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プロローグ 「怪獣好きの魔物図鑑」

2021/2/28 追加

 


 その街は多くの魔物に襲われていた。

 種類は様々、 大小の魔物たちが押し寄せてきている。

 俺たちが到着する頃には既に大きな被害を受けていたところだった。

 それでも街の者たちが協力して対処に当たっている。


 大丈夫、 まだ間に合う。


 俺は仲間たちと共に街を駆けた。


「皆! いつも通りに! 」


 その声に各々が返事をして街中に散らばる。

 俺も行動開始だ。



 手に取ったのは『魔物図鑑』。

 俺が、 俺たちが作った、

 世界でただ一つの魔物の事が書かれた図鑑だ。


 この世界の人間は魔物に対しての知識があまりない。

 だからこうして『魔物図鑑』を通し、 その対処法を伝えている。

 いまこそその出番なのである。



 俺は近くにいた住民に図鑑を渡した。

 その中には今攻めて来ている魔物たちの情報も書かれている。

 逃げるにしろ、 戦うにしろきっと役に立つ筈だ。


「馬鹿野郎! こんな時に本なんか読んでられるか!! 」


 ......。

 正にその通り。

 今は非常事態。

 のんびりと図鑑を読んでいる暇はないだろう。

 しかしもう少し言い方はないのだろうか。

 少し傷つく。


 でもま、 そこら辺もちゃんと考えてある。


「この頁に触れて見てください」


 俺は凹んだ素振りなど見せず、 あるページを開いて住民に差し出す。

 ちょうど向こう側にいる魔物について書かれたページだ。


 かなり怪訝な顔をされたが、 恐る恐るではあるが相手はそのページに触れてくれた。

 その瞬間、 図鑑が光る。


「これでこの魔物の知識が頭に入ってきた筈です。

 一時的ですが、 役に立つと思います」


 住民は驚いて何も言えない様子だった。

 そりゃそうだろう。

 読まずともその図鑑の知識が吸収されたんだからな。

 しかしこれでこの人はあの魔物に対処する事が出来るだろう。


 俺はその住民に図鑑を押し付けると、 そのまま別の住民を探し始めた。


 これが、 俺たちのやり方だ。


 ◇◆◇


 魔物。

 この世界に巣食う人間の天敵。

 人間を見ると無差別に襲ってくる害獣。

 俺たちはその対処にあたる為にこうして活動している。


 活動内容は、

 魔物図鑑を作り、

 それを広める事。


 この世界の人間は魔物の知識に疎い。

 毛嫌いしているのもあるが、 対処出来るのはほんの一部に過ぎない。

 だから何も分からず殺されるか逃げ惑うしかないのだ。


 俺は、 その『常識』を変えたい。

 だからこうして魔物の被害を受けている場所を探しては助けに来ている訳だ。


 正直な話、

 俺と仲間たちだけでもここにいる魔物を駆逐する事は出来る。

 勿論そうするつもりではあるが。

 でもそれだけでは、 ダメなのだ。


 魔物は敵わない相手。

 どうする事も出来ない相手。


 そう思ってしまうのは知識がないからだ。

 それさえ得られれば、

 倒す事は出来なくても対処する事は出来る。

 魔物の正しい知識を得て、 自分たちは無力ではないと知って欲しいのだ。


 その為の活動であり、 その為の魔物図鑑だ。

 だから俺たちだけで魔物を倒しても意味がないのだ。


 正直まどろっこしいやり方だと思うし、

 何より魔物の襲撃を利用している訳で。

 聖人のような正しいやり方ではないのは分かってる。


 このやり方じゃ救えない人もいるだろう。

 それも覚悟の上だ。

 その罪は、 俺が背負う。


 これは、 俺のワガママなんだから。


 ◇◆◇


 そんな事を考えつつ、 魔物図鑑を配る。


 図鑑を渡された人は、

 喜ぶ者もいれば、 拒否し罵ってくる人もいる。

 当然だ。

 でもそれでいい。

 俺たちは聖人じゃない。

 世界の『常識』を変えようとしている異端者だ。

 罵られて当たり前だろう。


 それでも、 やる価値はあると信じている。

 直ぐには変わらなくても、

 大きく変わらなくても、

 少しづつでいい、 この世界の『常識』を塗り替えるんだ。

 そう思って活動している。


 行動を共にしてくれる仲間たちもそうだ。

 一癖も二癖もあり、 各々が様々な思考で動いてはいるが、

 こんな俺のワガママに賛同し付き合ってくれている。


 見れば、 仲間たちも図鑑を配っている所だ。


 言葉巧みに説得する者もいれば、

 不器用ながら必死に頼み込む者もいる。

 中には、


「はい! これで魔物図鑑の効果は分かって頂けたでしょう! しかしこれはほんの一部!! 完全版をお求めの方は是非我らが商会へお立ち寄りください!! お安くしますよぉ!! 」


 と売り込みまでかけている者もいた。

 まぁ正直そこまでしなくてもいいんだが。

 それでも、 ありがたい。


 ◇◆◇


 図鑑を大方配り終わると、 今度は魔物の対処にあたる。


 その際のルールは一つ。

 人に危害を加えた魔物は殺す事、

 それ以外は逃がす事。

 それを守ってくれさえすれば後は個人の行動に任せている。


 さて、 俺も手持ちの図鑑が無くなった。

 魔物相手に本腰を入れるか。


 そう、 思った時だった。



 それは、 地平線の向こうからやって来た。



 どこから現れたのかは分からない。

 でも気づけばそこにいた。

 街を見下ろす程の、

 巨大な魔物が。


 全身を鱗に包まれ、

 蜥蜴のような見た目で、

 そして二足歩行している。


 ()()()()だ。


 誰がどう見てもドラゴンだ。


 まさかこれ程の相手が現れようとは。

 俺はその圧倒的な存在感に冷や汗を流す。

 そして同時に考える。


 ドラゴンとは普通、 四足歩行だ。

 しかしコイツは二足歩行。

 俺の書いた魔物図鑑に載っていないドラゴンだった。


 つまり、 つまりだ。


「初めて見る魔物だ......」


 次の瞬間には思わず呟いていた。

 そして、 湧き上がる感情に気づく。

 ......いや、 今はダメだ。

 俺たちはこの街を救いに来たんだ。

 そんな事を考えてる暇はない。

 けど、 けど......!


「ちょ、 ちょっと()()()!! ドラゴンまで出てきちゃったんだけど! どうしよう! 」

「向こうも本気って訳だねぇ。 ()()()()、 どうする?」


 ドラゴンを見つめていると二人の仲間が集まってきた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 恐らく対応について話に来たんだろう。


 よし、 大丈夫。

 状況を考えられてる。

 冷静だ。


 リーブは俺の愛称。

 ライブルは俺の名前。

 大丈夫、 分かってる。

 冷静だ。


 その冷静な頭でこの後どうするか考えなくては。

 そうだ、 そうするべきだ。


「もう! また一人で考えてる!! リーブ、 少しは......あ」


 そんな事を考えてるうちに尻尾の子の方に顔を覗き込まれた。

 そして彼女の表情がみるみる曇っていくのが分かった。

 どうやら俺は今、 ニヤけてしまっているようだ。


「ハハ! また病気の発作が出たんだね! 」


 男の方がそれを見て楽しそうに笑っている。

 笑い事じゃない。

 俺はその発作を必死に抑えようとしているんだから。


 でも、 もう無理だった。


「見てみなよ! 魔物図鑑にまだ載せてない魔物だって! 初遭遇! 初遭遇なんだよ!! 」


 その俺の言葉を聞いて呆れる二人。

 しょうがない、 分かってる。

 これが俺の病気だ。


 俺は昂る気持ちを抑えられないままドラゴンを見た。

 その勇姿に惚れ惚れとしてしまう。



 そう、 そうなのだ。

 俺は何を隠そう、 魔物が大好きなのである。



 いや、 待て。

 これでは語弊がある。

 正確には魔物が好きな訳じゃなく、

 その魔物に似た存在が......。


 ......そうだ。

 コイツもよく見れば似ている。

 俺が憧れてやまない存在、

 ()()に......!


 そう思った瞬間、 俺の記憶がスパークする。

 ()()()()()からとある情報を引き出した。


 このドラゴンに似ている、 怪獣の情報を。



『怪獣王 カジラ


 全長:50m

 体重:2万t


 水爆実験により目覚めた古代の怪獣。

 餌を求めて日本に上陸、 東京の街を破壊する。

 その性格は凶暴そのもの。 口から熱線を吐き破壊の限りを尽くす。

 様々な怪獣と戦ってきたが基本負け無し、 負けても死ぬ事のない不死身の生命力を持つ。

 』



 ああ、 『カジラ』!

 怪獣の中の怪獣!!

 まさかこんな()()()でその姿を見る事が出来るなんて......!

 ......いやまぁアレはカジラじゃないんだけどね。

 それでも感動は相当のものだ。


 ちなみにその名前の由来は、

 陸上で最強と言われているカバと、

 海で最強と言われているクジラを合わせた......。


「リーブ! リーブ!! 」


 いいところで声をかけられた。

 もう少し怪獣王との再会を喜ばせて欲しいものである。

 ......じゃなくて。

 いかんいかん、 妄想に取り憑かれていた。

 俺の悪い癖だ。


 俺は、

 怪獣、 そしてそれに似た魔物を目にするとどうにも止まらなくなってしまう。

 自分でもいけないと思っているし、 皆からもその癖を治せと言われている。

 だからこんなところで感動していてはいけないのだ。


 相手は魔物。

 人間の天敵。

 しっかりと対処しなくては。


 俺は自分の両頬を叩いて気合をいれた。

 そしてカジラ (仮称)を見る。

 まだ顔がニヤけてしまうが仕方ない。


「それで? どうするの、 ライブル」


 男がニヤニヤしながら問いかけてくる。

 やめてくれ、 茶化さないでくれ。

 俺だって恥ずかしいと思ってるんだ。


 しかしどうするか。


 正直倒す事は可能だろう。

 しかしまだカジラ (仮称)は人に危害を加えていない。

 ならばルール的には殺す事はないだろう。

 誰かを傷つける前に対処し、 負い返せばいい。

 俺たちは魔物の殺し屋じゃないんだから。


 ......しかし、 しかしだ。

 折角巡り会えたチャンスを逃がしたくはない。

 どうせなら生け捕りにして後々観察を......。


 ダメだ、 何を考えてるんだ俺は。

 そんな余計な事をしたら仲間に迷惑がかかる。

 このカジラ (仮称)はあくまでイレギュラーだ。

 予定通りに動かなくては。


 けど、 けど......!


「えっと、 リーブ? 」

「ハハ! まさか、 ねぇ? 」


 仲間たちは心配そうに問いかけてくる。

 その表情には不安が見え隠れしている。


 そうだ。

 俺は彼らも守らなきゃいけない。

 だとしたら、 するべき事は......。


 俺は悩んだ末、 一つの答えを出した。



「生け捕りだ!! 」



 それを聞いた仲間たちは、 また呆れた顔をする。

 でも文句の一つも言わずに頷いてくれた。


 こんなワガママに付き合ってくれる。

 俺は本当にいい仲間に恵まれたな。



 これが俺の日常だ。


 俺の名前はライブル・アンウェスタ。

 職業は、

『魔物博士』である。


 ◇◆◇


 しかし俺も最初からこうだった訳ではない。

 最初から『魔物博士』だった訳じゃないし、

 魔物を見ると発作が起こってた訳じゃない。

 様々な人と出会い、 色んな事を経験し、 今の俺に至るのだ。


 それは俺が3歳の時に始まった。

 俺が、 ()()()()()()()()()()()その日から......。



沢山の作品の中から私の作品をご覧頂き本当にありがとうございます!

精一杯私に紡げる物語をお届け致しますので、 この先もお付き合い頂けると幸いです!

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[良い点] 魔物図鑑でメタっていくのかと思ったらいきなり、知らないしかもドラゴンが出てきてワクワクするゴブ!
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