第88話 神域
「おー」
リーシャは一人で勇者の村の前にいた。
勇者の村には双葉イツキの悪魔バエルによって貼られた結界に覆われていた。
あらゆる者の侵入及び攻撃を通さないその強固な結界は空高くまで貼られている。
リーシャはその結界を触れ、強度を確かめる。
「うーん。硬いねこれ。本気出さないと壊れないわ」
コンコンと結界を叩きながら
その横顔はどこか嬉そうで鼻歌を歌いながら結界の核へと歩き出した。
「!? だ、誰だ!?」
「レギス・チェラムの一員か!?」
「……あ、多いね」
鼻歌を歌いながら何も考えず向かっていると騎士団と遭遇した。
騎士団はリーシャの美しいその容姿に思わず目を奪われてしまう。
彼女の人の心を惹きつけてしまうオーラは敵味方関係なく発揮される。
「……私のモノになーれ」
「「「はっ!!!この命!! リーシャ様のために!!!」」」
彼女に少しでも心奪われ、そのオーラに惹きつけられてしまった生物は全員彼女の支配下になる。
支配された者達はまるで信者のようにリーシャに命を捧げる。
「とつげきー」
「「「おおおおおおお!!!」」」
騎士団は信者のようにリーシャの言葉に歓喜しながら
「うわ!?」
「な、何なんだ!? 裏切りか!?」
「やめろ!? 俺たちは味方だぞ!?」
「「「リーシャ様の為に!! リーシャ様のために!!」」」
悲鳴を上げながら騎士団の同士討ちが繰り広げられた。
リーシャはそんなことを気にも止めない様子で歩き出す。
敵の人数が増えるとまた支配下に置き、自分の手駒を増やす。
それを3回ほど繰り返しながら歩いていると
「……お。着いた」
結界の核のもとへ着いた。
結界の前には剣を構えた十数人の騎士達と原始人が使うようなお手製の槍を持っている戸田タケオが居た。
「だ、だれ!? この人だれ!?」
子供のように目を白黒させて驚くタケオに周りの騎士達も激しく動揺していた。
「と、とりあえず包囲しろ!!」
動揺しつつ騎士達はリーシャを即座に包囲し剣を構えた。
「ねー! どうしてここにきたの!? ねぇ! なんで?」
戸田タケオの純粋な質問が飛んだ。
タケオは今回のネルト侵攻の話を理解していない。
林ユウジは丁寧に何回も説明してくれていたのだが、数分でほぼほぼ忘れてしまった。
理解してるのは2つだけ
1つはこの核を悪い奴らから守ること。
2つは合図が出たら目の前にあるネルトに突撃して中にいる人たちと遊ぶことだ。
「あーなんか、その大きな核壊さないとダメなんだって」
「え!? ダメだよ!! これ壊されちゃダメってゆーじとギール言ってた!」
「……まじ?」
「そうだよ!! 僕お馬鹿だからいっぱいは覚えられないけどこれだけは覚えてるもん!! なんで僕に言ったのかわからないけど!!」
「え、それは一番強いからでしょ? あの4人の中で」
ギール・ナックル・ボードウィンが彼をかなり重宝していた。
ギールは基本的にはタケオのような人間は吐き気がするほど嫌いだった。
知能が低く、落ち着きがなく、馬鹿っぽい言動が多く、しかもやかましい。
俗にいうお馬鹿キャラ。
そんなタイプの人間はギールにとっては蜚蠊と同じくらいに不快なもの。
ならなぜそんなタケオを重宝していたのか。
理由は簡単だ。
転換者の中で彼が一番強いから。
タケオが能力を発動してしまうとギールすらも敵わない。
ゆえにその力を気に入り、ギールは転換者の中でもタケオを最も重宝していた。
「え!? そうなの!? 僕強いの!?」
そのことはタケオ本人は理解していなかった。
「うん。強いよ。めっちゃ。ということでこれ、壊すね」
「ダメダメー!!」
タケオがそう叫んだ瞬間、自身の結界を作り出す。
そしてリーシャと周りにいる騎士団を自身の結界に閉じ込めた。
どす黒いドーム上の結界は展開される。
結界の能力は結界内にいる者の視覚、聴覚、嗅覚、味覚を完全に遮断すると言うもの。
無明の地獄に突き落とされた周りの騎士団は悲鳴をあげる。
「おー真っ暗。何も見えん」
そんな中、唯一リーシャだけはいつも通りだった。
タケオの結界には欠点が3つあった。
1つ目は魔力そのものと触覚は全く封じることはできないこと。
2つ目は結界を展開する時に膨大な魔力を消費すること。
3つ目は結界を維持するのに魔力を消費し続けること。
この3つのデメリットは結界の能力に全く釣り合っていない。
しかし、この結界の特徴が致命的デメリットを圧倒的なメリットに変えた。
「あーこれ。私の魔力を使って展開してるのか」
この結界は相手の魔力を利用して展開されている。
今、現在結界の核はリーシャ自身
ゆえにリーシャはこの結界からは絶対に抜け出すことができない。
結界を展開するには膨大な魔力を消費し、結界を維持するのに魔力を消費し続ける。
タケオを対峙し結界を展開されてしまった者は膨大な魔力を消費してしまい、なおかつ展開した後でも魔力を消費し続けてしまう。
ゆえに、展開されてしまったら最後。
万全の状態の北条ユウヤ・一ノ瀬キョウヘイ・神崎ソウスケすら展開されてしまうとほぼ詰み。
今の弱っている状態のユウヤとキョウヘイとソウスケの3人が束になっても戸田タケオには絶対に勝てなかっただろう。
それを全て理解した上でリーシャは北の結界を選んだ。
「悪い人は死んじゃえー!!」
タケオはリーシャに向かって大声を上げながら槍を持ちながらリーシャを突き刺そうと走った。
その声はリーシャどころか騎士団にも届いていないが。
「うーん、ちょっと本気出すわ」
そんな中、リーシャは自身のペースのまま両手の甲をタケオに向けて組み合わせ、三角形を作る独自の構えをした。
そして彼女は穏やかな波のような声で
「神域・展開」
リーシャは自身の領域を展開した。
その瞳は黄金色に変わっていた。
タケオが展開した閉じ込める結界ではない。
リーシャが発動させた神域・展開は彼女が決めた範囲内の領域の森羅万象全てを支配する力。
すなわち、神の領域を侵す力。
リーシャはこの神域と言う力をノーリスクかつ魔力の消費はほぼなして展開できる。
「とりあえず、この結界は消すかー」
リーシャは神域を展開した瞬間、タケオの結界が消滅した。
「ざーん」
リーシャは結界の消滅後、すぐさま追い討ちのようにリーシャが設定した神域全体に不可視の斬撃が数十秒間絶え間なく浴びせられる。
タケオと騎士団達は悲鳴を出す間もないまま結界の核ごと跡形もなく消え去った。
神域を解き、何も無くなった草原にリーシャは一人立っていた。
「……よし、任務かんりょーまぁ本当はこの状況を使ってやりたいことあったけど……いっか」
「……信じてくれて、任せてくれて嬉しかったし。だから、もう少しだけ待ってげるよ……待つの得意じゃないけどさ」
「ね、いっくん」
ネルトの方向を向きながらリーシャは一人つぶやいた。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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