第81話 魔法使いVS召喚師
「はぁー超だるいんですけどーて……いうかさっきは馬車襲って終わったらそっこー戦いってきらら働きすぎじゃない?」
輿を強化兵に担がせ、玉座にてあくびをかきながら東の結界の核を守っていた。
彼女は星野キララ。
ボードウィン王国でキッシーたちによってこの世界に召喚された転換者の一人だ。
「ていうかさっきの隕石何? あっというまにこっちの数減ったんだけど?」
心底めんどくさそうに呟くキララに騎士が慌てたように走って来た。
「き、キララ様!! レギス・チェラムがこの核に向かってきています!! い、勢いが凄まじく……我らだけでは!!」
「えーおじさんたち全然役に立たないじゃん。しっかりしてよーもー」
キララは騎士団の不甲斐なさにぷんぷんに怒り、ため息を吐いた。
めんどくさいなもぉーと不機嫌そうに玉座から立ち上がり、天を仰いだ。
これは星野キララが自身の力を出す合図だ。
その姿を見て騎士団の表情は明るくなり、全員が戦況を覆す事ができると心から安堵した。
「きてイフリート」
『ウオォォォォォォ!!』
天輪のような巨大な緋色の魔法陣がキララの頭上に現れ、そこから炎の巨人が現れた。
灼熱の業火に包まれ、紅く剛腕は大きく膨れ上がっている。
上半身のみだがそれでも山一つ分はある大きさだ。
四大精霊イフリート
炎の最上級の精霊であるイフリートを召喚できるのは現時点で星川キララを入れても2人だけ。
「おお!! これで勝てるぞ!!」
「キララ様!!」
騎士団の士気は一気に高まり、勢いは完全に持ち直した。
「くっ!? こいつらいきなり勢いが戻りやがった!!」
士気が持ち直したことにより、未だ数が勝る騎士団の方が優位になり、レギス・チェラムの勢いがなくなり、進行が止まってしまった。
「さてーこのままあの街を焼き切って終わらせよっか」
そう言いながらキララはネルトを指差した。
それに呼応するようにイフリートは雄叫びを上げ、炎の剣を生み出す。
イフリートの剣はネルトを真っ二つにできるほどの大きさを誇っていた。
「はい。これでしゅーりょー」
イフリートの剣はネルトへと振り下ろされた。
しかし、それでもなおレギスチェラムは誰一人気にする素振りすら見せなかった。
なぜなら、ボードウィン騎士団に転換者という圧倒的な力があるのと同じようにレギス・チェラムにもそれがあるから。
絶対的な信頼がレギス・チェラムに前を向かせる。
『レギス・チェラムには派手な金髪をした最強の魔法使いがいる』
その信頼に応えるように炎の大精霊イフリートは一瞬で凍結した。
「悪いけどさ、そう簡単には終わらせないよ」
その声が聞こえた瞬間、氷像イフリートは粉々に砕け散り雪のように降り注いだ。
「「「!?」」」
キララを含め、騎士団全員が驚きを隠せなかった。
キララは即座に水の精霊ウィンディーネを召喚し、水の結界を張る。
空から声が聞こえる。
キララは空を見上げ、その声の主に視線を送った。
「……あーなるほど。馬車の時の〜え〜と〜誰だっけ?」
「僕の名前は神崎ソウスケ。一応聞くけど、その結晶ぶっ壊させてくれない?」
満月を背に金髪の男はキララを見下し、そう言った。
「え〜これ壊されたらキララ怒られちゃうから無理かな〜ていうか見下ろさないでくれる? めっちゃうざいんだけど」
キララはソウスケを見上げながら言った。
キララは今かなりイラついている。
当初の予定では自分は何もしないでただ椅子に座って見ているだけでよかったはずだったのに戦いに参加しなくてはならなくなってしまった上に終わらせるつもりで放った一撃(イフリート召喚)も無力化されてしまった。
(ああ、あの金髪……覚えてる。数日前、襲った馬車に居たやつだ)
しかも、見るとソウスケの姿は体の節びしに包帯を巻いておりすでに満身創痍といった状態だった。
(なーんだ。もうボロボロじゃん。ま、流石にイフリートの魂弾を食らってるんだから当然だよね〜)
キララは転換者の一人シュウイチに頼まれネルトに向かっていたソウスケたちの馬車を襲撃した。
キララの馬車を攻撃する際は確実に相手を全滅させられる様にした。
まさか、生き残っているとは思わなかったが、どうやら全くの無駄というわけではなかったようだ。
「……そっか。あんまり女の子とは戦いたくないんだけど、君はレギス・チェラム(ウチ)に危害を加えた。だから戦うことになったら躊躇も、情けもかけない」
そう言いながらソウスケは浮遊しながら魔導書を開け魔法を発動させた。
水弾を3つ生み出し、キララに向けて放つ。
これは以前イツキが水合戦で放っていた初級魔法のウォーターボールだった。
「何そのとろい水弾……そんなの当たるわけないじゃん」
しかも放たれたのは水の初級魔法。
宮廷魔術師が取るに足らないただの遊び魔法を言っていたものだ。
(どんなやばい魔法がくるかと思ったら初級魔法って……見た目もぼろぼろ……大した事ないねーあと1・2発で沈みそう)
キララは先ほどのイフリートの凍結で魔力を使い果たしたのではないかと思った。
無駄な魔力を使いたくはないため、キララは水の結界を解き、ウンディーネの召喚を解いた。
そして新たな召喚獣であるノームを呼び出し
「あとさーさっきから見下すなって……言ってるんだけどっ!!」
キララは怒りの咆哮と共に地面から岩槍を出現させた。
とてつもなく早く研ぎ澄まされた岩槍は神崎ソウスケを容易く貫けるほどの威力を誇っていた。
ソウスケは地面から強力な魔力を一瞬で感知し、防御結界を張る。
結界と岩槍が強烈な衝突音と共に激突した。
あまりの威力にソウスケの結界がひびが入った。
(1つだけじゃない……3つ……4つくる)
次の瞬間、4つの方向から再び岩槍が出現し、結界に向けて隆起した。
結界のひびが広がる。
「……へーこれも耐えるんだー固いなぁー」
(んー王宮魔術師って名乗ってた偉そうなおじさんの結界魔法を最初の一発で粉々に出来てたのにな〜)
そう思いつつもキララはさっさと終わらせるために次の一手を用意していた。
「シルフ」
「!!」
風の球体が弾丸の様にソウスケに向かって放たれ、大地を巻き上げるほどの巨大な竜巻を発生させた。
(私、ちゃんと見てたんだからね〜金髪の結界にひびが沢山入ってたの)
だから、キララは間髪入れずにシルフを召喚し、攻撃した。
風の大精霊シルフはキララの召喚獣の中で最も持続性があり攻撃の手数が多い精霊だった。
キララの思惑通り巨大な竜巻の中でソウスケの結界のひびが広がっていく。
キララが今まで召喚していたのはイフリート・ウンディーネ・ノーム・シルフ……全てが最高峰の精霊である大精霊だ。
大精霊とは精霊の中でも巨大な力を持つ精霊で各属性を司る巨大な存在。
あまりにも強大なその力は召喚したとしても30%しかその力を行使できない。
(歴史上、大精霊を使役できる召喚師は2人しか居ないってリンが言ってたっけ……結界の核を守っている時点で察してたけど、この子がボードウィン王国の転換者の一人か……)
結界が破られるのはもはや時間の問題だろう。
かといって結界を解くのは自殺行為。
(まぁ、要するにあんたは詰みってことー)
シルフが起こす竜巻を欠伸しながら見てキララは自身の勝ちを確信した。
しかし、竜巻の中ソウスケには自身の勝ち筋が見えていた。
(水の結界を解いてくれたのはありがたい……多分僕の放ったウォーターボールを見て必要ないと判断したんだろう……そろそろかな?)
「早く終わらないかなー?」
そう愚痴りながらつまらなさそうにするキララの目にふと入ったのは消えずにノロノロと近づくウォータボールだった。
(なんだ、この水球まだ残ってるじゃん。こんなトロイの当たるはずー)
「ウォーター・ブレス」
竜巻の中でソウスケが呟いた瞬間、ウォーターボールはプシュッと噴射した。
「はぁっ!?」
とっさに避けるが、噴射した水ブレスは水刃の様にとキララの右手を切り裂いた。
「あああああああああああああああ!!!」
シルフとウィンディーネは光の塵と消え、キララは血が吹き出す右の付け根を抑えた。
痛々しい悲鳴が響き渡り、それを見た騎士団は絶望している。
「い、痛い痛い痛い痛い痛い!」
シルフが消えたのと同時に竜巻も消え、そこから現れたのは魔法結界を解いた神崎ソウスケだった。
「っ……なんでっ!?」
睨むように見つめてくるキララにソウスケは言った。
「さっきのウォータボールに強い魔力に向かうよう設定して、ある程度の距離に近づいたら噴射をするようにしただけだよ」
そんなことができるだなんてキララは宮廷魔術師に聞いていなかった。
(あの宮廷魔法師っ!!)
「ちなみに普通のウォータボールにはこんな機能はない」
「っ!?」
キララの態度で何かを察したのか、ソウスケは言った。
「これは魔法の掌握ー」
「そんな事!! どーでもいいっつーの!! 私の右手切り落としておいてよくも!!」
噛み付く様な瞳がソウスケを睨んでいる。
そこには敵意そして圧倒的な殺意があった。
「……言ったはずだ。君はレギス・チェラム(ウチ)に危害を加えた。だから戦うことになったら躊躇も、情けもかけないって」
「うるさい!! 殺してやる殺してやる殺してやる!!」
鬼の様な形相でキララは次の精霊を召喚しようとしていた。
「!! やめろ!! 君の残り魔力ではもう大精霊は召喚できない!!」
大精霊は強大な力故に消費する魔力が膨大だ。
ソウスケとの戦闘ですでに4体も召喚しており、キララの魔力はもはや底をつきかけていた。
「黙れ!! 無理かどうかは私が決める!! 全部……全部!! 凍らせてやる!! セルシウス!!」
キララの怒りに応えるように氷の結晶が現れた。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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