第78話 REVERSI
部屋を出て階段を出るとユウヤ、ソウスケ、キョウヘイは階段の踊り場にいた。
どうやらギルドのみんなを集めてくれていたみたいだ。
リーシャを先頭にレギス・チェラムのみんなが俺たちを見上げていた。
キョウヘイが一歩前に出て現状を説明している。
ボードウィン王国の侵略を受けている事。
先ほどの刺客の襲来でネルトは占拠されかけた事。
続いて結界によって孤立させられ、4万人の正騎士団と4人の転換者を迫ってきている事。
キョウヘイの言葉を聞いてみんなの表情がみるみる暗くなっていく。
絶望、諦め、恐怖、不安、さまざまな負の視線がこちらに向けられる。
当たり前だ。
なぜならここにいるみんなはさっき完全に敗れてしまったからだ。
為す術もなく、呆気なく、一瞬で、たった一人の転換者シュウイチの力の前に敗れた。
自信を無くしたかのような……そんな顔をしている。
この風景にどこか懐かしさを感じていた。
そうだ。俺がここに初めてきた時だ。
ユウヤに無理矢理集会を参加させられ、レギス・チェラムのギルドマスターだと言われた時。
あの時は感心、不審、不快、疑心、その視線はさまざまなものがあった。
俺はそんな目線に耐えきれず目を逸らし恐怖で手が震えていた。
勘弁してくれ、さっさと部屋に帰りたい。本気でそう思っていた。
この世界に来る前は一人で歩いて、好きに生きてきた。
怠惰であらゆるものから目を背け、ただ何も目的もないまま生きてきた。
だから、逃げたくて逃げたくてしょうがなかった。
だけど、今は違う。
今の俺はレギス・チェラムのギルドマスタ双葉イツキだ。
重たい空気の中、俺は一歩前に踏み出した。
「キョウヘイが言った通り、今レギス・チェラムは完全に孤立し、ボードウィン王国の兵達がこちらに進軍している。数は4万、しかも先ほどここを襲った2人と同等……いやそれ以上の力を持つ奴らが4人もいる」
俺たちは馬車で転換者の強襲を受けていた。
不意打ちとはいえ、かなりのダメージを負ってしまったのは事実だ。
俺たちを襲った転換者の魔法はそれほどの威力を持っていた。
今も俺を含めてキョウヘイ、ソウスケの受けた傷は治りきっていない。むしろ傷口は広がっている。
その証拠に、ソウスケとキョウヘイに巻かれた包帯は血が滲み、それが段々と広がっている。
まともに戦える状態ではない。
そしてユウヤは半分以上の魔力を消費している。
転換者と戦うには心元ない。
そのことはギルドの奴らも気づいている。
5大ギルドである自信とレギス・チェラムの支えとなるものが今揺らいでいる。
「そんな……」
「もう駄目だ…」
「終わりだ」
「マスター達も負傷してるじゃないか。そんな相手に……」
「勝てるわけない」
「レギス・チェラムは終わりだ……」
そんな声が聞こえてくる。
ギルドメンバーの心は完全に折れていた。
「……確かに、俺たちは完膚なきまで叩きのめされた!! 俺たちはこんなにボロボロにされて、お前達は何にも出来ずに倒れた!!」
俺の言葉に全員俯き黙った。
「でもさ、まだ終わってねぇんだよ!!」
その言葉に顔をあげ、全員が俺の目を見ている。
視線、視線、視線、たくさんの視線が俺に集まる。
驚いた様子の人、何言ってるんだこいつはと言いたげな人、呆れている人……様々だ。
だからこれからはただ思ったことを言う。
飾り気のない本能的な言葉。
飾った言葉や考えた言葉じゃきっと誰にも届かない。
だから飾らない本音をただ叫ぶように伝える。
「俺たちはレギス・チェラムはこんなところで終わらねぇ!!」
空気がピリつく、みんなが息を呑んだ。
「どうしてこんな自信を持って言えるのかって? それはここには俺が居て! ユウヤが居て! ソウスケが居て! キョウヘイが居る!!」
「そして!! 何よりお前達がいるだろうが!!」
「「「「「!!」」」」」
「なぁ! 賢王がネルトに攻めてきた時……あの時のお前らボロボロだったけどさ、全員が上を向いててさ、目が最高にギラついててさ。どんなに惨めでも!うちのめさせても! ひっくり返してやるって最後まで抗おうとしてたじゃねぇか!」
「あの日、お前達のあの姿が頭の中に鮮明に残ってるよ!! そいつを思い出すとまだ終わってねぇなって! まだまだ戦えるなって! そう思えるんだよ!!」
「あの時の最高にかっこいい姿!! もう一度俺に見せてくれよ!!」
「負けて自信がなくなったか? 勝てないと諦めちまったか!? 圧倒的な力の前に心が折れちまったか? なら俺が何回でも言ってやるよ!!」
「負けたからってなんなんだよ!! リベンジすればいいだけなんだよ!! これからだ!! これからなんだよ!! 俺たちの本当の戦いは!! 俺達は強い!! 俺とお前達なら勝てる!! 絶対に!!」
「こっからひっくり返すんだよ!! オレとお前たちで!! 全部!!」
空気が変わった。
みんなの表情が変わった。
あともう少しだ。
表情を見ればわかるみんなの心に熱が生まれている。
俺は手を差し伸べた。
「だから、オレと共に行こう」
この掌にはまだヒロムから託された熱が残っている。
「この中に俺のこと認めてない奴がいるってことは分かってる!! だけど!! いつまでも重苦しい表情してるんじゃねぇよ!! 顔を上げろよ!! 進めよ!! 心を奮い立たせろよ!!」
伸ばした手を強く握った。
喉が枯れて声が掠れる。
口の中が血の味がする。
だけど俺は叫び続けるよ。
お前らの心に届くまで。
「俺たちレギス・チェラムはまだまだ上にいけるか! ここで終わるか! レギス・チェラムは勝者か敗者か!」
「この中で俺のこと認めてないやつも!! ここで俺がレギス・チェラムのギルドマスターに相応しいか相応しくないか!」
「俺と一緒に白黒はっきりつけに行こうぜ!!」
一人一人の目に熱が籠もり、心に火が灯った。
「戦う覚悟ができたか!? なら……黙って俺についてこい!!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」
ギルド内が熱く感じるほど沸いた。
俺を認めていなかったもの含めて全員が俺の言葉に答えてくれた。
空気が振動する。
この場にいるだけで力が湧いてくる。
体の中にめぐるマグマが噴き出し、一人一人の心に火が灯る
一つ一つの火が交わり、大きな炎となる。
ここで初めて俺たちレギス・チェラムは一つになった。
「……マスターぽかったよ」
ポンとソウスケが背中を叩いてきた。
「うっせ、一応このギルドのマスターだよ」
ソウスケの一言に笑って返事してやった。
「……さて、この戦況、大胆に返してやろうぜ。というわけで作戦任せた」
ポンとキョウヘイの肩を叩き、いつものように放り投げた。
「全く……しょうがないな。……慣れっこだけど」
キョウヘイの愚痴のような一言に俺を含めた4人がくすと笑う。
ああ、懐かしいな。この感じ。
だから、改めて言うことにした。
「……お前らの全部俺に預けてくれ」
「とっくの昔に預けてる」
ユウヤはそう言いながらポンと俺の胸を叩いた。
ユウヤの言葉にソウスケもキョウヘイもただ頷く。
ああ、そうだったな。
ラクスと決闘することになった時もお前らはこれまで積み上げてきたもの全てを俺に賭けてくれた。
だから俺は今、ここにいる
この世界に来る前は一人で歩いて、好きに生きてきた。
怠惰であらゆるものから目を背け、ただ何も目的もないまま生きてきた。
だけど、今は違う。
今はこいつらと……レギス・チェラムのみんなが居る。
たくさんの仲間たちと一緒に歩いている。
だから……全力で生きよう。そして何一つ失わせない。
そう決めた。
「面白かった!」
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「続きが気になる、読みたい!」
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