縁談が訪れない。


 つまりは、 『赤き日』『白き日』だろうとそうでなかろうと、

 その地域に住むモテない男は涙を流し続けるのだ。


 そんな男が『赤き日』を迎えればどうなる?

 僅かに期待するかもしれない。

 最初から諦めるかもしれない。

 何にせよその日にその男たちに幸せは訪れない。


 そしてそんな状態で『白き日』を迎えるとどうなる?

 その男たちにとっては最悪の日になるのだ。

 嫉妬に狂う者もいるだろう。

 女を奪おうとする者もいるだろう。

 そしてその結果毎年死ぬ男もいる。

 だから『白き日』は、

 別名『黒き日』とも呼ばれているのだ。



 さて話しを戻そう。

『白き日』にだけ現れる魔物。

 それはそんなモテない男たちの怨念が産んだ存在と言われている。


 事実は分からない。

 しかしそれは確実に存在し、

 幸せになった男たちを殺し、

 幸せになった女たちを攫うと言うのだ。


 もし怨念と言うのが本当なのだとしたら、 それは嫉妬が起こさせる行動だ。

 他人の幸せを祝福出来ない男たちの執念だ。

 誰もがそれを恐れるが、

 誰もがそれを軽視しない。

 特に男たちはその魔物を決して邪険に扱う事はなかった。


 だから男たちは、 総出でその魔物を殺す。

 これは男が産んだ罪の象徴であると、

 女を守る為に殺す。


 せめて男の悲しみは男の手でと。

 女には分からないだろうこの気持ち、 俺たちが受け止めてやると。

 そこまでが『白き日』の恒例行事なのだ。


 そしてそれを乗り越えた男たちは女の元に帰る。

 倒したモテない男の執念に、

 お前の分まで幸せになると決意するように。


 それでも『白き日』は来年もやってくる。

 殺しても、 魔物は毎年やってくる。


 こうして魔物は、

 怨念になったモテない男たちは、

 幸せになった男たちの手で浄化されるのだ。


 ◇◆◇


「それ、 が! 『白き日』と、 魔物の! 話だ! 」

「ひぐっ! ううっ! そんなものが、 あってたまるか! 」


 話が終わる頃には俺たちは泣いていた。

 何故だか涙が止まらなかった。


 俺は全然での恋愛経験は0に等しい。

 それでも、 怨念となったモテない男たちの気持ちが分かってしまった。

 頭の中では全く理解出来ていない。

 しかし魂に刻みつけられたのである。

 一体何が起こっているというのか。


 モードの話によれば、

 これこそが『白き日』の魔物の恐ろしい所なのだという。

 奴の話しを聞いた者は必ず涙してしまうという。

 しかも男に限って。

 実に恐ろしい話だ。


 だが奴の恐ろしさはそれだけに留まらない。


「この話を聞いた男は、 毎年この日この季節になるとその存在を思い出し、 誰かに話したくなる」

「え? 」


 この日この季節。

『白き日』だ。

 つまりこの話しは、 まるで伝染病のように広がっていくのだ。

 この世界の男たちに。

 実に恐ろしい話だ。


「だから、 聞いたら後悔すると言ったんだ」


 悪びれる様子のないモードを腹立たしく思うも、 俺は彼を責める事は出来なかった。

 寧ろ知った事に感謝すべきなのかもしれない。

 悲しい男の、

 悲しい怨念の、

 悲しい魔物の存在を。


 こうして話は終わった。

 俺は何も後悔してはいなかった。


 ◇◆◇


 その日の夜、 俺は悪夢を見た。

 夢の中に『白き日』の魔物が現れたのだ。

 奴はこう恨めしそうに囁いていた。


「愛をくれー」

「贈り物をくれー」

「うらめしいー」

「女に好かれる男がうらめしいー」

「男は俺の話しをしろー」

「永遠に語り継げー」

「不幸を共有しろー」

「俺に同情しろー」

「愛をくれー」


 ......。

 これが夢でその魔物が本物じゃないからだろうか。

 俺は嫌に冷静になっていた。

 いや、 きっと本物を目の前にしても同じ気持ちに至るだろう。


 哀れだ、 と。


 思えば何も恐ろしい事などない。

 そして同情する事もない。

 全ては彼らの力不足。

 きっと生前も、 このように求めるだけでモテる努力をしなかったんだろう。

 その癖死んでから恨みがましく......情けない。


 同情する余地があるとすれば、 不幸なタイミングで死んでしまったという事ぐらいか。

 でも、 それとこれとは別だ。


 俺は『白き日』の魔物に背を向ける。

 こうはならないと心に誓って。


 そして次の日の朝目覚めた時には、

『白き日』の魔物の事などスッカリ忘れていたのだった。


 ◇◆◇


 あれなら何年経ったか。

 未だにこの季節になるとその話しを思い出す。

 それが呪いの類であると気づいたのは最近の事だ。

 俺はモードの話しを聞いて呪われたのだ。


 しかしだからなんだと言うのだ。

 俺はこの話を誰かに話すつもりはない。

 話したくなっても我慢する。

 これ以上呪いの被害を増やさない為に。

 まぁ実害はあまりないんだが。


 こうして今年も誰かが『白き日』の魔物の話しをする。

 この世界のどこかで。

 それは俺には止められない。


 だがいつかは止めてみせよう。

 この負の連鎖を。

 いつか本物に合い、

 観察し、

 魔物図鑑に載せる。


 それが、 俺には出来る唯一の手向けなのだから......。


 ◇◆◇


 数十年後。

 この呪いが世界中の男に感染するが、

 それはまた別の話である。



本日も読んで頂きありがとうございます!

唐突のホワイトデーに乗っかった番外編でしたが、 楽しんで貰えたら幸いです!


ブックマーク! 星評価! いつもありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ