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第23項 「怪獣好き、 追い掛ける」

 

 俺は惨めに泣いていた。


 ゴブリンに翻弄され、

 レナを連れ去られてしまった。

 馬も馬車もだ。


 何も、 残っていない。


 彼女を危険な目に合わせたのはこれで二回目だ。

 そしてその二回目とも洒落にならない。

 一回目は鱗人にとって大事な尻尾を失わせてしまったし、

 二回目である今回も......もうどうなっているか分からない。

 今頃巣に連れて行かれて.......。


「お......ぇぇぇぇええっ! 」


 悪い想像をしたら胃の中のものがせり上がってきた。

 それを全て吐き出してしまう。

 なんてダメな奴なんだ俺は。


 どうして連れてかれたのが俺じゃなかったのか。

 どうして守ってやれなかったのか。


 そんな事ばかりが悔やまれる。


 これからどうすればいいんだ。


 いや、 もうどうでもいい。


 もう俺に夢を追う資格はない。

 いっそこのままここで魔物に食われるのを待って......。


 そこまで考えた時、突然顔に衝撃が走り......数mぶっ飛ばされた。


 早速魔物の登場か?

 そう思って力なく何かをしてきた相手の方を向く。


 確かにそこに居たのは魔物だった。

 けどゴブリンではなかった。

 スライムだ。

 というよりハグレだ。


 なんだ?

 ここに来て俺を食おうって言うのか?

 今更仕返しか?

 そんな事を思い、 力なく睨む。


 ハグレはその視線に気づくと。

 俺の目の前で飛び跳ねていた。

 なんだよふざけてるのか。

 どうでも良くなりまた俯く。


 するとまた顔を殴られた。

 そして同じような事を何度も繰り返したのだ。


 いい加減ウザったくなってハグレの方を見た。

 今度はしっかりと見た。

 するとヤツは、

 何かを訴えかけるように飛び跳ねて居るんだと、

 そう気づいた。


 ハグレの足元。

 そこには車輪の後があった。

 馬の足跡もあった。


 そこでやっと理解する。

 ハグレは、 まだ諦めていなかったのだ。


「はは、 なんだそれ」


 思わず嘲笑が洩れる。

 俺は何をやってるんだ。


 一番最初に俺が諦めてどうする。

 目の前でレナが死んだ訳じゃない。

 なら助けられる可能性だって十分あるじゃないか。


 それに、 こんな事は考えたくはないが、

 例え手遅れでも助けに行かないなんて選択肢はないだろ。

 そんな事も簡単に見失ってしまうなんてな。


 俺は両手で思い切り両頬を叩いた。

 乾いた音が夜の静まり返った草原に鳴り響く。

 音は直ぐに静寂に飲み込まれたが、

 俺はもう、 自分の弱さに飲み込まれる訳にはいかなかった。


「ハグレ、 行こう」


 やれやれ、 といった態度を見せるスライムに声をかけ、

 俺たちは駆け出した。


 ◇◆◇


 まずは先程の野営地に戻る。

 荷物を急いで纏め、 火を消しカマクラを崩した。

 次からは窓がついてるものを作ろう。


「ハグレ、 馬に変身してくれ」


 俺の声に傷だらけのスライムは言われた通りの姿になる。

 そのまま飛び乗り、 松明に火を付け出発した。


 最初から目の魔力制限は解いている、

 さらに『オブザービング』をかけ視界を確保する。

 うん、 これなら暗闇でも結構見える。

 松明の灯りもそれを手助けしてくれる。

 後はこのまま轍を辿るだけだ。


 ハグレのスピードは予想以上に速かった。

 馬車を引いていたのもあるが、 連れ去られた馬よりもだ。

 これなら手遅れになる前に間に合うかもしれない。


 轍を辿りながら思考する。

 ここまでの準備や今の行動に足りないところはないか考える。

 恐らく大丈夫だ。

 慌て過ぎて忘れ物をしていたりもしない。


 よし、 思考は正常だ。

 ハグレのおかげでかなり冷静になれた。

 これなら作戦を立てながら(ハグレ)を操る事も出来るだろう。

 とは言っても、 コイツは勝手に轍を追いかけてくれるとは思うが。



 まずは整理しよう。


 目的:レナと馬と馬車の奪還。


 目的地:轍を追い掛けた先のゴブリンの潜伏先。


 現状頭にあるのはこれだけだ。

 当然このままでは無策で飛び込む事になる。

 何か策を練らなければ。

 その為に順番に考えていこう。



 目的のレナ救出は最優先。

 場合によっては馬と馬車は諦めるしかないかもしれない。

 ゴブリンは少なくとも二匹以上いるだろう。

 全て奪い返してめでたしめでたし、 とはいかないかもしれない。


 目的地、 ゴブリンが向かった先。

 これは恐らくヤツらの巣だろう。

 村の近くで襲われた事から、 村を襲ったゴブリンと同一個体と予想出来る。


 という事は、

 巣には攫われた女性たちや、

 奪われた金品もあるのだろうか。

 その救出や奪還も考えなくてはいけないかもしれない。


 ......いや。

 今はそれを作戦に組み込む必要はない。


 俺の目的はあくまで自分の為。

 そしてレナの為のものだ。


 モォトフと同じ境遇の村だから何かしてあげたいとはおもうが、 優先順位を間違えてはいけない。

 俺はレナを助けに行くんだから。


 勿論見捨てるつもりはないが、

 レナを助けるので精一杯かもしれない。

 ゴブリンと戦闘になる可能性もある。

 他の事に気を取られている余裕はないかもしれない。


 頭の隅には置いておくが、 村人救出はあくまでオマケ程度に考えるしかないだろう。

 申し訳ないとは思うが。



 そこまで考えて思考が止まる。

 自分の冷酷さに驚いてしまったのだ。


 俺は、 レナ以外の人を見捨てる気なのか?



 ......。

 落ち着け。

 ここで動揺してどうする。

 頭を切り替えろ。

 そうだ、 別に見捨てる訳じゃない。

 助ける。

 レナだけじゃなく、 その場にいる人も助ける。

 ただ優先順位がレナが上なだけだ。


 切り替えろ。

 不確定な事に思考を持っていき過ぎるな。

 確実にある事だけ考えろ。


 頭が痛い。

 気持ちが悪い。

 馬に揺られているからか?

 昼間までは大丈夫だったのに。

 ハグレが飛ばして揺れが酷いからか?

 違う、 自責の念だ。

 切り替えろ。

 作戦の事だけ考えろ。


 えっと、 最後に考えていたのはなんだったか。


 そうだ。

 確実にある事を考えろ。

 そんな感じだった筈だ。



 確実にある事......。


 そうだ、 今から行く場所には確実にゴブリンがいる。

 それをどうにかするしかない。


 見つからずに助け出すか、

 それとも倒すか。


 よし、 いいぞ。

 この調子で思考を回せ。

 一個一個考えろ。


 ゴブリン。

 俺はヤツらの事を知らな過ぎる。

 だからさっきは裏をかかれた。

 ヤツらが頭がいいと分かっていれば、 同じ騙されるとしても対応が変わっていた筈だ。

 やはり知識は力か。

 きっと村の人も同じだったんだろう。


 魔物図鑑、 やっぱりこの世界には必要だ。

 人々にとっても。

 俺にとっても。


 しかし今はないものをどうこう言ってもしょうがない。

 だったら今ある情報でどうにかするしかない。


 今の俺のゴブリンの知識。

 それを羅列するならこんな感じだろう。


 ・頭がいい

 ・集団で行動する

 ・男は殺し、 女は連れ去る

 ・金品をうばう


 ......。

 やっぱり今ある情報だけじゃ心許ない。

 せめてその行動原理や生態の理由が分かれば考えやすいのだが。


 いかん、 堂々巡りだ。

 しかし無駄ではない筈。

 知識はゼロじゃないんだから。


 そうだ、 思い出せ。

 知識は別に深く考える為の材料以外に使い道が無いわけじゃない。

 咄嗟の判断の時に、

 どう動くか、

 その基準になる筈だ。


 それを、

 混沌スライムと、

 二人の師から学んだじゃないか。


 なら情報が少ない今、 やる事は決まりだろう。



 作戦はこの場では立てない。


 現地につき、 その場の状況で判断する。


 ゴブリンと戦う事になるのなら、

 戦いながら情報を集める。

 そして持っている知識で即座に判断する。


 これしかないだろう。



 そうなると一つ、 今のうちに決めておかなきゃならない事がある。


 ゴブリンと対峙した時、

 ヤツらを殺すかどうかだ。



 正直。

 俺はまだ、 魔物を殺す事に抵抗がある。

 なるべくなら殺したくない。


 自分で言うのもなんだが、

 それ自体の気持ちは悪い事じゃないとは思う。

 しかしその迷いがある限り、

 俺の咄嗟の判断が数秒遅れる事になるだろう。

 下手したら決断出来ずに、 その間にゴブリンに......なんて事も考えられる。


 だったらどうするか。

 選択を先に決めてしまえばいいのだ。


 例えば、 今俺はゴブリンを殺すかどうか迷っている。

 その迷いが、 確実に判断を阻害するだろう。

 ならば殺す殺さないの基準を今のうちにつけてしまえばいい。


 そうだな。

 分かりやすくするならば、

 人に危害を加えたか、 そうじゃないか、

 だろうな。


 ヤツらだって生きている。

 人間の天敵で、 人を襲う事が一番の目的だとしても、

 この世界に存在する生き物なのだ。

 だったら見つけ次第殺す、 なんて事は出来ない。

 そんなのは人間のエゴだからな。


 まぁ人に危害を加えたら、 なんて言うのも所詮は人間の基準だ。

 エゴには変わりない。

 結局は俺の前世の知識からの基準でしかない訳なのだが。

 それでも筋は通ってる、 正当性はある。

 どんな動物だって、

 自分や家族や同種を傷つけられたら、

 牙を剥くのだから。



 そんな事を考えていると、

 ハグレは森の中への入っていった。

 轍はその奥への続いているようだ。


 暫く森が続き、

 森が岩場に変わる。

 轍が殆ど無くなった頃、

 馬車を発見した。


 距離はまだある。

 でも距離があってもわかる程に、

 隠してる訳でもなく、

 馬車が放置してあったのだった。


 ◇◆◇


 馬車は見つかった。

 まだ遠めだが、

 魔力の目や『オブザービング』の効果のおかげで自分たちの馬車だと分かる。

 この先に、 レナが......。


 発見した地点で近くの岩場に隠れ、 馬を降りる。

 ハグレから降りて、 元の姿に戻ってもらった。

 ここからは馬は目立ち過ぎる。

 隠れながら近づこう。

 当然松明の火も消してある。


 俺は自分とハグレに『インビジブル』と『オブザービング』を掛けた。

 気付かれずに近寄るためだ。


 あ、 『インビジブル』で擬態するなら馬のままでもよかったか。

 いや、 やっぱりダメだ。

 蹄の音で気づかれてしまう可能性もある。

 やはりこのままで行こう。

 馬車が乗り捨ててあるという事は、 目的地も近いだろうからな。


 周囲を警戒しながら馬車に近づく。

 馬車はこちらにケツを向けている状態だ。

 中を覗くと誰もいない。

 当然っちゃ当然だが。


 前に回ると馬がいた。

 しかし、 もう死んでいた。

 力なくその場に倒れており、 身体中から出血している。

 目は開いているが生気がない。

 所々、 噛み付かれたり切り取られたりするのも見受けられる。

 恐らく餌にされたのか。

 何にせよ、 一目で絶命していると分かった。


 申し訳ない事をした。

 俺たちについてきたばったかりにこの馬は......。

 それにコイツは村の皆からのプレゼントだった。

 出会ってまだ日は浅いが、 大切にしようと思っていたのに。


 村の人たちにも申し訳ないし、

 馬に対しても罪悪感が残る。


 同時に、 自然とゴブリンに対して怒りも込み上げてきた。

 そして不安も過ぎる。

 レナもこうなっていない事を祈るばかりだ。


 とりあえず馬に対して手を合わせる。

 ごめん、 馬。

 供養も埋葬もしてる暇がないからせめてもの罪滅ぼしだ。

 自然も手を合わせてしまうところは、 やはり前世の影響だな。


 でも仕方ない。

 俺はこの世界の、

 宗教も、 供養の仕方も、 埋葬のやり方も分からない。

 気持ちだけでも伝わってくれるといいが。

 レナを助けたら、 そこら辺を聞いてみるか。


 うん。 これでまた彼女を助けなきゃいけない理由が増えた。

 些細な事かもしれないが、

 今の俺にとっては大事な事だ。


 ◇◆◇


 さぁ、 じゃあゴブリンの巣を探すか。

 と気合いを入れ先に進む。

 馬の亡骸を放置して行くのは後ろ髪引かれるが、 今は生きてる可能性のあるレナの方が優先だ。

 戻ってきたら墓でも作ってやるからな。


 なんて考えていると、 ゴブリンの巣らしき場所は目の前にあった。

 正直拍子抜けだが、 あれこれ探さなくていいのはありがたい。


 何故ゴブリンの巣だと分かったのか。

 それは目の前に見張りらしきゴブリンが立っていたからだ。


 そこにあったのは洞窟の入口。

 岩場の中で大きな口を開けている。


 入口の両脇には二つの影があった。

 魔力の目と、 『オブザービング』で視界を強化してる今ならよく見える。


 俺はその目でヤツらを見つつ、 岩の影に隠れながら近づいた。

『インビジブル』で見つかりにくくってはいるが油断は禁物だ。

 見つかったらもう効果はないのだからな。



 そうまでしてこっそり近づくのには、 勿論理由がある。

 ゴブリンを観察する為だ。

 今は少しでも情報が必要なのだから。



 背は100cmにも満たないだろうか。

 子供のような身長。

 しかし背中が曲がり、 腹が出ていて子供には見えない。

 小さなおじさんのようだ。


 全身の色は緑。

 服は腰に布を巻いているだけ。

 髪はなく、 耳は尖り、

 目は鋭く吊り上がり、 大きく避けた口からは上向きに牙が二本生えている。


 手足は大きく、 それぞれ指が三本ずつ。

 爪は長く伸びていた。


 手には槍を持っていた。

 さっきの村の見張りを思い出す。

 とは言っても、 コイツらの槍は原始的なものだが。

 そこら辺の長い木の枝に石を削って蔓で巻き付けたようなものだ。

 しっかりと加工して作られていた警備の人の槍とは雲泥の差である。

 まぁ今は人間の槍の完成度の高さはどうでもいい。


 そのままヤツらを観察する。

 これが、 ゴブリンか。


 とりあえず見つかる前に観察出来て良かった。

 この僅かな間でもある程度情報は得られたからな。



 まずコイツら、 やっぱり頭がいい。


 村の人がしていたように見張りをしている。

 つまり外敵からの攻撃や、 襲った相手からの報復に警戒しているという事だ。

 しかも武器を持って。

 なんだったら、 見張りを時間で交代するなどのシフトまで考える知性もあるのかもしれない。

 俺たちを撹乱して必要なものだけを奪っていけたのも頷ける。


 その点から考えるに、 やはり無策で突っ込むのは無謀か。

 スライムの時のように、 その場その場で全て対処するというのは難しいかもしれない。

 何か考えなければな。



 そして次にわかる事、 相当力があるようだという事か。

 まぁ実際見ただけじゃ確実とは言えないが、 その可能性が高い。

 その根拠は手の大きさだ。


 身体の大きさに対し、 手がかなり大きい。

 下手したら俺より大きいだろう。

 大きいという事は、 それだけ大きな物を掴めるという事。

 そしてそれは力が強い事にもイコールする事が多い。


 これは接近戦は骨が折れそうだ。

 文字通りの意味でもだが。

 単純に掴まれただけでも危ないし、

 腕力がある者が武器を振るえばそれだけで脅威だろう。


 しかしこの点は少し安心か。

 寧ろ、 避けてカウンターを狙うアンウェスタ流は相性がいいかもしれない。



 そして次に、 ゴブリンは相当な数がいる事が予想される。


 見張りに二匹割いてるぐらいだ。

 個体数が多くなければそこまではしないだろう。

 少なくとも、 見張り以外に二匹......いや、 四匹以上は居る筈だ。


 それはさっきの馬の亡骸からも予測出来る。

 刃物で切られ肉を削がれていたからな。

 人数分分けたといったところか。


 何にせよゴブリンは複数体いる。

 レナを拐ったヤツらは見張りの二匹とは別個体だろうしな。

 見張りをどうにか出来たとしても全く油断は出来ないだろう。



 後気づいた事は、 そうだな。

 ゴブリンはもしかすると手先があまり器用じゃないかもしれないな。

 指が三本なのに加え、 あの手の大きさと力の強さ。

 そしてあの武器の原始的な加工......。

 頭はいいが細かい事は苦手なのかもしれないな。

 馬を括りつけていた手網を外すのに手間取っていたしな。

 まぁあれは作戦だった可能性もあるが......。



 ......。

 とりあえず、 目について気づけたのはこんな所か。


 うーん。

 なんだろうな、 やっぱり情報が足りない。

 これだけではこちらに有利な作戦が立てられそうにない。


 よくよく考えれば、

 俺がゴブリンを知ったのは今日だ。

 しかもレナの断片的な話しでだ。


 直接対峙したのはさっきの一回。

 そして落ち着いて観察出来たのも今が初めて。

 それも見張りをして大して動かず生態も観察出来ない状態でだ。


 明らかに、

 接触と観察が足りない。

 スライムの時と違い、 期間も圧倒的に短い。


 どうしたものか。

 どうしたらレナを助けられるのか。


 頭は冷静だ。

 焦ってはいない。

 しかし情報が足りない事には作戦の立てようが無い。


 何か、 何か手はないか。


 ......そうだ。

 さっきの村に協力を仰ぎに行くのはどうだろうか。


 あの村では、

 ゴブリン討伐と村人救出を依頼する為に、 金を無理矢理集めていた。

 ならばその依頼に便乗すれば......。


 いやダメだ。

 そんな事をしてる間にレナがどうなるか分からない。

 一緒に捕まっているであろう人もそれは同じだ。


 それにだ。

 まだこうしてゴブリンの巣が存在し、

 そして金をああしてまだ集めているところから考えると、

 討伐が実行出来るような状態にないという事だろう。


 人数がまだ足りないのか?

 確かにゴブリンの数が多ければ、 討伐隊の頭数も必要だろう。

 多少は集まっているのかもしれないが、

 少ない人数や一人で巣に突っ込もうとするバカはいないか。

 つまり俺はバカか。

 失敗も多いしな。


 というかゴブリンや討伐についてもっと村で話を聞けばよかった。

 そうすれば村から離れなかったかもしれない。

 その危険が分かればレナを説得出来かかも。


 いやそれは無理か。

 あの時にゴブリンについてなんて考えるきっかけがなかったからな。

 結局は今だから言える。

 後の祭りだ。

 そんな事に思考を向けてどうするのか。

 ああ、どうして俺はこんなにもバカなのだろう。



 ......。

 ダメだ。

 焦ってきた。

 混乱してきた。

 思考がおかしくなってきた。

 悪い事ばかり考え始めている。


 どうする。

 このまま思考しても恐らく無駄だ。


 一度話を整理して......いや、 別の事を考えた方がいいかもしれない。


 俺の頭は、

 いつの間にか現実逃避を選んでいた。


 ◇◆◇


 ......。

 そういえばゴブリンの見た目、 何かに似ているな。

 前世の小鬼や餓鬼といったとこか。

 まぁ妖怪は別に詳しくないんだが。


 それにしても何かに似ている。

 こう、 既視感がある。


 あれはなんだったか......。


 そうだ! 怪獣だ!

『パグモン』に似ているんだ!


 そう分かると不思議なもので。

 俺の頭は記憶の奥の『ハイパー怪獣図鑑』から、 その情報を引っ張り出していた。



『悪戯怪獣 パグモン』。

 初代『ハイパーマン』第8話に登場する小型怪獣だ。


 全長:1m

 体重:10kg


 洞窟に住んでいる怪獣で、 近くを通り掛かるにんげんに悪戯をしては困らせていた。

 しかし本当はその先に眠っている凶悪な怪獣に人間を近づけないようにしていた事が後々分かる。

 そして最後は、 その凶悪な怪獣から人間を守る為に自分を犠牲にし命を散らす。

 エピソードからも分かるように、 心優しい怪獣なのだ。


 パグモンはハイパーマンシリーズの中でも人気の怪獣だ。

 その優しい性格と悲しいエピソード、

 そして顔が犬のパグに似ている事もあり、

 マスコット的な扱いを受けている。

 シリーズが続いてもそれは不動のものだ。


 まぁゴブリンはパグモンと違ってそんな優しさはないだろうが......何故だろう。

 似ていると分かるとどうにも愛着が湧いて来るような気がする。


 もしかしてレナを攫ったのも、

 もっと危険な魔物から彼女を守る為なんじゃ.......。



「あだっ!? 」



 そんな風に妄想していると、

 俺は後ろからハグレに小突かれた。


 いかん。

 完全に現実逃避していた。

 その前にもずっと色々考えていたし、 時間も経っているのかもしれない。


「ごめんハグレ。

 ここからはちゃんと集中するから」


 俺は背中側にいるヤツにそう声を掛けると、

 見張りのスライムに再び意識を集中させた。


 今度こそ何か糸口を見つけなければ。

 そう頭を切り替えようとした時、


「......っいだっ!! っ!!」


 再びハズレに小突かれた。

 やられた部分が脇腹だったので、

 思わずさっきよりも大きい声が出てしまった。

 慌てて口を両手で覆う。

 幸い見張りには気づかれてない。


 どういうつもりだよ!

 そんな気持ちを込めて振り向く。

 思い切り睨み付けてやった。

 が、 ハグレはこっちを見ていなかった。


 彼の視線は真逆。

 ゴブリンの巣とは反対方向を向いている。


 そこには、 一つの人影があった。



「あれぇ? 馬車? もしかして先を越されたって事ぉ? 」



 他に誰もいない。

 ただ一人。

 一人の、 男。

 男はそこに立っていた。


「あ、 違うか。 馬死んでんじゃん。 これも奪われたって事ねぇ」


 男は一歩一歩進み、

 馬車の様子を見てそう言った。

 その足取りに警戒はない。


「つかいきなり発見しちゃったんだけど、 ゴブリンの巣。 僕ってめちゃくちゃツイてるぅ! 」


 そして見張りのゴブリンを発見。

 相変わらず警戒する様子はない。


 俺はそれを、 ただ見ていた。

 見る事しか出来なかった。


 いきなりの出来事に。

 場違いの男の様子に。


 驚いて動けなかった。


 男は歩くのをやめない。

 当然見張りに気づかれる。

 二匹のゴブリンは槍を構え、

 何やら理解出来ない言語で話している。

 恐らくこの男をどう始末するか話しているんだろう。

 俺たちを騙し討ちした時のように、 狡猾な作戦を立てているんだろう。


「なになに打ち合わせ? 何してくれるのかなぁ? 」


 男もそれを理解していているようだった。

 しかし理解した上でも尚、 足を止めない。

 そして彼も、 持っていた武器を前に突き出した。


 槍だ。


 この男も槍を構えたのだ。

 そして言い放つ。


「ま、 何しようと関係ないんだけどさ。

 今から僕が、 お前たちを皆殺しにするからさ! 」


 そう、 笑顔のまま。



 俺はこの瞬間まで、 自分がバカだと思っていた。


 なんの準備もせず、

 なんの作戦も立てず、

 ただ勢いに任せのこの場にいるからだ。


 しかしバカは俺だけじゃないらしい。


 ここに一人。

 もう一人。


 そこに、 バカはいた。





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