第89話 キッシー・ナックル・ボードウィン
ネルトの城壁で戦況を見ていると全ての結界の核が破壊され、ネルト周辺を覆っていた結界が破られた。
みんな……ありがとう。
次は、俺の番だ。
突き刺していた剣を握り、すぐさま浮遊魔法を使ってボードウィン王国にっと……その前に……
「バエル!!」
名前を呼んだ瞬間、勇者の村を覆っていた結界が解かれ、バエルはすっと俺の目の前に現れた。
「ん、終わったの?」
「ああ、みんな頑張ってくれた。バエルも村を守ってくれてありがとな」
頑張ってくれたバエルによしよし〜と頭を撫でる。
まぁ前みたいにうざそうな顔してうぜ〜とか言われるだろうな〜と思っていると。
「……はいはい」
素直に受け入れていた。
口調は少しだるそうだけど。
「お、なんだ? 抵抗しなくなったじゃないか」
「……もう抵抗するのもめんどくさくなった」
「そんなこと言って〜ちょっと嬉しそうな顔ーあ!! すいません! 調子に乗りました!! 金的はやめて!!」
キレたバエルは俺の股間を何発か蹴って体の中に戻って行った。
(……さて、本番はこれからだ。よろしく頼むぜ。相棒)
(股間押さえて言ってもかっこよくないよ。相棒)
(だってぇ……いてぇんだもん)
浮遊魔法でボードウィン王国まで一気に飛んでいった。
その途中草原にリーシャが一人で立っていた。
倒れた騎士団とか破壊された核の残骸とか一切何もなかった。
そのことに少し疑問に思っていると空を見上げてるリーシャと目があった気がした。
リーシャはいえーいと言わんばかりのピースサインをしてくる。
そのピースサインを見て少し笑い、こちらもピースサインを返した。
浮遊魔法は魔力を込めれば込める分だけ速くなる(ソウスケ談)
固有スキルである本気出すを発動した俺の魔力でボードウィン王国に5分ほどでついた。
「……ここが。ボードウィン王国」
城を頂上に山のように聳え立つ都市が目の前にはあった。
門をくぐりぬけ、頂上に聳え立つ城を目指して都市を駆け上がる。
(……妙だね)
(ああ、人が居ない……まるで無人だ)
それどころか人の気配すら感じられない。
家も……灯りがついておらず真っ暗だ。
まぁ……夜だからって言うのもあるんだろうけど、それにしても誰も居なさすぎるだろ。
エレナはこの国は世界で1・2を争うほどの大国だと聞いている。
そんな感じには大抵思えない。
そう思いながらも上へ、上へと駆け上がる。
そして、城門前に着いたその瞬間、城を守る大きな門がギギと重々しい音を立てながら開いた。
まるで俺が来るのを知っていたかのように。
(……マスターこれ、誘い込まれたんじゃない?)
(……かもな。でもお前と一緒だから何も心配はしてないよ)
(……マスターって私に頼りすぎじゃないかな?)
(そう言いながらも付き合ってくれるバエルが好きだよ。俺は)
(……ばーか)
迷わず城門の中に入っていくと城の入り口の広場につながっていた。
そこには王冠をかぶり、黄金に輝く首飾りと宝石がついている腕輪、指輪を身につけ膨らんだ腹をした豚男が立っていた。
まるで俺を待っていたかのように。
まるで俺がここに来るのをわかっていたかのように。
その男の赤い瞳はまるで全てを見下しているかのような目だった。
その男を見た瞬間、わかった。
「……キッシー・ナックル・ボードウィン」
「……キッシー・ナックル・ボードウィン様だ。ゴミが」
まだ、キッシーとの間には距離がある。
互いの領域外。
それを理解しているのか、キッシーは警戒せず、むしろリラックスしているようにも見える。
舐められているのか。それともこれが王族たる余裕なのか。
「随分と余裕じゃねぇか。キッシー王」
「あ? 敵を攻め込む時に自身が攻め込まれた時のことを想定しねぇバカはいねぇだろ。お前……もしかしてこのまま俺様をここで倒してこの戦いに勝てるって思ってるのかぁ? ぶっ!! ぶっふ!!ぶっひ。ぶひひひひ!!」
「……だったらなんだよ」
唾を飛ばしながら豚のようにニヤついた笑みを溢すキッシーに言った。
「ぼろぼろのテメェ一人で何が出来る!? なぁ!! おい!!」
俺一人で何が出来る……?
違ぇよ。
確かにここで闘うのは俺一人だよ。……でも!! 俺は一人で闘ってる訳じゃねんだよ!!
「俺一人じゃねぇよ。俺達は全てをひっくり返しに来たんだ。だからさ、逃げるなよ?王様」
「逃げる? 馬鹿言うな。こっちは出来てんだよ!! お前を痛ぶって楽しむ準備がよぉ!!」
キッシーがそう叫びながら魔力を一気に解放した瞬間、黄金色の首飾りについている宝石が赤く輝きキッシーの体が燃え盛る炎に包まれる。
「さて、灰になってくれるなよ? 双葉イツキ」
キッシーは掌に魔力を集中させた。
「!!」
何かが俺に向かって放たれる。
直感がこのままではまずいと言っている。
死という言葉が頭をよぎった。
俺は今死に直面している。
賢王や騎士王と対峙した時と同じ感覚。
結界をはるか? いや、結界を張るにはもう手遅れだ。
ではどうするか?
誰に教えて貰ったというわけではない。
ただ、死に直面して生存本能がそうさせた。
……結界ではなく、最短かつ最小限も魔力で防ぐにはー魔力を全身に纏わせる。
その考えに行き着いた俺は気づくと魔力を纏い。キッシーの一撃に備えていた。
凄まじい破壊力を持った炎の光がキッシーの掌から放たれる
「っ!!! ぐっ!!」
肌がピリつくような炎の余波がこちらに押し寄せる。
……もし。少しでも魔力を纏うのが遅れていたら一瞬で灰にされていた。
その証拠に後ろにあった立派な城門が跡形もなく消えている。
あまりの熱量に少し動くだけでも身体が痛みだす。
呼吸すら困難で肺が痛い。
体が悲鳴をあげている。
この力……神器か!!
(マスター!! 剣で防いで!!)
バエルが警告してくれた直後
「気持ちいい声聞かせてくれよ!!」
キッシーは一気に距離を詰め、拳を握り俺の顔面に向けて放った。
握られた拳は太陽の輝きのような光を纏っていた。
本能が叫んだ。
この拳は死んでも喰らってはいけないと。
ドワーフのじいちゃんから貰った剣を使い、キッシーの拳を受け止める。
剣がキッシーの拳に触れた瞬間、火花が散った。
キッシーは力で押してくる。
こちらも力を入れ、押し返そうとするが、力を入れようとすると身体中が痛み出す。
腕が痺れる。筋肉が悲鳴をあげている。
「しねっ!!」
ぐっとキッシーは拳を振り切って俺を吹き飛ばした。
「っ!?」
体は勢いよく吹き飛び、なんとか受け身を取った。
……今ので傷口全部開いたな。
口から血を吐き出す。
……こっちの方もあまりよくないみたいだ。
やばいな。
「くつろいでんじゃねーよ。お前の家か?」
屈んでいる俺を煽るようにキッシーは言った。
その顔はニヤニヤと憎たらしいく笑っている。
「……あんた。強いんだな」
「はぁ? 当然だろ? これまでこの国が好き放題できたのは5大ギルドが動かなかったのはキャメロット王国が俺たちに何もしてこなかったのは……この俺様が強いからだよ」
キッシーは俺を見下しそう言った。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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