第56話 任せたもの
「………イツキ」
「ソウスケじゃん、なんか久しぶりに感じるな!」
「………うん」
「はは、酷い顔してるぞ?」
「ああ、僕さ、覚悟してここに来たんだ。けどイツキを見てるとさ………わるい、やっぱつれぇわ」
「どんなに辛いことがあっても、現実から目を背けてはいけないんだ……ちゃんと向き合わないと。」
「イツキ………まさか、あの時お前に言った言葉が返ってくるとは思わなかったよ。そうだね、その通りだ」
「いやでもやっぱり牢屋の中に全裸の友人がいる現実なんて受け入れたくないよ!!」
「いや、本当に申し訳ない」
数時間前
バシャ!! と音がなった瞬間、身体中が濡れた。
「??? なんで、濡れて? これお湯?」
確か、固有スキルの帰るを使ってネルトに転移したはず……?
そう疑問に思った瞬間
「「「きぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
目の前で全裸のババア達が悲鳴をあげた!!
「おええええええええええええええ!!」
あまりにも過激な状況に俺の脳と心が拒否反応を起こしている!
ここ、風呂屋か!!
しかも女湯!!
今は昼間だからか入浴者がお年寄りばかりなんだ。
テレポート先の登録場所、この街に設定していたが、大まかすぎてこの街のどこにテレポートするのかランダ
ムになったのだ。
前使った時は運が良かっただけだったのか!
こんな事ならネルトじゃなくてっ俺の部屋とかギルドの酒場とか細かく設定しておけばよかった!!
それからすぐさま通報! 確保! 連行! の三コンボをくらい濡れた服を剥ぎ取られ、牢屋にぶち込まれた。
そして今に至るのである。
「おら、これ服」
いつぞやの俺のようにソウスケは乾いた俺のtシャツと赤ジャージを床に叩きつけた。
「おい!!叩きつけるな!! 俺は五大ギルドレギス・チェラムのギルドマスター双葉イツキだぞ!? もっと丁重に扱え!!」
「それ以前に只の犯罪者じゃん。」
「……………」
(これは見事なカウンター!!)
(うるせぇ!!)
外に出るとすっかり日が暮れ暗くなっていた。
ソウスケと二人、灯がついたネルトの街中を歩く。
「ていうか、どこいってたんだよ。イツキが居ない間こっちは大変だったんだぞ主に僕とレイアちゃんとキョウヘイが」
「え、マジ? それは悪かった。実はな新人と一緒にクエストに行ってたんだけど。その時、竜王ジーヴァに襲われたんだ」
「!! マジか。実はここ最近各地を点々として暴れ回ってるって情報があったけど、ここにも来たか」
「一応撃退はできた。けど、おそらく今日戦った竜王ジーヴァはまだ幼体だ。成長し、成体になっていたらどうなったか分からなかった」
そう。
これは竜王を戦っていて思っていたことだ。
確かに強くはあった。しかし、魔王軍幹部にしてはそんなに強くはないと感じた。
あれだったらドワーフで戦った黒鬼の方が何倍も強かった。
「これはあくまで推測だけど、各地を転々としてるのは成長するための魔力を集める為じゃないのかなってさ。まぁ、今は体を治すのに魔力を使ってるだろうけど」
実際に左腕を生やしていた時も魔力を消費して再生させていたからな。しばらくは体の再生を最優先しして貯めていた魔力を使うだろう。
そうなれば、成体になるのは当分先になる……はず。
「……なるほどね。うん、国王とキョウヘイの推測は正しかったってことか」
ソウスケは珍しく真剣な顔をして何やらぶつぶつと考え込んでいる。
「そうちゃん? どうしたんだよ。そんなに考え込んで、そんな真剣な顔お前には似合わないぞ?」
「心配してる風に言ってるけど、普通に悪口だよね?」
そんなことを話していたらレギス・チェラムに着き、扉を開ける。
「お!? マスターとソウスケさんが帰ってきたぞ!」
「よっしゃ!? それじゃ始めるか!」
待ってましたよ言わんばかりにギルド内の視線は一気に俺へと向けられる…
見渡せば、テーブルには豪華な食事が並べられ、ギルドメンバーもいつもより多く。みんな飲み物を持っている。
まるで今から宴が始まるよな雰囲気だった。
(……え? 何これ? おれの出所祝い?)
(そんなわけないじゃん)
(ですよね)
「最近入ったヒロムの初クエスト達成祝いだってさ」
この状況に困惑していると隣にいるソウスケが教えてくてた。
「あ、なるほど。にしてもこんな大人数集まるもんなんだなぁ」
「ま、他のギルドではないと思うよ。うちは人数が少ない代わりに繋がりが濃いから、こうして新人の歓迎会にはみんな参加して交流を深めるんだ。ま、これを機にヒロムもこのギルドに一気に馴染めるんじゃないかな?」
「へーなんかいいな。こういうの」
「だね。ほら、みんなお前の乾杯の挨拶待ってるぞ」
行ってこいとソウスケに背中を叩かれ、前へと進む。
途中、キョウヘイとユウヤが小さく手を降っていた。
カウンター前に行くとジョッキを持ったリーシャとヒロムが待っていた。
「お、きたきた」
「マスターお疲れ様です!!」
「あれ? エレナは?」
「あーなんか、馬車に乗って帰って行った。よろしく伝えといてってマスターに」
「あ、そうなのか」
リーシャからはいとシュワサワーが入ったジョッキを受け取る。
「それじゃ、挨拶よろしく」
「お、おう」
正面を向き、こほんと咳こむ。
「えーと。あの、その」
やばい、乾杯の挨拶って何言えばいんだ? わ、わからない。ていうか、こんな大勢の前で乾杯なんてニートだった俺には無縁だったんだぞ? どうすればいいんだ? 助けて……リリスっ!!
ここにはいるはずのないリリスに助けを求めてしまうほどテンパっていた。
「あ、あ、あ、その。今から期待の新人であるヒロムに期待を込めて今日は期待の乾杯の儀を行おうと思います!!」
「いや、乾杯の挨拶下手くそか!!」
ソウスケの野次で周りに笑いが起こった。
た、助かった。ありがとうソウスケ……さん!!
「で、では乾杯!!」
かんぱーい!! とみんな一斉にジョッキをあげて宴が始まった。
そこからはどんちゃん騒ぎだった。楽しそうに酒を飲むやつ、美味しそうにご馳走を食べるやつにと楽しみ方は様々だ。
ただ、共通している点はみんなこの場にいる全員がヒロムの元へと向かい、労ったり、雑談したり、いじったりと絡んでいた。
ヒロムも照れながらもそれでいて嬉しそうにギルドのメンツと談笑していた。
今はリーシャ、ユウヤ、キョウヘイ、ラクス、パンイチのソウスケと慌ただしく話している。
ていうか、誰もパンツ一丁のソウスケにつっこまないんだな。
そんな光景をカウンター前でしみじみ見ながらある人物を探した。
あ、いたいた。
その人物レイアに向かう。
「レイア、お疲れ」
「あ、イツキさん。うん。お疲れさま〜」
挨拶のようにコンとジョッキを乾杯し合う。
「俺の居ない間迷惑かけちゃったみたいだな。ごめん」
「いいよ。イツキさんも大変だったみたいだし」
リーシャさんから聞いたよとレイアは困ったように笑った。
「……そう言ってもらえるとありがたいです」
「ううん。イツキさんもお疲れ様。それにしてもヒロムくん、馴染めそうで良かったね」
「……そうだな」
そう呟きながらヒロムの方を見ると偶然、あいつの薬指に指輪をしているのが見えた。
……ああ、そういえば、あんな指輪してたっけな。
「……………………」
「……イツキさん?」
「……ん?」
「どうしたの? ぼーとして?」
不思議そうに尋ねるレイアになんでもないと言いながら視線を移すとリーシャがこちらに向けて手招きしていた。
こっちに来いということだろうか。仕方ない。
「俺たちも来いってさ」
「だね」
レイアと顔を合わせて笑いながらヒロムの元に向かう。
「よっ大人気だな。」
楽しそうに話しているヒロムに声をかける。
「そ、そんなこと……みなさんがお優しいだけです!!」
あわあわしながら答えた。
一つだけこいつに聞かなければならないことがある。
「なぁ、ヒロム。このギルドは………ギルドのみんなは好きになれそうか?」
「………はい。そうなれたら嬉しいなって思ってます」
まんべんの笑顔でそう言った。
「………ならいいんだ」
俺はその笑顔を信じてみることにした。
「なぁ、イツキもギルドマスターとして何か言ってあげたら?」
ふとソウスケがそんな事を言い出す。
(ふむ、何か一言……か)
(ないんだったら素直に言ったほうがいいよ?)
(バカタレ、俺だって本気出せばアドバイスくらいできるわ)
(ラクスの時の二の舞になりそうなんだよなぁ)
「そ、そんな! マスターが僕なんかに……ちゃんとレギス・チェラムの一員になれてないのに……」
「はは、ヒロムそれは違うぞ。誰がなんと言おうとお前はもう立派なレギス・チェラムの一員だ。だからヒロム、俺が居ない間このギルドに何かあったらお前がこのギルドを……街のみんなを守るんだ。その時はラクス達が居るかもしれないし、一人かもしれない。それでも頼むよ」
ヒロムは俺の言葉に驚き、たじろいだが、じっと俺の目を見てこくりと頷いた。
「……はい。任せてください。が、頑張ります」
ヒロムの言葉ににこりと笑い、手を差し伸べ握手をし、約束を交わした。
「面白かった!」
「少し笑ってしまった」
「続きが気になる、読みたい!」
「クソニートのイツキは今後どうなるのっ……!」
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