激動の1日
初めて執筆した作品なので文法や言葉がおかしい場所等ありましたらどんどんご指摘お願いします。
「こんな時でも……空は青いもんなんだな……」
清々しい程広がった空を見上げ少年は言葉を発した。
これといって飛び抜けた特徴は無く、群を抜いて顔がいいこともなく、また群を抜いて身長も高くない。 平均的な身長より少し小さい程度ではある物の鍛えていたのか筋肉質の様な体型は何処かスポーツマンを連想させる。
短く切り揃えた黒髪に黒曜石の様な漆黒の目、冬場であるのにも関わらず紺色のジャージを身にまとっているが多くの人間がひっきりなしに通るこの場所に紛れてしまえば簡単に見失う程のどこにでも居る身なり。
彼が今普通の現代社会に居るのであれば誰も気に止めることは無く彼の横を通り、己の目的、用事等に勤しむだろう。
そう 彼が今立っている場所は現代日本とは全く違い、まるで中世ヨーロッパやゲームの中の世界を彷彿とさせるかのような場所に立っていた。
そんな彼は自分がそんな世界で浮いた服装をして居ることを理解し、行動に移すまで少々の時間を要した。
「異世界転生……してぇなぁ……」
暁 夜兎 16歳はひっきりなしに人が通る大通りの中で言葉を漏らした。
舗装された道路や見上げた視界の隅に入る電線、何処を見ても視界のどこかに建っている高層マンション。
四足歩行で餌を求め探し歩いていた時代から良くここまで進歩した物だ。
石器を握り締め野生生物を狩り、その日の食料を集めて暮らしていた時代から約40万年から25万年経った今では大多数の人間が毎日の食事、最低限の生活を保証されている時代へと変化を遂げて行ったのだろう。
だが俺はそんな時代に飽きを感じていた。
365日の内大体200日を学校へ行き、1日の約半分の時間を学校で過ごし、また家に帰っても勉強と……同じ事を繰り返す毎日に飽きを感じていた。
最も、学校に行ったところで今此処でテロが起きたらどう生存するか、この場で宇宙人が来たらクラスのマドンナをどうやって救出し恋愛感情を持たせるか等……夢のある想像をしている。
これを一般的に厨二病と言うらしいが……
そんな事を考え、下らない毎日の締め括りである帰りのホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
こんなつまらない場所からはとっとと退散するのが1番だ。
友達と呼べる存在も居ないから登下校は常に独りだ。だが俺はそんな現状に文句を言うつもりは無い。
何故ならば家に帰れば独りではなくなる。
アニメやスマホの中にあるゲーム等、所謂2次元と言う物だ。
だから俺ははやる足を落ち着かせながら、だけど早く帰ろうと無心になる。
そこからは何も考えずに歩を進める、意味を成さない時間が流れる。
俺の家に帰る時に必ず通らねばならない交差点がある。その交差点は事故が少ないという事で市内では有名だが万が一ということがある……だから気を付けるに越したことはない。
俺は紅になった信号を前にして止まった。
車が飛び交っているが事故が少ないなんて……妙な話だ。
そう安心し考え事をしていた最中だった。
「えっ……?」
ふわりと体の浮く感覚。
自分とは無意味だと感じていた事象にただただ驚く事しか出来なかった、だけどそんな事をしている間にも残酷に時間は刻一刻と進む。
車が来ていなければどうにでもなった……のに都合の悪い事に猛スピードで迫り来る車が目に見えていた。
終わっ……た
目の前に迫る車が俺に激突し跳ね飛ばす。
一瞬俺じゃない奴が跳ねられたんだと思ったが紛れも無く自分だった。
近くにあった塀に激突したのか目の前が血に染る。
塀までの距離は10m程だろうか、それ程の距離を吹き飛ばされた影響か背中に強烈な衝撃と痛みを残した。
幸い此処は多くの人間が通る場所であるから助けが来る事は時間の問題と言えるだろう。
だがしかし立ち上がろうとするが腕や脚に力が入らない。
恐らく先程の事故で背中の骨が折れたのだろう、ならば身体が動かないのも当然か。
ふと視線を先程立っていた場所へ向ける。
すると先程立っていた場所に見覚えの無い人物が立っていた。
ソイツだ。
だがその人物はフードで顔を隠し、口元しか見えなかったが何か呟いていた。
声までは聞こえなかったが口元の動きで何を伝えようとしていたかは分かった。
「早く死ね」
その言葉は何も理解していない俺を凍てつく刃の様に貫き恐怖を覚えさせた。
その男はザワつく大通りの人間を掻き分け消えて行った。
自分をこんな事にした男へ向けられるべき怒りよりも絶望が自分を支配する。
例えるならば悪い事をして押し入れに閉じ込められた子供の孤独、恐ろしさや恐怖そして───。
諦め
薄れ行く意識の中俺は思う。
自分は何もして無いだろうと。
俺は何もして居ないのにどうして……?
そこで俺の意識は完全に途絶え短い一生に幕を閉じたと思ったら異世界転生……か。
うん……?
異世界転生……?
周りをよく見てみると猫耳やうさ耳を付けた人らしき者でこの大通りらしき場所は賑わいに満ちていた。
よく見ると虎や竜に足が生え、二足歩行で歩く所謂亜人と言える物が居たり、今の現代社会の大多数が来ているものとは違いローブやいかにも重そうな鎧、今俺が着ているジャージを着ている奴何か一人もいなかった。
「もしかして俺……浮いてる!?」
俺と同じ様に人間に近いが耳が尖っている……少し俺の知る人間と違う者達が武器を携えていたりして歩いていた。
中には羽を携えたり筋骨隆々とした赤い肌色の大柄な男や緑色の奴を一々数えてたらキリが無い。
そんな中俺が辺りに探りを入れているといきなり俺の真上が暗くなった。
外は明るいはずなのにどうして……?
疑問に思った俺は上を見る──。
すると巨大な羽音を立て俺の横に降り立った龍が現れた。
俺はその光景に驚き尻餅を着いた。
見慣れない光景ばかりで疲れるな……
憧れの異世界転生だって言うのに精神的にも肉体的にも疲れを持ち運んで来た。
「妄想の世界より現実で見た方が迫力も色々と違うんだな」
まぁこの状況が現実であるかどうかも怪しいのだがな。
驚きと迫力に気圧された俺は立ち上がると言う行為を忘れその場に留まっている。
辺りの人達……いや人と呼ぶには余りにも掛け離れている存在達は俺の姿を物珍しそうに見た後足早と行ってしまう。
この世界は俺にちょいと厳しいみたいだな。
まぁ仕方の無い事だろうな……普通は見慣れない格好している奴に近付きたくも無いだろうからな。
誰かに助けてもらい知り合いを増やそうとした俺の作戦は失敗に終わり自分で立ち上がろうとしたその時だった。
「済まない……驚かせちゃったみたいだね」
俺の横に降り立ったドラゴンから何と人間が現れた。
整った顔立ちに赤い眼と長めの黒髪、女性の様な顔付きと体で声も高い、極めつけは頭部にある猫の耳と見え隠れする尻尾だ。
美少女と言っても差支えの無い可愛さである。
腰に携えた2本のナイフに鉄製であろう胸当てをしている。
身長は俺より小さいくらいで黒い服装で如何にも冒険者らしい格好をしていた。
俺この人になら殺されても許せるかも……という愚かな考えをした自分を尻目に手を差し出される。
俺はその手を掴み立ち上がる。
女騎士とか女戦士…と言った所だろうか。
俺がこの女性を注意深く観察していたのがバレたのか俺に向かって女性は言った。
「えっと……私の顔に何か付いてるのかい……?」
「いやいや!そんな事は滅相も御座いません!」
「そ、そうかい……だったらいいんだけど」
なんか俺失礼かつやばい人になってないか?
初めてのこの異世界で出会った人なんだそう簡単に逃がしてたまるか。
でも元の世界でも女の人と話した記憶って無いぞ……最後に話したのは母さんにいってきますしたくらいしか思い当たらないぞ……
こういう時って先ず何から話したらいいんだ?
「今日は素敵な日ですね」とかか!?
いや絶対ダメだろ!何で初対面の人に行成天候の話されても意味不明だし気味悪がられるって!
そう俺が脳内会議を開いていると何かを感じとったのか女の人が助け舟を出す。
「この街じゃ見かけない顔だね……君は何処から来たのかい?」
助け舟を出してくれたのは有難いけど……何処から来たって何て返せば良いの!?
何日本から来ましたって言えばいいのか!?いや絶対ダメに決まってるだろうな!
生粋の日本人何だけど俺本当にどうすれば良いのよ!?
そう俺が1人で大慌てしている様子に気持ち悪がらずに助け舟を出してくれる女の人。
「もしかしてだけど君は……記憶喪失の人……かな?」
「確かにそうだ……街にいても魔物が現れる可能性のあるのに武器も防具も持っていないって言う事にも辻褄が合うし……だったら声を掛けた私が助けてあげるべきでは無いのだろうか……」
なんか早口であんまり聞き取れなかったけど……記憶喪失って事にしておけば色々な事をこの人にレクチャーしてもらえるかもしれない……
内心ほくそ笑んでいた俺は此処は彼女の話に合わせようとどう質問に返すか考える。
そう俺が邪な考えをしているとその考えは女の人がコチラに視線を向けた事で中断される
「おっと……私とした事が……大事な事を忘れていたよ」
「大事な事……?」
「そう……君と話をする上でとーっても大事な事だよ」
大事な事だって……?
まさか年齢とか女性経験とか……ってある訳無いか
自分で言ってて悲しくなったのでこんな想像は辞めよう。
「自己紹介だよじ こ し ょ う か い ! 」
大事な事だったのか2回言った……可愛い。
そういえばして無かった。
って自己紹介だって……?
どうしようか……こっちの世界で俺の故郷ジャパニーズの文化が通用するかどうか……
暁夜兎……は異世界に来てまで親からの名で暮らす気は無い。
ならばどうするか……
新しい名前でも考えておくか……?
一生使う名前だ……確り考えないとな……
そんな事を考える隙もなく女の人の自己紹介が始まる。
「私の名前はルキア 職業は暗殺者で短剣を主な武器として扱うよ……君の名前は……思い出せるかい?」
ルキアさん…かぁ…いい名前だなぁ……
いやいやそんな事より俺の名前だ……ルキアって言う名前から察するにこの世界に苗字という概念はないらしいな……ならば……
「俺の名前は……アレス!職業、得意武器両方共に無しの無一文です!」
持ち前の声のでかさとノリと勢いで発された大声は街道を響き渡り辺りからクスクスと笑い声が聞こえる。
アレス、異世界転生初の自己紹介でやらかす。
恥ずかしさとこんな美少女の前でやらかしたというプライドの傷つきでいっそ殺して欲しいくらいだがまぁいい。
アレスとはゼウスとヘラの間に生まれたオリュンポス十二神の一柱の軍神。 アフロディーテの愛人で、戦い、義憤、勇気の神とされるありがたーい名前だ。
本家だと結構扱い酷かった気がするが……
だが神様である事には違いは無いはずだ。
そんな偉大な名前を借りているのにも関わらずにやらかすとは……アレスさんごめんなさい。
「まぁ余り気にするな……こんな事生きてれば何回かはある……と思う」
俺は人に知られた事よりもこんな美しいお方の目の前で……しかも初めてまともに話してくれた人の目の前で醜態を晒したんだ。
やっちまったな……
「アレスか……いい名前じゃないか……私の今日の任務も終わらせた事だし……もし良ければ私が色々と教えてあげよう!」
「それは是非ともお願いします!」
即答した。
こんな機会俺の今のコミュ力ではもう二度とないチャンスだ……絶対に逃す物か。
「よし……いい返事じゃぁないか……良いよ、私に任せておくといい……こんな所で立ち話ってのも何だから酒場にでも行こうじゃないか」
そして俺はルキアさんに連れられて酒場と言う場所へ連れていかれる。
酒場ってのはあれだな……仲間紹介したり冒険者達の憩いの場見たいな感じの……
数分程街道を歩く。
横を見ると武器屋や防具屋等様々だ。
少し違うのが俺の使える日本語と少しの英語、何方にも属して居ない文字で書かれた看板、値札があるが話し言葉は日本後に適していのが救いだろう。
それに見た感じで大体どんな物か分かる気がする。
「出店が気になるのかい?」
俺がキョロキョロしてたのがバレたのかそんな俺を見兼ねたのかは分からないがルキアさんが声を掛けてくる。
「あぁ……見た事無い物ばっかだったんで……」
「まぁ見る物全部初めてだろうしなぁ……まぁある程度教えられたら装備選びでも手伝ってあげるよ」
「そう言えば疑問に思ったんですけどいいっすか?」
俺はふと思った疑問を解決したく自分より経験豊富なルキアさんに教えを乞う。
「何だい?言ってごらん……私が知りうる限りの事を教えてあげよう」
「そっすか……んじゃぁお言葉に甘えて……」
「職業って具体的にどんな物なんですかね……さっきルキアさんはアサシンって言ってましたけど……」
アサシン これは俺のいたジャパニーズでも馴染みのある言葉だ。
暗殺者と書いてアサシンと読む事もあるが暗殺者、暗殺団や刺客といった意味を表す言葉だ。
戦士や僧侶などは国民的RPGとかでも良く目にするがこの世界ではそう言うメジャーな職業は無くなっているのだろうか。
「職業か……まだ君は職業に就いていないみたいだけどこの世界の殆どの人は何かしら職業を持っている……その職業は多岐に渡り戦士等の戦いで前線を貼る職業の中にもバトルマスターや極めたら剣聖とか色々とあるよ……っと酒場が見えて来たね」
「あれが酒場……ってでっか!」
「まぁこの街で一番大きい酒場……と言うより溜まり場って何処かな」
本っ当に俺の想像の二、三倍を越えてきやがる……。
ま、そこが異世界転生物の面白みってとこなんだがな。
ルキアさんは酒場の大きい扉を片手で押し開け、奥に見えた筋骨隆々とした店主らしき人に大きな声で言った。
「親父!テーブル席空いてるかい?」
そんな声に待ってましたと言わんばかりに親父と呼ばれた店主は答える
「おうよルキア!空いてるぜ……ってそっちのあんちゃんはお前さんの連れかい?」
俺の存在に気付いていたのか店主は見なれない顔に対し質問する。
だがこんな時に限って俺のコミュ障が発揮されてしまった様で俺は喋る事が出来ず口ごもった。
そんな状況に現れた女神が俺のコミュ障をフォローする。
「済まないね親父……彼は記憶喪失者見たいでねぇ……なぁにも分かっちゃ居ないみたいなのさ……だから拾った私が確りノウハウを叩き込んでやろうって訳さ」
「ほぉ……どうりで丸腰な訳だ……お前さん名前は一体なんて言うんだ?」
「あ、俺っすか……?」
話の矛先が俺に向いた事で俺は意味の無い質問を繰り返す。
「お前さん以外に誰が居るんだ」
「そっすよね……」
そして俺は自己紹介をする。
「俺の名前はアレスです、よろしくお願いします」
と先程とは全く違う挨拶をするとルキアさんに言われる。
「君……さっきの威勢は何処に行ったんだい?」
「さっきのは虚勢貼ってたって事で……」
「親父、彼は職業、得意武器共に無しの無一文何だ……負けてやってくれるかい?」
「まぁ初心者から金を巻き上げる程俺も鬼じゃねぇからなぁ……よし分かった……但し出世払い……でな」
この親父……気前良いな。
そんな感じで俺とルキアさんは用意されたテーブル席に着いた。
「さて……ノウハウを叩き込む……とは言ったものの……何から話したら良いのやら……」
「さっきの続きお願いします」
「さっきの……?あぁ……職業ね……何処まで話したっけ……」
「極めれば剣聖とか凄い職業になるの所です」
「剣聖かぁ……私には無縁の職業かなぁ……」
「そうなんすか」
俺は何となく聞いているのか聞いていないのか分からない態度を取る。
そして俺は職業についての疑問がまたひとつ浮かび上がった。
「職業って……俺とかはどんな物になれるんすか……?」
「そんなの私が知るわけないじゃないか……」
「ゑゑ!?」
「どんな職業になるかは君次第って所さ……まぁ人気なのは武闘家、戦士、盗賊辺りだけどね」
なるとしたらその3つか……
「そう言えばこの世界って魔法とかって」
「魔法?あぁあるよ……魔法ってのは5つの属性から成り立っていてね……初級の魔法から賢者とかの扱う天変地異クラスの魔法まで……それこそ多岐にわたるよ」
「そう言えば賢者について説明してなかったね……」
「賢者……?」
「そう賢者……まぁこれは各国1人選ばれし強者に与えられる称号でね……」
そう語り始めた瞬間だった。
大地が揺れた。
「地震……?」
「まーたあの人達か……」
え?何?この世界ってこんなでかい地震があるのって日常茶飯事で当たり前なの?
怖いんですけど俺。
てか……あの人達……?という事はこれって人間が引き起こした地震ってこと!?
やばくない?
「氷だけは来てくれるなよ……」
ルキアさんが唐突に言葉を発した。
「賢者ってさっき言ってた……」
「あぁそうさ……全く何でこんな時に限って……」
兎に角氷の賢者って奴はヤバい奴なのか……。
神様頼むぜ……俺にチート能力を授けてくれてますよね……?
異世界転生物ならチート能力ってのは切っても切れない縁にあるだろう。
「ちょっと親父……私外見てくるよ」
「お、おう……気ィ付けてな」
「大丈夫さ……私だってこの国の賢者候補何だ……余り情けない所ばっかじゃダメだろうしね」
そう言ってルキアさんは扉を開けて外に出る。
多分自分の実力が未知数である事は確かだ。
くそ雑魚かチート能力者かのどちらか。
是非とも俺は後者を所望するぜ……
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私は新人君を酒場に置き、招かれざる来客に対して口を開いた。
「わざわざ此処から1番遠い氷の国から来てくれるとは……アンタも随分と暇してるんだね……キラ」
私は7人の賢者の中でも一番危険とされる男と対峙していた。
賢者全員の実力で見ると低いかもしれないが私達普通の冒険者からすれば十分な脅威だ。
それにこの男は1番活動範囲が広い。
自らの領土である氷の国、インペリウムのみならず様々な国に赴き、騒ぎを起こし問題となっている。
問題にはなっているが何処まで性根が腐っていようと賢者は賢者、最強クラスの相手に手を焼いていた。
白髪の髪に無機的な青色の瞳、大きさのあっていないフード付きのローブ。
白色に統一された服装にはある種の恐怖を感じる。
彼は殺す事に躊躇いは存在しない、彼の逆鱗に触れたが最後に待っているのは死……だ。
それほど危険な存在なのだ。
その男は口を開いた。
「あぁ?ルキア……てめぇ何時からこの俺にんな口聞けるようになってんだァ?」
私の発した言葉は奴の耳に届いていた様で先程まで整っていた顔は青筋が浮き上がっており怒っているのは見るだけで明らかだった。
「昔からアンタは感情を殺す事が苦手な様──ッ」
その瞬間だった。
私は高速移動してきた奴に顔面を掴まれ、その勢いで地面に叩きつけられた。
「ガッ……」
その瞬間、地面は割れ、私は額から出血した。
煽り過ぎは良くないな……全く……私はそこまで前線を貼る職業じゃ無いのに……。
「てめぇ…どんな時でも言わせときゃァ好き勝手言いやがって……4人パーティを血を見たくねぇとか言う下らねぇ理由で抜けやがった臆病者のクソガキが……言う様になったモンだよなァ!」
またしても地面に叩き付けられる。
ダメージカットを貼っていない新人君が同じ事になっていたらどうなってただろうか。
頭部が陥没してたかも知れない。
怒りに溢れている奴の舌はよく回る……止まることなく喋り続ける。
「新しく出来たこの国に逃げて賢者候補になった所で雑魚にゃ変わらねぇてめぇが!」
何度も何度も同じ動作の繰り返し。
奴の舌はまだ止まらない。
「オマケにあれか?ガキ一匹捕まえて……くっだらねぇこと考えてんだろ!」
地面に叩き付けられ過ぎて奴が何言ってるか分からない。
あぁ……また親父には心配かけちまうのか……
やっぱ私には……戦闘なんか向いてなかったんだ。
そう諦め、運命に身を委ねようとしたその時だった。
「おい!ルキアさんから手を離せ!」
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俺は店主の静止を振り払い外へ出た。
そしたらルキアさんがボコボコにされていた。
昔から俺はこうやって無駄な事をして自分が傷付いていた。
だからあの時もう人を助けようとするのは辞めよう。
そう思っていた俺が今自らの意思で氷の賢者とやらに対峙している。
気取ったセリフを言ったものの内心では怖い、多分今の俺が出た所で二、三発攻撃を喰らえば死ぬかもしれない。
それでも前に出た。
恐らくそれは俺に知識が無いから、ルキアさんの様な知識を持っている人はこんな奴に関わろうとすらしないだろう。
目の前の男はキレ気味に言った。
「この俺の前に出てくるとぁ……度胸だけは認めてやるよ、けどな……」
目の前の賢者らしき男は此方に瞬間移動し俺の顔面を蹴りあげた。
声をあげる暇もなく背面に回り込まれ地面に顔から叩き付けられる。
嘘だろ。
ここまで実力の差があるって言うのか……
しかもこのレベルで賢者の中では下の方だって……?
もっと化け物が居るってのかよ……
地面に叩きつけられた顔面に白い靴が宛てがわれる。
その瞬間靴は俺の顔面の上に重ねられ白髪の男は体重を掛ける。
俺……また死ぬんだ
恐怖と絶望が押し寄せてくる。
向かってくる死への恐怖と、この男には対抗する術が無いと。
靴は顔から肺がある所に宛てがわれる体重が掛けられる。
メキメキと骨が軋む音がする。
それ迄口を開かなかった白髪の男は言った
「度胸だけじゃこの俺を倒せやしねぇんだよ!」
そう叫ばれたその瞬間、奴の青色の瞳が更に輝く。
首と両腕には拘束具、手錠の様な物をしている。
俺は怒りに任された蹴りで吹き飛ばされ街道の反対側の店の壁に激突した。
その瞬間肋骨と背骨の両方の骨が碎ける音がした。
息が出来ない。
今すぐに叫んで逃げ出したい、だがそんな願いは叶わなかった
「あぁ……イラッとくるぜ……その目ぇ……あの野郎と一緒の目ェしてやがる……」
何言ってんだ……此奴は……
俺が疑問に思い思考を巡らせているといつの間にか近付いてきていた白髪の男が俺の顔面を掴み上げる。
「しっかし……まぁとんだ拍子抜けだったなぁ……ぶち殺してやる!」
もうダメだ そう思い諦めたその瞬間だった。
「辞めろ……キラ」
奴と同じ様に白髪だが所々黒色の髪の毛も混じっているいわゆるメッシュと呼ばれる髪型、目はルキアさんと同じ赤色だがルキアさんの色よりも透き通った綺麗な赤色の瞳の美形の青年だった。
キラと呼ばれた男は赤い目の男の方を見ると更に切れた様子で大声で捲したてる。
「んだぁ?ゼロ……てめぇ……何しに来やがった!」
「全く……君みたいに暴れる賢者の粛清に来たのさ……全く……仕事を増やさないで欲しいな」
「てめぇ……調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「おっと……君には3つの拘束具で魔力の大半を封印されている……そんな君の今の実力で……僕に勝てるのかな?」
そうゼロと呼ばれた男に言われたキラと言う人は悔しそうな顔をし、少し考えたあとにルキアさんの元へ行き言葉を発した。
「ルキアぁ……命拾いしたなぁ……でもなぁ……あの兎……しっかり躾とけよォ?次同じような事をしやがったらてめぇもあの餓鬼と共にぶち殺すからな」
その顔は狂人と言える程におぞましく、俺の恐怖心を煽ったのだった