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第8項 「怪獣好き、 発見する」

 

 一通り調べて疑問が解消した。

 全てではないが。


 俺が知りたかった事は三つだ。


 1. 属性理解や基本属性派生属性を知らなければいけないのか。


 2.基本魔術と高等魔術が存在しているのは何故か。


 3.魔言語とはそもそも何か。


 これらを理解するのに必要なのは基本一つだった。

 それは魔術の歴史だ。


 先生が用意してくれた本の中に歴史の資料があった。

 これを順に読んでいく事によってこの三つの意味を知る事が出来たのである。


 魔術の歴史。


 遡る事10万年前。

 ......まずこの時点で思考が停止した。

 そんななるか昔から魔術を有する文明が発展していた事に驚きだ。

 前世での人類の文明など1万年やそこらぐらい前から出てきたのがやっとなのに。

 これは前の世界の常識に当てはめても仕方ないと流す。



 ・10万年前。

 西大陸にて魔術が発見される。

 しかし魔術を発見したのは人間ではなく、 妖精や精霊の類だという。

 彼らは基本属性を司る精で、 それぞれ自分の属性の魔術しか使えなかった。

 つまり最初期の魔術は基本属性しかなかったのだ。


 ・一万年前。

 人間が魔術を使い始める。

 かなりの長い期間、 魔術は魔法と同じで人間にとって空想の産物だった。

 しかしある時ある人種が基本属性全ての精と契約し、 魔術を授けられたという。

 これによって人間は自然現象を司る力を手に入れた。


 ・5000年前。

 属性理解が深められ人の力が加わる。

 この5000年間、 魔術は契約した人種しか使えなかった。

 だがこの辺りで『平人』に魔術が伝わる。

 平人は元々物作りなどで手先が器用で狡猾だった為、 元々ある自然現象を少し操る程度ではなく、 発生させたり発展させたりするようになり生活に生かすようになる。

 こうやって基本魔術が完成に至った。

 そして全ての大陸に魔術が浸透する。


 ・1000年前。

 高等魔術が生まれる。

 大きな戦争が起こった。

 その際に生じた大爆発で北大陸に巨大なクレーターが出来る。

 そこに超古代文明を発見。

 現代から遡る事1億年の文明......1億年!?

 ......そこから『魔言語』を発見。

 これにより、 生活に利用する程度だった魔術を本格的に戦闘にも使えるようになった。

 こうして高等魔術が完成する。


 そこから現代へと至る......。


 魔術の歴史は大まかにこんな感じだ。


 なるほど。

 何となく予想出来た。

 手元にある資料からは魔術の歴史しか分からない。

 この世界自体の歴史をもっと知りたい所だが、 考察は出来る。

 そして魔術の生い立ちを知る事により疑問も解消出来た。


 一つめと二つめは簡単な話だ。

 生い立ちが違うのだ。

 まず基本属性が発見され後に人の力が加わり基本魔術が完成した。

 そして魔言語が発見され高等魔術が完成する。

 分けて順番に教えられたのは、 その進化を辿らせたんだろう。


 勿論それ以外にも理由はある。


 基本魔術は、

 基本属性に魔力を注ぎ行使するものと、

 属性理解を深め人の力を加え派生属性へと発展させるものの、

 二段階に別れている。

 資料では前者を『原初魔術』と呼んでいた。


 この言葉からも分かるように、

 魔術は、

 原初から始まり基本を基盤に高等へ至る。

 基本から応用へ。

 つまり難易度なのだ。

 魔術は難易度の低い方から覚えるのである。


 それを証明するように魔言語についてこんな事も書かれていた。


 魔言語は魔術を行使しなくても口にするだけで相当の魔力を消費する。

 そして原初魔術、 基本魔術を理解しないものはただ魔力を吸われるだけで高等魔術を扱えない、 と。


 つまり高等魔術を使う為には、

 原初魔術と基本魔術で属性理解や人の力が加わる事を学び、

 尚且つそれ相応の魔力を有してなければいけないのである。


 この学び順番は、

 基本から応用へと発展させる過程で難易度を上げていくだけでなく、

 高等魔術を行使出来る程の魔力量を持っているかの振い落しも兼ねている事になる。

 この世界ではその為にこの学び方が基本のようだ。


 面白い。

 奥が深い。

 俄然魔術に興味が湧いてきた。


 先生は何故最初からそれを教えてくれなかったのだろうか。

 知っていれば魔物と戦う為という理由だけでなく、

 魔術自体に興味を持って更に熱中出来たというのに。

 そもそも俺は魔物戦う事に対しても消極的なんだから......。


 いや、 もしかすると俺に気づかせたかったのかもしれない。

 まずは魔術を扱えるようになってから、

 その後自分の行使しているものに自ら興味を持つように、

 そう仕向けたのかもしれない。

 しかしなんの為に?

 聞いてみないと真意は分からないが。

 聞いても教えてくれなさそうだが。


 俺はそのまま好奇心の赴くままに資料を漁った。

 すると他にも面白い文献が見つかった。

 同時に3つめの疑問も解消される。


 魔言語が発見された古代の移籍。

 それは1億年前に『転生者』が栄えさせた文明の成れの果てだという一説だ。


 これはこの世界のいくつかある説の一つのようだが、

 俺にとっては信憑性の高いものだった。


 なんせ魔言語は英語だ。

 他の世界の言葉がこの世界で自然発生するとは考えにくい。

 理由は分からないし何故魔術に使われているかも分からない。

 しかし前世の記憶がある人間が文明を大昔に発展させたというのは不可能ではない筈だ。

 それが英語圏の人間の生まれ変わりだったんだろう。



 今度の俺の興味は魔言語に移る。

 この言葉も不思議だ。


 先程の資料にあったように、

 魔言語は発するだけで大量の魔力を消費する。


 一見大量の魔力量を誇る魔術師以外には縁のないように見えるがそうでないらしい。

 他の資料には魔言語の活用法が書かれていた。


 魔言語は発するだけで魔力を消費するが、

 実はその言葉自体に魔術を込められる性質を持っているらしい。

 だから魔力量の多い者が魔言語を発すればその言葉自体が強力な意味を持つと言う。


 例えば子供に魔言語で名前を付ける。

 するとその子供は与えられた魔言語の名の意味を持つ能力を得られる。

 武器や防具やアクセサリーに魔言語を込めて名付け、

 祝福のように様々な効果を付与出来るとも言う。


 凄い話だ。

 しかもこれは可能性の話ではなく実際に今も用いられている現実にある手法だ。

 なんと便利な言葉なんだろうか。

 こうして魔言語で名を与えられものを、 『魔名』や『魔道具』と言うらしい。


 まぁ祝福を与えるのは高等魔術よりも難易度が高く扱える者が少ない為、

 そういったものはかなり希少価値があるらしいが。

 それでも実用されているのは本当に凄い話だ。



 俺はさらに資料を読み漁る。

 するとまた別の事に興味が湧く。


 魔言語が発見された遺跡は転生者の文明の可能性がある。

 それは先程見たものだが、

 実は至る所に転生者の影があるのだ。


 魔言語で祝福を与える方法を編み出したのも転生者だと言う資料があった。

 他にも、

 精から魔術を学んだのも、

 派生属性を発見したのも、

 魔言語を発見したのも、

 転生者だという資料が存在するのだ。


 しかもそれだけではない。

 発見された魔言語だけでなく、

 新たに魔言語を作り出し多くの高等魔術を生み出した転生者もいると言う。


 転生者。

 こうやって見るととんでもない存在だ。

 この世界に新しいものを、

 新たなきっかけを、

 法則を、

 常識を与えてた者たち。


 彼らはモードたちから教わったとおり、

 世界の歴史の節目に現れている。


 魔術に関わる事だけでなく、

 戦争を止めた者。

 医療の発展に貢献した者。

 商業をより良くしたもの。

 航路の開拓。

 水路の構築。

 等々。

 この世界に大きな影響を与えているのだ。

 まぁどこまでが本当なのかは分からないが。


 しかしこれだけ影響を与える存在だ、

 その出現にこの世界の人間が敏感になるのも分かる。

 そりゃ名を利用しようとする者も出てくるだろう。


 そして改めて自分が転生者でないと確信する。

 俺は偶然に前世の記憶を思い出しただけの男だ。

 本物の転生者たちのように大それた事は出来ないしするつもりもない。

 ただの怪獣好き......魔物好きの少年でいいのだ。

 俺は世界の為に何かしたい訳じゃない。

 自分の夢を叶えたいだけだからな。



 ......しかし。

 かなり没頭して読んでしまったな。

 当たり前だが魔物の事は何一つ分からない。

 そして世界の事も全然分からない。

 しかし少しだけ広がった。

 決して時間の無駄ではなかった。

 それに、 気になる事もある。

 転生者の中には自分で魔言語を生み出した者もいると言う話だ。


 魔言語は遺跡の中にあった巨大な石版に記された状態で発見されたらしい。

 その時のかずは10単語程度。

 しかしその転生者が魔言語を新しく開発すると、 その石版に自動的にその言葉が刻まれたのだという。

 そうして魔言語の数は増えていった。


 魔言語は、

 その言葉の意味と、

 効果を理解して始めて魔術や祝福になる。


 逆に言えばその二つさえ合っていれば、

 本人が知らない魔言語を発したとしても効果を発揮するそうだ。

 それは既存の魔言語でも、 まだこの世界に存在しない魔言語でもだ。


 つまりルールに則っていれば、

 既存の魔言語を知らずとも使える事が出来るし、

 まだないものなら石版に記される。

 というのだという。


 これも凄い事だ。

 だってそうだろう。

 この世界の住人にはほぼ不可能な事かもしれないが、

 俺のように英語を知る人間なら誰でも魔言語を増やせる事になるのだから。

 一々どんな魔言語があるのか調べる必要はない。

 この世界にあるにしろないにしろ、

 色々試せば使える魔言語が増えていく。

 なんと夢のある話だろうか。


 まぁ結局魔物とは何の関係もないのだが。

 ......いや待てよ。


 つまりはこれは俺にも魔言語を生み出せるという事じゃないか?

 自分の欲しい魔術を手に入れる事が出来るんじゃないか?


 だとすれば......!


 俺はまた、 知識の中に没頭していった。


 ◇◆◇


「......ふぅ。 疲れた」


 暫くぶりに自分の声を聞いた。

 いや正確にはずっと喋ってたがそれは魔言語だ。

 この世界の言葉を口にするのはなんだか久しぶりな気がする。

 まさかこっちの言葉に慣れて英語を喋るのに疲れるとはな。

 いやまあそもそも英語には縁がなかったが。


 いつの間にかお昼になっていた。

 それまでずっと休みなく資料と言葉と睨めっこしていた。

 新たな魔言語を発見しようと躍起になっていたのである。


 結果としては成功。

 まぁ実際にはもうある魔言語なのかもしれないが、 俺にとっては新たに編み出したのには変わりない。


『魔名』として祝福する方法は分からなかったので出来上がったのは魔術だが、

 実際に試すのが楽しみだ。


 勿論相手はモード......いや違うな。

 俺は誰かを傷つける為に新しい魔術を編み出したんじゃない。

 全ては魔物と関わり、 知る為。

 モードは少しギャフンと言わせるぐらいでいいのだ。



 そんな事を考えていると、

 二人が戻ってくる。

 レナは化粧をして上機嫌だ。

 少し厚化粧なのは気になるがそこまでではない。

 流石の先生も相手に合わせられるようだ。

 レナはまた子供だし元の顔立ちも悪くない。

 正直化粧などさせる必要はないと思うが。

 でもまぁ本人の希望なら仕方ないか。


「リーブちゃん♡ レナちゃんが照れてるわよ♡ 」


 おっといけない、 普通に凝視してしまった。

 レナが顔を真っ赤にして俯いている。

 そんな姿も可愛らしく感じる。

 ......子供相手に何を思ってるんだか。

 しかし彼女と関わるとどうにも気になるのは何故だろうか。


 そうこうしているうちに昼食となった。

 屋敷で振る舞われる豪華なものだ。

 と、 言っても。

 この街で出回っているレベルだ。

 先生は決して見栄を張ったり贅沢し過ぎたりはしない。


 豪華というのはウチで出されるものと比べれてだ。

 モードの料理は酷い。

 いや、 焼いたり生だったりするだけだから料理とも言えない。

 おかげで俺の料理のスキルが上がったくらいだ。


 ちなみにこの頃になるとモードもやって来る。

 タダ飯を食らう算段だろう。

 腹立つ親父だ。


 まぁ実際にはコイツが報酬を払ってるから俺は授業を受けられる訳で......。

 しかも午前中は街や周囲の見回りだろう。

 タダ飯ぐらいなのは俺の方である。


 そうは言っても腹は減る。

 育ち盛りだし、 魔術の開発のせいでかなりの魔力を持っていかれた。

 特に消費の激しい魔言語を用いたから余計だ。

 魔力は体力と同じ。

 使い過ぎれば倒れるし、

 補給しなければ回復しない。


 ......むぐ。 美味い。


 今はタダ飯に甘えよう。

 そしていつかこの恩を返そう。


 ◇◆◇


 昼飯の後、 俺たちは屋敷を後にする。

 レナを家まで送って行こうとしたが、 寄るとこがあると先に帰って行った。

 向かう方向は街で同じ筈なのに何故先に行ったのか。

 森にでも用事があるのか?

 まぁここら辺は魔物も殆ど出ないし、 危険な動物もいない。

 放っておいても大丈夫だろう。


 街を抜け、 街道を進み、 山の麓の森まで戻る。


「上で待ってるぞ」


 モードは相も変わらず先に行く。

 どうせ助けてくれるなら傍にいればいいのに。

 ......いや何を考えている。

 負ける事を前提にしてどうする。

 それに奴は、 俺が一人で登ってこれると信じている筈だ。

 ......その筈だ。


 だからその期待に応えなければ。

 そして上で待ってろ。

 今日こそはボコボコに......ではなくギャフンと言わせてやる。


 そう、 今の俺には秘策があるんだから。



 森に入ろうとした所で足を止める。


 この10年の特訓で俺は多少の気配なら感じられるようになった。

 なに、 要は魔力コントロールの一環だ。

 魔力を五感に注ぎ感度をアップさせるのだ。

 そうすれば殺気の篭った攻撃や、

 近くにいる存在を察知する事が出来る。

 特に見知った相手の気配ならよく分かる。


 つまり何が言いたいかというと。


「レナ。 なんでそんな所に隠れてるんだよ」


 正に見知った相手がそこにいるからだ。

 街からずっと俺たちを尾行し背後の木の影に隠れている。


「バレちゃいましたかぁ! 」


 レナは芝居がかったセリフと共に姿を現して仁王立ちした。

 少し恥ずかしそうにしている。

 恥ずかしいならやめればいいのに。

 というか気づかれた事は驚かないのか。

 この世界では気配の察知は普通なのかもしれない。


「それでなんの用? ここら辺は危ないよ? 」


 嘘だ。

 さっきも言ったようにここらに危ない存在などいない。

 ......一匹を覗いては。

 けどそいつは森の奥まで入らないと出てこない。

 要は帰って欲しいのである。

 さっき編み出した魔術を試したいのだから。

 一人で集中したいのだ。


「えっと、 そのぉ......実は話したい事があってぇ......」


 俺の問いかけにレナは言い淀んだ。

 緊張した彼女はいつもこうである。

 手をモジモジさせ、

 自慢の尻尾を足に巻き付かせ小さくする。

 そして俯き気味だ。

 さっき先生相手にもこうだった。


 勘弁して欲しい。

 なんだってこんな時に。

 しかも何故俺相手に緊張しているんだ。

 いつもはあんなにハキハキと歯切れよく話してくれるじゃないか。

 俺は若干イライラしていた。


「ごめん、 先を急ぐんだけどいい? 」


 だからそんな風に返してしまう。

 しかしレナはその場から動こうとしない。


「あのね、 えっと......」


 流石に一人には出来ないから離れられない。

 一体なんだと言うんだ。


「さっきの、 事なんだけど.......」


 さっきの事?

 なんの事だ?

 レナのモジモジが激しくなる。

 見ていて痛々しい程に尻尾を脚に絡みつけている。

 締めすぎて跡にならないか心配だ。


 トイレでも行きたくなったのか?

 そんな馬鹿げた事を思った後、

 察しの悪い俺でも流石に気づいた。


「ま、 魔物の話の事なんだけど......言い過ぎたな、 って......」

「ーーっ」


 彼女は、 俺に謝ろうとしてくれていたのだ。


 この世界の住人が魔物に拒否反応を示すのは知っていた。

 レナの場合それが顕著だったがそんなものだと思っていた。

 そしてあの後機嫌が良くなっていたし気にしていなかった。


 それなのに、

 この子は、

 ずっと考えていたのだろう。


 化粧を習っている時も、

 喜んでいる時も、

 頭の隅ではその事が過ぎっていたかもしれない。


 ......俺は馬鹿だ。

 前世で人付き合いをしてこなかったツケが回ってきたのだ。

 何が中身は大人だ。

 生まれ変わって子供に戻っても何も成長してないじゃないか。

 相変わらず他人の気持ちを気にしてない。

 気付こうとしていない。


 謝るのは俺の方だろう。

 彼女の前で、

 彼女が嫌がる話をしてしまった。

 それを知っていて言い訳をした。

 だから彼女は怒ったのだ。


 なのに俺ときたら。

 自分が嫌になる。


「......はぁ」

「ご、 ごめん! やっぱり怒ってるよね! 」


 思わずため息が出てしまった。

 それを彼女が自分に向けたものと勘違いし、

 しなくていい謝罪を入れてくる。

 そして今からしようとしてる謝罪も同じく必要ない。


「......ごめん」

「え? 」

「自分の事ばかり考えてた。 レナは魔物が嫌いなのに、 レナの前で魔物の話をした。 ごめん」


 言われる前に先に言った。

 素直に謝罪の気持ちを表現出来た。

 前世でも同じ事が出来ればあんな......。

 あんな? なんだったか。


「な、 なんでリーブが謝るの? 」


 レナは目を丸くして驚いている。


「謝るのは、 私の、 方なの、 に......ふ、 ふぇ」


 そして表情が次第に崩れていく。

 目から涙が溢れ、 両手で顔を覆ってしまった。

 止めてやりたかったが、 どうしたらいいか分からなかった。


「ごめん、 ごめんリーブ! リーブの好きな事、 嫌だって言ってごめんなさい! うわぁあん! 」


 そして謝罪の後、 大声を出して泣いてしまった。

 結局どちらも止められなかった。


 俺はバカだ。

 何故気づけなかったのか。

 この子は優しい子だったんだ。


 モードや先生と同じく直ぐに手は出るし、

 怒らせると謝っても許してくれないし、

 許す条件を突き出してくるし、

 我儘な子だとばかり思っていた。


 しかしそれだけじゃなかった。

 好きな事を否定したと自覚してくれた。

 その事を考えてくれた。

 謝ろうとしてくれていたのだ。


 戻ってきた時上機嫌だったのは、

 もしかすると無理をしていたのかもしれない。

 もしかしたら先生に何か相談してたのかもしれない。


 そして謝るチャンスを伺って、

 俺が一人になるのを待って、

 屋敷からずっと後をつけてきたんだ。


 そんな事も分からないから俺は友達がいなかったんだろう。

 自分の興味のある事ばかり考えて。

 俺の事を考えてくれる人を見ようとしない。

 モードの事といい、 何回同じ失敗をすればいいのか。


「ごめんなさい! ごべんなざぁぁあいい! 」


 泣くのが激しくなっていく。

 もうどうすればいいか分からなかった。


 だから俺は、

 優しく彼女を抱き締めた。


「う、 うわぁぁあん!! 」


 そしたら更に激しくなった。

 ど、 どうしたらいいんだ。

 間違ったか?


 両手は相変わらず顔を隠しているが、

 尻尾が俺の脚に絡みついてきた。

 少し痛い。


 やっぱり間違ったか?

 そう思ったが、

 少しずつ、

 泣き声も尻尾の締めつけも落ち着いていく。

 一度激しくなったのは、 安心したからかもしれない。

 そしてそれが安定してきたのだ。

 子供とは、 そういうものなんだろう。


「怒ってない? 」


 レナが耳元で聞いてくる。


「怒ってないよ」

「本当に? 」

「友達にあれぐらいの事で怒らないよ」

「ごめんね」

「僕の方こそごめん」


 段々と冷静になったレナが話してくれた。


 レナは化粧が好きだ。

 昔それを周囲に話したら、

 親や友達に馬鹿にされ否定されたと言う。

 鱗人が、 ウロコが、 何を言ってるのだと。

 それと同じ事を俺にもしてしまって後悔したと。


 鱗人は普通はレナと違って平人のようでは無い。

 爬虫類のような見た目だから、 化粧など必要ないのだ。

 というか化粧をしても意味などないのかもしれない。

 だからそんな事言われたんだろう。


 自分にされて嫌な事を誰かにして悔やむ。

 俺よりこの子の方が余っ程大人だ。


「......友達」

「え? 」

「リーブが初めて『友達』って言ってくれた」

「あ」

「えへへ」


 顔を上げた彼女は笑顔だった。

 泣いたカラスがもう笑った。


 そして初めてそこで自覚する。


 友人が出来た。


 更に言えば俺はそれを無意識に思っていた。

 前世では友人の作り方すら知らなかった俺がである。


 以前の俺は金を稼ぐ事しか考えていなかった。

 だから人間関係を避けた。

 しかし生まれ変わり幼い夢を取り戻した。

 この10年、 それだけを考え、 それに必要そうなものを覚え利用しているだけのつもりだった。


 街の人と関わっていたのもそうだ。

 レナともそうだ。


 でも違った。

 俺は変わったのかもしれない。

 それは僅かな変化かもしれない。


 でも、 前世とは違うのだ。


 金を稼ぐ意外に興味がなかった。

 でも今は魔物に、 魔術に、 世界に興味を持てた。


 人間関係など必要ないと思っていた。

 でも今は、 多くの人に助けられ仲良くしてもらっている。

 モードも、 先生も、 街の人も。

 レナも。


 そして、 友達が出来た。


「......ありがとう」


 思わず呟く。

 レナはなんでお礼を言われなのか分からず戸惑っていた。


 生まれ変わり、

 夢を取り戻し、

 金以外に無力だった俺がこの世界を好きになり始めた。

 そしたら自分がいつの間にか変わっていた。


 知りたい。

 もっと知りたい。

 魔物の事も、

 魔術の事も、

 この世界の事も、

 街の人の事も、

 レナの事も。


 知識は力。

 先生はよくそんな事を言っている。

 もしかすると、 こういう事なのかもしれない。


 なら俺が、 今一番知りたい事は......。


「レナ、 少し付き合ってくれない? 」


 俺は彼女の手を引き、 森へと入って行った......。



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