第14項 「怪獣好き、 覚悟を決める」
殴られた。
おかげで少し冷静になったし、 この人の登場で安心した。
しかしまだ怒りがおさまった訳じゃない。
「その辺にしておいたら? 」
「でも先生! この人は! 自分の娘を! レナを!! 」
だから先生の制止を振り切ろうとする。
一度外れたタガは中々戻ってくれない。
それを見かねたのか、
先生は小さくため息をついた後に、
俺の首根っこを掴んで引っ張り出す。
勿論抵抗したが、 この人の力には敵わなかった。
そう言えば先生は身長も高いし、 力も強い。
鍛えて怒り任せの俺でもまだ敵わないか。
「ミゲルさんはこのまま逃げてちょうだい。 皆の誘導、 本当にありがとう」
先生はそれだけ言うと、
苦渋の表情を浮かべ項垂れるポーシィさんを残し、 俺を路地裏へと連れ込んだ。
◇◆◇
「ここなら大丈夫。 スライムが襲ってこないようにしてあるわ」
そんな事はどうでもいい。
そもそも言ってる意味が分からない。
ここに引きずられるまでに俺の怒りは再びピークを迎えていた。
結局この人は話を聞いてくれない。
そんな風に頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
俺の怒りを抑えようとしてくれたのは感謝している。
しかしあの場から去るのは得策とは思えない。
レナが、 レナが戦っているんだ。
いやそれはいい。
彼女はそう簡単にやられないだろう。
それよりも、 あの父親は娘を置いていこうとしたんだ。
それを許しちゃいけないんだ。
そんな気持ちを抑えられずにいた。
この時にはもう、 自分の事など棚に上げていたのだ。
「罪悪感を他人に擦り付けようとしても、 スッキリしないわよ? 」
当然この人はそれすら見抜いている。
だからこそ腹立たしい。
だったら俺の気持ちをもう少し汲んでくれてもいいだろうに。
そんな事は分かっているんだ。
「......仕方ないわね。 これは話すつもりはなかったのだけれど......」
俺の顔を見て先生がそんな事を言う。
余っ程酷い顔をしていたのだろう。
そして隣に座り、 ゆっくりと語り始める。
「前にも言ったわよね。 この街は避難所なの」
その内容に、 俺は驚愕する。
モォトフ、 この街は。
所謂リハビリ施設だった。
この世界には魔物がいる。
毎日毎日、 魔物によって人間が殺されている。
殺されずとも、 怪我を負う者もいる。
それは身体の傷だけじゃない。
心の傷もだ。
『魔物恐怖症』。
この世界にある病の一つだそうだ。
魔物に身内や知人が襲われ死ぬ。
自らが襲われ、 生き残ったもののトラウマを抱える。
街を襲われ壊され、 その恐怖を知る。
そういった者たちは、 その恐怖に侵され、 精神を病んでしまう。
そうなると無気力になり、 食う事も寝る事も出来なくなる。
そしてやがて衰弱して死ぬ。
そんな病気だそうだ。
完治する放送はないと言う。
そうなってしまっては、 死ぬ迄魔物に怯える事になる。
魔物に襲われる幻覚に苦しむ者もいる。
しかし緩和する事は出来る。
それは魔物の脅威から離れる事。
だからこの街があるのだと言う。
魔物が滅多に現れない、 この街が。
そう、 だったのか。
話を聞いて、 この街の仕組みをようやく理解した。
だから人の引越しが多いのだ。
『魔物恐怖症』と診断された者は、 国からこの街への移住を勧められる。
そして症状が比較的回復した者からここを離れていく。
そういう事だったのだ。
ここは、 病院だ。
トラウマを克服する為に設けられた病院だったのだ。
この街の住人は入院患者。
だからあれだけ皆怯えていたんだ。
前に、 魔物に襲われて事を思い出して。
そして俺は理解した。
己のやってきた事を。
俺は、 そんな病院の中で。
病状の原因である魔物に興味津々だった。
そりゃモードも先生も止めるだろう。
それなのに、 俺は何も知らず......。
レナもきっとそうだった筈だ。
だから始めはあんなにも拒否反応を示していた。
魔物に関わるなと忠告してくれた。
なのに、 なのに。
俺は、 魔物と関わる事に巻き込んだ。
そしてさっきもそうだ。
ポーシィさんに酷い事を言った。
娘を置き去りにしようとする事自体は間違っていると思う。
でもポーシィさんは好きでそうしようとしてる訳じゃなかった。
出来なかったのだ。
レナを助けに行きたくても行けなかった。
そしてあの様子からして、 それを悔やんでいた。
真実を知り、 冷静になればそれが分かったというのに。
もう後の祭りだ。
それにレナが一人で戦う選択をしたのも俺が原因だ。
レナにスライムの知識を与えてしまったから。
きっと怖かったと思う。
そしてその結果が、 ポーシィさんに苦しみを与える形となってしまった。
それなのに。
俺は、 俺は......!
最低だ。
「......なんで話してくれなかったんですか」
それでも尚、 俺は反抗的な態度を取ってしまう。
しかし食ってかかるような勢いはない。
ただ静かに聞いただけだ。
絶望しても、 他人に責任を押し付けたいのか。
だが先生は申し訳なさそうな顔をしていた。
何故貴方がそんな。
「......ごめんなさい。 こればかりは私たちの個人的な感情のせいよ」
どうやら、
先生とモードは俺がまだ『転生者』かもしれないと思っているらしい。
転生者は使命を自覚すれば、 己の全てを投げ打ってその為に生きる様になると言う。
二人はそれを恐れていた。
この世界の弱さを知れば、 それを解決する事を使命として認識してしまうかもしれない。
そうしたくなかったそうだ。
だから少しずつ俺に学ばせたらしい。
その他にも理由はある様だが、 流石にそれ以上俺からは聞けなかった。
そしてまた知る。
二人がどれだけ俺の身を案じてくれていたかを。
俺が転生者だとして、
使命を知ればその為だけに生きる機械のようになる。
それを俺にさせたくなかったのだ。
きっとそんな転生者を知っているんだろう。
モードは転生者に裏切られたらしいが、 彼が転生者を嫌うのはその為もあるのかもしれない。
それを止められなかったのかもしれない。
先生は語ってはくれなかったが、 そういう事なんだろう。
俺に、 俺の意志のまま生きて欲しいと考えてくれたんだ。
それなのに、 俺は。
二人は俺のやりたい事を、
肯定はせずとも見守り手助けしてくれた。
俺を信じてくれたんだ。
でもそれは失敗だった。
俺を守ろうと、 この街の事の真実を教えなかった。
俺に自分の意志で生きて欲しと、 俺のやりたい事に付き合ってくれた。
その結果がこの街の現状だ。
二人を責めてるんじゃない。
こんな俺を信じさせてしまった事を申し訳なく思う。
俺は、 恩を仇で返したんだ。
「それにしても......アハハ! なぁんでここまでスライムが増えちゃったのかしらねぇ! 毎年こんなには増えた事ないのに! その異変に気づけなかったなんて! ランラークちゃん失敗しちゃった♡ 」
それでも、 そんな俺にも先生は優しかった。
俺を少しでも元気づけようと振舞ってくれた。
だからこそ、 言わずにはいられなかった。
「僕の...... 」
「え? 」
「僕の、 せいなんです」
俺は語った。
森で何をしていたのか。
何故スライムが増えたのか。
先生が知っているであろう事も話した。
これは現状をどうにかしようとするものじゃない。
俺の自己満足。
罪悪感を少しでも減らす為の行為だった。
それでも先生。
黙って俺の話を聞いていた。
胸が、 苦しかった。
◇◆◇
「なるほどね」
先生は特に表情を変える事なく俺の話を締め括った。
そこに私情を持ち込まず、 冷静に原因を受け止めたんだろう。
俺はそうはいかない。
「だとしたら、 本当に私やモードちゃんの失態ね。 リーブちゃんに任せ切りで自分たちでちゃんと確認しなかったんだもの。 監督責任ってやつだわ」
そして優しい。
いつも以上に優しい。
俺を気遣っているのか。
そんなものは不要だというのに。
でも俺は、 その優しさに甘えてしまった。
「怒らないんですか? 」
怒られて、 それで終わろうとしている。
俺は逃げている。
それは自分でも理解出来た。
でも、 やっぱり止められない。
「怒らないわよ。 だって私たちの責任......」
「違う! 俺の責任だ! 俺がスライムを見逃したから......! 怒られるだけじゃ済まない! だから俺一人でこの場を! しん......」
死んでもどうにかする。
そう言おうとした。
そしたら。
「ぐぅっ! 」
また殴られた。
「死んで詫びてそれで終わりにしようってか!? このクソガキぁあっ!! 」
先生は酷く怒っていた。
でもそれぐらいしか思いつかないのだ。
「そうですよ! それが俺の責任......」
「だから責任はこっちにもあるっつってんだろがぁ!!
」
また殴られた。
そこから言い返す度に殴られた。
理不尽だ。
......いやそんな事はない。
俺は現在進行形でこの人を裏切っているのだ。
大切にしようとしてくれた俺を、 俺自身が蔑ろにしてるのだ。
怒って当然だろう。
「でも、 俺が間違えたから......」
「やってきた事全部間違ってたってか! だからなんだって言うんだよ! 失敗ぐらい誰でもするだろ! 」
最後に思い切り殴り飛ばされた。
家の壁に背中からぶつかり、 そのまま地面に力無く崩れ落ちる。
もはや立ち上がる気力もない。
でも、 これだけは言いたかった。
「なら、どうしろと言うんですか」
この後に及んでこの人は俺に何をさせたいのか。
結局怒ってくれた。
それは先生の優しさだった。
ならまだ見離すつもりがないという事だ。
まだ俺に、 何かを期待しているのか?
「簡単な話しよ」
先生はいつもの口調に戻っていた。
そして言い放つ。
「この街を救いなさい。 リーブちゃんの手で」
思わず先生を見た。
目と口が大きく開く。
驚いて声も出ない。
先生は真剣な表情をしていた。
冗談を言ってる訳じゃない。
しかしこっちにとっても冗談じゃない。
そもそも俺はそうしようとしてるじゃないか。
「だから、 ずっとそう言ってるじゃないですか」
「違うわ。 全然違う。 貴方のやろうとしてる事はただの自己犠牲。 自分を無駄に扱って死のうとしてるだけ。 責任を取るなんて言ってるけど、 ただの現実逃避よ」
それとこれと何が違うのか。
でも何も言い返せない。
その通りだからぐうの音も出ない。
「私が言ってるのは、 この街を救いなさいという事よ。 街を救うと言うのは、 貴方も含ませてるの。 貴方自身も救いなさい」
この後に及んで何を言うのか。
俺にそんな資格がある訳がない。
「よく考えて。 モードちゃんがいない今、 スライムの事を一番知っているのは貴方よ。 いつも言ってるでしょ。 知識の使い方を考えなさいって。 今がその時よ」
簡単に言ってくれる。
それに、 だから俺にはそんな資格は......。
「まだ自分を責めてる? なら一つだけいい事を教えてあげるわ」
そんな方法があるなら知りたいものだ。
あるのなら教えてくれ。
「これも簡単な話し。 忘れちゃいなさい♡ リーブちゃんがしたと思う悪い事全部ね?♡ 」
「......は? 」
今度は思わず声が出た。
自分でも驚くくらい情けない声だ。
忘れる?
そんな事出来る筈がない。
だって俺は......。
「あ、 何も完全に忘れろって意味じゃないわよん? 今だけ、 今だけ忘れるの。 責任については、 今度たっぷりお仕置してあげるから♡ 」
考えを簡単に見透かされてしまう。
先に言われてしまうので思考してる暇がない。
「理由ならちゃんとあるわよ♡ ウダウダ自分を責める事に頭を使ってるなら、 その分を街を救う事に使えば効率的でしょ? あぁんもう♡ 私ってば先生の鏡ね♡ こんな的確な助言が出来るんだから♡ 」
言い返せない。
何も言い返せない。
その通りだからだ。
先生の言っている事に、 精神論も矛盾もない。
筋が通っている。
それに、 この人は話が上手い。
自分を責めていた筈の俺が、
いつの間にか自分の内側に気持ちを向けるのを止め、
彼の話に耳を傾けている。
出来るかもしれないと思っている。
本当に凄い事だ。
けど、
それとこれとは別の話だ。
「......そういう事なら、 先生が救えばいいじゃないですか」
街を救う事に異論はない。
しかしやってしまった事を忘れろなんて言うのは以ての外だ。
英雄にでもなれというのか。
......それに、 英雄になるならもっと相応しい人物がいる。
「先生は領主だ。 皆貴方を頼りにしている。 それなら先生が街を救った方が効果的だ」
我ながら情けない。
これではまるでタダを捏ねてる子供だ。
拗ねて卑屈になってるガキじゃないか。
しかし言ってる事は間違ってない。
俺なんかよりも、 先生が英雄になった方が......。
「出来ないの」
え?
今なんて言った。
「ごめんなさい。 それだけは出来ないの。 私はスライムを殺せないのよ」
耳を疑った。
正気なのか?
ここまで人を焚き付けておいて出来ない?
何を言ってるんだ。
「そういう契約なの。 だから街はリーブちゃんが救いなさい。 ごめんなさいねぇ♡ 領主なのに約立たずで♡ 」
契約?
何の誰との契約だ。
段々また腹が立ってきた。
これは当てつけじゃない。
本当にこの人に怒りが湧いてきた。
好き放題言いやがって!!
「なんなんですか! 」
俺はまた決壊する。
「死ぬのも駄目! 自暴自棄になるのも駄目! そして先生は何も出来ない! どうしろって言うんだ! 」
もう訳が分からない。
俺に何が出来るって言うんだ!
「きっとまた間違う! 良くない結果になる! また誰かを犠牲にする! 俺に任せたら何もいい事なんてないのに!! 」
そうだその通りだ。
考えるよりも先に口が動いた。
そして本当は何を考えているかやっと理解する。
怖いんだ。
失敗して、 また失敗して。
誰かが傷つくのが怖い。
失望されるのが怖い。
そして、 自分が傷つくのが怖いんだ。
そうだ、 俺は前世で......。
「うるさいわね」
しかし先生はそれ以上考える隙を与えてはくれなかった。
「腹を括りなさいと言っているのよ」
先生は厳しい。
そして優しい。
「また間違う? だから何なのかしら。 そう言っていつまで逃げているの? 」
だから俺を逃がさない。
襟元を掴んで無理矢理立たせてくる。
「その間違いも弱さも飲み込みなさい。 そして自分を認めなさい。 いい事も悪い事も。 それで今を見なさい」
見た事のないくらい真剣な表情だ。
そして瞳の奥に、
覚悟と、
俺への信頼を感じる。
それ程までに真っ直ぐな眼差しが俺を見ている。
「貴方は頭がいい。 きっと冷静に判断出来る。 それにスライムの知識だってある。 貴方にしか出来ない。 それを死んで逃げようたってそうはいかないわ」
俺は先生から視線を外せなかった。
先生の話から耳を塞げなかった。
「それにね、 リーブちゃん。 やっぱり貴方のした事、 全部失敗って訳じゃないわよ」
だから、 誰かが近くにいる事も気づけなかった。
「ね? ミゲルさん? 」
「え? 」
視線を先生の後ろに向ける。
そこには、 逃げた筈のポーシィさんがいた。
「リーブ! な、 何かするつもりなんだろ! お、 俺にも手伝わせてくれ! 」
彼はその場にしゃがみこみ、 懇願してきた。
「お前の言葉で目が覚めた! 魔物恐怖症がなんだ! 怖いからってよ! 娘......レナを、 街を犠牲にしていい筈がないんだ! 」
身体が激しく震えている。
顔は真っ青。
表情はどんな感情なのか分からないくらいぐちゃぐちゃだ。
「魔物とだって戦う! なんだってする! だから、 だから! 俺にも手伝わせてくれ!! 」
それでも、 彼は行動しようといるのだ。
「ね? リーブちゃんの言葉で彼の心も動いたの。 言葉は悪かったかもしれないけどね♡ 」
先生が嬉しそうに笑っている。
「それに、 レナちゃんが戦えてるのは貴方のおかげ。 スライムを知らなきゃ出来なかった。 ほら、 悪い事ばかりじゃない」
俺を離して立たせてくれる。
「これでもまだ、 言い訳して逃げるつもり? 」
そして最後に、 また真剣な表情で言った。
「さぁどうするの? ライブル・アンウェスタ」
「っ......! 」
問われて、 身体が強ばる。
分かっている。
俺は信じられている。
そして、 俺がしてきた事でいい方向に向かった事もある。
分かってる、 わかってるんだ。
でももう一歩、 覚悟が足りない。
それなら......!
「ポーシィさん」
「おう! なんでもやるぜ! 」
「俺の顔を殴ってください」
「へ? 」
「尻尾で俺の顔を殴ってください」
「え、 いやでもよ」
「いいから! 」
「ああもう! どうなっても知らねぇぞ! 後で文句言うなよ! 」
複雑な表情のオオトカゲ男から尻尾の一撃が飛んでくる。
強烈だった。
俺は再び壁に叩きつけられた。
目が覚めるような一撃だった。
それを通り越して永遠に眠りそうになった。
けど、 レナの一撃よりマシだ。
『助けに来るのが遅いよ! リーブのばかぁぁああっ!! 』
これ以上待たさればそんな事を言われて尻尾攻撃が飛んできただろう。
きっとその時は本当に死ぬ。
それに比べれば何倍もいい。
おかげで、 覚悟が出来た。
「さぁ! レナを助けに行きましょう! 」
そう言った俺の顔は、
何倍にも膨れ上がっていた。
◇◆◇
「ポーシィさんはもう一度街を回って逃げ遅れた人が居ないか確認してください。 その後合流しましょう」
「ふざけんな! 俺も戦うぞ! 」
「まぁまぁミゲルさん♡ リーブちゃんも顔が酷いわよ?♡ ......『キュア』」
ポーシィさんにそう指示している間に、 先生は俺に回復のの魔術をかける。
それにしてもさらっと高等魔術を使うなこの人は。
最初からそれを教えてくれ、 とは思うが今はそれどころではない。
ポーシィさんは一緒にレナを助けに行くと言ってくれた。
しかし彼は相変わらず震えている。
無理に戦いに参加すれば足が竦んでやられてしまう可能性がある。
気持ちは嬉しいが最前線から離れて貰う事にした。
先生は彼を、 「適材適所よ」と説得してくれた。
◇◆◇
ポーシィさんと別れ、 街の北の出口に向かう。
レナは街の皆を逃がす為に、 屋敷に向かった一団のしんがりを務め戦っていると言う。
俺たちはまずそこへの合流を目指す。
......しかし。
「いてて......」
全身が痛い。
ある程度回復はして貰ったが全快には時間がかかる為に、 中途半端に治してもらうのを切り上げたからだ。
「もう。 ちょっと身体を張りすぎよ♡ 」
半分はアンタのせいなんだけどな。
と、 先生に対して思うが口にはしない。
また怒りを買って殴られたら元も子もない。
それに、 顔や身体は痛いが心が軽い。
さっきまでが嘘のようだ。
心持ち一つでこうも違うとはな。
最初からこうしておけばよかった。
自分の単純さに苦笑が漏れる。
今なら何でも出来そうな気がした。
レナに合流し、 この街を救う。
それが簡単に出来てしまいそうな気がしたのだ。
あっさり解決し拍子抜け。
そんな未来さえ浮かぶ。
しかし、 現実はそう甘くはなかった。
「きゃああああっ!! 」
北の出口が近づいた時、 悲鳴が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
それは決して知人レベルじゃない。
もっと、 いつも聞いているような声だ。
聞き間違える筈がない。
その声を聞いて、
先生と俺の走る速度が早くなる。
本気で走った。
流石先生は着いてきている。
嫌な予感がした。
まさか、 と。
そんな訳ない、 が。
交互に頭を過ぎる。
そして現場に着いた時、
そこにあった光景は、
『まさか』の方だった。
「レナぁぁああああっ!! 」
そこには、
スライムに、
尻尾を食われている、
レナの姿があった。
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