第90話 太陽の鎧
「頭の足りないイツキくんに教えてやろうか? 俺様の神器・太陽の鎧は1600万℃の炎を鎧のように全身に纏う」
それでなとキッシー王は言葉を続ける。
「1600万℃ってのは太陽と同じ温度だ。つまり、今の俺様は太陽を纏ってるんだよ」
イツキはキッシー王が言っていることが嘘ではないと感じていた。
近くにいるだけで灼けるような痛み、魔力を纏っていても相当な魔力量がなければ火傷など体に影響を及ぼしていただろう。
キッシーが自身の神器の能力を説明したのには理由がある。
太陽の鎧は確かに触れるもの全て無にする最強の鎧だが、欠点がある。
魔力の纏化を伴った攻撃は効くということだ。
魔力の纏化は身体能力を爆発的に上昇させる効果と魔力に対する耐性も爆発的に高くなる。
神器は魔力で発動する。
ゆえに太陽の鎧であろうとも魔力の纏化の影響を受けるのだ。
しかし、魔力の纏化をしたからといって完全に太陽の鎧を防げるとは限らない。
キッシー以下の魔力量の魔力の纏化は全て太陽の鎧によって灼き消されてしまう。
キッシーのダメージを負わせることができるのはキッシー以上もしくは同等の魔力量を持っていてかつ魔力の纏化を会得した人間だけなのである。
ただ、同等、もしくはキッシー以上の魔力を持っていたとしてもそれでも太陽を纏った彼に触れるとダメージは与えることができるが、火傷どころじゃ済まないだろう。
太陽の鎧に無傷で触れるにはキッシー王の倍の魔力が必要となる。
キッシー王の倍の魔力を持つ人間はこの世界には存在して居なかった。
今までは
そして、キッシー王にとって想定外の出来事が起こった。
双葉イツキが所有する剣の鞘の力である魔法や能力などさまざまな力による干渉を受け付けない能力だ。
(……あの剣、俺様の太陽の鎧が効いてない。奴の神器か……? まぁいい。それよりも問題なのは)
キッシーはゆっくりと立ち上がったイツキを見て警戒する。
(全身から常に魔力が立ち昇っている……こいつ……人間か? おそらく俺様の魔力の倍以上はある。しかも魔力の纏化まで会得してやがる)
つまり、双葉イツキが魔力を纏わせた拳はキッシー・ボード・ナックルに届く。
その事実の方がキッシーにとっては重要だった。
ゆえにイツキに太陽の鎧を展開している時は自身に触れてはいけないと意識させるためにキッシーは太陽の鎧の説明をしたのだ。
欠点の説明を省いた上で。
「………………」
キッシーの思惑通りイツキはじっと動かず、何やら考え込んでいる。
(……奴の魔力を消費させ、かつ剣を奪うには……あれが良さそうだなぁ♡)
キッシーは魔力の開放をやめ、体に纏っていた炎を消した。
(……? 神器を解いた?)
「おい!! クズども!! 俺様のために働く時だぞ!!」
「「「「「「ああアアアアアああああああ!!」」」」」
キッシーの呼び声と共に地面と空から人間を大きく上回る皮膚が腐敗し、血管が浮き出ている化け物が20体現れた。
「!!?」
右腕が異常に発達していたり、爪が異常に発達していたり、一体ごとに発達している部分が異なる。
まるでゾンビーゲームに出てくるようなクリーチャー達にイツキは鳥肌が立ち剣を振るうことを躊躇した。
化け物の姿に対してではない。
自身の考え浮かんでしまった予想についてだ。
化け物たち全員赤い瞳をしていた。
キッシー・ナックル・ボードウィンと同じ赤い瞳を。
その化け物たちは容赦なく、イツキに襲いかかった。
「ああ、特別に教えてやる。こいつらは俺様の正妻と側室と子供だったものだ」
「っ!!」
キッシーの言葉を聞いてイツキの動きが一瞬完全に止まった。
そんなイツキを見てキッシーは思った通りとほくそ笑んだ。
「いあああああイタイイタイいたたたいいいいい!!」
キッシーの側室だったものは子供ような悲鳴をあげながら痛々しく膨張させた右腕でイツキを殴った。
「がっ!!」
ゴガっと鈍い音が鳴った。
それは化け物の拳がイツキの顔面を捉えた音だった。
血飛沫が舞う。
「こいつらはよー俺様が作った強化投魔薬の失敗作ってやつだ。俺様の血を引いてるからさ俺様の代わりに実験台になって貰ったってわけ。俺様さー楽して強くなりたかったんだよ。ついでに強化人間っていうもの作り出したら戦力倍増だろ?」
それが始まりの合図と言わんばかりに残りの化け物達が一斉にイツキに襲いかかる。
強烈な打撃が四方からイツキを襲う。
飢えた怪物達が一つの獲物にもさぼりつくように。
避けることすら許されない暴力の雨の中をイツキはただ受けてめ続け血飛沫は舞い続ける。
(……お前の実力ならこいつらを一掃できる筈だ……そうしない……いやできないのはお前の甘さだ……それにしても……だ……ああ、クソっ……俺様も……俺様も混ざりてぇ!!)
キッシーは痛めつけられているイツキを見て性的興奮をしていた。
ぐっと手を強く握りしめ、息を荒く吐き出す。
まるで目の前で性的行為を見ているかのような……そんな気持ちだった。
今のキッシーは的確な判断ができなくなっている。
「っ! ぐ……て、てん……どう!!」
それを待っていたのようにイツキは天級魔法を発動する。
「「「あああああああアアaaa!!!」」」
斥力によって化け物達は一斉に吹き飛んだ。
その瞬間、キッシーの油断をつくかのようにイツキは狙い澄ました矢のようにキッシー王目掛けて跳んだ。
剣を握り、一撃で終わらすように力を込める。
そして剣の他に切り札を隠しながら。
「!!」
キッシーも完全に不意を突かれたと言わんばかりの顔をしている。
この一撃は決まる。
キッシーは太陽の鎧を使うか躊躇っていた。
今使うとイツキ相手にアドバンテージが取れている怪物達が一瞬で灰になって消える。
それゆえにキッシーは躊躇していた。
その一瞬の迷いが命取りになる。
筈だった。
「ああああアアアアアアいたいたい痛いぃぃぃぃ!!」
吹き飛ばされたはずの化け物がキッシーの盾になるかのように立ちはだかりイツキの手を取り、自身に心臓へと剣を刺した。
まるで自ら命を断つように。
「……え?」
そんな行動にイツキは戸惑いを隠せなかった。
「コロ……シテ……イタイ……クルシイ……シニタイ」
その化け物は赤い涙を流していた。
「ぶっ!! ぶひゃひゃ!! こいつはいい!! あまりの激痛に死にたいってよぉ!! そりゃそうだ!!強化投魔薬で無理やり強化されてるからなぁ!! なぁ! 双葉イツキ! その剣抜いちまえば大量出血で殺せるぞ!! 早く楽にしてやったらどうだ!?」
キッシーはイツキが剣を抜くのを躊躇わせさせるために煽った。
その顔はひどく歪んでいた。
それは自身の娘に対して放つ言葉ではなかった。
イツキは苦しんでいる化け物を優しく抱きしめ優しく言った。
「痛いよな。苦しいよな……でもさ、俺が絶対ぇ助けてやるからさ。死にたいなんて言わないでくれ。だからもう少し頑張ろう?」
優しく笑って、化け物の赤い涙をぬぐい決意する。
「俺も……頑張るから」
イツキは剣を抜かず、拳を握り、キッシーに立ち向かう。
この行動は合理的ではないだろう。
キッシーに勝つことを考えると剣を使った方がいいに決まってる。
しかし、理屈じゃないのだ。
いつだって救いは誰かの涙の上に成り立っている。
だからこそ、このまま……悲しいまま終わらせたりしない。
絶対に。
全部守って文句のつけようのないくらいみんなが救われるような結末にする。
双葉イツキは拳を強く握った。
(馬鹿がっ!! だからお前は甘ぇんだよ!!)
イツキは体中殴られ続け、あざだらけ、傷、鼻、頭に血が出ている。動くだけでも激痛が伴うはずだ。
それでも前に進む。
(ここでたたみかける!!)
(ここでたたみかける!!)
奇しくも二人は全く同じことを考えていた。
「おい!! 愚民ども!! 俺様のために命懸けで働け!!」
「「「「「ああああアアアうううううウウウウヴォぉええエエ」」」」」
「バエル!!」
「分かってるよ!!」
約6万人の化け物にされたボードウィンの市民達と悪魔が同時に現れ対峙した。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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