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第7話 男の戰い



翌朝、晴れやか青空の下、俺と受付嬢のレイアは草原を全力疾走していた。

なぜそんな事をしているのかだって? 単純な理由さ。



「寝過ごしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


数十分前に蒼白した表情をした受付嬢のレイアに起こされ、今の状況に至るのだ。

ていうか、全力疾走なんていつぶりだ? めっちゃしんどいんですけど!



(ちょっとマスタ〜)

(いや、お前もさっきまでぐっすりと寝てただろ!)



現在は午後1時前、約束の時間まであと40秒。


ネルトから少し離れた草原に半数のギルドメンバーが集まっているのが見える。


ある者はマスターが変わる瞬間を

ある者はラクスによる一方的な決闘を

ある者は興味本意で


そんな中ラクスは腕を組み、仁王立ちで俺を待っていた。



「ひぃ、ひぃ、間に合った?」


「はぁ、はぁ、そうみたい……だね」


「いや、付き合わせてごめんごめん」


「もう! 全然降りて来ないし、起こしたら場所も把握してないし……ギルドマスターなんだから、しっかりしないと駄目だぞっ」


「す、すいません……」


ぐうの音もでない正論だった。

まるで寝坊して学校に遅刻しかけて母親に怒られた気分だ。

 途中までは敬語で話してくれていたのにいつの間にかタメ語になってるし。



「改めて、ありがとう。助かったよ。」


「どういたしまして、あ! そうだ、このお礼に今日の仕事終わりに紅茶とクッキーをご馳走してくれたら嬉しいな」


「了解、めちゃんこ高い奴をご馳走するよ」


レイアにそう言いながら手を振りラクスに近づいて行く。


「よぉ、てっきり逃げ出したのかと思ったぜ」


ラクスは俺に見下ろしながらそう言った。

正直、今でも逃げ出せるのなら逃げ出したいよ。


だけれども


「引けない理由が出来ちまったもんでね」



見上げながら震えた声で言った。

戦う前からわかる。200センチの巨体と圧倒的な威圧感、それがラクスがどれほど強いかを表しているようだった。



「そうか、これは男の戰いだ。どうなっても文句は言うなよ」



昨日の夜、俺たちはラクスに対する対抗策は思いつかなかった。

ただ、一つだけ、勝てる可能性は見つけていた。


俺の固有スキル本気出す。


ピンチの時に火事場の馬鹿力を発揮させて全てのステータスのリミッターが解除され、力、速さ、魔力、技量、知性が人の到達する事のない境地まで引き上げる事が出来る。一日1回のみ発動可能。



ピンチになってこのスキルを発動させ、ラクスに勝つ。それしか方法はない。やるしかないんだ。



「両者揃ったな、では、決闘を開始する!」



ユウヤの宣言と同時にラクスは右拳を強く握った。

その刹那、まるで鈍器で叩かれたような鈍い音と共にラクスの拳が俺の腹目掛けて振り上げられた。



「あがっ」



あまりの威力に体を浮いた。激痛が身体中に巡る。

勝てない。一発でわかる力の差。



「これからだぞ!! 双葉イツキ!!」



止まることなないラクスの怒涛の連撃を喰らい続ける。

ラクスの攻撃を喰らう度に血飛沫がまるで花火のように飛び散る。

反撃なんか出来っこない。


見ているもの誰もがこれは決闘なんかではなくただのリンチだとそう思うほどだ。

痛い、痛い、痛い、本当に痛い。思わず、泣き叫びたいほどの痛みが絶え間なく襲ってくる。



「なんだ。やっぱりただの雑魚じゃん」


「こんな奴、追い出して正解だな」


「所詮、遊び人は遊び人だ」


攻撃をくらい続けている俺に対して嘲笑うかのような声が飛び込んでくる。


やっぱりこうなった。


そう言った空気が流れている。

そんな中、ユウヤとソウスケとキョウヘイはただ黙って見ていた。



「どーした! 双葉イツキ! 威勢がいいのは最初だけか!?」



ラクスは俺を殴りながらそう叫ぶ。

ラクスは勢いに乗って蹴りを俺の顔面に目掛けて放つ。


強烈な一撃。


痛みが顔面に炸裂し、目の前が一瞬真っ暗になった。意識を失い、後ろに倒れかけるが、なんとか踏みとどまった。



……左目が見えない、これは腫れているな。

視界がグチャクチャで頭がくらくらする。身体中を蹴られ、殴られ、立ってるだけでやっとだ。



「ま……まだ……ま……だ」



一言喋るだけでも口の中に激痛が走り、血の味がした。



「はっ!! ただのサンドバックじゃねぇか!」



ラクスは俺の精一杯の強がりに笑いながら返し、再び、怒涛の連撃を繰り出してきた。


止まることのないラクスの攻撃。血飛沫の一つ一つが細かく見える。小さな血の球がスローモーションに飛び散っている。



「しつけんだよ!!」



最後のラッシュとばかりにラクスの一撃が速く、強くなっていく。


体が休みたがっている。

脳が気を失いたがっている。

心が折れろと叫んでいる。


だけど


俺の魂がそれを否定している。



「いい加減俺に倒されやがれぇぇぇ!」



渾身の右ストレートが俺の顔面に突き刺さる。

体は勢いよく中を舞い回転しながら地面に叩きつけられた。

ぐちゃっと嫌な音が鳴った。顔面から落ちたからだろうか?



「はぁはぁ。これで終わりだろ……」


「勝手に……終わらすんじゃねぇ……よ」



鼻血が止まらない……息をすることさえ、ままならない。苦しい。

重たい体を起き上がらせ、拳を握る。



「っ!! いい加減にしろ!!」



ラクスの拳に何回も何回も吹き飛ばされ、倒れてしまっても立ち上がった。

立ち上がる度、ラクスの呼吸は乱れ、汗をかき、表情が険しくなっていく。



「なんだよ……なんなんだよ!? 左目の腫れ上がり、顔面も血だらけでボロボロじゃねぇか!? 少しでも触れてしまえばぶっ倒れそうじゃねぇかよ! 半分死んでるじゃねぇかよ!!」



肩を大きく上下させ、息を切らしながらラクスは叫んだ。



「何度も、何度も、何度も何度も何度も!! 叩き潰しても起き上がってきやがって!!」



ラクスは雄叫びを上げながら魔力を解放した。

稲妻のように荒々しい魔力は今のラクスの心情を表しているようだ。



「これで終わりだ!! 雷光波!!」


掌に魔力を集中させ、俺に向けて青く輝く雷光の巨大なレーザを照射した。

ラクスの放った雷光が直撃し、雷に撃たれたかのような激痛が体を支配する。



「あっがっ」


「……死なないように加減はしておいた。だが、もうろくに体は動かないはずだ」


荒ぶる息を整えながらラクスは言った。

ラクスのいう通り、死には至らなかったが、体中が痺れている。

まともに立てない。ふらふらと体が揺れる。



「俺の勝ちだ。もう飽きらめろ。終わりだ。お前は何も出来ねぇんだよ!!」



ボロボロで死にかけの俺と無傷のラクス、対照的な二人の姿は勝敗を表しているようだった。

それをみてラクスの勝利宣言とともにギャラリーは耳が痛くなるほど沸いた。



「うおおおおおおおおお!!」


 声援はラクスを祝福するかのように降り注いだ。


「ラクス!!」

「ラクス!!」

「ラクス!!」


ラクスコールが止まらない。 

この場は完全にラクスが支配していた。



「うるせぇ!! まだ何も終わってねぇ!!」



そんな声をかき消すかのように俺は叫んだ。

空気が一瞬でピリつく。



「逃げたいところを柄にもなく踏ん張ってんだよ!! 黙って見てろ!!」



そう叫ぶと歓声は止み、この場は無音になった。


「……なんで、そんなになっても折れねぇんだ?」


「これは……男の戰いだろ? だったら負けるわけにはいかねぇんだよ」



それに



「たとえ弱くても、みっともなくてもこんな無様な状態でも俺を信じてる馬鹿達が居るんだよ!! だから、俺はこいつらの前では見栄を張りたいんだよ! 最高にかっこいい姿で居たいんだよ!! だから……俺は」



拳を強く握った。




「双葉イツキは折れねぇんだよ」




『固有スキル 本気出す 発動条件を満たしました。』



どこからか声が聞こえた。



「っ!! ああ、そうかい。認めるよ。あんたは強い! だから、俺の最強の一撃でお前を葬ってやる……」



ラクスは深呼吸して、息を整える。


「電光石火!」



自身の固有スキルを発動させた。

電光石火とは雷を纏い、技の威力、スピードを急激に増加させる。速さは光速に匹敵する

ラクスの切り札である。


大地と空気が揺れ、雷を全身に纏い腕を豪快に振り抜きつつ双葉イツキに突進する。



「止めてみせろ!!」



自身の最強最速の拳を俺に放つ。放った拳は風圧も音も、全てを置き去りにした。


こい、こい、こい!! 双葉イツキ!! 今、ここで本気にならなきゃ意味がねぇだろうが!!



『固有スキル本気出す発動します』



どこかからそんな声が聞こえた瞬間、世界が変わった。音が消え、目の前のラクスの動きがスローに見える。

ラクスの動きに合わせるように奴の拳を避けた。



「……は?」



あり得ないという表情でラクスはあっけにとられた。



「……歯、食いしばれよ」



左足を強く踏み締め、体を捻りながら大きく振りかぶり、硬く握った右拳を放つ。

右拳はラクスの顔面を捉え、そのまま勢いよく地面に向けて叩きつけた。


その衝撃は大地を伝い、轟音と共にクレータが発生する程だった。



「い、一撃……」



どこからかそんな声がした。


俺はこの決闘を見ていたギルドの奴ら全員に言った。



「俺は、レギス・チェラムギルドマスター双葉イツキだ。文句がある奴はかかってこい」



俺を非難する声は無くなっていた。



「勝者双葉イツキ! 彼をレギス・チェラムのギルドマスターと認めるものとする!」


ユウヤが高らかに宣言し、キョウヘイとソウスケは誇らしげな表情で俺の姿をみていた。








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