第84話 小さなプライド
一ノ瀬キョウヘイは林ユウジによってボードウィン王国の王都周辺に転移させられた。
転移魔法を使わない限り、ここまで来るのに最低2日はかかる。
林ユウジは最もここから離れていて安全な所に一ノ瀬キョウヘイをシフトさせたのだ。
(彼も今後ボードウィン王国の大事な戦力になるからねぇ)
そう思いながら自身の体の状態を確認する。
ガードはしたがキョウヘイから貰った一撃はいまだに体に残っていた。
(うん、ちゃんと立てるし、腕も痺れてはいるが……動く。魔力も双葉イツキを仕留めるのは十分。ではれば……仕掛けるとしようか)
双葉イツキを仕留める方法はすでに考えてあった。
ユウジは魔力を込めた矢を空に向け放つ。
天を登るように上へ、上へ弓矢は飛んでいく。
レギス・チェラムのギルドハウスの真上まで飛躍した瞬間、矢は結界の核に姿を変えた。
ユウジは結界の核に自身の魔力をマーキングしていた。
林ユウジの能力は物と物との間でも転移させることができる。
そして結界の核を座標として使い、ユウジは落ちていく結界の核の側へ転移した。
ユウジは結界の核と共に上空を落下している。
「!!」
双葉イツキが結界の核に気付き、空を見上げる。
(この街の住民は今ギルドにもしくはその付近に避難しているはずだ。君は必ずこの結界の核をどうにかする。その一瞬を殺る)
ボウガンを構え、イツキに照準を合わせた。
たった数秒だとしてもユウジには十分すぎる時間だった。
「これで、本当に」
「終わらせないさ」
そこにはいるはずのない一ノ瀬キョウヘイが居た。
神々しさを感じさせる純白の光を身に纏い、腕につけているブレスレッドは青白色の光を放っていた。
「ーなっ!? がっ!?」
ユウジが驚きで目を見張った瞬間、強烈なキョウヘイの蹴りを受け結界の核と共にネルト周辺の草原へと閃光のように吹き飛ばされる。
あまりにも一瞬の出来事にユウジは反応すらできなかった。
(……? なんだ? 地面? ああ、蹴られた……のか? 結界の核ごと? ありえない……なぜここに……?)
頭がワンテンポ遅れて現状を把握した。
しかし、把握しただけで理解を全くしていない。
ユウジの頭は動揺と疑問点でいっぱいだった。
身体の骨が砕かれ、露骨が内臓を突き刺し、血が流れ出す。
激痛で身体が動かず、麻痺しているかのようだ。
下半身は結界の核に下敷きにされている。
(あの輝いていたブレスレット……彼の神器か?)
林ユウジは一ノ瀬キョウヘイは神器を持っているという情報を与えられていなかった。
それはボードウィン王国が知りえなかった情報だったから。
「……切り札を隠していたのはこちらだけではなかったというかとかね」
光を纏ったキョウヘイはユウジの元へ降り立った。
「……参ったよ。この勝負……君の勝ちだ……こんな奥の手があったなんてね……」
ユウジの声はとても弱々しく、意識も薄くなっていた。
死には至らないが戦闘不能になるまで数秒前だった。
「確かに切り札と言っていいほどの力はあります……がこれは諸刃の剣ですよ」
キョウヘイの神器・神の心臓は一時的に神の力の一部を得ることができる。
つまり、人間を超えた力を発揮することができるということ。
キョウヘイはこの力を2段階まで分けて使用している。
第一段階は身体能力と魔力の爆発的な増加及び、本来、聖剣の担い手にしか使用できない光魔法を使用できるようになる。
神の心臓を解放した一ノ瀬キョウヘイの強さは第一段階の時点で人類トップクラスを誇る。
「……ああ、今日は……随分と……星が……綺麗……だ。」
ユウジは輝く星々に手を伸ばし、意識を失った。
ユウジの意識がなくなったのを確認したキョウヘイは神器の力を解いた。
「がっはっ!? ゲホッ!! ゲホッ!! グッ……ガハッ」
(……咳が止まらない。苦しいッ……息が……目の前が真っ暗だ……自分の心臓の音しか聞こえない……)
キョウヘイの神器・神の心臓は全ての神器の中でも最強ランクに入る。
発動さえすれば勝ちが確定する。全てを覆す神器。
しかし問題は人の枠を超えた力であること。
一ノ瀬キョウヘイはわずか30秒の発動で体力の限界を迎えていた。
人は限界を迎えると苦しくて動けなくなる。
無呼吸運動を1時間し続けるのと同じことだった。
(覚悟はしていたがっ……第一段階……たった30秒で……これか……まずいッ……意識が……飛びそう……だ)
キョウヘイの体は異常まほどに震えていた。
全身の筋肉が悲鳴をあげている。
息も上がって、全身がガチガチで……全てが砕けそうな痛みが全身は駆け巡っている。
双葉イツキがあえて目立つように神崩し・流星を放ったのは一ノ瀬キョウヘイの策だった。
それにより、ユウジを誘い出し、撃破する。そういう作戦だった。
林ユウジが転移系の力を持っていることは分かっていたことだからだ。
林ユウジは双葉イツキの力を知る唯一の転換者。
だから間違いなく、林ユウジは転移の力を使って双葉イツキを狙いにくると確信していた。
故に滅多に使わないこの神器をキョウヘイは使ったのだ。
(でもこれで……)
ーなんとかなった。
そう思った瞬間、上空に恐ろしいほどの魔力を感じた。
「……なっ!?」
空を見上げると一番星が強烈な魔力を放ちながら強く輝いていた。
それは宙から放たれる星を穿つ究極の一撃。
林ユウジの切り札は弓からではなく、星座となって双葉イツキを狙っていた。
(あれは……彼の神器!?)
この時、一ノ瀬キョウヘイは気付いた。
ユウジは確かに自分の負けを認めたが、双葉イツキの始末は諦めていなかった。
まずいとキョウヘイは思った。
双葉イツキならばあの一撃を防ぐことはできるだろう。
しかし、大量の魔力を消費してしまう事になる。
おそらく戦う力は残らないだろう。
神器の必殺はそれほどまでに強大だ。
たったの一撃で全てを覆す。
それは神器使いであるキョウヘイ自身がよく知っている。
今ここであの一撃を防げるのは神の心臓を発動させた自分一人だけ。
しかし、キョウヘイは先ほど神の心臓を使ってしまった。
自身の体の状態は確認するまでもない。
キョウヘイの理性はこれ以上の発動は不可能だと警告していた。
理性だけではない。
身体中が防衛本能と言わんばかりに震えている。
だけど、頭の中に残っていた言葉があった。
『キョウヘイ。お前の言葉には重みがあるんだよ』
(全く……どうして今、その言葉を思い出すんだろう? ああ、そうだったね。俺の言葉には重みがある)
一ノ瀬キョウヘイは双葉イツキの問いに対してひっくり返せると言った。
自分たちがいるからだと。
だからこそ
今、ここで動かなければあの言葉が嘘になる。
それだけは許されない。
自分の言葉を何の疑いもなく、信じてくれている親友がいる。
それを裏切る事だけは絶対にあってはならない。
キョウヘイの理性は不可能だと言っている。
しかし、キョウヘイの中にある小さなプライドがそれを許さなかった。
「……神器発動!」
理性を振り払って神の心臓を発動させた
「ーがっ」
まるで血流が逆流している様な感覚がキョウヘイを襲った。
舌が渇く。
まるで自分の中の大切な何かを壊そうとしているかの恐怖心。
理性がやめろと叫んでる。
「ーそれでも!!」
キョウヘイは一番星目掛けて跳んだ直後、星の一撃が弓矢の様に放たれた。
「撃ち落とす!! セイクリッド・イグニッション!」
キョウヘイは星の一撃に対抗するため光の魔法陣を展開させ、全てを照らし輝かせる様な光のレーザを照射させた。
黄金色をした必殺の一撃と神光の一撃が衝突する。
ネルト周辺が光輝いた。
朝日が昇ったと勘違いさせる輝きに一瞬だけ夜空は青空になった。
「最初から決めていたー!! 何があろうと!! ……双葉イツキは俺が守り抜く!!」
二つの光がぶつかり合い打ち消したかのように消散した。
落ちて行く中一ノ瀬キョウヘイは夜空を見ていた。
神器が解け、魔力が乱れ、浮遊魔法が解かれてしまい落ちてゆくキョウヘイを助けたのは双葉イツキだった。
「……大丈夫か?」
キョウヘイをお姫様抱っこしながらレギスチェラムの城壁の上に着地した。
「やれやれ……男に……お姫様抱っこは少し恥ずかしいかな」
「俺だって野郎に対してお姫様抱こなんかしたくねぇーよ」
二人は笑い合いながら言った。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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