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第94話 昔話




あの時のことは今もよく覚えている。


身体中が痛くって、手とか傷だらけで、頭と腹部には血が出ていた。

黒い煙りが蔓延して、呼吸もできなくて、ああ、死ぬってこんな感じかーって思っていた。


これは俺の記憶。


生前の記憶。


全てを失ってしまった。あの日のことだ。


潰れたバスの中、目の前には当時中学3年の頃の俺が死にそうな状態で倒れていた。


ああ、これは……夢か。

随分と昔の夢を見てるもんだ。



しかも、一番見たくない過去。



「……転落事故?」



横にいるバエルが袖をくいくいとひっぱりながら言った。



「………………」


「……どしたの? そんな驚いた顔して」


「……いや、バエルがなんでいるんだよ」


「私とマスターは一心同体の状態で言ってみれば私たち一つになってるわけじゃん? だからたまにマスターの記憶を共有してみることができるんだよ……こうやって夢の様にね」


「情報の共有ってやつか?」


「そうそう」



なるほど……まぁそう言うことなら話そうか。

どうせ、こうして見られているし。



「ユウヤにもソウスケにもキョウヘイにも……誰にも話したことないんだけどさ」



と一言言ってから話す。

そうするとバエルはこっちを見ずに「うん」とだけ答えた。



「中学校3年の最後の修学旅行でさ……バス移動の時に事故に遭って崖から転落したんだ。ほぼ全員が即死だったと思う」


その全員の中には北条ユウヤ、一ノ瀬キョウヘイ、神崎ソウスケも含まれている。

全員の命がほんの一瞬で奪われた。


だけど、俺は……俺だけは奇跡的に重症で済んでいた。

とは言っても目の前の俺は今にも死にそうな顔をしてボロボロだけど。



「それでも生きていた」


「………………」


「頭を強く打ったせいで意識が朦朧としてて、さまざまな音が反音して……視界もぐちゃぐちゃで血で赤くなってて……最悪だったな」



泣きながら必死にウジムシの様に這いつくばった、燃え盛るバスから脱出しようとしている。

線のような血の跡を残しながら必死で、必死で這いつくばった……



「この時は……いつここが爆発してしまうか。そう思ってて……怖くて怖くて仕方なかった。生きたいって思った」



死ぬ、死ぬ、死にたくない、怖い……心の中はただそれだけ。


幸いフロントガラスが割れて、空洞になっていたのでそこから昔の俺は這いずりながらもバスから出てきた。

そして安全圏まで逃げようと前に進んだ。

その途中で意識がなくなったんだ。



「それで目が覚めた時はもう病院だったよ」



「……一緒に乗っていたユウヤもソウスケもキョヘイも死んだ。ついさっきまで一緒にいたのにな。自由行動の時にここに行こうぜとか、あいつらと色々考えてたんだけどなぁ」


「………………」


「なんかいきなりでさ、一方的に全部失くなったというか、この手に全部こぼれ落ちていったっていうか。理不尽ていうか……どうしてってさ」



この感情を言葉にするのは難しいな……



「この時は考えもしなかったんだけどさ、もしかしたら……もしかしたら生存者がいたかもしれない。声が聞こえなかったのは意識がなかったからかもしれない。病院のベッドでそう考えてたよ」



容態も安定してきて、余裕を持ってしまうと必ず転落した直後のことを振り返ってしまっていた。

ああ、そういえば……夢にも出て来たっけ?


ナンデタスケテクレナカッタ? って。



「でも……あの状態じゃ、何もできないよ」


「……そうだなぁ。でもさ、一度考えたら止まらなくてさ。1年くらいは引きずったよ」


「……死にそうな時に自分のことで頭がいっぱいになるのは当然の事だよ。だから、マスターは罪悪感を感じる必要なんてないんじゃない? だって……」





「マスターはただ、懸命に生きようとしただけなんだから」


「………………ああ…………そうだったな」



俺がそう言うとバエルは手を握ってくれた。


驚いてバエルを見ると



「マスター泣きそうな顔してるからさ……まぁ……そういうことだよ」



らしくない事をして恥ずかしいのかバエルはこっちを見ずに言った。



一瞬、言葉が出なかった。


ああ、そうか……俺、そんな顔してるんだ。

手を握ってくれるのはこそばゆいけど、嬉しかった。


当時の心境を鮮明に思い出し、感情が揺らぐ。

ああ、あの時も誰でもいいからそばにいてほしかった。



「俺は……この時死んだあいつらを生前の財産としてこの世界に転生させた」


握る手が強くなった。


死んだ人間を蘇らせて異世界に転生させる。

まさか、本当にこんなことができるなんて思わなかったけど……



「……え、なんで泣きそうになってるんだよ」


「う、うるさいなぁ……マスターの感情が私の中に流れてくるんだよ」


「……そういうもんか」


「そういうもんだよ」


そう言って、俺の記憶を二人で見続けて、見続けて、見続けた。


そして……目が覚めたら何回か来たことがある長いテーブルと椅子が置かれている真っ白な部屋にいた。



「……おはよ」


「……おはよう」



俺の隣でバエルがあぐらをかきながら座っていた。



「……ねぇ」


「ん?」


「あれが……マスターが自分の身を削ってでも頑張る理由?」


「……かもな。多分、どれだけ望みがなくても、無駄だとしても、自分がどんなことになっても、後悔はしたくない。それに……目の前で何もできずに失うのはもうたくさんなんだよ」



それが俺を動かしている揺るぎないモノなのかもしれない。

あの時の後悔がいるから今の俺がいる。


そんな感じがする。



「……でも一番の理由はもう一人になりたくないからでしょ?」


まるで、一番心の奥底にあるモノを見られたような……そんな恥ずかしい感覚に陥った。

だけど、バエルの言ったことは紛れもない事実だった。



「……ああ、そうかもしれないな」


この先もたくさんの仲間と生きていくにはきっと俺自身が格好良く生き抜く必要が在る。

だから、俺はこの生き方を貫こう。


自分がかっこいいと思うこと。

自分がやりたいこと。


そして、一度繋がった人をとことんまで大事にしていこう。



「……そっか」



バエルはそう言いながら長ソファの上で頭を俺の膝の上に乗せて寝転んだ。



「……まぁ、一人は寂しいもんね」



そう言ったバエルの言葉はなんだか寂しそうで、孤独を感じさせた。


気のせいかもしれないけど、俺の過去を知ってもらうことでバエルとの絆が深まった気がした。






「面白かった!」


「少し笑ってしまった」


「続きが気になる、読みたい!」


「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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