第60話 転換者
「さて、これで揃いましたね」
丸テーブルの上にはティーセットとケーキスタンド、そして先ほどからある洋菓子が乗ったお皿がある。
なるほど、あふたーぬーてぃって要はお茶会みたいなものね。おっけー完全に理解した。
「ケーキスタンドとお皿の洋菓子、食べたい方をどうぞ」
エレナはそう言いながら紅茶を入れてくれた。
その姿は上品で、なんだか様になった。
……可愛いと言うより、美しいと言う表現の方が正しいだろうか? 一瞬彼女が年下だと忘れてしまうほどだった。
これは大人になったら美人さんになるだろうなぁ。
さて、エレナの許可もでたし、ケーキスタンドのものをいただくとするか。
3段のケーキスタンドには上からケーキ、スコーン、サンドイッチが並べられていた。
ケーキから行きたい所だがこういうのは無駄にマナーがある。多分、食べる順番とかがあるはずだ。
「これって下から食べたらいいんだっけ?」
こういうのは聞いた方が手っ取り早いのだ。
「一番下のサンドイッチからです。あれ? このお皿にあったクッキー全部食べちゃったんですか?」
少し、慌てた様子のエレナを見て流石に全部食べてしまったのはダメだったかと反省する。
ここは素直に謝っておこう。
「ごめん。お腹空いてたから全部食べちゃった」
「いえ、謝ることではないのですが……少し焦げてたし、不恰好だったでしょ?」
エレナのいう通り、少し焦げてて不恰好だったが
「おいしかったぞ? それに頑張って作ったって感じで俺は好きだったけど」
「そ、そうですか……その、もし次来た時あったら食べたいですか? クッキー」
少しもじもじしながら聞いてきた。
俯いているのでどんな表情なのかは分からないけど、その声はその声は震えているように感じた。
「そうだな、また食べたいな。おいしかったし」
エレナの中では次がある事に驚きながら答えた。
もしかして、あのクッキーはエレナが作ったものだろなのか?
いや、そんなベタな事あるわけないか! アニメの見過ぎだな! ははっ
「わかりました。また、用意しておきますねっ」
……まぁ、嬉しそうに笑ってるし、それでいっか。
紅茶がクソ苦かったので、角砂糖を2個入れ、溶かすためにかき混ぜながらサンドイッチを取った。
「イツキさんってこの世界の人じゃないですよね?」
「ぶー!? ごほっごほっ!!」
いきなりぶち込まめた話に思わず、紅茶を吹き出す。
あ、やばい!! 気管に入った! 咳が止まらねぇ!
「だ、大丈夫ですか!?」
咳混む俺の背中を優しくエレナは撫でてくれた。少しずつではあるが、呼吸を整えて、落ち着きを取り戻す。
ていうか、え? なんで分かったんだ?
「キャメロットで召喚された転喚者の方でもないですし、貴方は何者なんですか?」
あかん、知らん単語が出てきたぞ。クッソ! こうなったら!
(ヘイ!バエル! 転換者の意味を教えて!)
(いや、ヘイシリ! みたいに言われても……まぁ、私も知らないんですけどね)
マジかよ……
「えっとまず転換者って何……?」
「この世界では魔王軍に対抗するため、別の世界で不運により死んでしまった才ある者達を肉体と記憶を再構築させ、魂をこの世界に呼び込むことによって召喚しているのです。それが転換者です」
なるほど、転生と召喚を混ぜた様な感じか……っていうか、俺達以外にも異世界人居たのかよ。
話を聞いていると転換者は何かしらの強力な能力である固有スキル(俗に言うチート能力)を持っていたり、ドワーフが作ったチートアイテム神器の適正者だったりするらしい。
「そんな奴らがいるなら、魔王軍とか楽勝なのでは?」
そうでもないですよ。とエレナは憂鬱そうに言う。
「魔王軍は転換者に匹敵するほどの強い魔物が沢山いますし。それに、転換者全員が協力的ではなくて、辺境でスローライフを送っている方も居ますから」
魔王幹部と戦う際の召集に応じない人達も居ますからねとため息をついた。
(は? この世界が大変なことになってのに、なんて無責任な。スローライフ送ってんちゃうぞ! 働け! ゴミ共が!)
(ニート野郎が何言ってんだって感じだ)
「転換大召喚は最高ランクである界魔法です。20人ほどの魔法使いが5日ほどかけて行う大魔法なのです」
何よりとエレナは説明を続ける。
「この魔法はとてつめない程の魔力を消費するのです」
「へーどのくらいなんだ?」
「およそ1万人分です」
いや、多すぎ。
「なので、転換大召喚を行う際には国民の魔力を使っているのです。といっても王都は人が10万人程居ますので、1人1人の負担はそんなにないんです。人数が多いほど、負担が軽くなりますから。ですから行なえる国はわずか2カ国だけです」
2ヵ国だけか……それは大層な魔法だな。
「一つはこのキャメロット王国ともう一つはボードウィン王国です」
あー聞いたことあるな。ボードウィン王国……東方にある大きな国で資材とかが豊富なんだっけ? 人も多いし、富豪の国っていわれてた。
規模でいったら1・2を争う程の大国らしい。
「キャメロットの転換者であればリストに載るのですが、貴方の名前が乗っていないのです」
探る様な視線が突き刺さる。
(これは、素直に言ってもいいよな?)
(そうだね。そっちのほうが良いんじゃない?)
よし。
「俺は別の世界で一度死んでこの世界にやってきた転生者だ。転換者のように呼ばれて来たわけじゃなく、別の力によってこの世界にこっちから来たからリストにも載ってないんじゃないかな?」
「なるほど、転生ですか……イツキさんはこの世界にとってイレギュラーな存在なんですね」
転換大召喚という魔法が存在しているためか、エレナはすんなりと受け入れた。
「ちなみに儀式のようなものをしたんですか?」
興味深々と言った感じで聞いてくる。
目を輝かせ、若干前のめりになっている。
こ、これは期待されているな……
自身がどのようにこの世界に転生してきたのかを思い出す。
…………
「雪の積もった山頂で1晩儀式の舞を踊り続けたのさ……」
「雪の積もった山頂!? さ、寒くなかったのですか!? それに一晩中って……とても過酷なものだったんですね!!」
おお!! と驚愕しているエレナを見てうまくいったことを確信する。
(あれれ〜おかしいぞぉ〜? 家の庭で全裸で奇声を挙げながら死んだんじゃなかったけ?)
(黙れ!!)
「なるほど、ボードウィン王国の転換者かと思ったのですがどうやら違うようですね」
「なんだ? ボードウィン王国の転換者ならまずかったのか?」
「……キャメロット王国とボードウィン王国はつい最近まではよく交流をしていましたが、今は関係が悪化しているのです」
「なんで?」
「1年前、ボードウィンの国王が変わったのです。名はキッシー・ナックル・ボードウィン。彼が王になって以降魔王軍の侵攻を防ぐための砦の資材及び人材の支援が途絶えてしまったのです」
そういえば以前、レイアがキャメロット王国は魔王軍との国境にある国で色々なところから支援を受けてるって言ってたな。
確か、ボードウィン王国はここはとは真逆で魔王軍から最も遠い国だったはずだ。この世界で最も安全な国としても有名だって言ってた。
「以前からキッシー王は私たちキャメロット家を良くは思っていませんでしたから……」
「え、なんで? 何かやったの?」
「自国の資材をこちらに提供するのが気に食わなかったのでしょう。先代の国王にもそのことについて苦言をしていたそうですから」
「でも、それは魔王軍の侵攻を止めるためのものじゃないのか?」
エレナ達王族と勇者パーティー、各地から集まったチート野郎どもが頑張ってくれているからこの平和が成り立っているんだ。資材や人材の支援くらいしてくれてもいいじゃんか。
「向こうにとっては知ったことかということなのでしょう」
そんなの……勝手すぎないか?
俺がキッシーに文句の一つでもいいに行ってやうか……ネルトが一番ボードウィン王国に近い国だし。
「それだけならまだしも、最近ある噂を聞くんです」
「噂?」
「転換者を次々と呼び出し、自身の兵である正騎士の体を改造したりと兵力を蓄えている。という噂や資材を提供しないのはキャメロット王国を攻め入るのに使う為だとか、そんな噂です」
「はっ!? それって人間同士で戦争するってこと?」
魔王軍が侵攻してきてるのに馬鹿か!? 人間同士で争ってる場合じゃないだろ!?
「……あくまで噂です。こちらも探りを入れているのですが、確証へと繋がる情報や証拠は見つかってないんです」
キャメロット王国も下手に動けないというわけか。
それはそうだよな。こちらから仕掛けてしまったらボードウィン王国に大義名分ができてしまう。これは面倒臭いな。
「ネルトは王都から最も遠く、ボードウィン王国から最も近い街です。気をつけてくださいね」
「おう……何かあったら連絡するよ」
エレナはお願いしますと頷き時計を見た。
「そろそろ時間ですね。付き合ってくださってありがとうございました。門までお送りしますね」
「お、それじゃあ行くか」
あふたーぬーんてぃが終わり、俺とエレナは立ち上がり、部屋を出た。
なんかフラグっぽいんだよなぁと心の奥で思った。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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