第93話 白黒
天級魔法エクリプス・メテオ
赤い巨大な隕石がこちらに向かって落ちてくる。
見ただけでも変わる。
キッシーはこの都市ごと俺を殺す気だ。
『どーせお前は!! 死ぬ気で頑張るとか! 絶対勝つぅとかその程度の認識でここに来たんだろ!? 甘ぇんだよ!!クソガキが!!』
『テメェらの死ぬ気で頑張るってのは所詮一生懸命頑張りますくらい』
あいつの言葉が復唱されるように蘇る。
俺はキッシーの言葉を聞いて悔しくて、悔しくてたまらなかった。
俺達はそんな次元で戦っていると思われてるのか?
あいつらはそんな次元で俺について来てくれた訳じゃねぇ!!
諦めることは簡単だ。でも、どれだけ打ちひしがれようとも諦めず、前を向いて進み続けるのは険しく苦しく簡単なんかじゃない。
本当は誰か諦めて、戦いから逃げてもおかしくはなかった……でも!! あいつらは俺の言葉を受け止めてくれて、一緒に戦ってくれた。
俺を認めてくれている奴も認めてくれていない奴も全員が。
それに
命を懸けるってことはそんな生半可な覚悟じゃ出来ない筈だ!!
一生懸命頑張りますなんて一言で表していいもんなんかじゃねぇんだよ!!
身体……力、入んねぇ……でも!!
「テメェが……テメェなんかが!! 俺たちレギス・チェラムを語んじゃねぇ!!」
力を振り絞り、なんとか意地で立ち上がった。
(マスター私のところまで逃げて!!)
逃げる……?
なるほど!!
俺は即座に自身の固有スキル逃げるを使い、バエルの元に転移し上空へと逃げ延びた。
バエルは俺の体内に戻り言った。
(維持の力はあと5分程度しか持たない。残った力は全部マスターのステータスブーストに使う。これで決めてよ)
その声は信頼に満ち溢れていて俺の背中を強く押した。
(ああ、任せろ)
凄まじい速度でエクリプス・メテオが激しい轟音と地響きと共に都市へと墜落した。
その影響であたりは灼熱地獄と化した。
隕石の上で立っているキッシーの近くに着地する。
そして燃え盛る隕石の頂上で俺とキッシー王は対峙した。
「ああ? なんで生きてる?なんでこんなところにいる?」
「……固有スキルを使った」
「ちッ! まだそんなもの隠し持っていやがったか」
恨めしそうに言い放つキッシーに一つ言いたいことがある。
「さっきの話だけどさ……俺にも欲しいものがあるよ」
「……ほーまぁ遺言として聞いてやるよ」
キッシーは興味があるのか俺の言葉を待つ。
「明日が欲しい……何も変わらない。いつも通りの明日が……俺は欲しい」
昼前に頬を膨らませたレイアに起こされて、一緒に書類整理とかしてそしたらリーシャとヒロムが来て、一緒にクエストとか受けちゃって。
帰ってきたらユウヤやソウスケやキョウヘイとかも帰ってきててクエストの報酬金でギルドにいるみんなと飲み明かす……そんな今まで通りの平凡な1日が。
「下らねぇ……とは言わねぇよ」
キッシーは笑わずに言った。
欲望に価値の差なんてない。ゆえにキッシーは俺の欲しいものに対して馬鹿にしたり、笑ったりしなかった。
それは奴なりの美学だろう。
ここにきて、俺はキッシー・ナックル・ボードウィンのことを少し理解した。
……まぁこんなクソ野郎のことなんか理解したくはないが。
俺の身体はガクガクと震え始めた。
膝が笑うよ震えている。
震えを止める様にガンガンと膝を叩く。
キッシーも同様に立っているのがやっとの様でフラフラとしている。強化薬で痛みを快楽に変えていただけでキッシーの身体はとうの昔に限界を超えていた。
互いにもう身体はボロボロだ。
だから
「これが、最後の勝負だ。キッシー・ナックル・ボードウィン。俺とお前どちらが正しいか……はっきり白黒つけようか」
灼熱した地獄の中焦げた両拳を握り、構える。
約6万人のボードウィンの市民達が上空で俺たちの決着を見届けている。
緊張感が空気をつたって伝わってくる。
時が止まるかのような張り詰めた一瞬の静寂が俺とキッシーの間に生まれた。
踏み込んだのは同時だった。
同時に拳を握り、同時に互いの腹部へと放つ。
ゴン!! と鈍い音が響き渡る。
互いの拳は同時に届いた。
あまりの威力に互いが血を吐き合う。
右手に激痛が走る。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
まるでマグマに手を突っ込んだ様だ。
いっそのこと右手を斬ってしまいたい
そう本気で思ってしまうほどの痛みが襲う。
皮膚が焦げている分さっきよりも何倍も痛い!
だけど!!
「オオオオオオオオオオ!!」
大地を踏めしめてもう一度、歯を食いしばりながら地獄の痛みが待ち受けていると知ってなお、俺は硬く握り締めた手をキッシーの顔面に一撃を放った。
もはや悶絶する時間すらない。
1秒でも奴より速く。
1発でも奴より多く。
この拳を叩き込まなければならない。
「あああああああああああ!!」
「おおおおおおおおおおお!!」
そこから始まったのは型も技も何もないただの殴り合い。
殴って、耐えて、殴って、耐えて……まるで我慢比べのような無茶苦茶で不恰好な戦い。
一発一発が重く、頭が揺れる。意識が跳びかける。
それを繰り返していると段々と
此処は何処なのか?
俺は何をしているのか?
俺は誰なのか?
全て忘れ去っていく。
だけど、そんな意識の中たった一つ。
素敵な仲間に囲まれている。
それだけははっきりと覚えている。
だから俺は拳を握り
「オオオオオオオオオオ!!」
痛くても痛くても痛くてもこの拳を振るい続ける。
「じねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
太陽を纏ったキッシーの会心の一撃が俺の顔面に響いた。
「ーあ」
効いた。今のは、効いた。
空間が歪んでいる。
あれだけ燃え上がっていた心の炎は火になり、とうとうそれも消え去ろうとしている。
これが消えたら……俺の意識も消える。
だけど、その火は消えなかった。
漆黒の無の世界に蛍火ほどの弱い光が残っている。
いや、もはやこれは蛍火でもない。ただの熱だ。
その熱の正体を俺は知っている。
これは……レギス・チェラム全員の熱だ。
あの時、ギルドが俺の言葉で沸いた時の空気、熱、匂い、全てを思い出す。
拳に熱が宿り、失っていた筈の力が身体中にみなぎってくる。
限界まで拳を握り締める。
たった一発を強く当てるために。
たった一発をより深く刺すために。
あの時、俺の言葉がみんなに届いた時思ったんだ。
『俺が折れねぇ限りレギス・チェラムは終わらねぇ』
でもそれは違った。
逆なんだ。
レギス・チェラムがある限り
「双葉イツキは折れねぇんだよおおおお!!」
だから俺は拳を振る。
これまで何もの攻撃を受け付けなかったキッシーの顔面に拳を叩き込む。
「がっ……はー」
キッシーの意識が飛んだ。
それは黒から白に変わった瞬間
拳を振り切り、そのまま勢いで王を薙ぎ倒す。
轟音が炸裂した。
その轟音は全てが覆った音だった。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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