第71話 崩壊の兆し
始まりの街ネルトはいつも通りの朝を迎えていた。
仕事をする者、家事をする者、レギス・チェラムでクエストを受ける者、食事を取るもの、朝から飲む者と様々だ。
緊急事態の警告がならない平凡な日常、少し、のんびりした空気でネルトの住民はいつも通りの朝を過ごす。
そんなネルトにボードウィン王国から訪問者がやってきた。
一人は弁慶を連想させるほどの2m越えの筋肉質で巨体の男。
もう一人はソフトモヒカンの長身痩躯の男。
「おいおい。平和ボケしてる街だなぁ。本当にここが5大ギルドがある街なのかよ。なぁシュウイチ!」
弁慶のような男が長身痩躯の男であるシュウイチに同意を求めるように話しかける。
「あ〜耳元で叫びなよ。うるせぇなぁーナオト」
そんな近藤ナオトを鬱陶しそうに手で払う。
そう言いながらもシュウイチはナオトの気持ちに理解はしていた。
ネルトといえばこの世界に5つしかない5大ギルドレギス・チェラムがある街だ。
にもかかわらず、緊張感の一欠片のない空気、平和ボケしているように見えるレギス・チェラムの冒険者達。
このネルトの空気に期待外れ感が否めなかった。
「まぁ俺はそのほうが好みなんだけどな」
これから自分たちが起こすことを想像して楽しそうに笑った。
さてとシュウイチは最初のターゲットを見つけ流ために周りを見渡す。クエスト帰りらしきの5人パーティを見かけると獲物を見つけたように話かける。
「なぁ、あんたらレギス・チェラムの人達?」
ニコッと好青年のように話しかける。
「そうだけど、何か?」
5人の中でも先頭にいた剣士の少年がシュウイチの問いに答える。
シュウイチはここで潰してしまいたいと言う衝動を抑え、警戒されないよう言葉を選びつつ引き続き笑顔で対応する。
ギール・ナックル・ボードウィンが服部シュウイチをネルトの視察に送り出した理由は彼が状況を見て的確な
判断ができる男だと信用していたからだった。
その信用通りシュウイチは行動していた。
「俺たちレギス・チェラムに行きたいんだけど、案内をお願いしてもいいかな?」
「ああ、もちろん。俺たちも今から帰るところだったから。ついて来てくれ」
剣士の少年は後ろにいる仲間に確認をとり、快諾した。
かかったとシュウイチは心の中で微笑む。
同時にまだだ、暴れるのはレギス・チェラムについてからと心を律し、後に着いていく。
「レギス・チェラムには何を? あ、もしかして入団しに?」
剣士の少年は雑談と言った感じで軽くシュウイチ達に聞いた。
「そうだなー」
シュウイチがどう言おうかと顎を触りながら考えているとナオトがスッと前に出た。
その瞬間、シュウイチは嫌な予感に襲われた。
「戦争だ♡」
ナオトの拳が剣士の顔面目がけて放たれた。
勢いのまま振われた拳は剣士の少年の顔面ごと地面に向けて振り下ろされる。
剣士の少年は頭から地面に叩きつけられ「ぁ」と言う声をあげたまま起き上がって来なかった。
やはりとシュウイチはため息をついた。
どうせ今問い詰めても悪りぃ、あいつらの平和ボケしてる顔見てると我慢できなかった! とか行ってガハハと笑うだけだ。
そう思いシュウイチは何も言わなかった。言うだけ無駄なのだこの脳筋ゴリラには。
「なっー何をっ!?」
同じパーティーメンバーだったアーチャの少年が臨時体勢を取ったがナオトの拳によって一瞬で沈められた。
その光景を見た大勢の住民が悲鳴をあげ、その場から逃げ去っていった。
「はああ!」
女武闘家が勇敢にもナオトに立ち向かい、渾身の突きを彼に向かい放つが
「は、よえなぁ!!」
そう言いながら余裕そうに女武闘家の一撃を避け、カウンターとして腹部に硬く握られた拳を放った。
「がっ!?」
カウンターをもろに食らってしまった女武闘家はあまりの威力に民家に向かって吹き飛んでいった。
「ファイアーアロー!!」
カウンターのあと隙を狙うかのように炎の矢が鋭く、速く、一直線にナオトに向けて飛んでいった。
ファイアーアローとは炎の矢を放ち、着弾すると小規模の爆発を起こす中級の炎魔法である。
威力は中級の中では低い部類だが、命中率と発射速度は上位の性能を誇る。
着実に隙を当てる為、女魔法使いはこの魔法を選択した。
(一瞬でも時間を稼げれば、逃げられる! レギス・チェラムに行ってみんなに知らせなきゃ!)
もう一人の仲間である女僧侶とアイコンタクトをしてレギス・チェラムに向かって走り出した瞬間
「ぎゃっ!?」
突然放たれた空気圧にとって女魔法使いは壁に叩きつけられた。
「ぁ? なんで?」
薄れゆく意識の中で目に映ったのは拳をこちらに向かって突き立てていたナオトだった。
(まさか、拳圧でファイアーアローをかき消して、私を吹き飛ばしたー)
「−ぁぁああ」
残りの一人である女ヒーラーはただ呆然と座り込み、見ることしかできなかった。
「おーいナオト、その女はやめとけーキッシー王の好みは献上するってギール王子に言われてるからな」
漏れている声色は幼く、背は低い。ピンク色の髪でくりくりとした愛らしい目をしており、そのくせ胸は大きい。
俗に言うロリ巨乳と言うやつだ。
「大丈夫だよ。キッシー王に献上する前に治癒魔法で治せばいいだけだ」
だから、俺も楽しんでも問題ないと言った感じで女ヒーラーに近づいて行く。
「さぁて、気持ちのいい悲鳴を聞かせてくれよ!!」
振りあげた剛拳は涙を流し、怯えている女ヒーラーに振り下ろされた。
ゴン!! 轟音と何かが砕ける音と共に煙幕のように砂埃が舞い上がった。
(……感触がしねぇ。と言うことは)
ちっと舌打ちをしながら拳を振るい、砂煙をかき消すと目の前にはナオトに背むけ女ヒーラーをお姫様のように抱えている眼鏡を抱えた少年ヒロムがが立っていた。
「いいとこだったのによぉ。邪魔すんじゃねぇよ」
邪魔が入ったことにより、苛ついた表情をしながらナオトはヒロムに自身の感情をぶつける。
それは威嚇の意味も含まれていた。
「え、あ、す、すいませんっ……ででもひ、人を傷つけるのは良くないことだと思いますっ!!」
「……ぷ、あはは!! そりゃそうだ! おいナオト、これは一本取られたな」
あわあわと話すヒロムにシュウイチは腹を抱えながら言った。
ナオトは先ほどよりさらに不機嫌になりシュウイチにうるせぇと吐き捨てた。
ヒロムはそんな二人の様子を見ているとあることに気づいた。
「その紋章はボードウィン家の」
ん? とシュウイチは自身の服に着いているボードウィン家の勲章の服を見てほほーと興味深そうにヒロムを見た。
「これ見てわかるのかぁ。それじゃ一応自己紹介をしておこうかなー俺は服部シュウイチ、でこのデカブツが近藤ナオト俺たちはボードウィン王国で召喚された転換者だ」
誰がデカブツだと言うナオトの言葉を無視してシュウイチは話を続けた。
そしてと高らかに両手を広げ、宣言するように言った。
「このネルトを乗っ取りに来た」
シュウイチがパン! と手を合わせた瞬間、ネルトを覆うほどの結界が張られた。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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