第0項 「魔物好き、 思い出す」
好きな作品の影響を多大に受けています。
初心者で未熟ではありますが、 暖かい目で見守って頂けると幸いです。
「はぁ、 はぁ.......」
からだが、 あつい。 あせがたくさんでてる。
それに重い......全然動かない。
「すまない。 だが少しの辛抱だ。 村に着けば医者もいる」
おとうさんがおんぶしてくれてる。
でもなんだろう、 今日は凄く急いでいるなぁ。
「しかしこんな時に仕事とは......アイツも間が悪い」
『アイツ』......はくしゃくさまの事かな。
おとうさんとはくしゃくさまは、 けんかするけど仲がいいなぁ。 ......でも、 あ。 おしごと。 おとうさんはおしごとにむかってるんだ。
でもなんでぼくをつれて? ......おもいだせない。
「っ!? 」
あれ? おとうさん、 とまった?
「どうしたの? なにかあったの? 」
おとうさんはぼくが聞いたのにおしえてくれない。
でもなにか言ってる。
「ちぃ! こんな所にまで......増えすぎか。 アイツが依頼してくる訳だ......」
なんだか怒ってるみたい。
ぼくに? ちがうみたい。
それなら誰に......?
......あ。 あそこにだれかいるよ。
.......え?
見たことない人。 ううん、 人じゃない。
あれは、 あれは......!
「かいじゅう......? 」
かい、 じゅう? かいじゅうって何......っ!?
......その時だった。
ぼくの、 俺の中に。
莫大な量の記憶が流れ込んできた。
いや、 思い出したという方が正しいんだろう。
そうだ。 俺は......。
「邪魔だぁ!! 」
父が目の前の『怪獣』を剣で一刀両断する。 そしてそのまま駆け出した。
「大丈夫か? もう少しだからな! 」
彼はさっきよりも慌てている。 俺の体調が気になるんだろう。
......ああ。 頭がボーッとする。
流石に意識が保てそうにない。
「待て! 寝るな! 」
父の声が聞こえる。
ああ、 俺はまた死ぬのか。
だったらせめてその前に、 この人だけに、 世話になった父だけには......伝えておかなければ。
「......おとうさん」
「なんだ!? 」
「おとうさん、 ぼくは......」
そう、 俺は......。
「ぼくは、 この世界の人間じゃないんだ......」
◇◆◇
薄れゆく意識の中、 思考だけがかけめぐっていた。
俺が子供の頃......と言っても今の話じゃない。
前世の記憶、 この世界に生まれ変わる前の話だ。
俺にはとても大好きなものがあった。
それが、 『怪獣』だ。
映画のスクリーンの中で暴れ回る『怪獣』。
巨大なヒーローと戦う『怪獣』。
きっと正確に言えば怪獣と呼べる者ばかりではなかったのかもしれないが、 とにかく俺は架空の生物、 『怪獣』が大好きだった。
正直きっかけは覚えていない。
しかし理由は覚えている。
最初はかっこいいからだった。
でもそれだけの理由ならヒーローも好きだった。
より怪獣を好きになれたのは、 『怪獣図鑑』を親に買って貰ってからだ。
本当はヒーロー図鑑の方が少し上回って欲しかったが......人気で売り切れていたので「怪獣も好きでしょ? 」と誤魔化すように買い与えられた。
はじめは渋々読んでいた。 しかしすぐにのめり込んだ。
ヒーローに関しては物語の中で掘り下げられる事が多い。
しかし怪獣に対しては俺の記憶してる限りではあまり無かった。
でもそれが、 『怪獣図鑑』の中にはあったのだ。
何故人を襲うのか。 何故街を壊すのか。
そんな掘り下げから、 動物図鑑のように生態まで詳しく書かれていた。
それが当時の俺にとってはとてもリアルで、 まるで怪獣が現実にいるんじゃないかと錯覚させる程だった。
こうして俺は怪獣にハマっていったのだ。
『怪獣博士』になりたい。
そう本気で思う程に好きになったのである。
だが、 そんな『好き』も長くは続かなかった。
成長していけば興味も変わる。
怪獣が好きなんていう子供っぽい気持ちは薄れて行った。
もしかするとファンタジーゲームや漫画やアニメ、 小説なんかにハマれば、 『怪獣好き』が『モンスター好き』に変わっていたのかもしれない。
しかし俺はそっちにはシフトしなかった。 モンスターという架空や伝説上の生き物が存在しているのは知っているが、 どんなものがいるかなどまるで知らない。
勉強に、 塾に、 部活に、 生徒会に。
俺の興味はそういうものに費やされていったのだ。
いつの間にか現実的な思考になっていった俺は、 娯楽に時間を使う暇があるなら将来金を稼いで裕福に暮らしたいと思うようになっていた。
そしてそれは実現する。
いい大学を出て、 大きな会社に入った。
出世し金を稼ぎ、 欲しいものはなんでも手に入る暮らしが出来るようになった。
両親に恩返しをし、 喜ばれた。
全てを手に入れたのだ。
けど、 それだけだった。
ふと半生を振り返る瞬間があった。
その時分かってしまったのだ。
俺には何もなかった。
共に過ごす恋人も伴侶も友達も。
休日を彩る趣味も。
金を稼ぎ裕福になる以上の夢も。
俺にはなかった。
両親はいる。
しかし彼らは俺より先に死ぬ。
そうなったら俺は一人だ。
いやまだ一人になるだけならいい。
一人になったら何をすればいいんだろう。
両親がいる間は彼らに孝行する目標で生きていられる。
でもその対象が居なくなったら......俺は何の為に金を稼いで裕福に暮らしているのか分からなくなる。
自分の為に金を使えばいいんだろうが、 何に使えばいいのか。
夢も趣味もない俺には日々生きる事にしか使い道がない。
なら俺が金を稼ぐ理由は?
生きる理由は?
俺の中にその答えは見つけられなかった。
それが分かった時、 俺は色んな意味で動けなくなってしまった......。
しかしそんな俺にも好きなものはあったのだ。
怪獣好きという趣味が。
怪獣博士になるという夢が。
それをあの時思い出せていたら......。
まさかそれを死んでから思い出すなんて。
しかも生まれ変わった先でまた死ぬ時に思い出すなんて。
つくづく俺の人生は上手くいかないらしい。
もし、 もう一度チャンスがあるなら。
今度はその夢でも追い掛けてみようか。
そんな事が頭の中に浮かぶ。
しかしそんなチャンスは二度と来ないだろうと、 己を否定するように意識は薄れて行ったのだった......。
◇◆◇
だが案外チャンスというものは何度も訪れてくれるらしい。
俺は死なずに目を覚ました。
勿論、 あの熱を出して気を失った子供の身体でだ。
もう全身は熱くも重くもない。
すっかり回復したようだ。
俺はベッドに寝ていた。
見回すとそこは見た事のある景色だった。
ここは辺境伯の屋敷の一室。
何度か泊まりに来た事があると、 今世の記憶が教えてくれる。
更にぐるりと見回す。
するとベッドの横に椅子に腰掛けた、 強面の『父』の姿があった。
今世での父だ。
「起きたか」
俺が寝ている間ずっとそこにいたのだろうか。
そう声を掛けてきた彼の顔にはクマが出来ていた。
どれだけ眠っていたのだろうか。
「丸々三日寝ていた。 流石に肝が冷えたぞ......」
どうやら相当心配を掛けたらしい。
怖いぐらいに強ばっていた表情が安堵のものに変わっていくのがよく分かる。
父は普段あまり表情が変わらない方だ。 よっぽどだったんだろう。
「ごめんなさい、 おとうさん」
謝罪をしようと口を開くと、 反射的に今世で染み付いた言い回しになる。
前世の記憶を取り戻し、 精神年齢が10倍程大人になった今の俺にとってはかなり気恥しい。
しかしいきなり大人になる訳にもいかない。
「謝るな。 俺の責任でもあるからな。 それより......」
父は少し優しい微笑みを見せたが、 直ぐに表情を曇らせた。
「聞きたい事がある。 お前は、 『転生者』なのか? 」
転生者。
この世界の記憶でも前世の記憶でも聞き慣れない言葉だ。
だがおそらく、 生まれ変わりか? と聞きたいんだろう。
ああそうだった。 俺は死ぬと思って熱に浮かされそんな事を言ってしまったんだった。
死ぬのに隠し事をしたままというのは後味が悪い、 とあの時は思ったのだが......生きている今はとんだ恥さらしだ。 だってあんな妄想のような話など信じてくれる筈がないからだ。......と思ったが、 今の質問、 そしてこの表情。 どうやら信じてくれたらしい。
それどころかまずい事を言ったのかもしれない。
しかしこの父には恩がある。 嘘はつけない。
「他の世界から生まれ変わった、 という意味ならそうだよ」
俺は自分の中にある情報から分かる範囲でそう返した。
生まれ変わり......転生したと言うのは本当だし。 どうやらここは元の生きていた世界とも思えない。
だってあんな.......あんな? なんだったか......。
「......そうか」
俺の思考を遮るように、 父は長い溜息を着いた後そう洩らした。 やはり『転生者』と言うのはまずいのだろうか。
「......ならもう一つ聞く」
そして彼はそのまま意を決したように口を開く。
もしかすると魔女裁判のように異端児としてどこかに突きつけられたりするのだろうか。 そうじゃなくても親子の縁を切られるぐらいは覚悟しないといけないのかもしれない。
だがその問いかけは、 意外なものだった。
「『転生者』として、 お前はこの世界で何をするつもりだ? 」
何をする? そんな事を聞かれるとは思ってもみなかった。
何をすると言われても......こんな見ず知らずの世界では何も思い浮かばない。 そもそも前の世界でだって......あ。
その瞬間、 気絶する前の光景と気絶してる間に思い出した事を思い出した。
そうだ。 前の世界でもやりたい事があった。
そしてこの世界ならそれが叶うかもしれない。
なぜならあの時、 気絶する前に父が倒した相手は......。
『怪獣』だったのだから。
「ぼくはね、 おとうさん。 『怪獣博士』になりたいんだ」
気づけばそう口にしていた。
それは。
この世界の目的、 生きる意味を見つけ。
そして前の世界で失くした夢を取り戻し。
それらが一つになり、 俺が本当に生まれ変わった瞬間だった......。